16-3 許すな! 電次元サンダーに怒りを込めて

「まさか、このタイミングでスキャンダルが暴露されるなんてね……天は俺たちに味方したのかな?」


 時は少し遡る。クリムゾンレッドを基調としたカラーリングに、青のラインが側面に記されたトレーラーが疾走していた――その後方に何台か、黒の車が後をつけられている事を彼らは承知だが、一人は引いたタロットカードが“運命の輪“の正位置との結果に心を弾ませていた。


「あの親父、そう仕込んでるんなら何で先に言わないんだよ!」

「まま、罠かもしれないっていうなら俺は信じないね。そりゃま」

「お前は勝てる勝負にしか賭けないっていうんだろ、どうせ」


 自分が賭ける勝負へは人一倍強い自信を寄せる。冷静さを保ちながら心の奥にその強気を隠す男こそムウ・バウ・ラーガ。パートナーとしてバンは改めて思い知らされていた所、ホルスターに収納したポリスターが振動した為取り出して確認する。


『度が過ぎた無茶はするな! ちゃんと帰ってくる事!!』


 プレイヤーとして自分たちが不在の間、フレディが不審物の処理を始めとする事後対応や処理などの激務に追われていた。その彼女がバンが戦いに赴く事に対して彼女なりに気合を入れるような言葉をメッセージで送っており、


「……ほぉ、フレディからやっぱ心配されてるねぇバン君」

「あいつ! こんな時にわざわざ送ってくるな!!」

「そりゃまぁ……けどね」


 当のバンは大げさだと少し呆れていたものの。ムウは自分を案じている彼女を無碍に扱うなと忠告しようとするも、


「あの親父を救いださなきゃ、二人が危ないだろ! お前がそのな……」

「俺はもち一目惚れだから、絶対賭けに勝つ気でいるよ。君もあいつの為に賭けてやりなよ」

「……お前が書くと長いから俺が書く!」


 バンの言う通り、オーストラリア支社に監禁されたシンヤを救出する事が彼らの任務である。自分以上に余裕の姿勢で構えている相棒に少し不安もあったバンだが、想い人の為に賭けろとのスタンスには一応理解が行くところもあった。


『ここでくたばるかよ!』


 とバンが憎まれ口ともいえるメッセージをフレディへ送信する。無論その憎まれ口には自分が必ず生きて帰るとの意味が含まれているであろう。再びコントローラーを握り後方からの追っ手を撒いていく。


「ネクストが居場所を突き止めたら、あとは俺たちが殴り込みをかけて救い出す」

「あのスキャンダルが追い風になってるから、あとはどれだけおびき寄せて撒くかだね」


 シンヤの救出は玲也たちとの連携で進められていた。電子戦に優れるネクストがバーチュアスの一室に彼が拉致されていると突き止めた上で、ザービストがオーストラリア支社にがけて殴り込みをかける段取りであった。

 もっとも本来、電次元ジャンプで囚われている一室へ飛び込むこともできた筈であった。だが実際ザービストはトランスポーターへと変形したカーゴ・シーカーに収納された状態で、バーチュアスのゲート内へ電次元ジャンプして乗り込んだ。これによってバーチュアスからの追跡を受けている身であったが、


「インカちゃんの計算だと、そろそろだね」

「ったく他人事のように言うけどな! 俺は好きで事故りたくないからな!!」

「だから作戦の為でしょ。ほらぶつけろー、アクセル蹴ったら吠えるエンジン」

「飛び出せコーナーとか他人事みたいに余!!」


 バンがL1、A、Bボタンを同時に押した。右スティックで既に照準をオーストラリア支部のオフィスビル付近へ定め、ゲートの左ポールめがけて、車体のバンパーに接触しながら方向転換する。

 事故を起こす事をプレイヤーとしてだけでなく、ドライバーとして快く思わないバンだったが、意図的に事故を起こしたような走行も見事に再現しきっていた。


「この角度ならちょうどだね……!」

「本当たまらないけどな!」


 そのまま長身の車体がゲートを素通りする筈もなく、車体そのものがゲートへと追突する。追っ手の車がカーゴ・シーカーを取り囲んだのちに、何人かがトレーラー部分の運転席を確認するものの――もぬけの柄であった。


「運転席を探しても無駄だと思うけどね……」


 すまし顔のムウだが、彼ら二人はとある一室に到着していた。コクピットの彼らが操縦していたのはカーゴ・シーカーではなく、同じ赤のスーパーカーであったが――そもそもフォーミュラ越しに二人はカーゴ・シーカーを遠隔で操縦していたのだ。

 そしてゲートに激突する寸前、電次元ジャンプでフォーミュラだけがオフィスビルの一室へ転移された。これが彼らの狙いであった所、二人の男の姿がキャノピー越しに見える。その一人はお目当ての相手であったが、


「軟禁されてたとしても、せめて手足を縛りつける事とかしてる筈だけど」

「ムウはん! それやけどワイは救われたからなんや、この……」

「ほぉ、確か……君だね」

「……シーンです」


 周囲から名前を憶えられていない事に対し、シーンは歯がゆい様子が隠せない。ただ、いずれにせよ彼がシンヤを救い出したており、ムウは少し彼を見直した様子で隣のバンへ密かに話を交わした。その後キャノピードアが競り上がり、降りたバンがポリスターを突き付けるものの、シーンが首を横に振り、


「あんたの気持ちは分かるけど、俺が良くてもステファーが絶対許さないから」

「ステファー……あぁ。あいつが何考えてるか分かんねぇけど、それでいいのかよ?」

「俺が裏切ったらステファーにどう償えばいいんですか? あんたが俺やロスティさん達の代わりになるんですか?」

「……開き直るなよ!!」


 ステファーを裏切れない理由でバーチュアスの元に甘んじる――シーンの姿勢が煮えたぎらないものだと、バンが苛立つあまり思わず拳を振り上げようとした。するとすかさずシンヤが二人の間に割って入り、

 

「バンはん! ワイらが二人の間に割って入るのはデリカシーがないんちゃうか!」

「あんた、一体どっちの味方なんだよ!」

「まま、シーンも辛い立場だと思うよ。俺らはどのみち彼を救い出すことが大事だからね」

「せや、シーンはんが出来る事がウチを解いてくれたことなんや……」


 シンヤの擁護はムウにとって一理あるものであり、本来の目的を早く達成する必要があるとバンを促す。すかさずポリスターをシンヤに目掛けて撃てば、その場から姿が消え失せた。本来ザービストに乗せて電次元ジャンプすれば良いかもしれないが、ザービストが他のハードウェーザーと異なり二人乗り。ネクストと違い変形時にサイズが変わらない事もあり二人以外を乗せる余裕がなかったのである。


「すみません、俺を思いっきり殴ってくれませんか? 裏切ったってバレてしまいますから」

「……男なんだからじゃないけど、気絶させないと意味がないよ」

「俺はむしゃくしゃしてるからよ……!!」


 苛立ちを漏らしながら、バンはシーンの顔面を思いっきり右から殴り飛ばしたうえで、今度は鳩尾を抉るようにアッパーをぶちかました。あえて顔面に一発お見舞いしたのは乱闘に見せかける為か、あるいは煮えたぎらないシーンの立場に苛立ったゆえかは定かではない。いずれにせよ仰向けにシーンが倒れたのを確認した後、彼もすかさずザービストへ乗り移り、


「アイラ、フレイア! シンヤさんはバーチュアスから救い出したよ」

『ほんまかいな! 有難いって言いたいけどな……おわっ!』

『……かなり厳しいです、救援が必要です』

「なるほどね……」


 父親を救い出したとの報せに、アイラが思わず喜びで声が高くなるものの、フレイアが言う通り彼女は前線で追い込まれている様子。これにムウは想定していた事態だと言いたげだが、


「なら彼女に言っといてよ。俺は勝てる勝負にしか賭けないって」

『勝てる勝負しか……って、頼もしいんか、無責任なんかよぉわからへんけど!』

『……勝てる勝負、不確定ですが了解です』


 具体的な根拠がないとアイラは突っ込みを入れているにも関わらず、ただフレイアに勝てる勝負だから賭けた、信じろの一点張りでムウは押し切ったが、


「ザービストですか……イタリア代表の貴方らはミスター・天羽院も嫌ってましたからね!」

「嫌ってて悪いかよ!」

「そういう事じゃなくてね、インカちゃん」


 扉が開けばロスティが目を丸くしながら、アタリストに指をさす。彼からの侮蔑にバンが顔を少し赤くして反論するものの、ムウは冷静に制御しながら側面のハードポイントに備え付けたジャッジメント・バズーカを発砲する。空砲とはいえその大音量に彼が腰を抜かしており、


「それでも俺を止める気なら、そのまま本当にぶっ放すよ」

「……や、やめなさい! このビルの中で撃てばどうなるか貴方達にも」

「さぁね? 言っとくけどバズーカがなくてもガンがあるからね」


 ロスティと異なり、ムウは余裕すら感じさせる立ち振る舞いだ。隣のバンが自分以上に大胆な相棒の行動に多少驚きを示していたが、彼が首を縦に振って合図した時、すかさずL1、L2、R1、R2の同時押しに加えてスタートとセレクトを押せば、電次元ジャンプでその場からすかさず姿を消していった。


「き、消えた……イタリアのあの二人が、え、えぇと……あぁ!!」


 目の前ですかさず姿を消したザービストは電次元ジャンプで姿を消した――ハードウェーザーとしての能力を駆使したと捉えれば理解は及ぶ筈であった。しかしスキャンダルの対応に彼が追われ続けた矢先の出来事故、腰を抜かしたまま呆然とした様子であり、おそらく例の動画への問い合わせが相次いでスマホに悲鳴を挙げさせられている状況。半ば動揺がぬぐえないまま。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ザービストの反応がビルから消えたようです」

「……あのシーカーを放置したまま電装されたのですか」


 ザービストとの共同作戦に参加していたネクストだが、ビーグル形態でバーチュアスの近辺で待ち伏せを続けていた。カイト・シーカーを駆使して、周囲からはバーチュアスに配備された黒塗りの車両としてのカモフラージュを施した状態の為、他の車両と見分けがつかない状態である。

 ただ、ゲートを塞ぐように衝突したカーゴ・シーカーに足止めをされている状態の上で、ザービストが撤退したとの事であり、何も言わずに去る事は勘弁してほしいと少し玲也は気にしていたのだが、


「早くドラグーンへ引き返すぞ。将軍も博士も貴方に聞きたいことが多いそうですから」

「シンヤさんが、バーチュアスの情報を流したおかげで予想よりも上手くいきましたが……」


 ネクストは今ドラグーンに戻ることを最優先と捉えてながら、後方の席に送られたシンヤの方を向く。ただ玲也の視線がどこか冷ややかであり、リンも二人の間で多少困惑した様子が表情には見えていた。


「ワイはバーチュアスの情報を流す事しとらへん! フレイアにバックアップした上で。現物は処分したからな!!」

「だとしたら、フレイアさんが……」

「待ってください! 何か凄いエネルギー反応が……!!」


 シンヤが一応弁明しようとしていた矢先、エネルギー反応を感知したリンの顔色が変わった。。思わず顔を上げると実際、上空にはダークグリーンのフレームが形成されつつあり、玲也たちにとって見覚えのある機体が姿を現そうとしていた――そのコブラを模した禍々しい機体こそ、イリーガストであり、


「あのハードウェーザー……ベルさんのですよ!」

「ジャレコフさんの言った通り……!?」


 イーテストによって撃墜されたかに見えたが、イーテストはこうして平然と自分たちの前に立ちはだかる。ジャレコフが触れた通りテレポートでビトロが間一髪脱出した為に今こうして存在しているに違いない。

 ベルの仇として、既に因縁浅からぬ相手であったが、更にまた禍根を刻み込まんとしていた。胸部からのデリトロス・リボルバーがアスファルトの地面を目掛けて弧を描くように放ち続けたのだ。例えそこに芝生があろうと、段差があろうと――そして人がいようとも無差別である。


「玲也さん……このままですと!」

「将軍、イリーガストがバーチュアスに攻撃を加えています! 大気圏内での戦闘許可願います!!」

「玲也はん! バーチュアスは天羽院のでっせ!」

「だから助けないで見捨てろというのですか!!」


 例えハードウェーザーを利益のために利用して、マッチポンプを組んでいたバーチュアスであろうとも、一方的に嬲り殺すされて良いはずがない。シンヤを黙らせつつ、目の前で荒らされる施設の周りや中に、人がいるのなら猶更である――玲也が慌ててエスニックへ通信をつなげると共に、


『一つ確認したいけどね……君だけで彼をどうにか出来そうかい!?』

『こうは言いたくないんじゃが、これ以上ハードウェーザーを電装させたらのぅ』

「バーチュアスが利用したとしても、敵ではありませんからね……」


 エスニックとして許可を出す姿勢に変わりはないが、1つ確実にイリーガストを退ける保証があるかと確認を取る。ブレーンが触れた通り、オーストラリア支社の敷地内での戦闘となれば、戦場となる範囲は限られている。裏を返せばむやみにハードウェーザーの数を増やせば、それだけ被害が拡大してしまう事を指しているのだと、リンが理解した時、


「ネクストのエネルギーは大丈夫です! この手で退けます!!」

『退ける……そうだ。それなら君にこの場を任せるぞ!』

「ありがとうございます! 行くぞ、リン……!」


 玲也に迷いがない他、彼の手の内を薄々と察したと共に、彼の意志を尊重して承諾の返事を出す。かくしてネクストが宙へと電次元ジャンプを果たす。重力に従うように真下へと落下していく。それに伴い倍ほどのサイズへとネクストの全長が拡大されていき、天井が起き上がった後に、左右の手足が展開して頭部が露出された時。


『あの車が変形して……やっぱり!?』

『何ぼさっとしてるんだよ! 早く動かせよぉ!!』

『わかってます! 蜂の巣にしないと……きゃああっ!!』


 アルファに代わり、ビトロのプレイヤーとして乗り込んでいる彼女は激昂した。だが感情に身を任せていた事で彼女に隙が生じており、ビトロから催促される形でガーディ・リボルバーの照準を変えようとするや否や、既にネクストのバックパックから長身の砲口がつきつけられていた。アサルト・キャノンがイリーガストの胸部へと炸裂していた


「武器を全て潰せば、まず抑えられる!!」


 ロングレンジから相手の隙を生じさせるための一発を放つと共に、カイト・シーカーからネクストがパージされる。怯むイリーガストに向けてとびかかると共に、ジックレードルが備えられたサブアームを突出させる。

 ただ、仰向けによろけるイリーガストが咄嗟に両腕でサブアームを掴みにかかる。ジックレードルが胸部へ突き刺さる事を間一髪で避けたものの、彼の頭に設けられたバルカンポッドから銃弾が蜂の巣のように飛び交っていく。


「きゃっ……」

「れ、玲也はん! これ、ほんまかまへんか!?」

「大丈夫な訳がないでしょう! 貴方と違ってアイラならわかっているはずですがね!!」

「あ、アイラと違って……せやな」


 ただ、イリーガストもまたリボルバーを至近距離のネクスト目掛けて掃射し続ける。装甲の強度はハードウェーザーでも下から数えた方が早い、ネクストであり、牽制目的のリボルバーを立て続けに被弾すれば、被撃墜が目に見えてくる。

 実際セーフシャッターが下ろされたと共に、シンヤが危機を主張するも、玲也からすれば、思わず辛辣な言葉で黙らせた。娘を戦場へ送り、一人安全な場所にいる父親としての嫌悪感もあっての事だが、シンヤは弁明せずしおらしく受け止めていた。


「早くここから逃げてください! いつ巻き込まれるか分からないですから!!」

『エリルとバルゴ副長の仇の癖に、何を言って……!!』

「エリル……あいつか!」


 戦闘に巻き込まれたバーチュアスの関係者に対し、リンが避難を促していた頃、イリーガストからプレイヤーらしき女性の声がした。エリルとの名前に対し、玲也は一瞬記憶の深淵から彼の事を思い出したが――アルファに代わりプレイヤーとして乗り込んでいたのは、恋人のチホであった。


『貴方の罪は止まらない……加速していくのでしたら!!』

「あ、あかん! あれでオダブツになってま……」


 エリルに続き、直接の上司となるバルゴまでも同じネクストに討たれた。それがチホを復讐に狩りたたせる歪みをもたらしていき、バグロイドで太刀打ちできないとの痛感により、ハードウェーザーを遂に駆っていた。激情に逸る彼女がクロー・シーカーのエネルギーフィールドを展開し、ネクストを熱で焼きつくそうとしていたと思われるが、


「早く痺れを切らせたなら……打って出るぞ!」

『そ、そんな何で……あぁぁぁぁぁっ!!』


 寧ろこの展開を玲也は待ち望んでいたように、微かに口元を微笑ます。突き出させるクロー・シーカーを何とネクストが両腕で受け止めようとしていたものの――両手は既にパージされていた状態で両手首を前面に突き出している。すると逆にエネルギーフィールドが突き破られるように無力化していき、逆に彼女のサブアームが電撃を前に白光しつつあった。簡単にフィールドが破られた事が想像できないまま苦痛にあえぐ彼女だが、


「電次元兵器はバリアー類を貫通します……この時を待ってたのですね!」

「これで後は十分痛めつけられる……いや」


 電次元兵器が第3世代に備えられた力である――その力は破壊力以上に、バリアー類を貫通させて本体に直撃を浴びせられる点でも有用性があった。かくして電次元サンダーでクロー・シーカーを無力化したと共に、全身に電撃が走りイリーガストが怯んだと共に、サブアームを止める腕力にも衰えが生じつつあった時に、


「あ、あ……こんな所で、まだ仇も……」

「既にさんざん手をかけた癖に……何が敵だ!」


 ――ジックレードルは。胸部装甲へとめり込む。ガーディ・リボルバーを潰すと共にセーフシャッターがイリーガストの元にも展開される。それどころか既に胸部のセーフシャッターもビーム刃と複合されたこの鎌を前によって焼けただれるように突き破られつつある、

 チホが敵を前に返り討ちに遭うのかと弱音を吐いていたが、玲也は彼女に対して冷徹だ。侵略せんとしているバグロイヤーの人間の癖に、敵を討つと言われる筋合いはないと不快感を覚えており、

 

「バグロイヤーにどう恨まれようと構うものか! その上で倒すだけだ!!」

『貴方にそう言われたくは……!』

『デモニカ・ランチャーをぶっ放せ! どこでも構わねぇよ!!』


 チホに対して少なからず苛立ちを感じつつあったのか、ネクストの両腕でサブアームを焼き切った。そのままセーフシャッターが微かに熱によって突き破られた瞬間――ビトロが咄嗟に叫びをあげた。左腰のハードポイントに設けられたデモニカ・ランチャーは射角上今のネクストを撃ち抜くことが出来なかったが、


「しまった……!!」


 ――デモニカ・ランチャーの閃光はビルの最上層を焼き切るように放たれた。自分自身が前線に出てネクストはイリーガストを無力化させんと果敢に攻めかかっていたが、彼はネクストだけでなくバーチュアスに損害を与える事も目的もしていたのだ。ネクストが対応する前に射抜かれた最高そうが崩れ落ちる。その巨大な物体が重力に従い真下へ落ちていくと


「応答してください、ミスター天羽院‼ 応答してく……だはっ!!」


 戦禍に巻き込まれるオーストラリア支社から我先にロスティは逃れており、この状況が理解できないと天羽院へ詳細を確認する事で精一杯。なりふり構っていられなかった彼だが、地上に巨大な影が広がり、視界が暗くなっていく事にようやく気付いたが――もう手遅れであった。彼の手からスマホが投げ出されたように落とされるものの、彼の手が二度とその物体を取ることもなく


「玲也さん、落ち着いて! 今は焦ったら負けです!!」

「火事や、火事やで玲也はん!」

「まさかあの時の……あっ!!」


 バーチュアスへ被害が生じた状況に虚を突かれ、体勢を立て直そうとした途中でシンヤから、被弾個所から支部ビルが瞬く間に炎上を起こしている事を知らされてしまう。追い打ちと言わんばかりに、イリーガストが曲げた右足が容赦なく突き出された。思い切りネクストの腹部目掛けて蹴り上げれば軽量だった機体が宙に飛び上がり、


『馬鹿野郎! だから俺はお前を出したくなかったのによぉ!』

『しかし、私は! 私はエリルの、バルゴ部隊長の仇を……』

『ったく、やっぱジャレじゃねぇと調子が出ねぇんだよ! 早く掴まれ!!』


 イリーガストがデモニカ・ランチャーを放ち続ける。退却目的で何発かネクストを遠ざけるようにして――ビトロとしてチホがプレイヤーとしての強化手術が途中にも関わらず、復讐に先走った為に危機へ追いやられた不甲斐なさを詰る。ただアルファの時と違い彼女に手を差し伸べながら、自分のタグをもう片方の手で触れたら、


「あの野郎、アサルト・キャノンをもう一発……何?」

「玲也はん、敵さん、ジャンプできなかったんじゃ?」

「ジャレコフさんの言う通り……テレポートして逃げましたか」

「引き下がってくれたことを今は良しとするが」


 既にイリーガストの体が瞬時にフレームへかぶさる装甲が消えうせていった――シンヤが多少戸惑ったものの、リンは冷静にビトロの能力によってハードウェーザーから逃亡した事を察していた。玲也としても、このオーストラリア支社近辺での戦闘行為が終息した方が助かると捉えていたが、


「そや、あそこにシーンはんがまだおる筈や!! ステファーはんを裏切れへんとかで……」

「……何でそれを早く言わないのですか! クロストを電装するだけのスペースも時間もないのに」


 それよりも、既にバーチュアスの最上層から火の手が上がっており、下の層へとその魔の手を伸ばしつつあることを玲也は思い出した。シンヤからの報告で、猶更消火の必要性があると捉えるものの消火に適したクロストを電装することも、乗り換える事の余裕もない。その間に時間を浪費したとなれば被害が拡大してしまうと判断に迷うものの、


「そのままシーカーで火を消します! 私に任せてください!!」

「カイト・シーカーに消火用の装備は……?」


 何をすべきか行き詰まったような玲也に対して、リンはカイト・シーカーによる消火を試みると少し自信ありげな様子で意見した。彼女が操縦するシーカーが火の出元へ近づくとともに回転を始めブレイザー・ウェーブを発動させる。まるで燃え盛る炎に対しジャミングをアプローチしているようだが、その炎は効果があったのか緩やかに火の手を弱めつつあった。


「低周波の電波を使って空気を振動させています。それで火の流れを乱したら火が消える筈です」

「確かに音波や電磁波とかでも消火は出来るねん! リンはん凄いやんけ!!」

「火を消したら居場所を突き止めたい。出来るだけ救いたい所だが……」


 音波消火器の原理になぞらえて、ジャミングの電波で空気を振動させれば火を消す事は可能で――リンの妙案に救われて胸を撫でおろしつつ、被災者の救出に向けて玲也は次の手を打とうとしていた。

 だが、後方から別の衝撃が襲い掛かり、ネクストが前のめりに転倒しようとしていた。リンがシーカーでの消火を優先としていた事もあるが、二人とも背後への注意が少し疎かになっていたのだ。

 

「確かサード・バディと同じ……バグロイドの奴だ!」

「まだバーチュアスの地下に隠しとったんか……おわっ!!」


 藤鼠色のカラーリングと共に、サード・バディと誤認させる外見を備えたバグロイドこそバグラムであった。ネクストが振り向くとすかさず目の前の2機はデリトロス・クラッシュを繰り出すしネクストの制御が遅れるとすかさず、彼らは片方の腕からクラッシュを射出してネクストを拘束するが、


『何やってやがるんだよ……!』

「まさか……アランさんか!」


 ネクストの頭上をかすめるように紫色の光が放たれ、バグラム1機の胸部に直撃するやいなや一瞬攻撃の手を緩めた。このタイミングをネクストは逃さず、ジックレードルがすかさず前方へと振り下ろされた。ビーム刃を帯びた刃でチェーンを切り裂いた後に、両腕の自由が戻ったと共に電次元サンダーを指先から放った。

 そして、もう一方のバグラムがデリトロス・ソードガンを振り下ろそうとするものの、頭部からバルカンを連射し続けながら前のめりに倒れ込み、ネクスト自身のタックルだけでなく、アサルト・フィストを射出すると共に電次元サンダーのエネルギーでバグラムを宙へと浮上させる。そして右手首から直接電次元サンダーを浴びせにかかったと共に、頭上で彼は白熱化、爆散して果てた。


『その声、確か別のからも聞いたけどよ……じゃなかった救助活動に入るか!』

「了解です、こちらで火を消してます!!」

『……一応ステファーを助けてくれた恩もある、礼だけは言ってやるよ!!』


 バグラムを仕留める足掛かりとなるライフルを放った相手こそ、本来のサード・バディだった。そして、アランが焦っている様子は――先ほどまで火の手が上がっていたビルの中にステファーが取り残されていた事も関係はあるだろう。

 ただハードウェーザーに対して嫉妬めいた感情を寄せてい彼ではあるが、ビルの火災をネクストが消火した事へは一応礼を述べた。胸部のミサイルポッドから消火弾を射出して小火を沈下しつつビルの入り口へと進路を取っており、


「後詰めのライトウェーザーも向かっているようです。早くシンヤさんをドラグーンまでへ」

「そうだな、本当に酷い事を……危ない!」


 イリーガストとバグラムの襲来に対し、玲也は苛立つ感情を吐露する。その中でドラグーンへの帰還を果たそうとコントローラーの入力を始たものの、救助活動に入り後方への注意が薄れていたか、そ仕留めそこなっていたか。ブレストの足元で臥せるよう倒れていたバグラムが起き上がった。ソードガンを同じ救助に向かった、アラン機の後ろ目掛けて放った所、リンが慌ててサイレント・シーカーを射線上へと引き寄せさせ、アラン機の身代わりとしてビームを受け止めるた。辛うじて目の前で犠牲が出る事を防いだが、


「……この野郎!!」


 ――彼の頭の中で何かが切れた。玲也が動かすネクストがバグラムの胸元を掴み上げ、すぐさま拳を胸部目掛けてぶち込む。ジックレードルの刃を両肩の関節に噛ませて相手の動きを止めた上で、


「ハードウェーザーをなめるな! プレイヤーを馬鹿にするな!! お前たちと遊びで戦っていると思うなら大間違いだ!!」

「玲也さん、落ち着いてください! もう相手は戦えるだけの……」


 華奢なネクストとは思えない程、荒れ狂うように殴打の嵐をバグラムへと浴びせ続けた。その上で皮をはぎ取るように、バグラムの胸部装甲を引っぺがした。これによりコクピットが露になるのであったが、バグラムにパイロットが搭乗していた形跡は見当たらない。以前と同じくして何らかの方法により、遠隔で動かされていると思われるが、目の前の敵に人が乗っていない事が、ただ玲也にとって嫌悪感と苛立ちを逆なでさせるような様子だ。


「機械人形に暴れられて犠牲が増える、ヒーローのように世間で持て囃して、俺たちの戦いを八百長にする――分かるか!? 貴方も分からないでしょうね!!」

「玲也はん……」

 

 また目の前のバグラムと同類のように。シンヤに対して向けた瞳は冷たい力を放っていた。自分は安全な所で、プレイヤーに戦わせるよう焚きつけていたと思われる彼を許せなかったのだろう。シンヤは自分が非道な卑怯者であることは自覚もしていたのか、何も反論せず唇をかみしめながら俯くだけだった。


「死ぬかもしれないと分かった上で戦おうとも、死なれたら嫌なんだぞ……!」


 零距離で電次元サンダーをお見舞いされ、バグラムが雷撃で白く光る共に目の前で散り行く。パイロットさえ仕留めてバグロイドの身動きが止まれば良い。だがパイロットがいないバグロイドが胸を突いても動くならば粉々に砕かなければならない。今の玲也はそうでもしなければ気が収まらない。自分たち電装マシン戦隊から既に犠牲が出た事への衝撃もまだ根付いていたからだ。


「れ、玲也さん、あれシーンさんです! ステファーさんも一緒ですよ!」

「シーンにステファー……無事だったか!」


 一山を越えても、玲也の怒りがまだ収まりきらない。リンはそんな彼を宥めるために気をそらしたい意図もあったのだろう。ただカイト・シーカーの映像から、よれよれとした足取りながらステファーを担ぎながらシーンがビルの入り口から出ていく姿が見えた。顔を上げた時、彼女に目立った外傷は見られず意識ははっきりと覚醒している。そんな二人の様子から無事だと把握した時、玲也も少し落ち着きを取り戻し始めるが、


『ロスにい……? ロスにい!』

『ステファー、見るな! 見るんじゃねぇ!!』

『アラにいは黙って! ロスにい、ロスにい……!!』


――だが、必ずしも玲也が望んだ結末ではない様子ではあった。出来る事ならカイト・シーカーをこのために動かす事も気が引ける。ただシーカー越しの映像からは、転落した最上階の下敷きとなって、スーツを赤い池に濡らしている男の二本脚が見えた、いや見えてしまった。


『まさかロスティさんが、いくら何でも……』

『ねぇロスにい、動いて! ステファーいるよ、だから褒めて!!』 

「そんな、ロスティはんがほんまに巻き込まれとったんか……」


 兄だった存在にロスにい、ロスにいとシーンやアランの制止を振り切るように、ステファーは泣き叫び続けていた――先ほどまで彼から拷問を受けていたシンヤでさえ、目の前で凄惨な最期を遂げた事に思わず戸惑いの声を漏らしており、


「バーチュアスの人間として許せなかったかもしれないが……」

「ですが、ステファーさんのお兄さんです。辛いですよ……」

「たとえあの人がろくでもないとしても……ステファーの兄さんに変わりはない」


 ステファーが戦う動機にもなっていた人物が、今目の前でその亡骸が晒される事となった。

 玲也の胸の内では、ハードウェーザーの戦いを世間への売り物として彼らが利用していた事は許せる行為ではないとみていたものの、ただ泣き崩れるステファーの姿を見ると、自分の知らない兄としての彼の一面を信じて玲也は目を閉じた。その後、電次元ジャンプで静かに戦場と化したバーチュアス・オーストラリア支部から姿を消す事が今の自分たちがすべき術だと行動に移した。

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