17-4 荒療治! 心の傷よ、戦火に消えろ!!
――時は少し遡る。玲也たちが宮島へ向かった直後、ガードベルト・ステーション近辺にてフォーマッツの点検作業が行われていた。いくつかのセクションに区分された状態でモンロー級に積載され、PARオーストラリア支部から打ち上げられたパーツは彼ら隊員の手で完成へと至った
『これで各セクションの組み立て、点検は完了したとの事だが……』
『ただ、マニュアル通りくみ上げたとしてもだな……』
バーチュアスが離れた後も国連が主導となって作業が進められたのか、その完成は予定よりも早かった。最もフォーマッツを大気圏内外の境界線ともいえるガードベルト付近で組み立てた事情は、部品の輸送より組立を優先した為。
それと別に、PARの隊員が旧式のセカンド・バディを運用していた。組立や運搬に使うためとも思われるが、サード・バディがバグロイドの偽装に使われていた事なり、バグロイヤーと関りのあったバーチュアスの影響を払拭したいなりの上層部の意向が反映されていた為――フォーマッツ計画がバーチュアスなり、ハードウェーザーなりの影響を払拭する意図があっての事だ。
『正直PARと比べ物にならない。向こうの次元ならまだ理解は行くとしてだ』
『多分あの……天羽院が電次元の使節として、脱出したとかも関係ありますかね、隊長』
『それは当てはまるかもしれん。しかし同じ次元のハードウェーザーの協力は拒んだにもかかわらずな……』
フォーマッツの外観は白と黒のツートンカラーで纏められ、四角形状の本体の上には計3問の砲門が備えられている。まるで巨大な自走砲が宇宙にそびえる立つ少し異様な光景ではあり、電次元側の技術によって開発されたとしてもどことなく頷けると空気がPAR隊員たちの間では漂っていた。
『このフォーマッツを適した場所へ動かすにも意図でがいる……サハラ級だな』
『陸上艇が宇宙を飛んでいるのも変な話ですけどね』
『……少し、ハッチ点検します』
陸上艇が電次元の技術にかかかれば宇宙を飛ぶこともできる。戦艦大和が宇宙を飛ぶ夢が果たされた次は、五式自走砲が宇宙を飛ぶ幻想も現実になる――隊員たちがひと段落就いて談笑する中、1機のセカンド・バディが点検と称し、本体底部のハッチが開くとともに乗り込む。
『ライトウェーザーの母艦代わりにもなるとなればなぁ……いや、もう既に点検は終わったよな?』
『えぇ、ですから今もぬけの柄の筈ですから、ハッチがこう内部の操縦で開くということは……?』
談笑するムードが一転し始めた時は既に遅かった。艦橋のライトが入るとともにフォーマッツが彼らの目の前で起動を始めた。点検目的で先ほどまで電源を入れていたので、さほどおかしい事ではないと捉えようと目の前の隊員たちがポジティブに考えるのであったが、
『なんだこいつ……ぐはぁ!!』
その時、フォーマッツの本体から外敵から身を守る様にして紫色のフィールドが生成される。隊員たちが委縮した様子からすると、彼ら自身知らされなかったフォーマッツの姿だろう。実際直後に本体の砲門から光弾が次々と放たれていくが――内側からフィールドをすり抜けるようにしてセカンド・バディ目掛け着弾していく。PAR及び地球側の技術で再現できるものではない技術であり、呆然としている間を突くように隊長機は堕とされた。
『隊長……各自攻撃、撃墜! いや、せめて主砲だけは!!』
隊長機を喪いながらも、セカンド・バディはすぐさまガーディ・ライフルで主砲目掛けて一斉に狙い撃つ。ただバグロイヤーとの戦闘において既に旧式、それもおそらくこの作業用に駆り出された面々では太刀打ちする事は困難に等しい。
『見ててください、セイン様……ここで私が』
『こっちに向かって撃ってくる……止めるんだ、なんとしても……!!!』
セカンド・バディの数機が主砲目掛けて、捨て身同然の特攻を仕掛けるのであったが――彼らの抵抗を嘲笑うように鬼火を地上目掛けて。一気に解き放った。セカンド・バディが一気に呑み込まれては還る事はなく、ガードベルトの展開するバリアーを貫通した上で、その光の柱は地上へと降り立ち、巨大な矢のように突き刺さっていった。
『まさか私が最初になるとは思いませんでしたが……』
フォーマッツの内部へと乗り込むと共に、制御権を掌握したパイロットこそファジー――バグロイヤー側から成り済ましていたのはまだしも、バグロイヤー前線のブレーンであり、頭脳労働がメインとなる彼女が前線へと駆り出される事は、それまででみられない事例でもあった。
ただ、この畑違いの任務を命じられた事に対して、彼女は異論を唱えるどころかいつもと異なり従順な態度を示す。セインという上司らしき人物へ勝利を約束すると共に、
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「ったく! だからあんな大砲で都合よく戦いは終わんないとしてもだなー!!」
「よりによってバグロイヤーに奪われて、ぶっ放すとかねぇよな!!」
アンドリューとリタもまた、ドラグーンの個室から飛び出していった。やはりフォーマッツ計画に懐疑的な二人であったが、逆に地球目掛けて撃たれたとなれば苛立ちと憤りが頭の中でまぜこぜになる。
そんなバグロイヤーに奪取されたフォーマッツを阻止する為、国連から急遽ハードウェーザー出撃の要請が来たことに対しても、少し便利屋のように自分たちが扱われているのではと頭に来ていた。
『アンドリュー君! ディエスト、レスリストとの連携で行くとの事だけど大丈夫だね!』
「問題ないですよ! バックス、フォワードの両方対応できるようにはしときますよ!」
「そうなると、ブラスターとブリッツだなー」
「ブラスターは言うまでもねぇが、フォワードに出るなら思いっきり叩きこまなきゃなぁ!」
この面子での出撃は事前に打ち合わせもなく即席で各々が出動すると決めたものではある。だがカプリア、マーベルの二人が同期の古参であり、彼らのハードウェーザーも含めてどのように立ち回り、自分がその中でどう動くべきかもすぐさま思い浮かぶ。
その中で、ショートレンジの火力が不足している事が穴だと見なしたうえで、アンドリューは高機動型ブリッツで一気に勝負をかける目論見だった。
「あぁいうことやられたら、とっとと蹴りつけねぇとな!」
「アンドリューさん!」
「何だおめぇは! 今急いでるのわかるだろ!」
「だから、俺はシーン! 覚えてくれよ!!」
頭の中でどう動くべきか――自分たちの戦術をトレースして、アンドリュー達がアラート・ルームへ向かった。その直前にメディカル・ルームから一人の影が飛び込んできた。ただ、見覚えがない――厳密にいえばどうも思い出せない故か思わず声を荒げたら、その相手から覚えられていない事で少しキレ気味に返された。
「そういうこと言ってる場合じゃねぇだろ0! 用がねぇなら悪いけどすっこんでくれ!」
「ロスにい! ロスにいが暴れてるの!!」
「ロスにい? 一体何の事だー?」
「やめてロスにい! 酷いことしないで!!」
シーンはともかく、目の前でステファーが頭を抱えながら既にいない筈のロスティを恐れ、もがき苦しんでいた。二人の目の前で転がるように倒れる彼女へ、呆然とするアンドリュー達ではあったが、
「アンドリュー、お願いだけどユーストで出てくれないかしら?」
「ユーストってこいつの……ってあのねぇ、冗談言ってる場合じゃ!」
「冗談じゃないわよ! あのフォーマッツがロスティ、ステファーちゃんのお兄さんが打ち上げたものだからだわよ!!」
「……そのステファーに荒療治って訳ですか」
医者としてジョイは少し辛辣に、心を鬼にした上で非情な荒療治に挑むとアンドリューへ告げた。本来ユーストを電装するとしても、ただでさえ情緒不安定であり、ましてフォーマッツをロスティの化身として見なしているような彼女に動かされるのではまともに戦えそうもない。玲也たちがまだ宮島から戻るには時間がかかる為、アンドリューしか今、ドラグーンで手が空いているプレイヤーがいないのだ。
「しかし、あんたもおっかねぇな……あの化け物にユーストでぶっつけ本番で行けって」
「全米№1ゲーマーで花形プレイヤーの貴方だから、私は信じてるのよ、医者としてね」
「医者として……ってあんたなぁ、俺は分かってねぇお偉いさんが戦いに口出すのは嫌いだけどよ」
「医者として貴方達プレイヤーを診てきて、戦いに送り出してる私よ? ステファーちゃんはあの戦いで吹っ切らないと断ち切れないのよ!」
「あのフォーマッツが、ステファーの心に棲みつく病気だって先生は仰りたいんだな?」
ジョイは医者の立場であるが、プレイヤーを診ていく中で戦いを否定する事もなく、彼らが戦いの道に赴くことを見守り続けた。敢えてアンドリューは戦いの最前線を分かっていないお偉いさんだと、戦いではお荷物のように彼女を皮肉ったが、ジョイなりの真意を知った時、その態度を直ぐ軟化させた上で、もがき苦しむステファーの元にかがむと、
「なんだ、結局あたいは留守番かー?」
「万が一って、いや間違いなくあっからスタンバってくれ。とりあえず……ってどうするんだよ?」
「ちょっと待ってもらえません? ステファー、ポリスター出して! とにかく俺を信じて!」
「うぅ、ロスにい、ロスにいロスにい……」
リタを宥めるのはまだしも、ステファーに対しては初対面からの面識が浅い上、彼女の独特すぎる性格もあってか流石にアンドリューでも扱いあぐねていた。パートナーのシーンなら詳しいと信じ彼に意見を仰ぐ。
するとシーンはポリスターを持たせるようステファーに伝え、苦しみながら彼女がホルスターからポリスターを取り出した瞬間、
「そこで何突っ立ってるんだよ! とっととロスにいを止めに行くぜ!!」
「……なるほど、コントローラーどころかポリスター握ってもこうなるって訳か」
「テレビやエアコンのリモコンでもこうだから、絶対彼女に渡さないでください! 頼みますよ!!」
「シーン! ボサボサ突っ立ってんじゃねぇ!!」
コントローラーの類を手にした瞬間、ステファーは二重人格者として荒々しい人格へと切り替わる。それでもロスティへの想いは根付いていた様子だが、今の彼女はフォーマッツを止める行為を兄を救う事と捉えた。一転して好戦的な彼女はさっそくアラート・ルームへ飛び込んでいき、アンドリューとシーンも直ぐ後を追う。
「将軍にはちゃんと私が言っとくから! アンドリューの責任にはしないからね!!」
「頼んだえ本当! 俺は便利屋じゃないですからね!!」
「けど人が嫌がる仕事でも、やらにゃならないのがあたいらだからなー」
「つれぇなつれぇなぁ! まとめ役はつれぇよな!!」
ジョイが独断でステファーを出撃させる事に責任を取る、何としても事後でも承諾を得る――その姿勢は一応、ドラグーンのハードウェーザーをまとめる立場のアンドリューにとってせめてもの救いだった。ただ、口で辛い辛いとは言いつつ、見送るパートナーに対して、彼はいつも通り自信ありげな笑みを振り向きざまに見せつけていた。
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