18-3 かなぐり捨てろ! つまらぬ意地を!!

「プリセット、何とか抽出できました」

「何とかなったか……シャルが記録してくれてたは思わなかったが」


 ――スフィンスト目掛け、ヴィータスト・ヴィヴィッドは進軍の手を止めない。カイト・シーカーへ搭載される形でネクストが待機していた中、リンが地形データの登録作業を行っていた。彼女がプリセット用に加工を進めていた元データはブレが激しく、寝転がっていると思われる人物の手足が映されており、


「スフィンストへの転移先は、このデータを使うのが一番」

「だが、これで済むなら既に手を打てる」


 シャルがスフィンストに捕われていた際、ポリスターによってコクピットの内部が記録されていた。彼女が人質の身だった故に映像の様子が安定していなかったものの、転移先を登録するにあたり、修正処理をかけることにより“ある程度“の問題は解決された――裏を返せば、ある程度に過ぎない為実行へ移すまでには至っておらず、


「シーカーでコクピットまで見通せないですからね」

「そうだ。最悪イチまで巻き込むことになってしまう……出来る事なら」


 電次元ジャンプを駆使して突入を試みるにあたって、コクピットの現状を把握しない限り転移先で事故が起こり得る――チャンスが一度きりであるが故に、失敗が許されない状況である。この賭けを確実にするため内部の現状を把握する必要性があると見たが、


「玲也さん……あの、震えているのですか?」

「……」


 ビーグル形態としてのネクストは、サイズの関係もあり二人が隣同士――実戦をシャル達に任せ、ひと時の安息に就いている筈だが、彼が小刻みに震え、縮みあがっている様子にリンが気付く。表向き平静を装っている様子だったものの、静かに首を縦に振り、


「すまない、この場で弱気になっては後に響く。そう分かっている筈だが……」

「失敗したらどうしたら……ですよね?」

「一度救う事が出来なかった。同じ過ちは二度としないと誓ったが」


 一度きりのチャンスに賭けると意気込む筈だが、玲也の胸の内にはしこりがあった――バグロイヤーから大切な相手を救う事が出来なかった心の傷が疼き出していたのだ。

 これを戒めとして一度たりとも忘れる事がなかった彼は、バグロイヤー相手に戦い続けてきた。しかし敵を倒す事でなく、敵の手から救い出さんとする事へ向き合う時、傷が迷いとして自分を蝕もうとしていたが、


「やれる限りのことはやるが、もし……もしも、万が一だ」

「……イチを助けれなかったらですね?」

「そうだ。お前に嫌われる程度で済むとは思っていない。好きなだけ恨んでくれ、憎んで……」

『貴様! 口を動かしてるとは、余程暇なようだな!!』


 最悪の事態を想定するとなれば、後にまで十字架を背負い続ける事になるだろう――玲也が前もって、リンにその覚悟を促そうとした瞬間に、ウィンからの怒号が飛ぶ。消沈した様子から思わず驚くや否や、


『今僕たちだって戦ってるんだしさ!』

『そうだ! ここで弱音を吐くならいい迷惑だと分かれ!!』


 ヴィータスト・ヴィヴィッドとして、イーテストらの元へと迫りつつあるバグロイドを相手に迎え撃つ必要があった。その為に電次元ジャンプによる移動手段を封じ、現場へ直接急行すると共にシャルとウィンが蹴散らす事に専念していたのである。

 ポータル・シーカーからのミサイルを放ちつつ、ハイドラ・ゾワールを飛ばしてバグレラをバグアッパーと分断させる。攪乱させた2機が無防備な隙を生じさせた時を狙い、エレクトロ・キャノンを吹かせる。3、4機を相手に回す身として気が抜けない。シャルの心境を代弁するかのように弱気な玲也を叱るウィンだが、


『そなたが忘れないならそれでいい! また私に恨まれたいのか!!』

「ウィンさん、悪い……ってリン!? やめろ,何を……」


 ウィンとしても、かつて彼を憎んだ最大の理由がぶり返される事を良しとしなかった。彼女として自分との遺恨を再燃させまいと望んでおり、自分の弱気が周囲を不安へ誘おうとしている。

 だが、玲也がモニター越しに二人へ詫びようとした瞬間だった――隣にいたリンが何を思ってか、咄嗟にコントローラーを奪い取りコマンドを入力した途端に、カイト・シーカーから転移しだし、


「返せ! ここでくたばる気か!!」


 転移先がヴィータストの付近、バグロイドとの戦域の真っただ中であった――ビーグル形態として紙同然の装甲ゆえ、一発でも被弾すれば先にくたばってしまうのは自分たちである。咄嗟にコントローラーを奪い返し、戦域から直ぐ離脱した後にビーグル形態からの変形を試みる。

 両腕が前方から左右へ分かれて展開された途端、フロントガラスが胸部カバーとして前方へ折れ曲がる。頭部が露出された瞬間に、バグレラとほぼ同等のサイズへ全身は拡大されており、


「ジックレードル……!!」


 ビーグル形態の自分たちを目掛け、バグラッシュの頭部が放たれた後であった。ファング・メランの刃の一撃で葬り去ろうとしていたと思われるが、ネクスト本来の姿ならば十分に対応しきれる。左肩からジックレードルを引き抜けば、袈裟懸けにするように鎌を脳天目掛け突き刺す。空いた左手で電次元サンダーを放って引導を渡すものの、


「流石ですね、玲也さん」

「馬鹿! 下手したらどうなるかぐらい、分かる筈だ!!」

「……分かってしましたよ! それで出来たじゃないですか!!」

「なっ……!?」


 玲也の腕をリンが称賛するものの、彼女が勝手に電次元ジャンプを引き起こした為窮地に追いやられたに過ぎない。彼女らしからぬ軽率かつ、無謀な行為をしかりつけるものの、これに謝るどころか逆切れを引き起こした。リンらしからぬ大人げない様子へ思わず目を丸くしたが、


「玲也さんなら出来ます、イチの事も信じてます……!」

「お、俺もそう……いや」

「そうですよ! 玲也さんは自分を信じてください!! 私だってその気になれますから!!」

「……そうだな、ここはそうさせてもらう!!」


 リンが突拍子もない行動を引き起こした事も、弱気に駆られる玲也を奮起させる術であった。直ぐに彼女が自分を強く信じているからこそ、そのような思い切った行為に踏み切ったのだと捉えた途端、彼は“やれる限りの事をやる“で終わらせる事ではないと気づいたうえで、


『急にどうしちゃったの!? 勝手に出てきてさ!!』

「すまない、ここで燻る訳にもいかなくてな!!」

「シャルちゃんも、ウィンさんもお願いします! 私につきあわせてしまいますが!!」


 逃れるバグアッパー目掛け、ヴィータストがエレクトロ・バズーカをさせる。手を動かしつつシャルが前触れのないネクストの行動に唖然としてたものの、前向きな様子の二人を見るや否や、


『もう、今更何そう言ってるの?』

『前に出たからはそうでなくてはな……当然だ!』

「ありがとうございます……玲也さん、避けて!!」


 シャルとウィンが揃って自分たちの意気込みを肯定する。その様子にリンが救われた胸の内となるものの、自分めがけて直線状のエネルギーが放たれた――玲也へ回避を促すと共に、軽くいなして


『これ持ってって! もしもってことあるから!!』

「すまない……アペンディーシステムだ!!」

『アイハブコントロール! エレクトロ・バズーカ、認証完了です!!』


 ネクストが単身、スフィンストの元へ急行する術に出る。最も自分を捕捉している相手を想定するや否や、迎撃手段があるに越したことはない。玲也の胸の内を汲んだように、ヴィータストからエレクトロ・バズーカが託される。認証を済ませた上で先を急ぐものの、


「やはり後をつけてます……今、遭う事は避けたいですが」

「一戦交える事も望ましくない、だが……!!」


 自分に追随する機動力を見せつける相手は、同じハードウェーザーである。先ほど放たれたエネルギーの熱量が電次元兵器の規模だとなれば、誰であるかは限られる。舌打ちしながら、エレクトロ・バズーカを放って退路を遮るものの、


「簡単に退いてはくれん……これでもか!!」


 装填された最後の一発を浴びせると同時に、ネクストの手からバズーカが投棄される――相手が回避行動に出ると踏まえた上で、ジックレードルを予想されるルートに目掛けて投げつける。弧を描きながら鎌が飛ぶと、白銀のハードウェーザーの胸元に刃が迫ろうとしていたが、


『玲也君! やっぱあいつだよ!!』

「避けれそうにない……払うしかない!!」


 彼は胸元を庇うように右手を突き出し、デストロイ・ブライカーをフィールドとして展開させる術に出てジックレードルを受け止める。ビーム兵器をはじくコーティングが施されようとも、至近距離から高出力のフィールドが生成されれば話は別であった。

 ポータル・シーカーを飛ばしたシャルから、相手が危惧していた通りだと触れられた途端、電次元サンダーを放ちながら何とか撒こうとするものの、


『お二人が急がれますのも、イチ様を救われる為との事で……』

「当たり前じゃないですか! それなのに貴方がこうも来られますから!!」

『済まないのだよ。だからこそ、君たちにする話があるのだよ』


 電次元サンダーの軌道に対して、拘束で弧を何度も描きつつリキャストが迫る。ブライカーのエネルギーを帯びた左手を裏拳の要領でネクストへ浴びせるものの、ゼルガとリンが対話を望んでいた――リンからは先を急ぐのだと主張しており、


「今、貴方の話を聞く耳など……一体何様のつもりで」

「ま、待ってください玲也さん! このデータは……」


 玲也もまたリンへ同調する筈だった所、彼女が早くも翻意させられようとしていた。それもリキャストから送られたメッセージと図面の内容を目にしたためであり、図面にはハドロイドとしての弟に関する情報が、それも機密レベルの内容そのものであり、


『もう少し早く解明して渡したかったのですが……』

『確かメル君がいたはずだからね。彼女に診てもらうとよいのだよ』

「そ、そんな……まさか、貴方がたが」

『このような手荒な真似で何と言えばよいかですが……』


 ハドロイドとしてのイチの詳細データは、ユカの手によって取得、解明されたものである。彼らがこのデータを玲也達に託し、ハドロイドの設計に携わったメルへと伝えろと念入りに触れている。二人が取ろうとしている行動の真意へリンが直面した時に心が揺らぐ。彼女の迷いをユカが察しながら、自分の元へと飛ぶ電次元サンダーを右手のブライカーで受け止めんとしていた所、


「……貴方は良かれと思ってやったのかもしれませんが」

「れ、玲也さん……!?」


 だが、ネクストの攻撃の手は緩めようとはしなかった。至近距離から頭部のバルカンを浴びせにかかり、空いた左手もまた電次元サンダーを放ちだそうとするも、


『信じてください! ゼルガ様は貴方達を騙す事は仰ってませんから!!』

『大丈夫だよユカ……負けぬ私の為に、イチ君を見殺しにするのかい、君は?』

「なっ……!」


 電次元兵器の直撃を受ければ、リキャストだろうと持たない。右手が既にフィールドを放つ術も失われ、焼けただれた状態であり、必要なデータを託した事もあり直ぐにネクストから間合いを取る。これと並行してイチの事をちらつかせれば、ネクストの攻撃の手が停まり、


『イチ君を助けるのに、私が手を出した事が許せない。そうじゃないのかな?』

「父さんをこの手で救い出さなければ、俺は父さんを越えた事になりません! リンも自分の手で救うと決めた筈ですからね!!」

『確かに、お二方の御気持はわかります。ですが……』


 ゼルガ達はイチを助ける事へ密かに手を貸した――この施しとも行為を前に、玲也が感謝を示すことがないどころか、やりきれない、割り切れない気持ちで屈辱を味合わされている事は、彼も想定隅であった。ユカが怒りの収まらない彼へ申し訳なさげに、それと別に少し強くその意思はないと否定すると、


『……なら私がこれを渡さずして、イチ君を救い出せるかな?』

「そ、それは、あの……」

『ふふ、別に私は君達を無力だと一蹴するつもりはないのだよ』


 ゼルガは穏やかな物腰ながら、自分たちが手を貸した現実を突きつける――リンからすれば、ファジーのマインド・コントロールからイチを救い出した後も、彼が後遺症もなく正気を取り戻せるか迄の保証がない。アフターケアのようにユカが解明したデータによってその懸念が打破されるのではないかと揺らぐ一方、



「なら、一体貴方は何がいいたい! 貴方が手を貸せと頼んでなど……」

『……馬鹿か君は!!』

「……!!」


 それでもなお、自分への敵対心を玲也はぎらつかせている。まるで狂犬のように噛みつかんとする姿勢の彼に向かわんとする所ゼルガは吼えた――柔和な様子から一瞬にして彼が怒気を発した途端に、気迫で彼を圧倒しだし、


『今、君達がイチ君を救わずしてどうする! つまらないプライドはお呼びではないのだよ!!』

「ゼ、ゼルガさん、貴方は一体何で、こうして……」


 辛うじて口調に普段の余裕あるふるまいは残されていながらも、ゼルガはひたすら玲也を圧倒する。彼がそこまで真剣に自分たちがイチを救う事へ真剣な様子に対し、リンが思わず彼の真意が何なのか聞き出さんとした。


『この太陽系でバグロイヤーを討ちます。ゼルガ様はその為にレジスタンスを率いるつもりです』


 ――玲也の為に吼える夫に代わり、ユカが真意を切り出した。マックスたちを中心としたレジスタンスの面々による、反バグロイヤー活動は活発であり、勢いづく彼らを率いて太陽系で、バグロイヤーを迎え撃たんとする事を望んでおり、


『地球との相互理解の為、私は如何なる誹りを受けようとも諦めないのだよ。それこそつまらないプライドかもしれないけども』

「貴方を完全に信じた訳ではありません。ですが今だけは……」

『それだけでも有難いのだよ、玲也君』


 ゼルガ達がそこまで動く真意を知らされた途端、玲也が冷静さを取り戻すだけでなく、ぎらついた敵対心を解こうとしつつあった。双方の相互理解による絆を望む彼として、玲也との間に絆が生じつつあるのだと見なしたのだろう。いつの間にか「羽鳥君」ではなく「玲也君」と呼んでおり、


『この話は好きに使ってください。それだけで私たちも』

『ハードウェーザー・ネクスト……私の獲物!!』

『危ない……!!』


 自分たちとの会話がおそらく証拠として録音されている――それを承知の上で、電装マシン戦隊の隙に使ってよいとユカが触れた瞬間であった。左方からネクスト目掛けて弾頭が放たれた事に気づくや否や、


『きゃぁぁぁぁぁぁっ!!』

「……ゼルガさん、ユカちゃん!?」

「まさか……やはり、俺達を庇って!?」


 リキャストが飛び出したことも、ネクストの盾になるためであり、背中目掛けて二発の弾丸の直撃を貰った。彼らの自己犠牲になおさら玲也達が二人への敵意を解いていくと共に、


『大丈夫です、おかげで離れる口実が出来ましたから……』

『ここで一度離れるのだよ……頼むのだよ!!』


 最も、リキャストとして右手首を損失した状態から戦闘の継続が困難になりつつあった。そのような建前で戦線を離脱するために敢えて被弾する狙いもあった。ゼルガが後を託すと共に電次元ジャンプで姿を離れると共に、背後からスカイブルーのハードウェーザーが自分めがけて迫る。


『う……うぅぅ、ね、姉さ……?』

「イチ……やっぱりまだ!!」

『エリルを、バルゴ小隊長の仇……!!』


 スフィンストを前に、リンは弟を救い出す時が訪れつつあったと捉える。だがファジーのマインド・コントロールと別に、彼を動かすチホが、自分たちを仇として憎悪を突き付けて迫る。強化改造されてむき出しの敵意と共に弟を救うための障害にもなっている。

 親しい相手の仇がネクストにあると、デリトロス・セイバーを右手甲から展開させるものの、彼女が振るう直前にジックレードルが振り下ろされ、


「玲也さん……!」

「まず時間を稼ぐ……シャルに直ぐ来るよう頼む」


 スフィンストの右手首が切り落とされた――ネクストとして可能な限り相手の攻撃手段を奪う事が救出への布石になり得ると玲也は捉えており、ゼルガ達と似た手段に挑んでおり、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る