20-2 真実は斗う勇気の中に
「ほぉ……」
――ドラグーン・フォートレスのデッキにて。資材や工具が足元へ乱雑に散らばったまま片付いていない状態ながらも、サックスブルーの機体として愛機が姿を変えた事に感嘆の声を彼は漏らしていた。
「予定より早く来たようで……本当寝る暇なく突貫してやっただけの事はあったでやすよ」
「セカンド・バディがこうも変わるもんかよ……」
トムが寝ころんでいる床の近くには、エナジードリンクの空き缶、空き瓶が10本以上置かれている。アランに対して手を加えたセカンド・バディに対し、ジーロ語るにも、取っ手を手に取り身体を支えなければ立っている事も精一杯なほど疲労が溜まっている本来ならもう2、3日程掛かると触れていた筈だが、前倒しで彼が訪れる事をジーロは最初から想定して、急ピッチで進めていたようだった。
「あっしも前倒してやったんすから、一つだけいいすっか?」
「一つだけ……そ、そりゃあ俺のバディなんだし大切に使う事は!」
「そりゃそうでやんすが、サザンクロス・バディって名前をあっしはつけやした」
「サザンクロス……俺らに似合う名前じゃないですか!」
ジーロがこの機体を完成させたことに対して求めた見返り――それは、アランの機体ながら自分が命名したいとの事であり、実際サザンクロス・バディと既に彼は名付けていた。そのネーミングセンスに対して異論はないようで、アランが気に入った様子を示していた中、
「アランさんやステファーちゃんの事も考えやしたし……ベルさんの事も忘れたくないんでやす」
「ベル……確かステファーの前にいた……」
最もそれだけで話は終わってないとジーロは一つ伝えなければならない事を付け加える。サザンクロス・バディとの名前は、同じ南極星の戦士として、亡きベルへの想いを込めて名付けられたという。ベルが誰かについてアランが知ると、彼の顔つきに真剣みが増し、
「アランさんの事やから分かってると思いやすけど、ライトウェーザーだからって甘く見るつもりは皆さんないですからね」
「あんたもそれで、俺の為にってか……」
「それもありやすが、傷つこうと最期まで戦ってくれやしたベルさん達の分まで頑張ってください。それもあって、あっしも手によりを加えたんでやすから」
サックスブルーのサザンクロス・バディは、セカンド・バディより丸みを帯びているだけでなく、両肩に設けられたレールキャノン、両腕に備えられたバックラーなど、ボックストを模したような改造がなされていた。今は亡きボックストを再現しようとする拘りもあったようだが、
「あっしも結構限界まで手を加えやしたからね、あとはアランさんの腕次第でやすよ」
「ありがとうございます……ステファーだけでなく、ベルにも恥ずかしくないようにしますよ」
それだけの外観へと一気に手を加えたジーロの腕と熱意、その彼越しにアランは顔を合わせた事のないベルの戦いへの想いを感じ取ろうとしつつあった。その上で彼は持ち前の自信だけでなく、その決意が上辺だけのものではないとの姿勢を示すジーロはその彼の様子を見てどこか安心した様子もある。
「俺も勿論その気だけどよ、ステファーが……」
「アラにい! ここにいた!!」
――本来のこの時期では、アランはウェリントンの特別病棟にて、ステファーの療養に付き添っている筈だった。彼が電装マシン戦隊の一員として姿を現した事は、その妹も同じフォートレスにいる事を意味する。つまり療養を終えたからこそ、ステファー達が兄を追っていたが、
「あー、ステファーさんと確か……」
「……」
ジーロはステファー達に気付くとともに、急に前のめりに倒れこむ。アランに抱えられるとその彼はスイッチが切れたかのように眠りの世界に突入していたが――何故かシーンが怪訝な顔を見せていた。
「まぁ、ジーロさん疲れてっからよ。リター、頼むわー」
「あいよー、ついでにトムもなー」
アンドリューは彼を宥めつつ、リタに二人をメディカル・ルームへ運ぶように指図した。ハドロイドの彼女だけあってか、トムとジーロを片手で担ぎ挙げてもリタの足取りは軽い。また彼女に担がれながらもその二人が眠りから覚める事もなかった辺り、相当疲労が溜まっていた様子だ。
「アラにいもおニュー~ステファーもおニュー、同じだね!」
「おニュー……まぁ、お前が出るってなら兄貴の俺が黙ってみてられねぇから当然だろ」
「ステファーさん、もう大丈夫ってことですよね……?」
「まぁ、ちと早すぎたけどよ、今は正直ユーストの手も借りてぇっちゃ借りてぇからな」
イチが言う通り、ステファーは本来療養を続ける予定であった。アンドリューがユーストの協力が必要となった事についてバツが悪そうな顔をしており、
「一応ジョイさんの許可は得てますから、それにステファーがもうその気になってますし」
「ステファー、今までみんなに迷惑かけた……玲也が戦いの中で生きろって言った、だから……」
玲也が先ほどの戦闘で精神的に強いショックを受けたとアイラから知らされた事――それがステファーが立ち上がる切欠であった。元々無断出撃の罰との建前で療養を命じられていたにすぎず、彼女達は再起するための準備も並行して進めていた。そして今、玲也が危機に瀕していたからこそ、彼に代わり自分が立ち上がらなければならない時確信していたのだ。少し途切れ途切れになりつつ、ステファーなりに戦いへ再び向かうにあたっての心境が語られており、
「だからステファー戦う! 悲しい事辛い事あっても、ステファーのように玲也も頑張る事出来るって!!」
「……玲也さん、本当みんなから慕われているんですね」
「そうかなぁ……」
ステファーが玲也の危機に対し、自分が代わりに出撃しその上で彼が再起する切っ掛けを作ろうとしていた――その一途な想いに愛しイチは少し顔を赤らめつつ、同意できるものだと素直に同調する。ただ一人、シーンが何故か腕を組みながら懐疑的な姿勢を覗かせていたようだが、
「ステファーが戦うって準備もしてて、本人がその気なら俺が出なきゃいけませんからね」
「正直わりぃな。玲也もシャルもいないってなっちまったら人手が足りねぇ」
「ったく……プレイヤーだからって持ち場を勝手に離れるなってーの。事情は分からなくもねぇけどよ……」
アランは悪態を突き、本来待機すべき玲也が持ち場を離れ、ドラグーンから出ていった事を苦言する。一応父との一件はステファーにも似た事例で思い当たる事があり、一方的に責める事が少し酷だとも捉えていたが。
「おめぇの言いてぇ事は俺にも分からぁ。辛い事があったとしてもちゃんと務めは果たさねぇといけねぇからよ」
「その彼が戻ってくるのを待って、ドラグーンは立ち往生してるんすよね」
「まぁ、そうなるわな……一発ぶちかまさねぇといけねぇけど、あいつ等にはちゃんと戻ってきてほしいんだよな」
アランが指摘する通り、自分の教え子がドラグーンの足枷になっている現状に苦笑しつつ、アンドリューは彼らに戻ってきてほしいと顔を上げる。それはケジメをつけるだけではない彼の強い望みでもあった。
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「おまっとさーん」
「何とか間に合いましたわ、先生……」
――時は少し前にさかのぼる。ドラグーンのブリッジへ新たに3人が乗り込んだ――この親子そろって関西弁まがいの口ぶりとなればシンヤとアイラの親子他ならない。二人の後ろでただ静かに控えている人物となればフレイアだ。彼らはブレーンとテッドが待機するCICセクションへとたどり着くや否や、
「この流れだと、メルじゃないんすか博士?」
「何やてあんさん! ウチのオトンじゃ頼れへんような言い草やんけ」
「まぁ待たんかい。ワイら喧嘩しに来た場合やないやろ」
「確かフレイア君なら精密に話者認識が出来るとかじゃったな……」
テッドはこの親子に対してどこか胡散臭い様子だと怪しんでおり、アイラとの間に少し気まずい雰囲気が流れる。直ぐブレーンとシンヤが互いを宥めて収拾しており、ブレーンからした、今直面する問題を解明するにはフレイアの力が必要。その流れで解析としてシンヤ、その二人のついでにアイラが招かれたのだと納得していた所、
「まぁメルはんには敵わんかもしれへんが、ワイも曲がりなりにもその道の人間やさかい」
「確かにシンヤ君もそうじゃのぉ……この問題はメル君よりフレイア君の方が向いとるかもしれん」
「……」
メル一人が招かれドイツ代表の出撃が不可能となるよりも、ポルトガル代表が全員向かう方が都合の良い状況でもあった。それもまたビャッコ・フォートレスに続き、フェニックス・フォートレスもバーグに向けて進撃を開始した。最終目的地はキドであり、そこまで訪れると転送装置の射程圏から外れて大気圏を行き来することが出来なくなる。玲也がドラグーンから飛び出しており、彼が不可欠な存在との事でブレーンが可能な限り、踏みとどまらせていた。
「これで秀斗はんの人格モデルをインプット……どや」
「……受信開始です」
ブレーンのデバイスから、ポリスターにその人格モデルを形成するデータが移植された後、アイラはフレイアに向けてポリスターを発砲した。最も銃口から光が飛び交うのではなく、空気の振動と共にフレイアの頭部に備えられた増設メモリが何度か青く点滅する。
「……受信完了です」
「テッド君、そっちの方も流してほしいぞい」
「はいはい、わかりましたよっと……」
『当然だ。バグロイヤーにいるかぎり私は……』
テッドが今から再生した音声は秀斗その人の肉声――バグミラージュのパイロットとして玲也達の前に立ちはだかった時の肉声を収集した上で、ノイズや他者の声などを極力そぎ落として仕上がった音声データだ。テッドにとって可能な限り、秀斗の声だけを拾ったものであり、
「……結果出力します」
「確か出力もこうやな!」
フレイアが何も言わぬまま、増設メモリが赤、青、黄色と不規則に点滅し続けていた最中、解析が完了したと口が開かれる。アイラがポリスターの銃口を再度彼女の増設メモリに向けてデータを受信する。
「しかし、フレイア君が確かハドロイドとして断トツの性能じゃったが」
「そうですさかい。けどこれに関してはメルはんが新しく追加したとかで」
「……メル君なら、いろいろ納得いくぞい」
「結果出力しました……この結果ですと、そうですね」
ポリスターの送受信機能についてブレーンとシンヤが触れていた頃、テッドの情報端末へ話者解析結果のデータが出力されていった。そのデータの内容に彼が目を通していると、
「博士、多分これ偽物っす」
「偽物じゃと!? そうであったら有難いんじゃが一体……」
「……厳密に言いますと同一人物は確かです」
「ただ、人格モデルのサンプルで使った声質が古いんです。多分その比較対象の方が新しいってあり得ない事ですよ」
フレイアの出力結果は同一人物の肉声ではある――しかし、本来サンプルの肉声から構築された人格モデルより、昨日の戦闘から収集した肉声の方が声質に張りがある。つまり今より幾分か過去の肉声が使用されているとの事である。秀斗の人格モデルを形成するにあたってサンプル用の音声が再生されると、
『……エスニック将軍、ブレーン博士。私がこのような方法に出る事は心苦しい事ですが』
――そのサンプル用の音声こそ、バグロイヤーの襲撃からハードウェーザーの存在をエスニック達へ知らせた時の物であった。それより遡る時期の肉声だと昨日の戦闘から解析された事柄から、
「天羽院め……玲也君を動揺させようと、わざわざ!!」
「秀斗さんの偽物を用意したとなれば……あのドグサレ、本当何なんや!!」
「それより玲也君に早く事情を伝えんと……秀斗君に成りすましていたんじゃと!?」
エスニックは過去の肉声を音声データとして、彼の偽物を用意したのだと推察する。それが人の道から悖る物であると、シンヤ共々拳を震え上がらせて怒りをあらわにする。この流れに乗るようにエスニックが進言する。彼として、直ぐに玲也を父と戦う苦しみから解放させれば、プレイヤーとして復帰するのではと見なしていた。ただ憤りを感じながらも、エスニックの意見へは首を横に振り、
「将軍、玲也を待つとしても時間があまりないですよ!」
「理由は私にも分かるけど、彼は待機命令を破ってドラグーンから降りてしまった。私たちがそれ以上今の彼に世話を焼く事はない」
「そ、そんな冷たい事をエスニック君は考えとるのかい!?」
「博士、大切にする事は甘やかす事ではありません。こればかりは博士に反対されても私からは言わない姿勢です」
クリスは電装マシン戦隊における立場としても適切ではないと意見するが、エスニックはその上で敢えて玲也を突き放してみる選択を取る――戦力として玲也は必要不可欠な存在であるとは彼自身も分かっていた。しかしそれが無断でドラグーンを降りる彼を許容する理由にはならない。ここで彼を許してしまえば、電装マシン戦隊とPARの間に隙間風が通りかねないと踏まえていた。
「エスニックはん、そりゃ気持ちはウチにも分かるけど……玲也はんをクビにするつもりかいな!?」
「アイラ君、私はあくまで自分から働きかけないと言っただけだよ。玲也君たちがちゃんと戻ってきたら拒む理由なんてないよ」
あくまで玲也がドラグーンにその足で戻らなければ、今の自分たちは何もすることが出来ない――エスニックのスタンスは彼の覚悟と決断にまず委ねる他ならなかった。その上で腕時計に目をやると、
「残り4時間――それを過ぎればドラグーン・フォートレスはバーグに向けて発進する」
「それだと、玲也君が抜けた穴は一体!?」
「その為にステファー君を万が一として招いたんじゃないですか。彼女がその気だけどもこういう理由で呼び戻したくはなかったですがね」
「ステファーはんが、そう理由やとすれば……ワイらももしかしてこの場合?」
エスニックがシンヤからの問いの意味に気付き、すぐさま首を縦に振る。早い話ユーストとアタリストの2機は玲也の穴埋めとして、ネクスト及びクロストの役回りを代わりに引き受けさせる可能性があるとの事だった。
最も玲也との代理といった理由で彼らを戦場に出したくはない――両手を口の前で組むエスニックの視線はどこか朧げだ。自分から手を差し伸べることは出来ないが、逆に彼に自分の手を掴もうとする意志を示してほしいと念じる心境と共に……。
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