15-6 反撃だ! ルドルフ級を撃沈せよ!!

 ――そして北極海上にて。ハードウェーザーやライトウェーザーに囲まれるルドルフ級であったものの、サード・バディとしてバグラムを装っている為に、世間の体裁を前にしてか手出しをする気配がない。


『まさか、ブレストの反応がこうも簡単になくなりますと、大したものですね』


 しいて言うならば、ブレストであり痺れを切らせたかのように突っ込んできたものの、PAR隊員が犠牲になり得るとちらつかされた時に彼は躊躇した。その隙を突いてガーディ・クラッシュを四方からぶちかます事により、海中へとその身は沈んでいった。

 この思わぬ成果にガディナムは慢心しつつあった。ハードウェーザーを威嚇させる術だけでなく、バグラムの性能が4機がかりとはいえども、ハードウェーザーに匹敵しうると見なしていた為であり、


『これ以上動く気配がないようですからね、攻撃に入りますよ!』

『しかし艦長! もし攻撃を仕掛けてきた場合は』

『でしたら、バグラムを盾にするだけで……何ですと!?』


 最も膠着したまま持久戦の構えを続けるのにも限度がある――ガディナムはここにきてルドルフ級の火力をもって総攻撃を畳みかけるよう指示を出す。自分たちからこの守勢で有利な状況から転じる事へ部下が少し難色を示したものの、バグラムを保険として使い捨ての盾にすれば、ハードウェーザーの悪評へ繋がるのだと触れていた。


『ま、まさか本当に攻撃してくるなんて! 貴方たちは何を……』


 だが、実際に1機のバグラムの胸部から爆発が引き起こされる。予想を大きく覆された事にガディナムが狼狽しており、彼の視界には山吹色のハードウェーザーがライトニング・スナイパーを構えており、銃口からは微かに煙が立ち込めていた――レスリストが一矢報いただけでなく


『ノン! 中に誰もいないみたいだよ!!』

『何……コクピットじゃねぇのかよ!!』

『……罠です! 無人のバグロイドに僕たちは騙されてます!!』


 同時に単独で飛ばしていたグライダー・シーカーにより、破損したバグラムのコクピットを捕捉した。バグラムの胸部装甲が破損した損傷だったが、その結果コクピットがむき出しにされたかと思いきや、人が入る余地がない程内部機器が詰め込まれていた。

 実際同じ外見のサード・バディへ搭乗しているアランは、直ぐにこの異変へ気づいており、アトラスからガディナムの罠が暴かれた途端、


『でかしたぞアトラス! 流石私の教え子だけの事はある!!』

『その通りです、いやマーベル隊長がしばき倒そうとされてました時は、私も肝を冷やしましたが、流石私たちの後輩だけの事はあります! あぁもちろん私はですね……』

『てめぇぇぇぇぇ!!』

『アラにいを騙したなぁぁぁぁぁっ!!』


 マーベルとルミカが手のひらを返したように、イギリス代表を称賛していた傍ら、逆上したかのようにアランとステファーの兄妹が吼える。

 無人のバグラム目掛けて、ハウリングス・ハリケーンが見舞われれば逆に4機は一気に無抵抗のまま上空へ巻き上げられる。電磁波の渦で機能を停止した彼らに向かい、サード・バディのソードガンが1機の胸部を深く突き刺して、


『ま、拙いですよ艦長! 私たちはどうして』

『ば、ばれてしまいましたか……生憎私もまだ死ぬわけにはいかないですから!!』


 抵抗の術を喪失した残りの3機も瞬く間にして敗れた。ゴースト1がアイアン・サイズで袈裟懸けにし、後の2機もダブルスト本体からのアイアン・レールガンによって呆気なく射抜かれた。

 かくして、艦載機をあっという間に喪失した事に対し、直ぐさま退却へと方針転換を図る。ハードウェーザー何体か分の全長を誇るルドルフ級となれば、退く事は容易ではない。巡航ミサイルを乱射しながら深海へと身を潜めようとするが、


「悪いけどみんな退いてくれるかな! 一撃で片づけるからね!!」

「下手すると巻き込まれますから早く!」

『これで一気に……二人とも頼んだよ!!』


 ハードウェーザー以外の面々へも二人から退避勧告が下された――この展開が作戦通り進んでいるのだとアトラスが後を託して引き下がる。彼がライトニング・スナイパーでバグラムを狙撃した事も咄嗟に立てた作戦の一環であり、


「相手がでかい的だからね、多少のラグくらいどうにかなるしね!!」

「飛行速度は上がるが、小回りは効かない――それがブースターだが」


 ブレストが撃墜されたふりをして海原へ身を潜めた事も、ヴィータストとのコンバージョンを密かに果たす為であった。コンバージョンを果たしたブレスト・ブースターは空戦主体の強化形態であり、玲也が触れた通り最高飛行速度が上昇する代償として、運動性が損なわれ制御が困難となる諸刃の剣でもあったが、


「このスピードを活かせばこうする事も出来る!」

「ルート・シミュレート完了、対ショック姿勢オールグリーンだ!」

「ゼット・バースト、早く決めちゃいなさい!!」


 ブレスト・ブースターの飛行速度が、暴れ馬のように持て余しかねないなら、逆に制御する事ではなく極限までスピードを出す事――玲也はブレストの新たな力へと昇華させるつもりである。ウィンにより発動条件が整い、ニアからの催促が来ると共に、玲也は一呼吸を置いて


「見ててベル……これが僕の、僕たちの力だよ!!」

「一気に決める、ゼット・バースト……ぐっ!!」


 汗が一筋たれたと共に、彼の両手はL1、L2、R1、R2を同時に入力した後に左右のスティックを押し込んだ。ブレストの両目が鮮血のように赤く染まって発光したと共に、はるか上空からブレストの落下速度が倍以上に増した。

 無重力状態のコクピットだろうとも、倍以上の衝撃が襲い掛かれば最悪無事で済まされない恐れがある。プレイヤーの二人が既にシートベルトを何重に括り付けた状態で席へ身を固定していたものの、少なからず衝撃に打ちのめされつつあったものの。


『か、艦長、奴が突っ込んできます!!

『さ、避けられないのですか!? ハードウェーザーに私もやられ……ひぃぃぃっ!!』

「……このままぶち込むぞ、シャル!」

「オッケー! 一緒に行くよ玲也君!!」


 既にルドルフ級にブレストが特攻せんとするコースに乗っており、万事休すの状態となったルドルフが我先にブリッジから退散しつつある。艦長としてあまりにもみっともない行為だったものの、今のブレストは全身を赤熱化させており、衝角のように突き立てたキラー・シザースが白光状態に輝いており、



「「スペリオルスカイ・ストレート……!!」」



 二人が揃って声を張り上げて叫ぶと共に、身を潜めようとするルドルフ級目掛けてブレストが強引に風穴を開けて突き抜けていく――スペリオルスカイ・ストレートこそブレスト・ブースターで編み出した新たな技でもあり、力ともいえた。

 ブレスト・ブースターが備えるスピードを極限まで発揮する為、ゼット・バーストで最高速度をさらに上昇させ、キラー・シザースを衝角とした全質量をぶちかます。はるか上空からわき見することなく、一直線に突き進むこの大技は玲也とシャルの手によって編み出されたのだ。


『ゴースト1が動かないですが―』

『それはあとミャー、おっかない事してるホイ!』

『そ、それってあいつら大丈夫かよ!?』


 ブレストが急速に落下して生じた衝撃波を前に、ゴースト1が巻き込まれて制御系統に支障が生じていた事をアズマリアが不満げに漏らす。最もそれだけの大技を放ったことへシーンだけでなく、メルも彼らの無事を案じずにいられないと、惑いが表情に現れていた――実際ルドルフ級が突き破られた個所から豪快に爆炎を巻き起こし、水圧に押しつぶされるようにひしゃげて形も成さなくなった後に、


『ノン! まさか帰ってこないのかい、ミス・ニアもミス・ウィンも……』

『馬鹿な事言わないでよ! 玲也の事だからそう簡単に……』


 そして、ルドルフ級を沈めたブレストが浮上する様子を見せない。クレスローが動揺している中でアトラスは彼に限ってそうなる筈がないと、普段と一転してどこか強い信頼を寄せている。そして実際黄金色の角が海面から姿を現した途端、


『ちょっと、無事なら手伝ってくれない!?』

『その声は……コイさん、コイさんも無事で!』

『オゥ! ミス・コイも無事、みんな無事ってことでいいのかい!?』


 アトラスのポリスターへと、海原へ沈んだままの彼女からの声がした。ベル達が無事だとクレスロー共々思わず喜びに声を上げていたが、


『当り前じゃない! 私だけじゃ引き上げることできないんだしさ!!』

『す、すみません! 直ぐに向かいますから!!』


 ゼット・バーストによって、今のブレストは消耗状態に陥っている。その彼がブースターとして2機分の重量故に、ウィストだけで引き上げられないのだと、レスリストの手をかせと彼女は要請した。


『当り前よ……本当無茶苦茶なんだから』


 コイとして、立て続けにルールも規則もないような事例が起こる事はやはり好ましい事ではない。しかしそれでも彼女は安堵の声を漏らしながら笑みを見せており、


「赦す赦さないとか、そう考えるのはやめるわ」

「……今、何か言ったか」

「あいつらにも絶対負けられないなってね、あんたもそうなんでしょ」

「……今更何をと思えば……貴様らしいな」

 

 シャルが憎んでいないと言ったならば、自分も憎む憎まないの問題ではないのだと割り切った。それでも互いに自分の非を敢えて述べなかったことは、互いに競い合う関係でいる事を選んだ為だともいえた。

 そんなプレイヤーのプライドと共に、コイは己自身の腕を磨き高みを目指していこうと意気込む。理論武装のように自分を正当化させてきた、規律の殻を脱ぎ捨ててく様子に少し声をやわらげた。


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「そっかー、やっぱ謹慎処分なのかー」

『独断で動いて危険にさらした事もだが、巻き添えにされたとマーベルがカンカンだ』


 ――リフレッシュ・ルームのチェアに身を預けながら、アンドリュー達がポリスターでやり取りを交わしている。

 カプリアが触れたのはコイ達中国代表への処分。独断で電次元カノンを放ったため、ゴースト2を巻き込んだ事で、自分達ドイツ代表に対する冒涜行為、最悪国際問題になり得るとマーベル達が抗議してきた為だが、


「ったく、腕の一本ぐらいであいつも大人げねぇなぁ」

「アトラスはお咎めなしだろー? カプリアも何とか言ったらどうだー」

『私は言ったぞ。謹慎ではなく1週間出禁にさせてもらったよ』


 アンドリューが呆れる通り、ダブルストの子機が破損しようとも、インターバルさえ置けば復元する為言いがかりのような内容である。コイの主導だったとはいえ、アトラスたちイギリス代表が同じフォートレス故にお咎めなしとの件に、同じフォートレス故の贔屓だと愚痴る。カプリアは二人の言い分を認めつつ、何故かコイを遠ざける処分へと働きかけていたが、


『良くも悪くも生真面目でな。それは悪いとは言わんが直ぐにまいってしまう」

「ははー、そこでリフレッシュさせるって訳だなー」

「まぁ、あいつも思い詰めてたからしゃーねぇ。まぁ俺は気にしてねぇって頼むわ」

『お前に口を出す気はないが……ボウズと嬢ちゃんはどうだ』


 コイに今必要な事は安らぎであるとカプリアは見なした。彼女には処分の建前で、冷却期間が必要だと踏まえての判断であり、このインターバルを経て一回り成長するであろうと信じた故であった。アンドリューもまた同じような判断が求められていると尋ねたところ、


「アンドリュー、こんな所にいたんだ!」

「コイさんがどうのこうのと言ってたけど」

「がきっちょー、コイより自分のこと気にしたらどうだ―?」

「そういうこった、鉄は熱いうちに打たねぇとな!」


 玲也とシャルが自分たちを見つけたと気づけば、すぐさま鍛冶職人のように鉄を鍛えんと席を立つ――早い話、日課のように彼らをしごきぬくのであり、カプリアとは対照的な方法ともいえた。


「へへ、もう今日で何回目だろ?」

「バーロー、俺もおめぇらも立ち止まれねぇなら妥協すんなって」

「僕テキトーとかじゃないもん! 玲也君もそうだよね?」


 アンドリューから日課のトレーニングを提示されれば、シャルはうんざりとした物言いをしていたものの、それに反して彼女の瞳には高みを目指さんとする炎が宿っていた。分かっている事を前提にして玲也へ話を振れば、


「あぁ、約束したからには立ち止まらん。ベルさんにもジャレコフさんにも……」


 玲也もまた同じ決意を胸の内に宿す――ただ一転懸念すべき事が彼の脳裏によぎり、歩みをわずかに止めた。自分たち以上に彼女を信じ想い続けた彼の事であり、出奔してから今だして手掛かりは掴めてないのだから。


「いや、何を考えている。俺らしくないぞ……」


 だが今は彼の事に気を取られてはならない、疎かにならないと言い聞かせる。アンドリューとシャルに振り向かれたと共に、首を横に振りながら歩みだす――胸の内のしこりを振り払うと共に。


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次回予告

「バグラムの一件で、バーチュアスへの不信も寄せらている。そして天羽院がバグロイヤーと内通している事も俺達は知らされた。その証拠を突き止めたシンヤさんがバーチュアスに命を狙われているらしい。俺とバンさんは彼の身柄を保護するために急ぐ。しかしそのころアイラ達は単身で前線に送り出されていた! 次回、ハードウェーザー「暴け!天羽院の正体」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」

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