16-4 ミラージュ殺法! 敗れたりオールレンジ兵器!!

「私たちの元に近づいているのかい?」

「はい。他の3隻と違いまして詳細なデータがありませんが……」

「確かマジェスティック・コンバッツか……ほぉ」


 ――オール・フォートレスはゼルガ率いる一番隊が擁する電装艦、一時期はバグロイヤー前線部隊のフラッグシップとして君臨していたものの、ゼルガが少なからずバグロイヤーへ協力的な人物ではない。それが故にファジーら上層部から出向した人物によって主導権を握られた事により、実質閑職同然に追いやられていた。

 そのような自分たち一番隊の元に、ゲンブ・フォートレスの影が近づきつつある。ミカからの報告にゼルガが少し声を漏らすと、


「ゼルガ様、曲がりなりにもバグロイヤー唯一の電装艦になります。この艦を制圧されますと」

「でしたら打って出る事が必要ですかね~」

「つまり、降りかかる火の粉は自分で払えとの事だね……?」


 メガージが言うようにオール・フォートレスがバグロイヤー唯一の電装艦である。この旗艦が抑え込まれたら自分たちの敗色は濃厚なものになるであろう。ただメローナの口ぶりから実質本部隊となる二番隊から、援軍が送られる気配もない。ゼルガが苦笑せざるを得なくなった時、


「でしたら撃って出ますか……?」

「シスカちゃん、待って。正面から打って出るのは被害も大きいかと」

「なら、私が打って出るだけだよ」


 砲撃手としてシスカがオール・フォートレスで攻勢に出ようと意見するも、操舵担当のナナはリスクが大きいと反対した所でゼルガは立ち上がった。自分が打って出るとの事から、彼が同のような手に出るかは察しがついており、


「やはり出られるつもりですか」

「久しぶりだから、少しばかし腕がなまっていないかだけど……そうも言ってられないのだよ」

「そうそう、その為にあたしたちがいるんだしさ!」


 ゲンブを退かせるため。ゼルガはリキャストで単身撃って出る――双方の被害を最小限に抑えられる術だと触れるが、メガージが少し懸念する通り、彼自身へのリスクが大きい面もあった。前線に出る事となった彼が、元気よく後押しする少女の姿がブリッジに現れており、


「パッション隊、久しぶりの出番なんだし! ここはあたしがパーっとやっちゃって」

「そうやって、パーっとやって取り返しがつかない事になったらどうするの!?」

「もうミカねぇ~折角、あたしが人肌脱いであげるのにさぁ」

「ベリーちゃん、とても頼もしいですけど。本当私からも無茶だけはしないでくださいね」


 ベリーが早速フルーティーで前線に出ようと意気込む――最も、彼女が何をしでかすか普段の言動から予想がついていたのだろう。ミカが釘を刺せば彼女がふくれっ面を思わず作り上げる。ユカもやんわりと彼女へ釘を刺していた所、


「すみません、のっけからベリーがとんでもない事言ってまして」

「ははは……私も君たちを危険な目に遭わせたくはないのだがね」

「そうなりますと、やはり手伝ってほしいんですか~?」

「いやはや、ユカもだけどメローナにもはぐらかす事は難しいのだよ」


 パインがベリーに代わって彼女の迂闊な発言へ頭を下げる。ただゼルガとしては彼女の姿勢も自分としては助かる――多少弱音を吐露していた事をメローナは察し、単刀直入に述べる。ユカも苦笑していた様子だった所


「くれぐれも負けない事が大事だよ。五分を上とし、七分を中とし、十分を下とするのだよ」

「そうですね。あのフォートレスが僕たちから退いてくれたらいいだけで」

「その為にあたしたち頑張っちゃうから!」

「……だからそういう話じゃないでしょ、あんたは」


 ゼルガが常々口にする言葉の意味をパインは察して行動に移そうとしていたが、ベリーの口ぶりから彼女に彼の真意が伝わっているかどうかは定かではない。ミカがやはり彼女が前に出る事へ頭を抱えていた様子だが、


「一隻だけで、私たちを討てるとは考えているならね……少しお仕置きをしないといけないのだよ」


 既にゼルガの頭の内では、どうゲンブを討つべきかの計画が組みあがっていた。淡々と自分自身が描く戦いの流れを想像しつつも、自分自身の腕を見せつけて相手を威嚇する必要があるのだと見なしていた。そうでなければ劣勢に追いやられている自分たちが本当に敗れるのだから。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「あのリキャストらが自分から勝手に出てきたんか!?」


 ――アタリストのコクピットにて、アイラがその報せを受けて少し目を丸くした。ゲンブのレーダーと、索敵の為に発進したスパイ・シーズが捉えた映像が届いた時、両手に花と言わんばかりにフルーティーに挟まれながら、リキャストの手には電次元ソニックが握られており、


『直ぐに電装しなさい! ここであなたが動きませんと沈められますよ!!』

「……リキャスト相手に応戦しての勝率、計算しますと5.6%です」

「そんなにか……ほんま、大博打もいい所やけどな!」


 天羽院から、ゲンブを防衛できるハードウェーザーはアタリストだけだと電装の催促がかかる。フレイアが指摘する通り、リキャストのような機動性に優れた相手へは先手を取っても撃つ事が難しく、間合いを詰めよられたら猶更勝率は無に等しくなるだろう。 

 まるで自分が死に行けと彼が催促しているようだが、父が人質になっている状況下では迂闊に逆らう事は出来なかった。苦虫をかみつぶしたくなるような様子で。電次元ジャンプを試みれば、


『来た……やっぱり!!』

『あのタイプ……あたしが回り込んでもいいよね!?』

『先に手を潰してから! 無茶な事はしないでよ!!』


 リキャストを護衛するように、同伴していたベリー、パイン機はアタリストが電装した様子を捉えた。ベリー機が飛び出していく一方で、パイン機はリキャストの背後を守る様にして、両肩のトゥインクル・バズーカを炸裂させて牽制しようと試みていたが、


「アポロ・スパルタン、いけぇ!!」

「……待ってください、直ぐに回り込むべきです」


 機首からのアポロ・スパルタンが直ぐに撃ちだされた――が、リキャストの右手には電次元ソニックが備えられている。スパルタン目掛けてソニックの衝撃波を見舞う様子から、フレイアは即座にスパルタンは封じられる事を悟って、アイラへと次の行動に移るよう促す。

 実際放ったスパルタンが、電次元ソニックの衝撃波によって直ぐに中心を射抜かれ、着弾前に爆破して果てた――ディエストのコサック・トルペードを電次元ソニックによって封じられた過去の事例があった事もフレイアは把握していた為である。アポロ・スパルタンを囮として、すぐさま変形しながら回り込み、シューティング・シードスターを手にするや否や、


「せや、まだ手はあるんやさかい、これで終わらせたるでぇ……!」


 生憎電次元ソニックを放った反動で、2機とも少なからず隙を生じさせていた。それに伴いシードスターまでは避けられることがないとアイラは早速トリガーを引こうとする。すぐさまリキャストがアタリスト目掛けて飛び込んでいく。電次元ソニックを放ちながらアタリストを怯ませようとした所、


「どかんか! あんさんに構っとる場合やあらへん!!」


 アポロ・スパルタンと一転し、電次元ソニックは収束率を落として、アタリスト全身への熱を煽る様にして砲撃に転じる。この手段に痺れを切らしたようにシードスターを発砲した瞬間、リキャストは一撃で貫通、目の前で瞬く間に砕け散るものの、


「なんや! あのリキャストとかがこうも呆気ない訳」

「……その通りです。リキャストにしてはエネルギーが然程でもないようです」

「んなアホな! けどリキャストが目の前におってな……」

「今度は後ろからだよ」


 確かにリキャストはシードスターで貫かれて爆破四散した様子も確認した。これで最大の敵が片付いたようだが――あっけないにも程がある。アイラも薄々と罠にかけられたと気づき始めた時、背後にエネルギー反応がある事にフレイアは察知した。同時にアタリストのメインカメラが一瞬暗転もしたが、


『私を早く仕留めたい気持ちは分からなくもないけど、焦りすぎなのだよ』

「ゼルガ……あんさんがゼルガか!?」

『その通りなのだよ、よろしくと行きたいのだがね』

「よろしくって、なぁぁぁぁっ!!」


 デストロイ・ブライカーで直ぐにアタリストの頭部を跳ね飛ばす。彼にしては少し大胆で苛烈な攻め方であったが、当のゼルガはいつも通り常に余裕を持った姿勢を保っていた。

 そして密着自他状態である事から、背後を取った状態でカリドスバーンを炸裂さえていく。溶解目的の熱線として電次元ソニック以上の出力を誇る熱により、ペルナス・シーカーがバターのように表面が蕩け始めた、咄嗟にシーカーへ設けられたオリオン・パンチャーを背後へ炸裂させる事で、シーカーごとパージし、強引に間合いを取れば、


『あのリキャストを破壊しなさい! 出来るだけフォートレスに近づけないようにです!』

『いわれんでもわかっとる! 一旦離れてあれやるで!!』

『……了解です』


 天羽院からの命令に対し、嫌気がなかったわけではない。ただ、目の前に現れたリキャストを蹴散らさなければ、本当に自分の命がないのではと、本能的に命の危機を感知したためともいえたようで、


『……疑似人格シャットダウン完了です』

『いけぇ! コズミック・フィンファイヤーやぁ!!』


 リキャストを近寄せんがために、コズミック・フィンファイヤーを放つ。円錐のエネルギー発振器が8本一斉に射出された。アイラとしてはやはりこのオールレンジ兵器に勝負をかけたい。その為に出し惜しみはしていられない、まるで大博打を彼女は打ちにいくかのようであったが、


『ユカ、少し勿体ないけどゼット・ミラージュもう1回だよ』

『もう1回やられるとの事は、狙いがちゃんとおありですね?』

『勿論だよ。手足が使えるならこういう事も出来るのだよ』


 モニターのリキャストが前方に光を帯びた後、正面からは密着するように2機が重なって映った様子だった。その後少しして後方のリキャストが飛び上がり、急スピードで浮上し動き回る。コズミック・フィンファイヤーの追撃を撒く姿勢を取るのかは定かではないが、ミラージュ・シーカーが生成したもう1機のリキャストは逆に動く気配すら見せない。


『やっぱ同時には動かせへんようやなー、ウチもあんまし動きたくないがなぁ』


 フレイアが制御する1基が光を放ち、逃げ回るリキャストの腰をかすめた。それに伴いデストロイ・レールキャノンの方針から煙が上がり始めていく。

 このオールレンジ兵器、コズミック・フィンファイヤーを駆使するにあたってフレイアが疑似人格を遮断して、制御を専念するが次々とリアルタイムでプログラムを生成して、送受信を繰り返す。その操作をこなす彼女の負荷は大きく、プレイヤーの操縦を反映しきれない。実質思うがままに動く砲門を制御する、いわばアタリスト自らが固定砲台に徹せざるを得なくなる。オールレンジ兵器を駆使するにあたっての弱点であり、。


『やはり思うがままに動けないのだね、初めて見た時はどうかと思ったけど』

『私も2機同時に動かしてますが、まだ2機だけですから……』

『いや、私とユカで2機同時に動かすだけ素晴らしいのだよ。だから頼んだよ』

『勿論です、いきます!!』


 オールレンジ兵器は最初脅威と捉えていたものの、ゼルガとユカは既に同じレベルで対策を編み出していた。彼女が聡明な人物であり、お姫様で正妻だけでなく、真の女房役になりうるとゼルガは揺るがない信頼を寄せている。夫からの信頼と期待を一身に受け止め、笑顔を見せた上で、少し真剣な顔つきでミラージュ・シーカーを彼女は動かし始めた。


『少し動きが鈍うなったけど……なぁっ!!』

『……アイラ様、うあぁぁぁぁっ!!』


 リキャストの動きに疑問を感じた時は既に遅し。外殻に向けて叩きつけられるように放たれた衝撃波は、激しい振動としてコクピットの内側にも襲い掛かる。そのダメージは疑似人格をシャットダウンした状態のアイラが、まるで激痛にあえぐように感情を呼び起こされ、コズミック・フィンファイヤーは制御を喪う事で宙を彷徨う棒切れと化してしまう。


『電次元ソニックは、こう使っても良いのだよ』

『このリキャストでも出力を抑えれば制御できますね』


 ゼルガとユカが少し自信ありげに触れるのだが、二人は先ほどと異なり、ミラージュ・シーカーによる質量のある分身を囮ではなく、本命として使う。それはつまり自分たち本物を囮としてコズミック・フィンファイヤーをおびき寄せる奇策でもあった。

 最も、囮としてのリキャストが可能な限り速度を出して、相手が追撃に専念させる状況を作る事はともかく、分身してのリキャスト装甲が脆弱。装備された武器も微弱であった。この泣き所への対処として、電次元ソニック――電次元兵器を分身に携行させて発砲する手を取ったのだ。


『プログラムをリアルタイムで制御するハドロイドはコクピットの中……こういうやり方私は好きではないけど、有効だと思ったのだよ』


 出力、収束率、速度を調整できる点を利用する事で本体への負荷を抑えて使う。収束の低いエネルギーは貫通力に欠けるものの、攻撃範囲が広がる点を活かし、コクピットに衝撃波を浴びせる。パイロットにダメージを与える事でコズミック・フィンファイヤーの制御を乱れさせる目的でゼルガはこの作戦を取ったのであった。


『このまま、捉える事も出来るけど……おや、どうしたんだ』

『別のエネルギー反応があります、おそらくは』

『なるほど、こう長期戦になるのは望ましくないけど、やむを得ないのだよ』


 セルガとして、電次元ソニックを浴びさせた状態でアタリストを拘束しつつ、至近距離でカリドスバーンををお見舞いして生け捕りにする魂胆であった。

 だがユカが気付いたと共に、赤いフレームから小柄なハードウェーザーは割り込まんと入っていった、その際に手にしたジャッジメント・バズーカでリキャストの分身を撃ち抜いており、


『ったくよ! 2対1とか弱い者いじめとかやめろよな!!』

「ウチが弱い……やなかった! おおきにって言ったるわ」

『まま、とにかくフェニックスに下がってよ、その為に俺が来たからね』

「……ムウさん」


 ザービストが到着した。これに伴いこれに伴い電次元ソニックによる衝撃波からアタリストは逃れるており、彼に借りが出来たようなものだが、バンから弱い者と呼ばれた事について少しいら立つものの、今はその個人的な感情とやかくの問題ではない。アタリストから、オリオン・ジャベリンを手にしたうえでザービストが両手で柄を握るとエネルギー刃が生成される。


『おいおい、こいつでどうにかなるのか?!』

『あのね、ザービストでぶつかったとしても、腕からこう展開されたらこっちが危ないでしょ』

『だから、あいつの武器を借りた訳か』


 ザービストは重力慣性システムにより華奢で小柄な機体であろうとも、強力な質量攻撃として格闘戦を繰り広げる事が出来る。最も防御面での課題点は残されており、デストロイ・ブライカーの刃で薙ぎ払われたのならば、こちらの手足が損傷してしまう事は目に見えていた。それもあってザービストはビーム兵器であるオリオン・ジャベリンを借りる必要があった。


『そういう事……力負けするのは分かってるけどね!』

『これでカチコミだな!!』


 リキャストの頭部をめがけ、オリオン・ジャベリンを投げつけるや否や、丸鋸の形状に変形したデストロイ・ブライカーを持つ右手でジャベリンが接触するのを防ぐものの、その隙を突いてザービストがノヴァンチャーを振るい、リキャストの左腕関節目掛けて、ビーム鞭を叩きつけるが、


『なかなかだけど、迂闊に近づきすぎかな』


 ザービストよりリキャストは一回りサイズが大きい。その両腕でザービストを強くつかんだのち、デストロイ・メルティングを彼に目掛けて浴びせる。

 自らの手足での格闘戦は防御面での脆さを突かれると不利であったザービストだが、その弱点を突いて至近距離でのカリドスバーンを放射すれば、ザービストにすかさずセーフシャッターが降ろされる――電次元ジャンプを封じられる事はハードウェーザー同士の戦いで特に不利な状況へ追いやられるものであり、


『アンドリュー君と同じ強さを君からは感じるよ。けど、いささか匹夫の勇、いやせめて強すぎる大将って所だよ』

『強すぎる……? 何言いたいか知らねぇけど!』

『申し訳ありません。私たちにも余裕がありませんが、手荒なことはしないと約束します』

『ほぉ、見た目通りの優しそうないい娘だけど……』


 ゼルガがバンを強すぎる大将と評した事について、当の本人はやはり皮肉として捉えていた。元々の性格もあるが、窮地に追いやられ少し焦りだしたバンと異なり、ユカからの降伏勧告をムウは耳を傾けるだけの余裕があったようで、


『悪いけど、君は俺が手を出しちゃいけない娘じゃないかな!』

『そこも分かってくれると嬉しいのだよ』


 胸部へジャッジメント・バズーカの直撃によって一時途絶えた隙をつき、ザービストが重力慣性システムを活かして思いっきりその右足でリキャストが蹴り飛ばす。突き放される際にデストロイ・ブライカーが右足先を焼き切って実質彼の動きを封じつつあった。

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