17-2 守るべき故、誇り高く
「バーチュアスグループは経営破綻、連鎖するようにタカトク・ローバー社も倒産」
「これで、ハードウェーザーが世間をにぎわせる事もなくなったんじゃろかて」
――ドラグーン・フォートレスのブリッジにて。エスニック達は電装マシン戦隊を取り巻く周辺が急変しつつあることを談義している最中。バーチュアスグループがバグロイドを開発して、マッチポンプを展開していたと世間に告発された事が、世間からの信頼を急速に失墜させていった。
さらに、天羽院がゲンブ・フォートレスから消息を絶った事も大きな損失であった。バーチュアスを一大グループ企業として成長させ、ハードウェーザーのスポンサー筆頭として名を連ねる。その男が表舞台から姿を消した為、バーチュアスグループに舵取り出来る人物が不在となったのだ。
「けど、元々ハドロイドがあのオンラインゲームのデータから反映されていったとなりますと、もう現れないのではと……」
「ブルート、新しいハードウェーザーがなくたって俺達だけで戦うしかないじゃん!」
「いや、それもまた違うけどな」
ハードウェーザーのオンラインゲームが閉鎖された事、ブルートにとって今後の戦いへ支障を来すのではと不安を抱いていた。今更悩んでもしょうがないとロメロは明るい姿勢を崩さなかったが、テッドはまた今後の展望が異なる者であるとさりげなく述べる。
「あの眼鏡が言ってたけど、。電次元で俺たちと関係なしにハドロイドが製造されているって」
「もうなりふり構わない状況だからね。電次元に送られたデータは他にもある限り、新たなハードウェーザーのデータが組まれてもおかしくない」
「じゃがエスニック君。電次元へまた向かう必要があるんじゃろ? 一体どうやってじゃのぅ」
「それもそうだ。まだ可能性はあるとしても、私たちの元に届くかどうかは……輪kらないね」
オンラインゲームが閉鎖された後も、それまでにそのデータをもとにハードウェーザーが電次元側で組まれ、ハドロイドたちがゲノムの地で眠りについている可能性がある。ただその為に有効な術がない事もまた現実であり。
「だから国連はフォーマッツ計画を引き継いだんじゃないですかね。あいつらのせいで俺らの信用もがた落ちですし」
「手厳しい事をまた言うけど、テッド君の言う通りだね……」
テッドが触れる通り、バーチュアスが主導となって打ち上げた大型レーザー砲“フォーマッツ”は計画が頓挫する事もなく国連が引き継いだ。現在、ジャールとソロに駐留するPARの部隊がフォーマッツを完成させて、実際バグロイヤーの本拠地に向けてぶち込むものであったが、
「バグロイヤーとの戦いは人類の手でカタをつける……そういえば見栄えはするがのぉ」
「やっぱ、美味しい所は取りたいんじゃないんですか?」
「もう、ハードウェーザーへの疑念も強まってしまったからね。でもあのレーザー砲台だけで本拠地を狙えばどうにかなるってのはね……」
ブレーンとエルが触れる通り、ハードウェーザーへの不信感が世間で高まっている事と別に、各々の手柄と利益の為、国連側は電装マシン戦隊にとってかわろうとしている。ハードウェーザーに依存しない者たちの手柄だと世間へアピールする為に。
「確か本拠地を突き止める為、ハードウェーザーをレーダー代わりに使うつもりでしたっけ」
「何それ! 結局ハードウェーザーに頼ってるじゃない!!」
「だってほら、ロスティって奴が打ち上げたとかじゃん」
「そうか! ステファーちゃんがロスティの妹じゃん!!」
テッドが収集した情報を基に触れるや否や、クリスが思わず不満を口にしする。フォーマッツを打ち上げた人物から関連性を考えれば早いと彼が言う者の、ロメロが大声で自分の脳裏のひらめきを口にする――ただ、周りの空気が瞬く間にして妙なものとなっており、
「ごめん……じゃん」
「それもそうじゃが、桑畑君と違ってステファー君はのぉ……」
「電装マシン戦隊への配属も納得してくれるか。これはちょっとわからないね……」
ロメロが流石に空気を読めていなかったと気づいて謝罪する中、ステファー達がオーストラリア代表として、電装マシン戦隊への所属を受け入れてくれるかの問題を抱えていた。
いずれにせよ、兄を喪った上、バーチュアスのスキャンダルの渦中にいたロスティの身内として、世間からの迫害に晒される危険性が高い。彼女は療養の必要性もあり、メディカル・ルームへ保護されていた所、
『将軍、アランさんとシーンちゃんが来たわよ?』
「おっと、この時間か……博士、少しの間お願いしますよ」
ステファーがドラグーンの保護下に置かれていた事もあり、アランはシーンと共にドラグーンへ乗り込んだ。ジョイからの報告を受けるや否や、エスニックはブリッジから起つ。彼女からすれば唯一の身内となるアランと話し合う必要性があるとみた為だが、
「アランって確かPARだし、マジェスティック・コンバッツに噛んでたやつだよね?」
「ステファーちゃん、ロスティさんだけでなくアランさんも慕っていたようで」
「正直猶更わからないですね……ハードウェーザーの頃嫌ってるみたいですし」
エスニックが発った直後、ブリッジクルーの間でアランの事を触れていった。クリスとエルが触れる通り彼がPARの人間としてハードウェーザーに懐疑的であり、また次兄としてステファーに慕われている人物。そうならば、電装マシン戦隊へ妹を預けることなど、猶更困難ではないかとのブルートが触れた途端、
「あいつを色眼鏡で見すぎだ。俺は信じてる」
「そうじゃのぉ、少なくとも色眼鏡は……ってラディ君!」
グラサンの奥の目を光らせながら、飄々と一人の男――ラディがブリッジに姿を見せる。彼の到着に何故かブレーンが不意を突かれたように驚いていたが、
「何故ここにいるんじゃ! 確か玲也君達を監視するとかじゃないのかい!?」
「流石に面倒を見る役ばかりは飽きましたよ、息抜きとしてトムとルリ―でいいでしょう」
「それはともかく、アランさんを信じていいのですか? こうもいいたくはないのですが……」
ブルートが少し恐る恐るとラディへ尋ねた。彼はただ目元が少し厳しくなるも、それ以外感情を表に出す事はない上で、
「俺もハードウェーザーも好かないが、PARもろくでもない弱腰ばかりとみていたがな……あいつは意外と骨はあるとみてるがな」
「ラディさんがそこまで褒めてる……珍しくない?」
「好き嫌いが褒めるか貶すかに繋がらないからな、何度かあいつを見てきてそう感じたのはある」
「まぁ、それでいいじゃん! 考え過ぎたら調子でないじゃんからよ」
何度かアランとは共闘する事があった上で、彼の腕と気概はまんざらでもない。それなりに骨がある。そのようにこの男は彼に対して見なしていた、どことなく声のオクターブが高くなっているとクルーの何人かはこの強面の男が今妙に機嫌が良いのだと察していた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「いやぁ! ロスにい死んでない、ロスにいから離れたくない!!」
「ステファー、落ちつけ! シーンしっかり押さえてろ!!」
「分かってます! ドラグーンに迷惑が掛かる事もだけど、俺とアランさんは裏切らないから!」
「ロスにい、ロスにいがいないよー! 夢でいたのに嫌―!!」
メディカル・ルームへエスニックが立ち入った時――既にステファーは半狂乱して喚き続けていた。シーンとアランという身近な二人が見舞いに現れようとも、彼女は既にいない長兄を求め続けており、二人ですら拒絶するようにベッドの上で暴れ続けていた。
「シーンちゃん、悪いけどちょっと左手しっかり押さえてくれない!」
「は、はい! ステファーごめん痛いと思うけど……」
「いやぁ! シーン辞めて!! ステファー、ロスにいの元行……」
ステファーを見かねたか、或いは案じてか。ジョイが真剣な顔つきで彼女の左腕へと注射を刺す。早い話一種の麻酔であり、狂うように、暴れて喚いていた彼女は瞬時に体の力が抜けて、ベッドに伏せた。
「ジョイさん、状況はどうです……」
「麻酔が切れる前も同じだったわ……怪我よりはるかに問題なのは確かよ」
エスニックへと、ステファーの容態を報告するジョイであったが、いつものような軽くお茶らけた雰囲気は見られない。医者として真剣に彼が診た結果、バーチュアスの火災に巻き込まれても軽傷で済んだものの、目の前でロスティが即死した光景を目にした為、心的外傷が深刻であり、
「このまま麻酔を何度も打って大人しくさせるにも限度があるし、そのロスティってお兄さんを振り切る術を考えないとね……」
「やはりね、アラン君とそれに……」
「すみません、シーンです」
「そうシーン君。もし良かったら話をいくつかいいかな」
ジョイを含めた4人がカウンセリング用のテーブルへと腰をかける。それぞれがステファーに対して気がかりな様子を示しながらも、エスニックはなるべく気持ちを穏やかにして向き合わなければならないと、肩の力を抜きつつ、
「まずステファー君だが、ちょっとウェリントンの病院で受け入れてもらえるか確認は取るつもりだ。この症状が長引くとな……」
「すみません、自業自得ですが俺達に帰る場所がありませんから」
「それは構わないよ。しかし自業自得とはどういう事かなシーン君?」
シーンたちに帰る場所がない――マジェスティック・コンバッツが実質解散し、ゲンブ・フォートレスが接収された関係も確かにある。だがそれ以上にロスティがバーチュアスのスキャンダルの首謀者であると報道された事により、彼の身内がシドニーでの居場所を失ってしまった為が大きく。
「俺はもうPARの人間じゃねぇですから……兄貴を止めれなかった俺っすから」
「俺も同罪ですよ。ステファーを考えると分かってても止めることが出来なかったんですから」
「ステファーちゃんの為に二人とも……少し泣かせる話ね」
ロスティのスキャンダルに巻き込まれる形で、アランもPARを追われた。彼がスキャンダルに関与していなくと、彼の身内との理由で、ライトウェーザー隊を率いる者だろうとも、PARからは保身のために切り捨てられてしまっており、
「責任は俺がとります! 俺がどう罰を受けても構わねぇですから、ステファーは穏便に頼みます!!」
「俺も同じです! もしステファーが吹っ切ってもう一度戦うなら俺も一緒に戦います!!」
「なるほどね……」
この仕打ちに対して、アランはやりきれない心境ではあった。それでも分が如何なる処罰を受けようとも、たった一人の妹としてステファーだけは守らねばならない覚悟を示しており、シーンが追従する。エスニックが少し目を閉じたのちに、
「ステファー君に対しては勿論、君たちにも穏便に接していきたいかな」」
「俺たちにもっすか?」
「ラディ君から君の事はよく聞いててね。私たちハードウェーザーの事は嫌っても、腕も気概もある男だから興味があるね」
「は、はは……」
エスニックは猶更彼ら3人へ穏便に接していく姿勢を示す。少し驚きのリアクションを取るアランに対し、ラディが彼を買っていた事を次々と述べていく――ただ、ハードウェーザーを率いる電装マシン戦隊の総司令官を前にして、自分がハードウェーザーへ反発し続けていた過去を触れられれば、その場で苦笑せざるを得ず、
「あんたを前に偉そうに言えたわけじゃないですけど、そりゃヒーローのように扱われてたのは気に食わなかったですよ。俺たちが世間にが軽く見られますし」
「ちょ、ちょっとアランさん! そこでぶちまけなくても!!」
「うるせぇ! 正直ステファーまでプレイヤーとかになるのは反対なの忘れたかよ!!」
アランとして、元々の一本気な性格もありエスニックを前にしても物おじせず、自分の胸の内を隠すことなくさらけ出す。シーンからここで自分たちの立場が危うくなるのではと諫められようともお構いなしに。
「ステファー君が前線に戦っていても、やはり気が気でなかったようだね」
「当たり前じゃないっすか! 俺は今までステファーを守るためにもこの道を選んだんですからね!!」
「アランさん……あっ、騒いですごめんなさい、もう少し静かに」
「大丈夫よ。麻酔が直ぐに切れる訳じゃないから」
兄としてステファーを守る――アランが戦いへの道を自ら選んだ事はその動機から来ていたかのよう。思わずヒートアップして彼が机を拳に打ち付けていたが隣に座っていたが、彼と初めてまともに接するエスニックやジョイも、また兄としての譲れぬ信念を把握することが出来た。
「ロスティ君も確かそうだったが……二人ともステファー君から慕われていたのは多分」
「親父が死んでからですよ。俺も兄貴もステファーを守らなきゃって思いましたからね……」
エスニックへ尋ねられれば、アランは自分たちの過去を触れた。元々彼らの父がバーチュアスのオーストラリア支社の重役であったものの、汚職の濡れ衣を着せされて失脚して自ら死を選んだ事が始まりであったとの事であり、妹の為に自分たちが自立して支えなければと誓ったものの、
「妹さんを守るため、いい話だと言いたいけど」
「そっから兄貴が道を踏み外していったのは確かです。親父は正直すぎたから陥れられたと力がいるって……俺に難しい事はよく分かんなかったっすけどね」
二人は妹を守るとの事で生き方が違った――アラン自身、兄程賢くはないと自嘲していたのだが、頭よりも力を選ぶことを彼が望み、PARのパイロットとしての道を歩んで今に至るのであると。その力はロスティが望んだ権力と異なる概念だとエスニックも捉えており、
「俺はバグロイヤーが現れたとかで、ステファーを奴らから守ることが出来ると思ったんです。兄貴の事も……弟として出しゃばりですかね」
「いや、ラディ君の言う通り君は素晴らしいよ。守ろうとするがために君は誇り高い人間だともね」
「買いかぶりが過ぎますよ。俺は未だハードウェーザーの事を」
「ハードウェーザーを嫌うかどうかは別の話、関係なしに君は立派だよ」
エスニックの内心としては、PARから追われたこのアランも出来る事ならば電装マシン戦隊の一員として共に手を取り合っていきたいと思いつつあった。プライドが高く少し粗野な面もある、見た目からしてガタイの良い武闘派一辺倒な彼だが、その内心には長年誰かを守り、救うためにその力を振るおうとする意志の強さを感じ取れた。例えプレイヤーでないとしても、ラディの人物評を素直に信じてよいと思わせる男であった。
「私はぜひ君を迎え入れたいが……選ぶのは君次第だ。ハードウェーザーと共に戦う事について思うところがあるかもしれないかねな」
「そこまで俺にするんですか? あんたがおっしゃる通り俺もまだ認めきれてませんが」
「そこは君の好きにしてほしいよ。ラディ君とも話あってほしいよ」
エスニックが席を立つとジョイに手を添え、顔を示し合わせる。互いにステファーを救う術を考えていかなければならないと。その上で部屋を後にした後、
「やっぱり俺は、このドラグーンで戦いたいですけど……アランさんはどうします?」
「それはどっちみちステファーの事が片付いてたからだ! それが終わらなきゃ戦えねぇよ!」
少しシーンに当たるようにアランは、自分の身の振り方はステファーの問題が済んでからだ主張した。内心で彼がどうあるべきか自分の道を彷徨う本心を隠しながら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます