16-5 行け、クロスト! クリスタルコフィンに勝負を賭けて!!

「左舷に被弾! 消火作業急いで!!」

「こうも予定より早く来ますとはね……アタリストはどうですか?」


 ――アタリストとザービストが応戦する傍ら、ゲンブ・フォートレスもまた砲火に晒されていた。ロスティの意向でユーストらオーストラリア代表の不在の中、フラッグ隊のスパイ・シーズが2機のフルーティーを相手に応戦するものの、戦局は膠着したままであった。天羽院がアタリストの様子を尋ねようとした所、


「アタリストが圧されてます……ええっ、何ですかこれ!!」

「今は戦闘中だって……天羽院さん!?」


 ブリッジがより慌ただしくなろうとしていたのは、アタリストが圧されていた――かのように見えていた。ジャミングされたかのように割り込んだ映像は、いわばバーチュアスの地下で開発されつつあったバグロイドの映像。すなわちリークされたスキャンダルものの映像が何故かこのフォートレスにも流されていたのである。思わずクルーがバグロイドと共にしていた彼の姿を目にして、今傍にいる彼の姿を再度振り向くと共に、


「どうやら大事になってきましたね。私からすればちょうどよいタイミングですが」

「あっ、天羽院さん! どこへ行かれるのですか!!」

「言うとしましたら、バグロイヤーですかね」


 ブリッジから姿を消した天羽院は艦体後部に位置する転送室へと一人急ぐ。早い話敵前逃亡ではないかと発見したクルーに咎められるものの、彼は一切のごまかしも見せることなく、まるで開き直るように逃亡先まで口に出していた。


「バグロイヤー!? ちょっと天羽院さん……おわっ!!」


 転送室の通路までに仕掛けられた時限爆弾を置き土産として残していた。示し合わせたかのように天羽根が転送装置で姿を消すとすぐさま起爆し、転送室から刻々と火の手が上がっていた。


「消火作業まだか! 無事では済まな……おわっ!」

「天羽院さんがバグロイヤーな訳ない、何かの間違いだ!!」

「だとしたら俺たちはどうすれば、このまま死ぬだけは!!」


 ゲンブへ攻撃の手が強まりつつあるだけでなく、天羽院の内部への破壊工作もまた周到なものであった。電装マシン戦隊と違いブリッジクルーの練度が今一つな事もあってか、完全に彼らは後手後手に回る事を余儀なくされた。それも天羽院があまりにも唐突に裏切りを宣言したためによる精神的ショックも大きいのだが、


「やれやれ、ここまで早くリークされるとは思いませんでしたが、備えあれば憂いなしですね」


 天羽院が裏切りを起こしたのは前々から計画しての事であった。自分に関わるスキャンダルがこうも早く暴かれた事だけは予想だにしていないと言いながらも、彼は涼しい顔をして転送室へと我が身を置くと共に、


「これで時間稼ぎに放ったでしょう。まだまだやるべきことがありますがね」


 天羽院は静かにほくそ笑みながら、我が身をフォートレスから消していった――自分がいるべきバグロイヤーの元で、今後猶更自分は暗躍していくのだと言わんばかりに。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『なんなのよ!あたし達だけで相手するってのに』

『駄目だよベリー、ここで手を出したらゼルガ様が……』

『わかってる、分かってるけどさぁ!』


 リキャストが電装され、ザービスト相手に応戦していた頃、パッション隊の2機はゲンブへの攻撃に回っていた。彼女たちへの援軍として二番隊から増援が派遣され、彼らと共闘しているものの――実際の所、ベリーとパインからすれば二番隊の加勢は余計な事でしかなかった。


『へっ、お嬢ちゃん達みたいなお上品な戦いで堕とせる訳ないだろ!?』

 

 バグレラ2機を従える形で、二番隊のバグロックが先陣を切る――両腕に設けられたバックラーと別に、二刀流の構えでフラッグタイ相手に肉壁する。銀のボディが部分的に赤みがかかっている点も含め、隊長機として特殊なカスタムが施されている。

 実際、双方のバックラーが回転するや否や、自分の元へと照準を定められたミサイルが一人で二軌道を逸らしていく。イレイザー・ウェーブのようにジャミングがかけられていたようだが、


『何でだよ! 何であたら……!!』


 この事態にスパイ・シーズのパイロットが驚愕するものの、彼へ答えを見出させるまでの時間はなかった。それも両手にしたデリトロス・ベールが振り落とされ一刀両断に機体ごと分断されてしまったのだから。このバグロックがフラッグ隊を駆逐している間、従うバグレラがゲンブ目掛けて、デリトロス・バズーカを延々と放ち続けていた。


『ジェフ部隊長! あいつら勝手に逃げていきますぜ!!』

『ほっときな! 俺達が活躍して減る者がないんだよ!!』


 パッション隊の面々が戦線を離脱していくものが、バグロックを駆るジェフ・ラトーという男は意に介さなかった。これもゼルガの方針の元、あくまでゲンブを退ける程度のスタンスで応戦していた彼女たちに対し、二番隊はこのゲンブを自分たちの手柄にせんとする為、苛烈な攻撃を畳みかけていた。彼らからすれば一番隊は元々ソリが合わない面々との事もあり、手柄を横取りされるよりはマシだと戦線離脱を捉えていたのだが、


『アルファさんがハードウェーザーに走ってほったらかしだけどな、まぁ俺のような凄腕じゃなきゃ扱い切れないんだよなぁ!!』


 ジェフが触れる通り、このバグロックは元々アルファの専用機として彼の手でカスタムが施された。厳密にはアルファ・カスタムと言うべきだが彼の関心は、自分が手掛けたバグロイドよりも、ハードウェーザー・イリーガストに目移りした結果自分の命まで落とす事となった。この乗り手が不在となったバグロックをジェフ・カスタムとして彼が駆る――アルファ以上に戦果を挙げられると豪語すると、


『ですが我々だけで電装艦が堕とせるとは……』

『ここで弱気になってどうるすんだよ! もっと近づいてやるよ、おら……!』


 1機のバグレラからは、自分たち二番隊が深追いしているのではと懸念しているが、もう1機はジェフに追随するように勢いをつける。ゲンブに致命的な一撃を浴びせんと間合いを詰めた所、目の前に青色のフレームが瞬時に生成され、


『やっぱり! ハードウェーザーだ……!!』

『ここにきて……ぬわぁ!!』


 深追いに気づいて歩みを止めようとしたが――既に手遅れだった。電装されたマリンブルーのハードウェーザーは、瞬く間に蛇腹状のアームで勢いよく殴りつけ、マニュピレーターからのバスター・ショットを一斉に浴びせる。念には念を入れて動きを封じられた相手へ目掛け、アビスモルが着弾すれば、勢いよく爆発を引き起こして果てた。


「貴方たち、身の程を弁えてません事ね」

『エクスー、お前らもまともに動けないはずだろー?』

「すみません、あのハードウェーザーを退かせるために少しだけ時間を……」

『わーってらぁ! 暴れ足らねぇから、ここは任せな!!』


 電装されたクロストがトライ・シーカーを瞬く間にばら撒いてゼット・フィールドを生成する。ゲンブを守る壁のように展開する傍ら、イーテストが真っ先に切り込みを賭けていく。セカンド・シーカーから放つミサイルがジェフ機に向かって飛ぶものの――両手首のレド・クラッシュが回転すれば軌道は逸れて着弾する事はなかった。


『どうだ! ハードウェーザーでも効かないって事が』

『わーったから、こうしてやらぁ!!』


 レド・クラッシュの効果を見せつけると共にジェフが高笑いするも、目の前のイーテストが休む間もなくクロス・ベールを両腕にして切り込んでいく。ミサイル類の誘導兵器が無力化されるなら、白兵戦になり得るとは彼も想像がついている。だからこそデリトロス・ベールを打ち付ける。同じビーム刃を帯びた実体刃がつばぜり合いを起こしていた所、


『ったく、バグロイド相手にするのもロートルじゃ厳しいのかなぁ!』

『おい! あたいをポンコツみたいに言うとどうなるかだなー』

『わーってらぁ、ちっとばかし待ってろよ!』


 ジェフ機を相手にイーテストが一進一退――第1世代故に優位性がないのだとアンドリューがぼやき、リタから突っ込まれている。その直後にイーテストの姿勢が後ろへとよろけた瞬間――両腰のハードポイントに設けられた拳銃が一人でに照準を定め、


『へっ……!?』

『どうしたー!? 逃げようとしても無駄だぞー』


 第1世代だろうとも、イーテストは攻撃面での底上げがなされている。グレーテスト・マグナムがイーテストの奥の手であり、至近距離からのビーム砲撃となれば、このカスタム機でも耐えうる事は出来ない。

思わずジェフが呆然とした声をあげながらも、レド・クラッシュからワイヤーを展開して、距離を取ろうとした時は既に遅し――グレーテスト・バイスによってジェフ機の両脚は掴まれており、


『バッド・ラック……!!』


 二丁のマグナムが同時に火を噴いた途端、ジェフがアルファ以上に使いこなすと豪語したカスタム機はあっけなく機能を止め、両脚の拘束が解き放たれた直後に爆発を引き起こした。あっけなく指揮官が討たれ二番隊が総崩れになると共に、


「さすがアンドリューさんだ、本当に俺が動く間もない」

「玲也様! これで私たちだけですわ!!」

「よし……俺達も俺達で撃って出るぞ!!」


 アンドリューの腕を称賛する玲也だが、自分たちが単にゲンブを守っているだけではない――エクスが報告した時、ちょうどリキャストの手でザービストが片足を喪いながら吹き飛ばされた。二人の間に十分な間合いが生じたと共に、ゼット・フィールドを再度展開しなおす。


『待ってください! エネルギー反応が……』

『何……』


 ザービストを追撃しようとした途端、ユカが自分たちの進撃を阻まんとするフィールドが存在する事に気づいた。第3世代の力で発動させたクロストのゼット・フィールドはデリトロス・ブライカーごと腕を焼き払うだけの出力を誇っており、


『もう逃げられません事……貴方だけでなく私たちもですけど!』


 同時に電次元ブリザードが照射されていった。リキャストだけではなく、ゼット・フィールドへ電次元兵器としての冷凍光線が照射された途端、極度の低温を前にしてフィールドそのものが決勝のように固形化されていく。この密閉されていく空間の中にはリキャストだけでなく、ブリザードそのものを浴びせるクロストもまた取り残されていたが、


『がきっちょ、相変わらず面白い手を考えるな―』

『まさか、バリアーを氷漬けにしちまうとは考えてもいなかったけどよ』

「言っときますけど、まだ奥の手があります! ここで道連れになるつもりはないですよ」

「……その方法が何かわかってますのが少し辛いですが」


 アンドリュー達が玲也の編み出した戦法を称賛する。ゼット・フィールドを防御目的ではなく、相手の動きを封じる術として使い、その上で電次元ブリザードをかけることによって、絶対零度に近い状態で巨大な氷塊を作り上げていく――やがて相手そのものも氷塊へと取り込んでいく事に術もなるのだ。 玲也が触れる通りクロストの場合道連れ前提の戦法ではないと、前置きしていたが、エクスとして、お決まりの手を使う事を考えると多少苦笑いを浮かべていた。


「クリスタルコフィン……これが電次元ブリザード・クリスタルコフィンだ!!」

『なるほど、この面白い手に私は一杯食わされたのか』

『ゼルガ様……まだ逃れる事も出来ますが』


 絶対零度の棺ともいえる、クロストの新技を前にリキャストそのものも封じられようとする危機に陥った。ユカが触れる通り電次元ジャンプで退却の余地があったものの――既にエネルギーは半分を下回っている状態である。ゼルガとして目的は既に果たした事もあると首を横に振りつつ、


『君たちが有利だとしても私の負けは負け、ならばせめて引き際を弁える上手い負け方をしないといけないのだよ、羽鳥君』

「何……!」


 玲也の作戦勝ちだと潔く認めた上で、ゼルガは電次元ジャンプを発動させて退却することにより、彼は自分が引き際を見失っていない事を示す。彼に対して“上手い負け方“だと自分の撤退を彼は称していた。


「どうなさいまして玲也様、あのゼルガを私たちは退けたのですから……」

「確かに勝ちは勝ちだが、3機がかりでゼルガを退けさせることがやっとだ」


 ゼルガが負け惜しみなどではなく、余裕が残された上で敢えて退いた事は玲也にとっても理解するには十分――それだけ呆気ない幕切れで自分が勝利した事になった。むしろ彼に一杯食わされたような気分で握りこぶしを作って震えていた。


『……不公平な条件で勝っても嬉しかねぇ』

『レーサーだった君だからそう拘るかもしれないけど、正々堂々の勝負がルールじゃないから。ギャンブルも戦場もそういうものだからね』

「それはそうですが……いえ」


 バンとムウの勝つことへの在り方はそれぞれ異なるスタンスのものでありつつ、双方の言っている事に一理はあると頷けるた。ただ玲也自身、自分なりの戦う事へのスタンスはそう簡単に他人へ言えるものではないと判断し、今は胸の内に押しとどめた。


「確かに勝ちは勝ち。本当の戦争でそう考えてしまう事はどうかだが……」


 戦いは五分を上とし、七分を中とし、十分を下とする言葉がある。戦争のさ中、同じハードウェーザー同士の戦いにおいて、相手を退かせる勝ち方を狙う事に意義があるともいえた。

ただ、ゼルガとの戦いは十分の勝ち、いわば完全に仕留めなければいけないとも玲也は捉えていた。彼に対してバグロイヤーへの憎しみだけではない別の感情が、彼自身にそのような勝ち方を求めさせるよう後押しさせていたおり、

 

「俺はあの人を越えなければいけない気がする。その為にどうしたらいい、どうすれば……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る