19-5 大作戦! 命知らずのヴィータスト・ジャック!!

『お前が自らそう動くとは殊勝なことだがな……前線がここまで追い詰められている事を考えれば当然だろうな』


 オールフォートレスのブリッジにて、ブラディという男からの通信が入った。頭髪が完全に後退し、きらびやかな装飾も高貴な雰囲気どころか、その下腹部が膨れ上がった肥満体では寧ろ俗っぽさを漂わせている。彼が叱りつけるゼルガと同じ高貴な身分の筈ながら対照的な人物であり、


「確かに私が前線の皆さんをまとめることが出来ませんでした。王様との身分で上に立ったと思われてしまいましたからね……」

『何を今更いっとる! どうせアルファやファジーのような技術屋上がりには無理だったわ!!』


 ゼルガが総司令官として自分の至らなさを詫びるものの、ブラディは最上級の位に位置するものとして、戦果を挙げられないまま果てた前線の面々を詰る。彼らが悉く敗れた原因として、正規の軍人でない者に軍を率いる事は出来ないのだと事だが、


「おや、それなら私なら猶更の事、貴族のブラディさんらにも当てはまりますような……」

『ビトロも役に立たんかっただろ! 非合法、そう非合法だからな!!』

「貴方や私より戦っていた彼もですか」


 どさくさに紛れて、ゼルガは自分の至らなさを詫びるが――前線へ出る事もなく、前線の自分たちの心境を知らないであろうブラディ達も遠回しに皮肉っている様子もある。自分たちこそ無能だと告げられているのだろうと察したのだろう。自分たちのプライドを守らんとして身分が卑しいビトロの例を出すのだが、戦いの中で生きてきた彼を否定すれば先ほどの話は矛盾する。ゼルガはそれを知った上で少し毒を吐いた。


『どうせ、ここまで追い込んだ責任をな、七大将軍を呼ばねばならなくなった責任をだな!』

「確かに電装マシン戦隊は手ごわいですが……負けない手はまだありますよ?」

『お前は黙れ! 勝つための捨て石にでもなったらどうだ!!』


 ゼルガと問答を繰り広げていれば埒が明かない――ブラディは早々に本題を突きつけるが、早い話彼に死んで来いと言わんばかりの命令を下した。ゼルガはダメもとで自分にはまだ打つ手があると進言するものの、七大将軍を太陽系攻略のために呼ぶ様子から、やはり“負けない”ではなく“勝たなければならない”として互いが描くビジョンが平行線だろうと察せざるを得なかった。


「おやおや、王様の私を祭り上げたはずが用済みとなればポイですか」

『それもお前が不甲斐ないからだ! 腕と誇りある七大将軍を無理して呼んでいるのだぞ!』

「……やはり、私より七大将軍の方が大事ですか」

『当り前だ! 今更聞いてどうするつもりだ!?』


 遅々として太陽系を支配下に置くこともままならない現状に対し、別の方面を攻略せんとする七大将軍の動員が必要となった――バグロイヤーとして当初の目論見が狂いつつあったのだ。彼らが着任するまで、中継ぎのように前線司令官へと担ぎ上げられていたのがバグロイヤー下でのゼルガである。七大将軍の方を優先する関係で、自分自身が用済みになるとの事をブラディへ尋ねると、


「でしたら、総司令官として私も意地がありますからね……せめて手柄を立てましたら」

『命だけは助けろと言いたいのだな! 総司令官としての意地がそれか!?』

「私も王様ですから、地位も身分も命も惜しいのですよ」

『全くつかみどころがない奴だが……』


 七大将軍を前に用済みとなりつつある立場からか、ゼルガはまるで最後のチャンスとして命乞いに出た。先ほどの食えない態度から一転した様子にブラディは虚勢を張ってたにすぎんと、罵声を浴びせながらも、


『別に血も涙もない訳でもない。手柄を立てれば考えてやるがな』

「ありがとうございます。私も負けないことは確かですから、やることはやりますよ」

『なら早く結果を示せ! 示せなかったら死んで詫びろ!!』


 どこかゼルガが卑屈な態度を取っていた様子に対し、ブラディは支配欲を満たされたからか少し満足げに承諾しつつ、背水の陣のゼルガを嘲笑ってもいた。いずれにせよ彼の通信が途絶えたと共に、


「……これで私たちが帰る目途はついたのだよ」

「ですがゼルガ様、明らかにあの様子ですと……」

「私を始末したいみたいだからね……戦場で死なれるよりも効果がある方法だよ」


 ナナからブラディの腹の内を触れられた途端、ゼルガは少し苦笑しながら自分の首を横一文字に引き、殺される危機に直面しようしているのだと触れる。彼らからすれば自分が死んだ方が都合が良いのであると。


「だけど、私が戻らないと事は運ばないのだよ」

「私は艦から離れられない立場ですが……どうかご無事で」

「叩き上げの船乗りの君じゃないか。人も適所適材だよ」

 

 ゼルガが死地になり得る敵地に乗り込む――その上で生きて帰らんと行動を起こさなければならなかった。メガージとしてオール・フォートレスの留守を務める事しか自分は力になれないと頭を下げられるが、彼を責めるどころか労いの言葉をかけて、


「私がいない間フォートレスを守ってほしいのだよ……ミカもメガージを助けてほしいのだよ」

「勿論です。そうなりますとナナもサックも」

「そうなると、私が行きますかね~」

「……メローナ!」


 メガージだけでなく、オールのクルーとなる面々を連れていく訳にはいかなかった。オペレーターとしてミカは留守を引き受ける中で、隣のメローナが立ち上がって志願する。パッション隊のまとめ役ながら、特に役職がない天然気味の彼女が立ち上がった。ミカが少し驚いたものの、


「メローナ、私の代わりは務まる自信はあるかな?」

「えぇ、時間は一番余ってましたからね~このくらいの事はしておかないと~」

「こ、このくらいって……これから本当洒落にならないわよ。ゼルガ様の事かかってるし」

「大丈夫大丈夫~」

 

 同期となるミカの懸念に対しても、メローナはいつものように天然ながら冷静さも保っていた。彼女の様子にゼルガが安心を示したと共に


「なら、私が囮を務めるから、私がいない間頼むのだよ」

「つまり、ゼルガ様が引き付けている隙に生け捕りにするつもりですな」

「……この手を使うとなれば、私も多少無理しないといけないのだよ」


 メガージがゼルガの打つ手を察しており、言い当てられた彼は少し苦笑を混じらせていた。自分が囮としてフォートレスを釘付けにしていれば、“勝手にでも”動いてくれるのだろうと見なしていた点もある――依然と総司令官との肩書だが、主導権を握っている訳でもないのだから。


「メローナ君、私と一緒に……」

「ちょーっと待った!!」


 メローナを連れて作戦を決行せんとするゼルガだが――彼を前に待ったをかける彼女がいた。水色のメイド服を着た人物となれば、パッション隊の中でも一、二を争う猪突猛進な人物であり、


「ベリーこそちょっと待っただよ! ゼルガ様がどうなるか分からないし」

「ゼルガ様がそうならないよう、みんな戦ってる筈でしょ! ブルねえだって!!」

「……ということですゼルガ様。ベリーさんにはお姉様の事もありますし……」


 パインが窘めるものの、ベリーの主張は変わる事はない――それも、ゲノムの地で姉が戦っている背景も少なからず関係があった。ゼルガの元でそれぞれの役目を果たしている中で、姉妹同士が顔を合わせたい慕情もあるのだろう。ユカはベリーの意向を尊重している様子だが、


「……やれやれ、流石にこういう時に私情を持ち込んでほしくないのだよ」

「し、私情って……そんな!」

「ほら、やっぱり今回は流石に拙いよ。ゼルガ様もベリーの事心配しているはずなんだし」


 少しゼルガがしかめっ面をした後に、ベリーへ辟易した様子で叱りつける。自分と姉の事を些細な私情と片づけられた様子に肩を落としてしまう彼女に対し、パインは何とか慰めようとした所、


「いや、私も兄上に会うとなれば……ベリーの事をとやかく言う資格はないのだよ」

「そうなりますと、ゼルガ様はやはり」


 ただゼルガが少し白々しい様子で惚ける。ユカのリアクションも夫である彼を知っている体で合わせているようなものであった。少し目を閉じた後に、


「彼女もいてくれた方が何かと助かるからね……良いのだよ」

「やった……じゃなくて、はい!」

「という事で、パインだけに任せると思うけど大丈夫かな?」

「は、はい! 僕は大丈夫ですけど……?」


 ゼルガが承諾した後に、ベリーは思わず素で歓喜するものの、流石の彼女も彼の身の危険と隣り合わせの状況故に燥ぐことを直ぐ自嘲して畏まった。どうやらベリー共々パインがとある作戦のお膳立てに関わっていたようだが、


「ベリー、本当にしっかり頼むよ。本当何かあったら洒落にならないからね」

「大丈夫よ~ ベリーちゃんがおイタしそうだったら、私がちゃーんとコラって叱るから」

「パ、パインだけじゃなく、メロねえもやめてよ……」


 それ以上に、ベリーが何をやらかすかの方がパインとしては不安でしかない。彼女に追随するようにメローナが自分の目の黒いうちは大丈夫だと、やんわり窘めていたが、その口ぶりにベリーは委縮せずにいられなかった。


「さて、私も準備しないと……このような手は使いたくないけどね」

「ゼルガ様……信じてください。私だけでなくゼルガ様の事も」

「ははは、ユカの身だけでないことは既にお見通しか」


 ゼルガとして、汚れた手を使わざるを得ない自分自身の立場を自虐するように吐露する。だがこれから大勝負を繰り広げるであろう夫に対し、ユカは慰めの言葉ではなく、激を送るのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『可哀そうにな! まだそんなお古を使っててなぁ!』

『ひぃぃっ!!』


 ――ガードベルト近辺にて、ゼルガの思惑通りバグロイヤーの本部隊は流れ込むように畳みかけていった。既に切り捨てられるかのような枯渇した状況をてこ入れするかのように、補充されたバグラムを駆って圧倒せんとする。PARが依然としてセカンド・バディを運用しているとなれば戦力差は歴然としていた。

 バグラムとして新たに備えられたデリトロス・ベールが、セカンド・バディの片腕を軽々と切り落とす。元々サード・バディというセカンド・バディの後継機としてカモフラージュされていたが、バグロイドとして立ちはだかったとなれば、PARの面々が恐怖に駆られていたが、


『悪いね! 強くてさぁ……!?』


 格下の相手に向かい深追いを津f付け、再度ベールを振り下ろすことで、相手を文字通り一刀両断せんとした瞬間だった――セカンド・バディの背後から飛び込むように白い機影があった。それも両肩から二筋の閃光を放てば、逆に被弾したバグラムが大きくのけぞり、ベールまで手放しており、


『き、聞いてないぜ! 白い奴がこんなの持ってるとかぁ……!』


 “白い奴“はバグラムだろうと、格上の相手であることに変わりない。先ほどまでの威勢が一気に委縮してしまっているが、深追いした事を今となって後悔しようにも遅いともいえた。怯んだ隙に間合いを詰めた”白い奴”は指先から生成された赤き刃をアッパーのように抉るように突き立てては、宙に浮いた相手へストレートを決め込むようにコクピットごと引導を渡しており、


『ここは、私たちで引き受けるから! 早く離れて!!』

『す、すみません……ですが』

『貴様たちがやられる事を考えればな……それが身のためだ』

『ちょっと、そういう言い方はないでしょ!!』


 セカンド・バディの守備隊は戦力にならないと、サンは冷徹に彼らへ退くように命じる。相変わらず歯に衣を着せない言い方に、コイは言いすぎだと叱りつけるものの、


『下手に犠牲を出す事が互いに望ましくない……まだ貴様の方が確率も低いだけだ』

『か、確率が低いって当り前じゃない! ウィストだって手を加えたんだしさ!!』


 サンなりに自分を案じていた様子だと知らされれば、多少は態度を軟化させるコイだが、どこか恥じらっている様子もあったが

 そのようなやり取りと別に、彼女たち中国代表のウィストは“ウィスト・ウィンディ”として手を加えられた。バグラムのパイロットが見慣れない装備と動揺を示した事も、両肩にビーム砲“カイザー・キャノン”が増設されていた為だ。白兵戦主体の傍ら、ミドルレンジ以上の対抗手段が乏しいウィストとして貴重な攻撃手段であり、


『ただでさえバーチュアスは嫌いなんだし、こうも立ちはだかるんだったら遠慮しないわよ!!』

 

 サード・バディとして自分たちを欺いていたバグラムに対し、ウィストは手加減などするはずもなかった。カイザー・キャノンを炸裂させながらも間合いを詰めていく彼女に対し、デリトロス・マシンガンを駆使してバグラムらは弾幕を張り接近を妨げていた所、


『は、ハードウェーザーだってな……!』

『こうも挟み撃ちにされたらよ!!』


 間合いを取りつつ、バグラムが左肩にマウントしたバックラーを射出する。デリトロス・クラッシュとして鎖分銅のように放ち、ウィストの両腕が双方から引っ張られる。カイザー・スクラッシュを駆使する両腕が封じれ有利に立ち回れるとみており、


『死ねやぁぁぁぁぁ!!』


 残された1機がデリトロス・ベールの剣先を突きつけるように前進する。左右から動きを封じられ無防備な体制をさらけ出したところをコクピットめがけて一思いに突くことを目論んでいた様子だが――ウィストはあくまで両腕が封じられただけにすぎなかった


『……中途半端なのよ!!』


 コイが叫ぶと同時に、ウィストが前に向かって両足を突き出す――左右のバグラムが多少よろけたものの、彼女の狙いは目の前のバグラムにあった。本体と平行に伸ばしたつま先からカイザー・フンドーが射出された直後、正面から突っ込まんとする相手の頭部は直ぐに貫かれた。メインカメラを破損し動きが鈍ると、


『しまった……足にも武器が!、あっ!』


 左右のバグラムも多少狼狽していた隙を突かれたように、左腕を封じているデリトロス・クラッシュのワイヤーが切断された。ワイヤーを断ち切った純白の小型メカは、両翼を展開させながらウィストの元へと向かいつつあり、


『1機となれば、これ位容易いものだが……』

『3機でもよ!!』


 右腕を封じにかかっているバグラムは、空いた左手でデリトロス・マシンガンを構えて蜂の巣にせんとした――が、1機のバグロイドに外資、ハードウェーザー1機の自由が封じられるだけのパワーはない。半ば腕力に頼る形でバグラムごとぶん回しながら、中央のバグラムへの質量弾がてらに接触させる。2機もろとも両肩のカイザー・キャノンが火を噴かせる追い打ちで怯ませる。


『……ただ、撃つだけに手を加えただけではない』

『このために、クサズリ・シーカーがあるのよ!!』


 さらにウィストの左手へと、小型メカが接近する。コイがクサズリ・シーカーと触れているが、ホイール・シーカーととってかわる形で、リアスカートへと設けられたシーカーでもあった。

 そしてシーカー底部のグリップを左手で握ると共に、手首付近のハードポイントへ連結された瞬間、先端に設けられたマニュピレーターが勢いよく射出される。マジックハンドのようにZ字状に折り曲げられたアームが、バグラムのコクピットめがけて突き出された瞬間、



『マゴロク・フィンガーよ!!』



 指が接触すると共に、マニュピレーターへと内蔵されたバルカン砲が接射状態で連射されていった。ウィスト第3の腕を、高速で伸展させて高めた打突の威力に、至近距離でのバルカンの威力を加味したマゴロク・フィンガーはコクピットの装甲を蜂の巣にさせており、


『やはりな……元がこれなら底上げしても』

『だから残りの2機も片づけないと……って』


 残された2機を仕留めんと、ウィストが追撃を試みようとした時に、直線状に紫色の閃光が伸びて、串刺しにされるように仕留められた――その砲撃の出元を辿れば、ステーションに巨大な砲台を陣取っているハードウェーザーの姿があり、


『シャル! そんな雑魚相手に使うまでもないでしょ!!』

「ゴメンゴメン、ここで撃った方が脅しにもなるかなって思ったしね」


 コイがシャルの独断での行動に少し声を荒げるが、ウィストの背後にはヴィータストがステーションの護衛に回っていた。彼女がエレクトリック・スナイパーを駆使しての超ロングレンジでの砲撃支援を受け持っていたが、バスター・スナイパーとコンバージョンを果たした事を意味するが、


『私だって一応は今回、貴方に花を持たせようと思ってましてよ! 分かっているでしょうね!?』

「珍しく素直じゃんって思ったけど、やっぱそうネチネチ僕たちの事を」

『無理やり出て来いと言ってこられたんですから、怒って当然ですわ!!』


 ヴィータスト・ヴィクトリーとして駆使している事は、つまりクロストもまた電装している意味を指す。エクスから仕方なしに前線へ出た上、犬猿のシャルに対して託さざるを得ない心境を吐き捨てた所、


「まるで、戦いたくないように聞こえるが……何があった?」

『誰が戦いたくないと?いくら先輩の貴方でも言って悪い事が』

「誰が貴様だといった馬鹿者! 玲也の事だ!!」

「れ、玲也様は……クロストで出られてまして! ゼット・フィールドでステーションを守らないといけません事よ!?」


 一方のウィンんは消極的なエクスの態度からして、真意を察しつつあった。彼女が強がって否定しているものの隠し通す事にボロが生じつつある。彼女の場合自分自身の意志より、妄信的に愛を注いでいる玲也の事を優先する彼女の思考パターンもウィンは察していたが、


『とりあえず、あんたがステーションを守ってるのは信じていいわよね?』

『と、当然でして! 元々守る事にはうってつけですし』

『ライトウェーザーの方も、ゼット・フィールドで守れそうです。出来る限りこちらに寄せてもらえますか?』


 彼らの話へコイも首を突っ込む。彼女も彼女で玲也が消極的な姿勢をとっている事へ少し首をかしげている。それでも玲也は自分のすべき役割だと一見淡々とした様子で触れており、


『……こちらがおびき寄せられている事もある。貴様が守りを固める事に異議はない』

「貴様、玲也に任せると言っているつもりか!?」

『何故貴様が怒る? 前に出ると決めたのは玲也自身だ』

『サンさんの言う通りです。俺も甘ったれた事考えてないですから』


 サンは不測の事態に玲也が備えると見なす――ウィンが反発するが涼しい顔でサンは彼女の感情をあしらうが、戦場へ出る者としては正論も口にしていた。玲也もまたサンの言葉通りだと振舞っていたが、


「ま、まぁとにかく、僕たちの所だけで済めばいいんだしさ……」

「そなたの言う通りだが……む?」


 シャルもまた玲也が明らかに無理して前線に出てきたことへ察しが既についていた。彼が個人的な事情を押し殺し、無理してまでも前線で戦おうとする姿勢をとっている――ならば早いうちにこの戦闘を終わらせるべきだとシャルが見なしていた矢先だった。


「どしたのウィン? 急に不思議な顔しちゃってさ」

「何故あぁも離れたところで……」


 ガーディ・ライフルで迎撃しながらも、セカンド・バディの面々はクロストの元へと進軍しつつある。その筈ながら進軍方向からかけ離れた地点で僚機の反応をウィンは疑問を抱いた。直ぐポータル・シーカーを飛ばして詳細を突き止めようとすれば――右手左足を捥ぎ取られるように部位を喪失したセカンド・バディの姿があり、


『た、助けてくれ……このまま死にたくは!!』

「これってやばいじゃん! 急がなきゃ!!」


 棺桶になりつつある機体から必死に叫ぶパイロットの声がした――シーカーからの映像も目のあたりにして、シャルは一転して慌てた様子で下半身をパージして現場へと急行する。ヴィータスト・ヴィクトリーとして、ホルディー・クローを連結した状態ならば寧ろ機動力は下がる。それもあっての判断だが、


『シャル! 勝手に離れないで!!』

「ゴメン! 直ぐに戻るからさぁ……!!」


 セカンド・バディを救わんとするシャルの行動だが、独断によるものだとコイは苦言を呈する。目の前の救助対象は、フルーティーのトゥインクル・バズーカに晒される形で左腕を喪失。完全に攻撃する術が失われている。フルーティーを退けんと、エレクトロ・キャノンが二人の間に割って入り、


『近づかれすぎたら流石に……すみません!』

『いや、危険にさらして私こそ申し訳なかったよ……もう十分だよ』


 ある程度自在に軌道を調整できるエレクトロ・キャノンだが、火力として必ずしも脅威にはなりえない。だがここで怯んで判断が遅れればヴィータストの間合いに入ってしまい、集中砲火を浴びせられて撃墜との恐れがある。ゼルガに対して、申し訳なさげに退却の趣旨を伝えると、彼は叱責する事もせず了承の意を伝えており、


「逃げるか! 私たちを前にしておめおめと……」

『た、助けてくれぇ! 見殺しにしないでくれぇ!!』

「だ、誰が見殺しにするといった! 直ぐに助けるから少しは……」

『ぎゃあああああああっ!!』


 ウィンが逃れるフルーティーへ追撃を試みようとするものの、セカンド・バディのパイロットが必死に命乞いといえる通信で何度も叫び続けていた。錯乱していると思われるパイロットに対してしばし辛抱するよう告げるウィンだったものの――セカンド・バディの頭部が爆発を起こし吹き飛ばされた。パイロットが猶更絶叫を続けており、


『た、助けてくれ! このまま機体が持たないなら……!!』

「ちょ、ちょっとマジ!? 今から助けるから、ハッチ開けてよ!!」

『まさか、そなたはポリスターを使って……』

「僕にはほっとけないよ! 将軍も分かってくれるはずだよ!!」


 パイロットが慄いている様子に対し、シャルは放っておくこともできない様子だった。直ぐに両足のブーツを電磁石システムで、背中に命綱となるワイヤーでそれぞれ固定する。ポリスターを駆使しての救助に挑むために己の体を保持させる必要があり、


「あ、開けたが、どうするつもりで……」

「とりあえず僕の所に送るから、じっとしてて……!!」


 シャルに言われるまま、ハッチを開きパイロットがその生身を晒した――ポリスターの標的としてさらけ出された瞬間を彼女は見逃さなかった。直ぐに光が着弾した彼はその身を晦まし、実際直後にセカンド・バディそのものが砕け散っており、


「ほ、本当に持たなかったか……」

「で、でも何とか僕が助けたんだから!」

「それはそうだが……後でフォートレスに向かわせないとな」


 実際に見捨てていればセカンド・バディの暴発に巻き込まれた可能性が高かった――ウィンはシャルの行動が間違いではなかったと認めつつ、妙な胸騒ぎも感じつつあった。自分たちのような機密に触れた相手として、PARのパイロットだろうとエスニックの元へ必要があると見なしていた時に、


「これは……私は生きていると」

「そうだよ、本当危ない所だったし」

「……後で詳しく聞きたいが、シャル君に私は救われたと」

「まずヘルメットを外してくれ、そなたが誰かは知りたくて……」


 肝心のパイロットがコクピットへと転移した途端、ウィンはPARのデータベースと照合を取る関係もあり、まずは素顔を把握しようと――した瞬間だった。


「シャル、そいつから離れろ!」

「え、どうしたの急に……!!」


 シャルがPARにもプレイヤーとしての正体を明かしていない――にも関わらず、彼は初対面のシャルを知っていたそぶりを見せたのだから。ウィンが直ぐに警告したものの、彼女が行動を起こそうとした時に、直ぐにシャルの体を拘束しにかかっていた。


「……悪く思わないでほしいのだよ、こうせざるを得なくてね」

「その声は……まさか!!」」


 同時にヘルメットが縦一文字に、亀裂が入るがPARのヘルメットと完全に異なる機構にあった。これによりPARの人物ではないと判明しただけでなく、彼の口ぶりからしてウィンは何者かと気づいた時は、既にヘルメットが地に落ちた後で、


「ゼルガ……なんでゼルガが!!」

「すまないのだよ、少しでも動くと傷では済まないのだよ」

「ひっ……!」


 セカンド・バディのパイロットにゼルガが扮していた――彼がここまで上手く事を運んでいた事も含め、シャル達からすれば到底想像がつかなかった。シャルが思わず突っ込もうとするが、彼女の首元にナイフの刃を突き付けており、少しでもあらぬことをすれば始末すると触れているが、


「何故だ! リキャストはまだ戦っているはずだが!!」

「それは後々分かるのだよ……ゼット・ミラージュのお陰もあるけどね」


 ドラグーンでリキャストとイーテストが交戦する筈にもかかわらず、ゼルガがこうして自分たちの前に現れている事がウィンからは納得がいく答えが思い浮かびそうにない。

 ただ、リキャストが備えたミラージュ・シーカーを駆使したトリックだと、彼はさらりと明かした。ゼット・ミラージュでセカンド・バディのダミーを生成して、ゼルガはパイロットとして乗り込んでいた。そしてパインのフルーティーから一方的に攻撃される様子に加え、もう1基のシーカーを遠隔で自爆させ、頭部を吹き飛ばさせることで、猶更シャルをその気にさせたとの事だが、


「貴様! 互いの平和を望んでいると言ってこれか!!」

「私でも情けないと思うのだよ。その上でもすべきことがあるのだよ」

「そういって、勝手に正当化させ……」

「このまま動きを止めるとそうせざるを得ないのだよ。今はやり過ごすよ」


 ウィンからすれば、卑劣な術に手を染めた上で口だけの綺麗ごとを満喫しているような男でしかない――彼女から憤怒の感情で蔑まれようとも、ゼルガは半ば事実だと受け止め、力ずくの脅迫だろうとも反応を示さない。ただ今はシャルを自分の意の通りにヴィータストを動かすだけだった。

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