18-5 決死だ! イチよ帰れ、姉の元へ!!
『……背中を向けて無事と思うな!!』
スフィンストに対して、ネクストは再度ビーグル形態に変形して自ら逃げる術に出た――スフィンストがスイッチ・シーカーをパージしてデリトロス・レールガンを駆使して、ネクストの撃墜を試みる。レスリストとの戦いの中で、両腕に支障が生じているが故の事情もあるが、小型化すると共に戦闘能力が大幅に失われたビーグル形態に対し、執拗な攻撃を加える事情は別の理由があり、
「やはり、俺を狙っている事に変わりはない……」
「あの人からすれば私たちは仇ですね……」
「今更怖気ついても何にもならん。果たすまでは何があろうともだ」
「……そうですね。イチ、お願い! もう少しだけ待ってて!!」
チホがネクストを仇として執拗に狙っている――これを確信した途端に勝算が生じたと、玲也は口元を微かに緩ませる。チホからすればエリル、バルゴを奪った仇である事は以前の戦いから、リンも気づいており微かに不安が見え隠れしていた。
だが、戦いの中で相手を殺め、恨まれようとも、なすべき信念の為に戦う事は同じであると触れた時、リンは微かな懸念を払拭させ、目の前のカイト・シーカーへと搭載され、
『そこね! そこにネクストが……』
「ね、ネクスト……ね、姉さん……?」
『姉さん……反応がない! まさか!?』
ネクストが収納されたカイト・シーカーへと、スフィンストが攻撃目標を移すや否や――イチが彼女を姉さんだと呼ぶ様子から、マインド・コントロールから解放された事へ気づく。すなわちバグアシュラーが撃墜された事実に直面するものの、
『ぼ、僕はこんな為に……バグロイヤ……』
『お前がそうだろうとも、私はあのネクストを……!!』
正気を取り戻しつつあるイチだったが、マインド・コントロールの後遺症故か、極度の疲労状態に陥って崩れ落ちゆく。彼に頼らずともネクストを仕留めんとする姿勢だったものの、スイッチ・シーカーがワイヤーに絡みつかれて、電流が流されていくと共にコントロール権を喪失する。
ヴィータストのハイドラ・ゾワールが絡みつくや、上半身だけの身にも関わらずシーカーをスフィンスト目掛けて投げ飛ばして投げつけて怯ませ、
『僕だっている事忘れないでよね!!』
『ネクストを仇としているようだがな……貴様では私らにも勝てん!!』
『出来損ないの、お前になど……!!』
ネクストを遮る様にして、ヴィータストが足止めをせんとばかりに前線へと踏み出る――カイト・シーカーをパージした関係上、上半身だけの状態の彼女らから勝てないと豪語されれば、チホとしてはプライドを傷つけられたようなものである。
だが、実際レスリストとの戦いでスフィンストの損傷も著しかった。エレクトロ・バズーカがシェフィール・ドスが刺さった胸部目掛けて着弾すればセーフシャッターに亀裂が生じ、コクピット内部が微かに外部に露出しており、
『やっと中のデータがとれた……イッチーもいる!!』
『こ、こんなことで! こんなことで負けちゃああああああっ……!!』
微かにコクピットの内部が露出した――玲也達からすれば最も望んでいるコクピットの内部状況のデータをウィンが転送する傍ら、今度は両腕の関節をめがけてハイドラ・ゾワールを巻き付けて電撃を流す。
大気圏外にコクピットが露出されようとも、プレイヤースーツを着用している故に直ぐチホが生命の危機にさらされる訳ではない。両足をパネルに固定させながら、ハイドラ・ゾワールで両腕の機能を停止させようとするヴィータスト目掛けて、リアアーマーからのバック・シザースが展開する。ゴースト2と同じように鋏で圧壊しようとするものの、
『よっと……!!』
『後は頼むぞ、一気にいけ……!!』
ハイドラ・ゾワールの為射出したワイヤーの尺を利用してヴィータストが飛び上がる。前方へ鋏を展開させて圧壊させんとしたスフィンストながら、肝心の獲物は自分の背後へと逃れており、再度入れ違うようにカイト・シーカーが前方へと飛び出す。甲板上部からアサルト・ランチャーを連発させて迫るものの、
『また来た……貴方と刺し違えても!!』
ネクストが搭載されている事を承知の上で、カイト・シーカーを自分の狙う仇だとチホが捉える。関節を集中的に攻められ、ダメージが蓄積していたのだろう。ぎこちない動きをしていたものの、彼女の腕はランチャーの砲身へ掴みかかる。力ずくで2門を捻じ曲げようとしたスフィンストだが、同時にカイト・シーカーの機首がスフィンストへ接触しており、
『これで……これで終わりに!!』
「……それはお前のほうだ!!」
「その声……だけじゃない!?」
力技、はては自爆してでも刺し違えんとするチホだったものの、玲也の声が聞こえた方角にまばゆい光が放たれた事に気づく。コンソールパネルではハードウェーザーと同じだけのエネルギー反応が感知されたものの、エラーメッセージが表示されている。彼女の嗜好が袋小路に陥った時ネクスト・ビーグルが目の前に存在しており、
「リン、お前は目を閉じた方がいい!!」
「お気遣いありがとうございます! ですが……!!」
「……わかった、この手は望ましくないがやむを得ない!!」
咄嗟に玲也はリンへの意思確認をとるものの、気持ちだけで充分だと彼女は答えを返した。少しの躊躇が彼にはあったものの、時間が限られている事から一呼吸おいて、セレクトとA、Bボタンを同時に推す。フロントの一部分が展開して、ネクストの頭部が微かにフロントガラスを遮るように起き上がった時、
『きゃ……!!』
ネクスト・ビーグルが変形に伴い小型化する。それもあって戦闘能力はロボット形態より大幅に低下する。だが武器は最低限とはいえ備えられていた。頭部のバルカンポッドは護身用に使われる事が一つの術だが――対人用としては十分な殺傷能力を備えていた。
例え強化されようともチホが蜂の巣にされていく。ネクストを仇として我が身をささげる迄の憎悪に駆られながらも、彼女はそのネクストを前に返り討ちに遭う結果となり、
「……恨むなら地獄で恨め! それでもくたばれないがな!!」
「……玲也さん、あの、その」
「すまない、先に手を打たなければ俺たちが……」
「私は大丈夫です、玲也さんは間違ってないと思います」
リンに前もって警告を促したのも、玲也として残虐な手を取らざるを得ないと判断した為であった――イチを救い出すにあたって、単身でコクピットに乗り込むとの場合、チホに襲われる恐れがあった。その為に先手を打ってバルカンを放って殺める事を判断したのであったが、彼女は玲也の心配が少し過剰なものだと、そっと首を横に振り
「バグロイヤーに父さんと母さんも殺されました……イチまで苦しませた相手に情けなんか!」
「そうか……それより、イチだ!」
リンとして、バグロイヤーが両親の仇であり、イチまで尖兵として自分たちと戦わせた憎むべき存在である――3人の中で最も家庭的でおしとやかな筈の彼女が、自分たちの家族を狂わせたバグロイヤーの面々へかける情けはなかった。
玲也として、彼女の戦いに赴く中での覚悟を改めて知ると共にどことなく安堵の感情も生じつつあったが――それ以上に、目の前の救うべき相手が最優先事項だった。彼がネクストからの電磁石ワイヤーを命綱代わりに、単身で蹲るイチの元に飛び出しており、
「う、うぅぅ……目の前の、人は」
「大丈夫だ。もうバグロイヤーに操られる事はないぞ!」
「イチ……お姉ちゃんだよ、イチ……!!」
「ね、姉さん……」
消耗したイチの元へ声をかけた時、姉の呼び声に弟として反応を微かに見せていた。彼がマインド・コントロールから解放されたと確信した時、玲也は直ぐにハドロイド用の制御操作に入る。イチ自身で電装を解除するだけの体力がないが故、彼は少し慣れない手つきながらも電装解除の入力に入る。同時にイチを直ぐにでも逃がす為、ポリスターでネクストの元へ送ると共に、
「姉さん……姉さんも僕と同じ」
「喋らないで! 少しでも無理したら今は……!!」
「ご、ごめん、姉さん……昔から、迷惑ばっかで」
「だから、喋らないで! 今は大人しくして落ち着いてからでいいから!!」
電装行為にマインド・コントロールによって、外部から強制的に行動を引き起こしているからか、衰弱した状態のイチながらも、目の前の相手が最愛の姉だとは分かった――ハドロイドとして、自分の後を追って姉が身を投じた事を知る筈がないにしてもだ。
リンとして胸がつまる想いである。バグロイヤーに攫われ、操られた身ながらも、運命のいたずらで課された枷から解き放たれた彼は、見覚えがある弟に変わりはないのだから。ただこの場が今わの際での別れにならない事を望んだうえで、
「今解除した……将軍、博士! イチを直ぐに連れてきます!!」
『イチ君が無事……無事なんじゃな!?』
『もう既に受け入れる体制は出来ているぞ! メル君も向かわせるようにしてる!!』
「ありがとうございます!! メルさんに渡したいものがありますからね……!!」
スフィンストの電装が解除されると共に、スフィンストの装甲が透き通るように無色透明と化していく。再度ネクストの後部座席へ戻るや否やポリスターで、エスニックらへ直ぐ戻るとの旨を伝える。コクピットのコンソールパネルからエネルギー残量に眼をやるや否や、
「まだ、ギリギリ何とかだ……シャル、後は頼む!!」
『オッケー! 残りの敵は何とかするからさ!!』
『イチを死なせたらただじゃ済まん、だから……』
「信じてるなら、それでいいです! 俺もそう信じたいですからね!!」
ヴィータストに後を託した上で、ネクストはドラグーン目掛けて電次元ジャンプを果たす。その直後にスフィンストを先ほどまで構成していた筈のフレームは既に戦域から焼失した後であった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「遅くなった……!」
ドラグーンのメディカル・ルームにて、息を切らせながら玲也は駆け込んでいった。機関直後にポリスターに記録されたデータを、エスニックの元へ提示させ、承認を得る事もあり、その間ニア達へイチの搬送を任せ、彼が到着した時は既にオペへ突入していた様子であり、
「イチの様子は、大丈夫か!?」
「それはもう大丈夫……と言いたいですが」
すぐさまイチの容態を玲也は尋ねる。搬送したエクスは彼に対していつものように太鼓持ちに回る――と思いきや、真剣な様子で危険な状態だと釘を刺す。普段彼女が自分を持ち上げている為、調子が良いと信頼に欠ける点があったものの、裏を返せば彼女が真面目に現状を危惧している事へは妙に信憑性があり、
「イチさんの精神状態よりも、消耗が激しい点がどうもですね……正直、私でも心配で……」
「ちょっとあんた! 何そんな!柄縁起でもない事ばっか?」
「リンさんがいる所で、無責任な事をいえる訳ありませんこと!?」
エクスが見る限り、彼の肉体と精神が衰弱している事の方が危惧する事態であると触れる――ニアからは彼女のネガティブな意見は、リンのいる場で口にしてよい事ではないと叱られるものの、彼女なりに真剣な様子で現実を見ているのだと触れる。これもイチの件で以前安心させんとして、現実を否定するような事を触れた時に彼女の憤りを買った事例もあっての事であり、
「ニアちゃん、エクスちゃんも本当は言いたくないと思います……」
「そりゃ、誰だってそうよ! でもさぁ……」
「イチを取り戻しただけでも果たされました……ですから、もう悔いる事なんか、あれ、おかしいですね……その」
エクスなりに自分を案じている事はリンにも分かっていた。その為この場でもいがみ合う二人を宥めつつ、自分の事でこれ以上気をかけないでほしいと促すものの、いつものような仲裁役、潤滑油としての役回りを演じきれる精神状態ではなく、
「大丈夫だ、俺たちが、シャルも、アンドリューさんも……ジャレコフさんだって」
「ジャレコフ君がいたんじゃな……」
「そうです……って博士!?」
今のリンの心境から、玲也も流石に励まさざるを得なくなった。その途中にメディカル・ルームの扉からブレーンが現れた。現状でハドロイドの手術へ中核になり得る人物でありが故、彼の体質に少々動揺した様子で、
「イチはどうなりました!? まだ、その、オペは終わってないみたいですけど!!」
「リ、リン君落ち着くんじゃ! 気持ちは分かるんじゃが……」
「あんたらしくないわよ! 本当気持は分かるけど」
「はっ……ご、ごめんなさい! 本当全然落ち着けないままでして!!」
玲也より先にリンが真っ先に飛び出し、イチの容態を少し強引にでも聞き出そうとする。思わず首元を掴んで、何とも彼の体をぶん回している。ハドロイドとしての身体能力をセーブし忘れており、ニアが慌てて二人の間に入ってフォローしており、
「何とか、外部からセーフモードにしたんじゃ……ここから点検せんといかんがのぉ」
「となりますと、メルさんが来てもらわないと」
「大体のところまでは目星がつくかもしれん、じゃが流石に詳細まで突き止めるとしたらのぉ」
ブレーンが言うには、半ば仮死状態にして延命を兼ねた待機状態でイチを留まらせていた。バグロイヤーの手によって改ざんされた箇所を正常に回復させるためには、ハドロイドの設計に携わっていたメルの存在が必要不可欠――厳密には彼女がノータッチのイージータイプの設計に対し、最もハドロイドの構造に詳しい彼女でなければ、成功率をあげる事が出来ないのだが、
「……そのメルさんはまだ来てないのですか!」
「メル君はその気なんじゃが、フェニックスの方で問題があってのぉ」
玲也自身もメルの協力がなければ、未曽有の事態から手探りで正解を掴まなければならないと見なしていた。だが彼女が到着しない事へ多少の焦りと苛立ちを見せる。
ブレーンが言うにはエスニックが掛け合っているものの、フェニックス・フォートレスが甚大な被害をこうむっている。応急修理の為にもメルは外せないとガンボットがごねていた事もあったが、
「ったく、あのポンコツ司令なんかに!!」
「最悪、わしが何とかせんといかんが……ジャレコフ君がいたんじゃな?」
「……はい。イリーガストとかを道連れにして、バグロイドも倒すために……」
フォートレスの各司令官の中で、ガンボットが不甲斐ない人物である認識は大体皆同じである。その不甲斐なさが自分たちの足を引っ張ってるのだと、ニアが詰っていた中でブレーンが話を変える。彼としてジャレコフがいた事へ話を戻した途端、玲也として少し俯いてしまう心境になると、
「……アンドリュー君を責めんでやってくれんかの?」
「アンドリューさんを……ですか?」
「もしかして、ジャレコフさんごと討ったことで」
少し言いづらい様子ながらも、ブレーンが玲也達へ意外な事を頼みかけた。最も玲也としては今一つ実感がわかないような少し惚けた様子を見せ、リンが何故ブレーンが自分事のようにそこまで思いつめていたのかの原因に気づいて尋ねると、
「わしとエスニック君にも頼んどってのぉ……最悪は自分がケリをつけると」
「まさか……それであの時俺達を遠ざけようと!」
「玲也君たちの事も考えてたんじゃ。汚れ役になるなら自分だけじゃとな」
玲也の脳裏で、少し引っかかっていた一つの謎が解けた――ジャレコフごとイリーガストと、バグアシュラーを始末するシビアな状況は、戦況を考えるならばベターな手であったものの、仲間ごと手にかけざるを得ない状況は精神的なリスクを伴うものである。
よってアンドリューが自ら汚れ役を買って出る必要があると、エスニックたちへその必要性を申告していた。玲也とシャル達へ余計な苦しみを背負わせることを避けるため、特に彼に関しては一度の過ちを乗り越えた身であったが故に、
「わしらが引き留めれんかった責任もあるんじゃ。ジャレコフ君が無事ならどれほど」
「自ら望んでたに違いませんわ……こうして果てる事も」
「なっ……!」
アンドリューだけでなく、ブレーンにも罪悪感があると頭を下げる。ジャレコフが出奔してしまうまで十分なケアもフォローも自分たちがすべきことだったのに、不十分だったのではないかと――だが、エクスが休むもなく彼の懸念を否定する。彼が犠牲になったのも、決して各々の至らなさが招いたことではないと。
「あんた! やっぱり言っていい事と悪い事があって」
「あの方はベルさんを愛されてましてよ……本当に心からでしてね!!」
「それくらいわかってるわよ! 話をそらして何様の……!!」
「もし、玲也様がいなくなりましたら、私もそうしますこと!!」
あまりにも不謹慎であると、ニアが再度エクスの首元を掴む者の、彼女は自分の発言が決して軽い気持ちで発していないのだと強く主張する――深い愛が喪失した事で、彼としてこの場で生きる理由を見失った事が死へと誘う結果となった。だた、彼の最期は自分でも選びうる選択肢だと主張した時に、ニアが思わず言葉を喪い、
「最も私でもあの方程の深い愛があるかは……離しになって?」
少し呆然とする彼女に対し、エクスは軽くニアの手を払いのける。その際、彼女が少し疲れたようなトーンで、どこか自虐めいた事を口にしている―ダッシュ二人のような最愛の人と強いつながりには至っていないのだとの羨望もあったかのようであり、
「エクスの言う通り、俺達で止められなかった……それをジャレコフさんも分かってたから」
「だから、せめて……イチ君に繋げたかったと」
ジャレコフ自身、ベルがいない状況では自分が留まる理由も、生きる理由もないと捉えていた――たとえ周囲の相手がどれだけ自分の事を案じていようとも、その思いにこたえる事が出来ないで、彼女の敵を討つ衝動に駆られてしまった自分の身を恥じ入りながら。死への片道切符を突っ走る事しかできなかった彼として、周囲の面々へ出来る事がイチを救い出すまでのお膳立てを整える事であり、
「だからこそ、イチが無事回復してほしいが……」
「肝心のメルさんがどこで油を売ってますやら……本当いい身分で」
「今、ここに来たとこみゃー」
そして、ジャレコフの想いを継ぐようにして自分たちはイチを救い出した。あとはイチが正常に回復する事を望むが、自分たちでどうにかなる範疇ではない。この場でキーパーソンとなり得るメルが不在の状況に対して、エクスが苦言を呈した時に――当の本人が少し息を切らせて到着した所であり、
「い、いるならいると言ってくださいまし! わざわざここまで来られましたのですから」
「今更猫被っても、後でアレだホイ……何とか隙を見て逃げてきたみゃー」
「そ、そうかの……あのデータで大丈夫じゃったかの?」
「メルも全部読み込むまでの時間がなかったホイ、必ずしも正解だとは言えないみゃー」
先ほどから一転して、エクスが取り繕っていたがメルとして、やはりイチを救おうと腕を振るう事を最優先としていた。その為のカギとなり得る、ゼルガから託された設計データの信憑性は、彼女の口からして灰色めいたあいまいな事を口にした。彼女が根拠があると断言できない様子に、少し玲也の表情に歪みが生じるものの、
「けど、絶対成功させるホイ。遅れた分は絶対果たすみゃー」
「……ありがとうございます、どうかイチを!!」
「信じてほしいホイ。博士行くみゃー」
ハドロイドの設計にかかわった第一人者として、未曽有のイージータイプだろうとも己の腕で完全に復活させると強く意気込む。リンからの切実な頼みを受けてもあり、彼女はブレーンを連れてメディカル・ルームへ姿を消し、
「……」
「いつまでお前が隠れている……ガキでもあるまいし」
イチの手術が正念場を迎え、玲也達が運に点を任せざるを得ない状況である――その曲がり角で密かに彼らの様子を眺める長身の彼の姿があり、彼らしからぬ消極的な態度に対して、グラサンの彼は少し詰りながら指摘しており、
「アンドリューだって、好きでジャレに手をかけたんじゃないぞー、その気持ちぐらい分かれよなー」
「……俺にそれは通用しないがな」
「そりゃそうかもなー、ラディとはあたいより付き合いあるからなー」
アンドリューの心境をリタが代弁するも――空軍時代からライバルのような関係で君臨するラディ相手に、彼女の擁護は甘っちょろい慰めに過ぎない。彼女としても、やはり分かっていた上でわざと触れたにすぎず、
「俺とお前がそれでいがみ合った。それでここまで来たのを忘れたとか」
「そりゃねぇよ……忘れてなんかよ」
「なら、お前も何ガキみたいに引っ込んでいる……ガキが嫌いなくせによ?」
ラディからは、アンドリューと過去の因縁がある――単にアメリカ空軍時代で実力が拮抗しあっていた関係でないものが。アンドリューが少し顔を上げた時に、燻っている状況に甘んじている事を問い詰めれば、
「あいつらはガキじゃねぇ……教え子だとしても戦友だ」
「俺はお前がガキだと言ったが……なら、答えは出てるだろ」
「おーおー,、まさかがきっちょ相手にリアルファイトって流れかー?」
「ガキじゃないなら、そうでもして納得“して“やれ……俺とやりあったようにな」
アンドリューが咄嗟に玲也達を庇うように反芻するも、自分がガキのような大人ではないと否定したいがゆえに取った行動だとラディは論破する。ガキではない故と前置きを加えながら、分かり合うためにぶつかる事を恐れるなと檄を飛ばせば、
「わーってらぁ! 俺もあいつらもガキじゃねぇからなぁ!!」
少し大人げない意地も見せながら、アンドリューは玲也達の元へ飛び出す。負い目を背負いながらも、まとめあげる身として腰を上げなければならないと見た上で、リタが彼の後を追おうとスタンバイしていたが、
「まぁー、ぶつかってこいと言うけどなー、あれなら大丈夫だろー?」
「……博士のお陰もあってだがな、ただガキでなくなってるのは確かにな」
「まぁー、あたいはがきっちょってのが呼びやすいけどなー」
因縁を抱えた上で殴り合って分かり合った――アンドリューとライバルとして認め合うに至った関係がラディにはあったが、ブレーンと玲也達の会話の様子からは、それよりも穏便に収まるだろうと捉えていた。彼を奮い立たせる為敢えて大げさに語ったのだと、納得した上でリタが後を追っていった。
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