17-5 スフィンスト再び! 復讐の戦姫を乗せて!!

「まさか、フォーマッツがこのように使われることなど、皆さん考えていなかったでしょうね」

『ファジーちゃんだから、こう簡単に乗っ取れるのよん?』

「確かにそうかもしれないですね。しかし私が来て早々こう惨い事を」


 キドの司令室に天羽根院の姿があった――部屋で一人ほくそ笑む彼は既にバーチュアスの代表ではない。ファジーから前線の司令官として権限を委譲された人物。技術者として司令官としては不向きだと自覚していた彼女が、後を託した人物その人こそ天羽院であった。

 最も彼は司令室にて、修道女のようにフードを被った女性と通信を交わしていた。間が抜けたように延びた独特な口調の彼女だが、ファジーをちゃん付けして呼ぶことが出来る程の人物であった。その彼女へ向けて、天羽院は畑違いの前線へ彼女を送り込むことへ、一応は懸念を示していた。ハードウェーザーを売り物として切り捨てる冷徹さな彼らしくもなく。


「あら、新しいバグロイドを見せつけるためなんじゃないの~?」

「それもそうですが、まだまだ改良の余地があります……ま、現時点でのテストも一度くらいはしませんとね」


 自分がバーチュアスを去った後、電装マシン戦隊への牽制として新たなバグロイドを送りつける必要があった。それもこれまでの概念を大きく変える代物であり、天羽院として一応は不完全だと釘を刺すが――彼女がその上で前線へ出そうとの意志に対しては、強く反対する事もしなかった。


「しかしまぁ、ファジー君が前線に出た上で、あのプレイヤー達も操るとなりましたら」

「オーバーワークって事かしら~」

「並のミュータントでも、あれだけやれば持ちません……彼女、超常軍団の中でも指折りのはずですが?」


 ただ、ファジーを前線で戦いつつ、自らプレイヤーたちを指揮下へ置きながら戦闘を展開していくとの事には限界である。直接彼女の上司には当たらない天羽院でさえ懸念すべきことである。

 それと別にファジーがミュータントと呼ばれる人物である。超常軍団に籍を置いている上に、彼女からしても上位に位置するだけの人物との事だと釘を刺していたものの、


「セインちゃんは、セインちゃんが気に入ったお人形が欲しいの~もう古くなっちゃったからね~」

「はは、超常将軍だけあって、随分と割り切ってますし、まぁ……」


 そのような人物だろうとも、ファジーは古くなったお人形だと彼女はまるで子供じみた理由で彼女を平然と切り捨てていった。超常軍団と称される部隊のトップに君臨する人物であるにも関わらず。天羽院は彼女へ異議を立てる事をしなかったが、畏怖する様子などはなく自然体で彼女と接して檻、


「まぁ、このタイミングで送ってくれることはありがたいですけどね」


 ――キドとゲノムとのゲートがつながり、バグロイド補給の目途は立っていた、それもあってか、敢えて現存戦力のほぼすべてを払い出す大博へと押し切っていた。

 また、閑職に置いて能動的に動かれる事を避けていた一番隊へも出撃の要請を出した――ゼルガ・サータが擁するハードウェーザー・リキャストの存在故。今なお、電装マシン戦隊の脅威になると見なした為でもあったが、


「彼がどう動くか次第ですが、途中で倒れてくれるのが一番ですかね……」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『相手が大した様子ではないですね……あの、フォーマッツさえ除けばですが』

「まともなバグロイドがいないとなれば、ハードウェーザーで十分。そうだな?」


 ――前線には、フォーマッツを陣取るようにインスパイアー級の姿があった。3、4隻密集するように守りを固めつつ、艦載機らしきバグロイドが前衛と後衛とそれぞれ10機程の編隊で送り込まれつつあった。アトラスが触れる通り、バグレラだけでなく、バグアッパーを装着した状態でバグラッシュの姿も見られる。本来大気圏内での運用を想定していたバグロイドが転用されている事からか、戦力の消耗を察しつつあった。


「ザコを直ぐ相手にする価値はない! そうだろ?」

『ま、マーベル君……君のやっている事は分かっているつもりだけど』

「なら、貴様に私を納得させられるだけの策は」

『マーベル君に任せるよ、アトラス君も頼むよ……』


 フェニックス・フォートレスの甲板にて、ダブルストが電装された状態で両腕と全砲門を展開させて臨戦態勢を整えていた。彼女が打たんとする一手が如何なるものか、ガンボットは察しがついており、マーベル達はマーベル達で大博打を打とうとしている事も分かってはいた――が、中間管理職の悲哀を体現するようなこの男に、マーベルを制するだけの力などもっていない。前線での指揮も彼女が主導権を握っているようなものであり、


「奴が言ったからではないが、お前にも動いてもらうぞ!」

『オゥ、ミス・マーベルにそう期待されると僕も嬉しいよ! 僕たちの勝利が目の前のようで……』

「しくじったら、アレだかみゃー」

『よ、余計な事言わないで、僕たちもちゃんとするよ、クレスロー!』


 ただ、マーベルから珍しく協力を依頼された事もあり、アトラスは少々委縮していた。相変わらず脳天気なクレスローに釘を刺しつつも、常にポジティブシンキングでいられる彼女が羨ましいと思いつつ。

 かくしてレスリストがダブルストの背後から姿を露わにするが――確かに手が加えられた後が存在していた。万力“ユナイホルダー”が設けられた両脚はシェイプアップしたかのように、細身となり、代わりにグライダー・シーカーにブレストやディエストのようにサブアームが設けられていた、上半身へボリュームを片寄せていた姿ともいえるが、


「アトラスはん、本番は初めてやと思うんやけど、自信もってどーんといくんや!」

「あんさんの思うがままを、ワイも意識して手加えたんやからな! あとはあんさん次第やで!」

『だ、大丈夫です……レスリスト・レボリューション!!』


 マジェスティック・コンバッツから、フェニックスへと移籍したポルトガル代表――彼女たちが今までの埋め合わせとは、レスリストを強化することにあった。改めてレスリスト・レボリューションとしてイギリス代表の雄姿を露わにすると共に、


『フラッシュバーム、フルオープン!!』


 グライダー・シーカーから両肩へとポッドが展開するとと共に、6門の射出口から弾丸が発せられる。バグロイドの群れもといインスパイアー級の艦橋を狙うように爆裂するや否や、閃光が襲い掛かる形となる――閃光弾フラッシュバームが実弾に代わり装填されていたのだ。

 

『一発くらいなら、このままでも!』

『ターゲット捕捉したよ! 的が大きいと口説きやすいね!!』

『それを言うなら、堕としやすいだよ!』


 飛び上がりながら、ガードベルトの基部へ後退しつつ、ライトニング・スナイパーが火を噴く。足場がない状態で浮遊しながらも、狙撃時の衝撃でよろめくものの――狙いはインスパイアー級の艦橋そのものである。閃光の眩さが残留しながらも巨大な的に照準を定める事は容易であった。直撃と共に火の手が上がるや否や、


「クロイツ・フォーメーション……!!」


 このレスリストが前座であるかのように、ダブルストの砲門が火を噴く。ダブルゴーストが変形した両腕はシュツルム・ファイヤーとして、腹部のハウンド・キャノンを加える3方からの砲撃がインスパイアー級を蜂の巣にするように撃ち抜いており、


「ダブルストが乗ってるぐらいで出遅れる筈がない、突貫だ!!」

『ま、まさか……ここで切り込みをかけるの?』

「ここで弱気になるな! 私がいる限り不死鳥は沈まんとな!!」

『そ、総員対ショック体制について! ピックルーだ!!』


 さらにフェニックス・フォートレスそのものもまた最前線へと駆り出されている。自分がこのような役回りを担う事をガンボットは怯えていたものの、マーベルに尻を叩かれるように激励されて敢行へと踏み切った。

 不死鳥の名を持つだけあり、鳥型を模した深紅の電装艦は速度を上げていく。艦首の先に存在する嘴を高速回転させながら右へ迂回して、別のインスパイアー級をターゲットに定める。電装艦の中では小柄になるフェニックスだが、バグロイドからすれば格好の的になる。甲板にダブルスト本体を残した上で、左右のダブルゴーストが遊撃要員としてバグレラの相手を務めていたと共に、


「ピックルー……って、てぇぇぇっ!!」


 ガンボットの号令は少し覇気にかけるものの、2門のスザク・ランチャーを併用しながらインスパイアー級との砲撃戦を繰り広げる。間合いを詰めていくと共にピックルーが衝角として、艦体へ触れると共に、ドリルのように高速回転して甲板を抉ろうとする中、


「ただ図体だけがデカい訳じゃないからな!!」

「風穴を開ければこれで十分みゃー!」


 そして風穴を開けんとする個所目掛け、ジャイロ・シーカーに設けられた両肩のミサイルポッドと、ハウンド・レールガンを一斉に叩き込む。間合いを詰めた上での持てるだけの火力を一気に叩き込めば、火の手が上がろうとしており、


『右舷が手薄です! 弾幕を……』

『その必要はないわ!』


 マーベル主導の元、フェニックスの荒業が艦を落とさんと荒業を繰り広げていた――だが錐のように一点集中して攻め込む姿勢故に、側面からバグレラの攻撃が繰り広げられていった。巨大な標的を狙わんと、火力を重点に置いたデリトロス・バズーカで狙いをつけるが、ダブルストもキャノンが設けられたターレットを回転させながら火を吹かせる。ダブルストでは3、4、番手にあたるような火器であったものの、デリトロス・バズーカと同等の威力を誇り、バグレラを仕留めるには十分な火力ともいえた。


『あの……指示を仰がれたのは私だと』

「そう言ってる場合か! 下手をすれば私たちがやられるわ!!」

「マーベル隊長―、雑魚は私に任せてください―」


 ダブルゴーストがフェニックスの護衛から、各個バグロイドの撃墜へと回る。ジャイローターをバックパックに装着させ、機動性を高めた上でハウンド・サイズを振るう白兵戦へと2機は転じる。彼ら2機が遠隔操作による無人機として、多少の無茶が出来る事もあったが、レスリストがロングレンジからの狙撃に回っていた事もあった。


『オゥ、アトラス! 素晴らしい働きだよ!』

『もう目立つ必要がないならね……!』


 レスリストがダブルストの援護として、狙撃による後方支援へ徹していた――イギリス代表として、目立つ必要性から解き放たれた事もあり、彼自身このバトルスタイルを本来の自分が得意とする戦い方だと見なしていたのもあった。

 そのような心情の変化などを反映させて手を加えたのがレスリスト・レボリューションであった。ライトニング・スナイパーを主武装として混戦の中での狙撃に重点を置き、それ以外の装備の殆どは狙撃時の自分を支援する術ともいえた。フラッシュバームの閃光弾もまたその一環に当てはまる装備である他、


『一人コソコソ狙ってるなんて!!』

『ハードウェーザーだからって、なめんなよ!!』


 狙撃による支援に徹する自分を厄介と見なしたからか、2機のバグラッシュが降りたとうとしていた。バックパックのミサイルを加えつつ。頭部からのファング・メランで掻っ切ろうとしていくものの――グライダー・シーカーからの2本の腕が接近を阻止せんと、打突して腹部に質量による一撃を浴びせていく。


『こう攻め込まれてもいいようにね!!』


 狙撃を重点に置いた戦いを展開する中で、接近されれば無防備になり得る事態を回避する事も視野に入れていた。脚部にアンカーの一環で仕込まれていたユナイホルダーが、グライダー・シーカーのサブアームへと移設されたのも、その一環による。

伸展性、可動性を兼ね備えつつ、十分な剛性を誇る――ユナイホルダーによる打撃はバグロイドの接近を阻止するには十分な代物であった。コクピット付近の腹部を突かれると共に、


『ひ、ひぃぃぃぃっ!!』

「アトラスさんもなかなかですが、マーベル隊長、アズマリアも当然素晴らしい働きですね! なら私もこの晴れ舞台で大手柄を上げたいですから、まぁ死んでもらおうかと……」

「口を動かすなら、お前は手を動かせ!!」


 レスリストの活躍に刺激されたのか、或いはいう自摸通りなのかルミカはり勢いに乗っていた。ゴースト2がハウンド・サイズでバグレラのバックパックに備わるバグアッパーの翼を両断するが、


「エネルギー反応があるみゃー! 気を付けるホイ!!」

「多分イーテストですよ! マーベル隊長、全くアンドリューさんは予定より遅れて一体何をやってまして……あっ!』


 メルからハードウェーザーが電装されようとしていると知らされても、勢いづいたルミカはまともに耳を傾けず、楽観視している節もあった。アンドリューが電装に手間取っている事情を知ったはずもない彼女は彼を軽んじているように触れていたものの――彼女の背後からスカイブルーのハードウェーザーが拘束に入る。

ルミカが言葉を失ったがあっという間であった――後腰に備えられた鋏が前方へと展開すると共に、ゴースト2を拘束するや否や、右膝に内蔵されたデリトロス・クラッシャーが射出されて串刺しにされた瞬間、粉々に消し飛んだのだから。


「す、すみません……PARの兵器ならと思いましたが、まさか、まさか……」

「言い訳はあとだ! 喧嘩を売ってきたなら返り討ちにするまでで……!!」

『ま、待ってください! あのハードウェーザー……』

「アトラス! お前が口を挟む問題ではない!!」


 流石に堪えたとルミカの様子を察した事もあり、マーベルは腹ただしい心境を目の前の相手を倒す事で晴らそうとした――突如現れてゴースト2を葬ったハードウェーザーを仕留める事に。ただ顔色を変えてアトラスが彼女たちを止めようとしていたのは、


『シャルが組んだハードウェーザーだよ! 確か……』

『ホワイ!? じゃああれにミス・リンのブラザー、弟が乗っていると!』

『そうだよ、ベルさんがあの時……でも』


 倒すべき標的として現れたハードウェーザーがスフィンスト――イチに記録されたハードウェーザーであったことは、アトラスも既に知ってはいた。彼の出現でシャル達が捕らわれ、その為にベルが命を落とす遠因となっていた事を考えれば、彼としてマーベル達と同じように動いていたかもしれないが、


『でもとは何だ! 身内だろうと許されるはずがない!!』

『そ、それはそうですけど……』


 実際、マーベルは強硬的な態度を示していた。イチのハードウェーザーを相手にしようとも、電装マシン戦隊へ直接刃を向ける存在なら駆逐すべきだと――実際、ゴースト2の後はダブルスト及びフェニックスへ狙いを定めている。両肩のミサイルを放ちつつ、デリトロス・ライフルを片手に砲撃戦を繰り広げている状況を前に、レスリストが立ち上がり


『ホワイ、アトラスもその気なのかい!?』

『僕だって嫌だけど、フェニックスが沈んだら終わりだよ!』

『ミス・リンに恨まれるかもしれないけど……背に腹は代えられないね』

『ごめん、本当いい手があったらいいんだけど……!!』


 レスリストがフェニックスの護衛に回ろうと飛び立つ――それは、スフィンストを相手にやるかやられるかの勝負に身を投ずることである。レスリストが狙撃時の自衛などを想定した装備はあったものの、白兵戦に適している訳ではない。だがそれ以上にスフィンストを万が一撃墜する事態になった時の後ろめたさは払拭しきれるものではない。その上で前へでるアトラスの心境を汲んで、クレスローは止める事をしなかった。


『……う、うぅぅ……』

『……ハードウェーザーは敵、倒さないといけない敵、この手で仕留めるべき敵』


 スフィンストがダブルストに砲撃戦を挑む事は、一見ドイツ代表の得意分野、相手の土俵に上がって勝負をしているかのように見えた。だが今狙うべき的はスフィンストの方が多い。彼女たちが陣取っているフェニックスが格好の的となっており、それを仕留めれば電素マシン戦隊の一角が機能不全に陥るのだから。

 そしてスフィンストには、バイザーを装着された状態でイチが苦悶に喘いでいるものの、プレイヤーとなる彼女もまた同じ恰好。ハードウェーザーへの怨念をまるで淡々と機械のように述べており、感情の生き物として人の姿は消えうせていた。


『エリル、見てください……貴方の分まで、私は』


 ハードウェーザーは恋人の仇――その一心でチホは自らの身を差し出した。彼女個人の激情と怨念を背負いつつ、機械のように生まれ変わったプレイヤーとしての腕をもって報復するのだと。

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