17-6 今だ、チャンスだ! ディヴァイディン・ブレイカー!!

「こんなバカでけぇ奴をそう簡単に止めれねぇと思うけどな……!」

「次の来るまで多分1時間もないですからね! 出来るなら止めたいですよ!!」

「わかってらぁ! だからおめぇを使ってるかもなぁ!!」


 ――その頃、フォーマッツの懐へとユーストは潜り込んでいた。エネルギーフィールドで全身を覆う巨大な相手に対し、通常通りでのユーストの火力では通るかは怪しい。だからこそプラズマ・フォースで制御権を掌握する手段にアンドリュー達は出ていたのであった。アンドリューとシーンからして、それでも一矢報いる事が出来るか定かではないと触れていたものの、第2射が照射される事態だけは阻止する必要があるのだから。


『ハ、ハードウェーザー……』

「……ロスにい? ロスにい! 聞こえるか,聞こえるかよ!!」

「そ、そんな事ある訳ないけど……なんで、何でだよ!?」

『ハードウェーザー、ハードウェーザーですね……?』


 だが、フォーマッツを掌握するにつれて、突如コクピットからステファーが聞き覚えのある長兄の声を聴いた。シーンとして目の前で下敷きになった彼の声がするはずがないと否定するものの、実際彼としても聞き覚えのある声である故に、疑問は払拭しきれるものではなかったが、


「そうだよロスにい! ステファーのユーストだから! ロスにいと一緒に戦うつもり……」

『私をここまで追いやったハードウェーザーなら消す!』

『その通りだよなぁ!!』


 ステファーは機体越しに、兄妹がこうして再び手を取り合い、自ら戦う動機になると――その彼女の強い希望を現実は容赦なく潰えさせるように彼女は拒まれた。この様子を嘲笑うようにスフィンストの背後からはダークグリーンの機影が瞬時に転移した。


「あ、あの野郎! いきなり後ろを取りやがって!!」

「やったらやり返す! おめぇも手ぇ動かせ!!」


 背後から己を目掛け、胸部からのデリトロス・リボルバーが炸裂する。この不意打ちへシーンが突っ込むものの、アンドリューの操縦は素早かった。フライト・シーカーからのミサイルを放って間合いを取った後に後ろ回し蹴りを豪快に浴びせる。右肩のクロー・シーカーをめがけての一撃はフレームをゆがませるだけでなく、


「そうだ、このまま乗っ取る事も出来るんだ……」

「こいつのハッキングがどこまで行くかだけどよ! あのクローを潰すだけでもな!!」

「あんたが、あいつの師匠だけはある……そうみたいですね」


 ユーストの触れた相手へとハッキングを仕掛ける――平々凡々のユーストが器用貧乏に陥らない、独自の能力を活かす事こそ、ユーストが上手く立ち回る術だ。ユーストへ乗り込んで間もないながら、その特性を生かした攻めに転じる彼に思わずシーンが感心したが、


『っと、いきなり乗っ取られてて終われねぇだろぉ!?』


 ただ、ビトロもまたユーストの性質を把握した上で、右肩のクロー・シーカーを直ぐにパージした。エネルギーフィールドの一片を喪う代償があったものの、イリーガスト自身が制御される事に比べれば軽微ともいえた。


「やっぱ、簡単にはいかせねぇか。ショートレンジで畳み込んで……っておい!」

「あ、あいつは……あいつは!!」

「どうしたんだステファー! 落ち着いて、うわぁぁぁっ!?」


 クロー・シーカーを一つ封じただけで優勢に傾く――アンドリューの胸の内として、そのように確信した上で、長期戦での白兵戦主体で攻めていくべきだと定めた。脳裏でどう立ち回るべきかのフローチャートが完成したものの、一つ誤算があった。隣でステファーが跪いていた。コントローラーを握りながら、再び発作を起こしたように彼女の体が震え続けており、


『……何でユーストが出たか知らないけど、本当タイミングいいわね』

『ファジーさんよぉ、これは俺も揺さぶった方がいいんじゃないすかぁ?』

『そういえば彼もそうね……構わないわ』


 フォーマッツを制御するファジーは、ユーストを御しやすい相手だと捉えている。彼女がどのような手を使ってステファーを突いているかは、ビトロも察していた。その上で彼も追従するように心理的なダメージを与えようとほくそ笑む。彼の前方でイリーガストを操り続ける彼を視界に入れながら、


「ロスにい……ロスにいの仇に!!」

『イリーガスト、やりなさい! もう既に妹でも何でもありません!! 』

「そんな、ロスにい……きゃああっ!!」


 イリーガストの攻撃により、ロスティはビルの下敷きと化した――倒すべき敵だと彼を認識して、ユーストが迫ろうとする。けれども、パルサー・ショットを射出しつつ間合いを詰めようとした循環に、ファジーが乗り込んだフォーマッツから何故か長兄の声がする。自分の戦いを長兄に否定され、戦意に戸惑いが生じた瞬間を突くように、デモニカ・ブラスターが火を噴く。回避行動は遅れたユーストの右腕が吹っ飛ぶと共に、


「い、いやぁ……ロスにい、何で? ステファー頑張ってるのに……」

「な、何でだよ! 何でロスティさんの声が!」

『おっと、こっちも見てほしいんだけどよぉ!』


 デモニカ・ブラスターが被弾した衝撃で、ステファーがコントローラーを手放してしまっていた。普段のマイペースな人柄に戻るものの、兄から自分の戦いが否定された為に流した涙が止まりそうにない。

 シーンもまた、ロスティの声がフォーマッツから聞こえる理由を突き止められず困惑が消えそうにない。そのタイミングを狙ったかのようにビトロが声をかけ、自らのコクピットを敢えてユーストのモニターへ映すようにさらけ出した。


「お、お前……!?」


 ビトロの前方でプレイヤーを任されていた男が、バイザー式のヘルメットを取り外す。操縦を放棄して迄の行動としてあまりにも隙が大きいが、それに見合う精神的なダメージを与えられる。ビトロがそう踏み切っていたと共に、バンダナを着用したセミロングと共に、素顔が明らかにされる。アンドリューが思わず驚愕の声を上げていたのも


「あ、あんたって人は確か! ドラグーンから飛び出してそれっきりで、えーと……」

「……ジャレ! 一体どういうつもりだ、おい!!」

『……』


 ――ジャレコフ・ルトラン、通称ジャレ。面識が薄いシーンでさえ目の前に現れた事に驚愕していたものの、アンドリューはそれ以上の感情に胸の内を占められようとしていた。どうにか冷静であろうと留まりつつ、かつてニュージーランド代表だった彼の名を叫ぶ。後輩の彼をそのように断じようとはしなくとも、アンドリューでさえ内心狼狽が見え隠れしていた。


『はは、無駄だぜ無駄! やっぱ俺と組んだ方が居心地いいみたいだしなぁ!?』

『……』


 ビトロがあざ笑う通り、ジャレがアンドリュー達の姿へ特に動揺する事もなく、再度バイザーを装着しコントローラーを握りなおす。相手の目の前で隙をさらけだしても、まともにユーストが動く事がなく、デモニカ・ブラスターを再度発砲しており、


「シーン、避けるぞ!!」

「え……えぇ、はい!」


 かつての仲間にも容赦なく葬り去らんと、イリーガストが発砲した――これで咄嗟に我に返ったアンドリューは回避行動をとる。右へと避ける事で左腕の損失を免れ、背後に陣取っていたフォーマッツへ着弾すれば、


『何をやってるの、貴方たち……』

『すまねぇ! ジャレ、狙いはよく定めねぇと、フォーマッツがオダブツになったら拙いんだからよぉ!?』

『……すまない』


 フィールドを生成していた為か、どうにかフォーマッツは直撃にも耐えきった。だがファジーとして第二射を大気圏内へ放射する必要があるとの事から、充填が完了する前に撃墜されては元も子もないのだと、イリーガストを叱責する。彼女としてあと少しだからか、底部の射出口が赤くともり始めていた中、

 

「ロスにい“の“を酷い事に使うな! ロスにいを踏みにじるんじゃねぇ!!」

『え、えぇ!? 一寸早まられても困るけど……!』

「俺は早まるつもりはねぇ! シーン、こっちにコントロールを移せ!」


 フォーマッツの第二射が近い――察しがついたステファーはまるで早まるように行動を起こした。アンドリューが流石に拙いと気づき、すかさずシーンにコントロールの全権を自分へ移すように促したが、


「おいやめろ! 何考えてらぁ!」

「ロスにいがいないなら、ロスにいの所に行くんだ! 怖くないから死なせろ!!」

「ふざけんな! こう暴れてたらそうなるだろ!!」


 アンドリューやシーンを巻き込むことをステファーはどう考えていたか、それ以前にこの状況で認識していたかどうかも定かではない。アンドリューとステファーが取っ組み合いさながらの乱闘が繰り広げられ、その場からユーストはまともに動きそうにもない。


『ステファー、この兄である私を殺すつもりで……!!』

「ロスにいでもやっちゃだめだ! ステファーもロスにいもこんなこと!!」


 コクピットの中で二人が悶着を起こしていながらも、ロスティを実力行使で求める覚悟をステファーは示しつつあった。兄に自分の戦いが否定されるよりも、その兄が地球に刃を向けてジェノサイドを引き起こす行為を妹として望んでいないのだと。彼女が強く叫んだ所、


『そう……なら、そうさせて……』


 ロスティの声が徐々に甲高く、艶が伴われていく。ロスティの声に成りすましていたのも結局フォーマッツを制御していたファジー本人である。これ以上ステファーの兄を演じて彼女を黙らせる事が無意味だと判断を下した事も意味している。


『電次元フレアー!!』

『なっ……!』


 かくして2門の副砲が標的に向けて閃光を放たれた瞬間だった――至近距離でに真紅のフレームが発生し、瞬時に装甲を身に着けたて電装。そして初手攻め同然に、電次元フレアーを至近距離で浴びせていった。

 エネルギーフィールドを生成されようとも、電次元兵器はバリアーの類で封じられない特殊エネルギー兵器。それも電次元兵器で屈指の威力を誇る電次元フレアーを至近距離で浴びせた瞬間、訪問は瞬時に赤熱化して底部から爆発が巻き起こる。、頭頂へとオーバーヒートしたかのように赤熱化すれば、各部位で爆発を巻き起こしていった。


「ブレスト……玲也か!!」

『すみません、遅くなりました!』

「まぁ、俺の方も訳アリでこれだからな! それより見事だ!!」


 フォーマッツが電装マシン戦隊、および地球を恐怖に晒すその主砲を見事に潰した――真紅のハードウェーザー・ブレストが電装された時、アンドリューは心から彼の活躍を称える。それが自分の愛弟子・羽鳥玲也が駆るからとの点もあり、自分のように思えたのかもしれないように。

 

『電次元フレアーでやらないと本当間に合わなかったかもね……』

『残念だが、もうエネルギーが殆どない……やむを得ない』

『まぁ、これだけのことしないとだけど……まだ他にやる事あるけどね!』

『ったく、俺がハードウェーザーに乗るとか思わなかったけどよ!』


 電装された後すぐさま電次元フレアーを至近距離で浴びせる――この電撃的な攻めによってフォーマッツの頭部を粉砕した代償として、既に8割ほどのエネルギーを消耗していた。

ニアが少し物足りないような表情を浮かべつつも、自分たちがすぐさま電次元フレアーを浴びせなかった場合、ユーストが葬られていた可能性が高い事もあった。電次元ジャンプで離脱するだけのエネルギーを確保できていないとして、ファイター形態へ変形する。ドラグーンへ戦域を離脱し、玲也が乗り換えようとする中で同乗していた彼がニアの傍へ寄りかかり、


『馬鹿野郎! お前は一体何考えてるんだよ!!』

「すみません! ステファーが立ち直るには前線に出るしかないと俺も思って……」

『そうじゃねぇ! 特攻とか道連れとか……死ぬ気だったろ!!』


 ブレストへ同乗したアランの怒号が、ユーストのコクピットへと響き渡る。ハードウェーザーのプレイヤーではない故に、フォーマッツ相手に出撃できない苛立ちではない。かといって、前々から反対し続けている上、無断で出撃したステファーに対しての怒りとも少し違う――戦場で自分から死のうとしていた姿勢を許せなかったのだ。


『俺たちは最初から死ぬつもりで出て戦ってるんじゃねぇ!お前が最初から死ぬ気だとしたら今まで死んでった奴らに失礼だ!』

『そうです、それは俺達にも当てはまる事です……』

「玲也!」


 戦いでの心構えについて、アランは少し厳し気に語る――ステファーより長年場数を踏んで最前線を潜り抜けただけの事はあり、前線で戦う者として兄妹という身内の色眼鏡で甘く見てはならない。同じ線上で戦う者として身内の情で接してしまえば本人の為にはならない。この戦う者としての心構えは、玲也にとっても一理頷けるものであった。彼に対してステファーが思わず顔を上げるが、


『ステファー! アンドリューさんを巻き込んで死のうとするのはやめろ!!』

「おい! それステファーはどうでもいいって言ってるようなもんじゃ……』

『だったら一人で死ねばいいじゃん! 関係のない他人を巻き込むのはやめなさいよ!!』

『それは言い過ぎだニア、確かにその気持ちはよく分かるが』


玲也もまたステファーが死に急いでいる事を𠮟りつけた。彼はアンドリューまで巻き込もうとしていた点でも腹が立っており、シーンが少し反抗してもニアに速攻で黙らされた。そのニアもまた玲也と同じ、いやそれ以上にムシャクシャした様子であり、彼女を突き放すような厳しい言葉を投げかける。一応彼女を窘めるのだが、


『これ以上目の前で死なれてたまるか! お前がこのまま死ねば、お前を一生許さなくなる……!』

「死んだら、一生……!」


 あえて突き放すニアに対し、玲也はステファー達が死んではならないと諭す。それも自分たちが彼女たちの死を目のあたりにしたくないと、胸のうちを直接ぶつけるように。彼の言葉を前に思わずステファーが雷を打たれたようにコントローラーが手から落ちた途端、彼女は正気に戻ったように意識が覚醒する。


『今まで倒れた人たちは好きで死のうとは思ってない!俺たちが至らなかったから助からなかった人たちだっている!!』

『ポーもベルさんの事も考えるとつらいんだから! あんた達自分から死ぬって甘えだって分かってるの!?』

「いや、俺は別に死のうとか考えてないけど……」

『だったら今、あんたの事は聞いてない!』


 シーンを一蹴しつつ、玲也とニアが二人揃い思わず雷のような勢いでステファーを叱咤する。で彼女が死に急ぐことが無礼な行為でもあり、甘えであると断じると彼女がその場で蹲り、


「でもロスにい、いないよー! ステファー、どうしたら、どこにいたら……」

『兄貴が死んだとしても、ここで生きてる俺はどうなるんだよ!!』

「アラにい! 確かにアラにい、いる、大事、だけど……」

『大事な人の為に戦うのは俺も否定しない! だがそれで死ねば余計アランさんが苦しむだけだぞ!!』


 蹲りながらステファーはここにいないロスティへの未練を触れた。けれども、既にいない長兄ではなく、今こうして生きる者として次兄が玲也と共に喝を入れる。ステファーへ生きなければならず、そのための居場所は既にあると強く肯定しながら。


『まぁ、兄貴の俺が見捨てられるかよ。ハードウェーザーのプレイヤーとしてはそりゃ少し抵抗あるっちゃあるけどよ……!』

『アランさんも、ステファーも同じ仲間です! 俺達は今まで色々あってここまで来ていますから!』

「玲也の、仲間……!!」


 守るべき妹の筈が、自分にとってライバルとなるハードウェーザーのプレイヤーである――少し複雑な感情を寄せつつも、アランがステファーを兄妹だけでなく同じ前線で戦う者として認める姿勢を示していた。彼なりにハードウェーザーへの対抗心を解きつつある事に安心を覚え、その上で彼ら兄妹が仲間だと自然と受け入れようとした瞬間。


『どこ見てんだよぉ、コラァ!!』


 戦線を離脱しながらも、ブレストとユーストに対して自分たちが蚊帳の外にされている事がビトロとしては不愉快他ならない。戦線を離脱する事を優先としたブレスト目掛け、デモニカ・ブラスターを構えようとした途端、イリーガストを狙い撃つようにミサイルが降り注がれ、


『私がいる事を忘れていないだろうな?』

『ここは僕が引き受けるから! 出来るだけ早く戻ってきてほしいけど!!』

『もちろんだ、コンバージョン出来るようには踏みとどまってくれ!』


 ブレストと入れ替わる様にして、ヴィータストのバックパックからはミサイルが撃ちだされていく。デリトロス・リボルバーで撃ちだして迎撃していくイリーガストだが、胸部の射出口を潰すように、バイト・クローからのビームマシンガンが斉射される。ブレストから直ぐに乗り換える事もあってか、玲也はウイング・シーカーをパージさせてイリーガストの足止めに回していたのだ。


「ったく、おめぇらに助けられちまうとは……この俺もヤキが回って」

「アンドリュー、行こう! ステファーも、シーンも行くから!!」


 教え子たちのアシストに助けられた――アンドリューが少し感慨深く述べていた所、ステファーが自らの意志で立ち上がる。普段のマイペースでつかみどころのない彼女だったものの、コントローラーを再び手に取るまでの彼女の表情は凛とした物に一瞬切り替わったように、彼の目には映り。


「そっかそっか、おめぇもプレイヤーだっての忘れてたぜ」

「はぁ!? アンドリューさん、あんたって人は一体」

「そこで間に受けるんじゃねぇよ。面白みもねぇ」

「お、面白みがない……」


 眼を細めながらアンドリューが述べた。ステファーの心境に今確かな変化が生じているのだと。ただ彼の口ぶりから自分の真意が見えてないのか、シーンだけは妙に突っ込むものの、自滅していた所、


「ロスにぃでも片づけるぞ! いいかぁ!!」

「は、はい……!!」

「ステファーは生きるんだ! アラにいや玲也がいる所で生きるんだ!!」

「おっと、俺もいるの忘れんな……」


 シーンを気迫で黙らせたのと別に、ステファーは死に急ぐのではなく、生きると決心した。彼女が戦いへ赴く者としての心構えを見せつけている事に、アンドリューが安堵しつつあったものの、自分のコンソールパネルに何らかの通信が入っており、


「どっから通信が……シーカーを飛ばさないと」

「それは後だ! フォーマッツを潰すのに専念しろ!!」

「後回しって……大丈夫ですか?」

「ブレストがやってるからなんとかならぁ、ぶっこんでけ!!」


 出元がつかめない通信に対し、シーンが探りを入れようとした所咄嗟に後回しだと促す。その意味をよく理解しておらず、彼に聞き返そうとするも直ぐにステファーの方へ話を逸らす――多少彼が苦笑しかけていた事を誰も知る由はないのだが、


「プラズマ・フォースで……!」

「パルサー・インパルスを合わせたらなぁ!!」


 ユーストが後方へとプラズマ・フォースを展開する――相手を巻き込む目的ではなく、渦を生成する事でブースターとしてユースト自身の最高速度を引き上げる為に駆使していた。巨大なフォーマッツの心の臓を撃ち抜くように右ひざを突き上げると共に、



「「ディヴァイディン・ブレイカァァァァァァァァッ!!」」

『……!!』


 すかさず、パルサー・インパルスを全体重の質量を浴びせる膝蹴りと共に、零距離で浴びせにかかる――アンドリュー曰く名付けて、ディヴァイディン・ブレイカー。ハッキングによる電子戦を主体としたユーストが叩きだした渾身の一撃と共に、プラズマ・フォースが設けられた頭部のレドームごと前方へ展開して直ぐに場を離れると共に、


「やったか……って、あんたって人は何勝手に技つけてるんですか……」

「まぁ、勢い余っちまったけど……どうだ」


 ブレストの電次元フレアーにより、既にダメージが蓄積されていた事もあったものの、ユーストの一撃が目の前の軍事衛星を、バグロイヤーに堕ちたロスティの亡霊を沈黙させた。アンドリューは消えゆくフォーマッツと別に顔を横に向ければ、


「ロスにい、ごめんよ、ごめんなぁ……」


 コントローラーを手にしてはいたものの、ステファーは今、顔を真上に挙げていた。ただ彼女の足元に水滴らしい滴が零れては、無重力のコクピットは泡のように弾んでいたが、


「えっ! ちょっとまだ反応あるんですけど!?」

「……何!? フォーマッツを堕としたってぇのによ!!」


 余韻に浸る間もなくして、シーンが信じがたい事態に直面していると声を上げた。フォーマッツの爆炎からしても、自分たちが生成するハードウェーザーと同じエネルギー反応を察知していたのだ。宇宙に溶け込むように紫焔色のフレームが生成される中で、


「これが、本当の使命……バグロイドでハードウェーザーに敵わないなら」


 ファジーの体から禍々しい光が発せられると共に、パイロットスーツがかまいたちに遭ったかのように次々と引き裂かれていく。バグロイドの設計に関わっていた彼女として、自分が設計した面々が悉くハードウェーザーに敗れ、技術系統からして敵わないジレンマに直面した身として少し複雑だが、


「このバグロイドはハードウェーザーと同じ……いや」


 彼女の体からスーツが引き裂かれていくと共に、素肌の上に漆黒のレオタードで身を包んでいた。ニア達のハドロイドスーツと大差がない外観ながら、首元のタグの代わりに額が紫色に点滅する。同時に彼女の体が装甲に包まれていくと共に、


「まじかよ! またハードウェーザーが出てきたとかないだろ!!」

「ちと読めねぇことしやがったな……」

「だったらぶっ潰してやる! ロスにいを踏みにじるだけで済まないなら!!」

「だから待て! 無茶しすぎちまったからよ!!」


 ユーストの中でシーンたちは驚愕を禁じ得なかった――フォーマッツに代わる様に展開された機体は8本のサブアームを放射線状に設けられ、先端にはバインダーとしての役割を果たすシールドが兼ねられていた。

 フォーマッツ同様人型から離れた異形のバグロイドだろうとも、ステファーは叩きのめすと意気込んでいたものの、アンドリューでさえ今は困難に等しいと判断を下さざるを得なかった。それも彼自身のハードウェーザーではない上、エネルギー残量は半分を切り、電次元ジャンプでの帰還が封じられてしまうリスクもある――自分たちだけならまだしも、オーストラリア代表を同乗しているならなおの事であり、


『バグアシュラー……私がバグロイドとして討つだけよ!!』


 あくまで、ハードウェーザーではなくバグロイドだと前置きを置いたのは、技術者としてファジーのプライドも微かに見え隠れしている。だが自分に与えられた力を活かさんとバグアシュラーが切り込みを賭ける――まるで風車のようにサブアームを展開、回転させながら。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「バグアシュラーを倒さない限り、スフィンストは、イチが救い出される事はない! 俺達の前に立ちはだかったジャレコフさんの秘密は何か……そしてこの戦いの最中、ゼルガ達が遂に乗り込む。ゼルガ・サータ、貴方は一体何を考えている……! 次回、ハードウェーザー「弟よ! 明日を信じてリンが吼えた」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」

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