18-4 ああジャレコフ! 南極星の果てになりて

『オトン、ついてけとるか!?』

『そうしてるつもりや! そうせないけへんのは当然やけどな!!』


 ――アタリストはひたすらバグアシュラーから逃れ続ける。コズミック・フィンファイヤーを後方へと放つ者の、イリーガストの本体目掛けても、ヤツデバインダーにより、ビーム兵器の一つや二つは弾かれて損傷へは至らない。


『……このままですと、捕縛される可能性は78.5%です』

『フレイア! そう計算しとる余裕があるんなら手伝わんか!』

『……私が制御に専念しましても、アタリストの機動性からして74%の確率です』


 シンヤによる補助があってか、フレイアが警告を促す余裕があった。最も彼女が専念してもアタリストの機動性がイリーガストを下回るものであり、早い話逃げきれないのだと、冷徹に無理があると判断を下すのだが、


『アホンダラ! そげな事ゆうてもやるしかあらへんのや!!』

『それよりアンドリューはん! ウチらいつまで逃げたらええんや!?』


 シンヤは無理だろうとも、そう諦める訳にはいかないと突っ込む。彼が逃げ続けるのはイーテストの準備が完了していないからだと、アイラが触れていた所、


『遅くて悪いなー、今終わったぞー!』

『後はこっちにおびき寄せてくれ! 俺が合図したら離れてくれ!!』


 セカンド・シーカーを喪失した代わりとして、イーテストはペルナス・シーカーの装着を完了させた。アペンディーシステムでシューティング・シードスターを展開させるまでの時間稼ぎを、アタリストに任せていた、


『ほんま、頼むでぇ! ウチらこういう囮には向いてな……!!』


 だが、バグアシュラーを討つにあたって、ヤツデバインダーの死角になり得る腹を狙わなければならなかった。その為に現在のイリーガストが自分の元目掛けて迫るように、アタリストが誘導を続ける必要があったのである。

 アタリストの性能もあるが、囮には向いていないのだと愚痴ったものの、イリーガストをイーテストの射角へと向かわせた瞬間であった――後方からの打撃がアタリストをのろけさせた。休む間もなく、別のバインダーの先端に設けられたデリトロス・シュートが立て続けに火を噴き、


『……セーフシャッター展開しました。これ以上のダメージの蓄積は危険です』

『アタリストでもかいな!? あの腕を何とかせぇへんとあかんか!?』

『そうするんが、一番えぇんやけど……ああっ!!』


 デリトロス・シュートの火力を前に、アタリストが逃れようとする術も喪おうとしていた。シンヤの判断で、フィンファイヤーがヤツデバインダーのアームを砕こうとするものの、それよりも、イリーガストの動きが速かったのは言うまでもなく、2本のアームで絡みつかれようとしており、


「これでお前も終わりなんだよぉ! なぁジャレ!!」

「……」


 ビトロとして、ヤツデバインダーとデリトロス・シュートを併用して、アタリストを亡き者にせんとする目論みである。バインダーで絡めとったアタリストに向けて、シュートからの刃を展開して串刺しにするのだと、ジャレコフへ促していたが、


「……ちょ、ちょお前!!』


 ビトロの目論見は、そのジャレコフによって大きく外れる事となる。彼がマインド・コントロールから解放されている事は知らされていなかったもあるのだろう。彼の演技に騙される形で、アタリストを拘束するヤツデバインダーのアーム目掛けて、シュートの閃光が焼き払ったのである。これによりアタリストを取り逃す結果となり、


「……いつの間に解けてたのね!』

「がっ……がぁぁぁぁっ!!』


 この利敵行為同然の行動をされては、ファジーとしてジャレコフが既に支配下から放たれていた事を察せざるを得なかった。自らの念力により、彼を再度支配下に置こうと試みる。まるで制裁と言わんばかりに、ジャレコフは激しい頭痛に襲われるが、


「おい、どうするんだよぉ! ジャレがこんなんじゃ……って!」

「自分は……大丈夫だ!」


 コンソールパネルに自らの腕を突っ込ませるように、ジャレコフが拳を叩きつける――ビトロからすれば錯乱を起こしたような行為であると、一瞬困惑するものの、彼としては激痛でマインド・コントロールから吹っ切ろうとする捨て身の行為である。

左手から火花と煙が上がっているジャレコフの姿に動揺するものの、彼は自分の予想以上に大きく外れるかように、ビトロ目掛けて飛び出し、


「せめて仲間としての情けだ。途中までは一緒だ」

「おい! 途中までってどういう意味だよぉ!?」

『今です! 早く撃ってください!』


 イーテストへとジャレコフが咆哮する――同時に彼がビトロの元にとびかかり、火花が散る左手を彼の腹部に押し付けながら、


「や、やめろぉ! やめろってんだよぉ!!」

「こうでもしなければ、お前はまた出てくるか……うっ!!」


 右手で、ビトロのタグを強引に引きちぎる。彼としてイリーガストが再度電装されることだけでなく、彼のテレポート能力自体を阻止する事を狙っていた。

 咄嗟に握りつぶされるタグの様子から、ハドロイドとして自分の能力が失われたのだろう。流石に仲間としても容認する理由もないと、彼は咄嗟に取り出したナイフを飛びついた彼の背中から突いており、

 

『ビトロ! 貴方の反応がないみたいだけど……!!』

「それは、ジャレが……!!」


 ビトロからタグが失われた事は、イリーガストの消滅を意味する――連結先のイリーガストからの反応が突如ロストしたとして、ファジーは流石に動揺を禁じ得なかった。最もビトロ本人がそれ以上に驚愕せざるを得ない様子であったが――目の前に閃光が放たれており、


「う、嘘だろぉ! ちくしょおぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「……玲也、シャル! イチの事も信じるぞ!」

 

 イリーガストを仕留める術はジャレコフとして、自分諸共道連れにする捨て身の手段でもあった。ビトロが直面しつつあった己の最期を認めない姿勢だったことに対し、彼は既に己の最期に悔いはないと言わんばかりの顔つきであった。自分に代わる新たな希望として、イチを救い出す事を疑わず信じ続けており



「アンドリューさん、ありがとう……今、遭いに行くぞ、ベル!!」



 イーテストが、自分ごとイリーガストを仕留めんとした事に対し、ジャレコフは何一つ恨む理由はなかった、自分の犠牲がビトロを死へ追いやり、バグアシュラーを仕留める為の布石になる。今後を踏まえれば自分一人の犠牲が、電装マシン戦隊の為になるのだと捉えていた事もあるが――最愛のパートナーの後を追う事が、薄汚れた自分に与えられた最後の希望とも捉えていた。

 その為の自己犠牲は、シューティング・シードスターが直撃する事で成し遂げられる。彼がビトロを無力化するにあたって、イリーガストが無防備な状態をさらけ出していた事が、イリーガストの最期に繋がったのだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……おめぇがいたらよ、こうしなくて済んだんだけどなぁ!!」



 イリーガストを仕留めたシューティング・シードスターを直ぐに投棄して、バグアシュラーの元へとイーテストがすぐさま急行する。イリーガストを仕留めようともバグアシュラー自体が砕け散った訳ではない。

 コクピットの中で、アンドリューはただ沈鬱した心境でジャレコフごと手にかけた事へ、やり切れない胸の内を吐露する。彼がそのように思い留めて、我が身を投げ打った行為も、ベルが健在なら起こり得ることはなかった。今まで荒んだ日々を強いられた彼が更生し、自分の教え子の独りとして信頼を寄せるようになったことも、ベルと出会えたためであり、彼にとってベルの為に生きていたようなものであり、そのベルの死が、彼の希望を潰えさせるものであったと。


「ジャレがそう望んでたって言っても、何もフォローにならないけどなー」

「バーロー、おめぇに慰められてなぁ」

「だから、こう突っ込むしかねぇだろ!!」


 ――リタがアンドリューをフォローしようとも、口では気休めにもならない事は分かっての上だ。それ以上に彼が身を投げ打ってまでも、自分たちへ託そうとした事を無駄にしない為にも、動くことを選ぶ。

 タグが失われた状態のイリーガストだが、完全に電装を解除してロストするまでのラグが存在する。そしてそのラグを突いて攻撃を畳みかける。両足からのグレーテスト・バズーカを装填されただけうち続ける事により、イリーガストが粉々に砕け散るような爆発を起こす事は、バグアシュラーを巻き込ませる事を意味する。ヤツデバインダーによる堅牢な装甲の死角になり得る、連結した底部を狙った行為であり、


『……まさか巻き込ませるつもりで!?』

「もう既に遅いんだよー!!」


 ――ファジーがアンドリューの打つ手に気づいた時はもう手遅れに近かった。イリーガストの爆発によって生じた炎と煙からは、上半身だけのイーテストの姿が既にあった。ファジーがモニター越しに捉えた姿では、切り札ともいえるグレーテスト・マグナムを二丁構えた姿勢を取っており、


「グレーテスト・マグナム、バッド・ラック!!」


 アンドリューの叫びと共に、両手でトリガーは引かれた。ヤツデバインダーに表は守られていようとも、この恩恵が施されていない底部へ、高出力のマグナムを至近距離で浴びせられたとなれば話は別だった。

 それでも道連れにせんとばかりに、底部からのバルカンを至近距離で浴びせつつ、デリトロス・シュートで道連れにせんと抵抗を試みたが――既に最後の手は打ったとして、イーテストが電次元ジャンプを発動させた為、


『こ、これでは私は……セイン様!!』


 ――イーテストを貫く魂胆で放ったデリトロス・シュートは、結果的にバグアシュラーの身を突く結果となった。最後の最後に初歩的な手で相手を取り逃し、自滅に至ったやりきれなさをファジーが吐露するものの、彼女のコクピットは吐露をかき消すような爆発を引き起こして飲み込まれていき、


『アンドリューはん! あんさんも無事で!!』

「バーロー……俺らが簡単にくたばれるかよ!」


 逃げ延びたアタリストの元へと、イーテストもまた電次元ジャンプによる戦線離脱を完了させた。バグロイドをしのぐであろうバグアシュラーは、中心から爆発を巻き起こして、脅威となるヤツデバインダーも飲み込んでいった。彼らを仕留めた事を確信した上で、


「玲也、シャル! あのバグロイドは倒したからなー!!」

『本当!? じゃあもうイチが操られる事も』

「だから、早く助けて帰ってこい……何をしてもだ!!」

『勿論そのつもりです! そう考えて手を打ってますからね』


 すぐさま、この戦いで果たすべき最後の目標を成し遂げるようにと玲也達へ檄を送る。何をしても成し遂げろとの姿勢は、自分だけでなく玲也も同じ覚悟であると捉えた途端、


「ジャレ……おめぇが賭けた未来は無駄にしねぇ! 約束してやらぁ!!」


 ジャレコフの犠牲と共に、イリーガストごとバグアシュラーをイーテストは討った。それが戦いの中で彼の犠牲を無駄にしない術であり――彼が託した次世代の面々が担う未来を、何としても守り導いていく事こそ、師として彼の想いを継いでいく術であると、

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