15-4 見たぞ! バーチュアスの黒い秘密!!

「先輩、もう大分並んでますよ!」

「先客が来た……というよりサクラかしらね」


 ――バーチュアス・オーストラリア支社にて、報道陣が群れを形成していた。マリウスと瑠衣が既に到着した時、既に支部のドアに近寄ることが出来ない程の渋滞模様であり、瑠衣は多少物怖じしているが、マリウスは冷静だった。この集団が報道陣をシャットダウンする目的で、バーチュアスの社員が扮している面々だと見なしていた為だ。


「先輩もうサクラかどうか直接聞いてみましょうよ!」

「何馬鹿なこと言ってるの。それで素直に白状するわけでもないし、目を付けられたらどうなるか分からないわよ?」

「ですが、私たちがバーチュアスの裏を探ろうとしている間、今頃電装マシン戦隊が戦ってるかもしれないんですよ!」


 瑠衣は少し落ち着かない様子であり、少しでも早くスクープを掴まないといけないと焦っていた。焦る彼女には電装マシン戦隊が活動している事が背景にあった。フォーマッツの打ち上げ計画が既に発動しており、ハードウェーザーが護衛に就いている。そんな最前線の彼らと違って、自分たちが何も成果を出すわけにはいかないとのスタンスだが、


「あのねぇ、こういう取材は焦ったら負け……ううん、あなたの身にも危険が及ぶ事もあるのよ」

「先輩、私はそれを承知で真実を突き止めようとしていますから大丈夫です!」

「貴方が大丈夫って言ってもね、貴方にもしもの事があれば弟さんが悲しむじゃないの」

「ロスティさんが来たぞ! 前に出るぞ!!」

 

 電装マシン戦隊の活躍に負けないよう張り切る瑠衣に対して、マリウスが血気に逸れば命取りになるかもしれないと後輩を諭す。一応舌を出しながら彼女が反省しgdた所、オーストラリア支店の扉が開いた。4人ほどの黒服に囲まれながらロスティの姿が現れると共に、サクラを含んだ報道陣が一斉に押し寄せる。


「ロスティさん、今回のフォーマッツ計画はどのように進展していきますか」

「フォーマッツからの大型レーザーでバグロイヤーの総本山を実際に壊滅させることが出来るのですか!?」

「ハードウェーザーについてはどう扱いますか、未だ世間で根強い支持もありますが……」

「落ち着いて、落ち着いて下さい。今日は貴方がたの質問に出来るだけ応えるつもりでいます」


 報道陣がロスティへ次々と質問攻めにする。最もマリウスの問いに対して苦み走ったような表情ではなく、今回の彼は涼しい表情で質問へ答える姿勢を取っていた。その余裕はもしかしたら彼女の指摘した通り、報道陣の大半がサクラ。つまり、彼にとって想定された質問で迫ってくる事もあったのだろう。


「フォーマッツ計画ではまず、本体を打ち上げまして、そこからパネルの設置をジャールとソロで進めていこうと考えています。そして……」

「せ、先輩、どこ行ったんです! こんな人ごみの中では……」

「ちょいとごめんなー。通してくれへんかー!?」

「お、おわぁ……な、なんなんで!」


 この取材陣が一斉に畳みかける流れに圧倒されてか、瑠衣はマリウスと離れ離れになってしまう。人ごみにもまれる中で必死に先輩の彼女を探そうとしていたが、そんな折に自分を含む取材陣が少し弾き飛ばされた。これも人混みを突破せんとする白衣の男がいた為であった。

 また、この男の袖に自分のバックが引っかかっていた事に瑠衣が気付いた時、

彼女は人混みを抜けており、それも取材陣に囲まれているロスティ達を背中にして、オーストラリア支部の開かれた門の方へと飛び出さしていたのだ。


「こ、これは先輩……もしかして、特ダネの予感です! 期待してください!!」

「ま、待って瑠衣! 貴方だけで勝手に……あっ!」


 特ダネを撮る気満々の後輩は、白衣の男に追随してメインタワーへと乗り込んでいった。微かに彼女の姿を目に死、マリウスは迂闊な行動は危険だと声を上げて警告しようとしたものの、報道陣の人混みに揉み消されていく。


「何やらあの人も、何かを探そうとしてるわね……」


 白衣の男は周囲を見渡した後に、壁のとある場所に手を強く押し当てる。すると暗証番号を入力するためのデバイスが壁の奥からせりあがり、このデバイスに向けて素早く彼は暗証番号らしき数字を入力した。

 その時の彼の指先の動きを瑠衣は柱の影越しに覗き見しており、指の動作からどの番号を押すか、彼女は目を凝らしながら番号を覚えようとしていた所、壁が回転して壁の中にその男は消えていった。


「……隠し通路、やっぱりこの下に特ダネがあるに違いないわね!」


 すぐさま瑠衣は壁に手を当てて、先程の場所からデバイスへと暗証番号を入力する。周囲に他の人間がいない事を確認しながら操作を行う彼女であったが


「あれ、反応がない……この番号であってる筈だよね?」


 瑠衣が見た限り、もう一度同じ番号を入力するのであったが、壁が回転して自分を隠し通路へ誘われる事はない――番号が仮に間違っていたとしても、違う番号を無闇に入力するとセキュリティが働きかねないとも見ており、その場で立ち往生を余儀なくされる可能性もある。そう考えると、少し彼女に焦りの色が見え始めていたが。


「……流石フレイヤや。フォートレスなら自由にワイも出入りできるけど、バーチュアスとなれば話は別やからな」


 瑠衣が手を焼いている事を白衣の男が知る筈もない中、足場がエレベーターの要領で最下層へと向かっていた。白衣の男はどうやらフレイアと関りがあり関西弁まがいの言葉を喋る……となれば、シンヤの他にいない。彼自身報道陣に紛れ込んでバーチュアスへの潜入を試みており、最下層に足を踏み入れると、


「わっと! 勝手に戻る仕様なんかいな……あら」


 その瞬間、シンヤの足場が急に元のフロアへと競り上がった。思わず彼が足元をすくわれるように転倒し、ドアの取っ手に顎を思いっきりぶつけて少し悶絶する。ただ鈍い音がドアの方から鳴っており、おそるおそる彼が取っ手に手を取ると、すんなり戸が開いており、


「……なんや、バグロイドと同じやないけ!」


 薄暗い地下の部屋に対して、シンヤはデジカメのファインダーに目を合わせて、その景色を収める。簡易的なライトとしての役割をデジカメが果たしており、その部屋には足元からのアングルでは少し不鮮明だったものの、バグレラ、バグビールス、バグリーズらしき機体が3、4機程たたずんでいた。その全貌をシャッターへ収めて連撮りを続けていくと共に


「地上にバグロイヤーが潜伏しとったんやない、バーチュアスがマジェスティック・コンバッツの為に八百長をやっとったんか!!」

「それは違いますね……」


 バーチュアスがバグロイドを密かに開発していた――このマッチポンプ同然の事実にシンヤは拳を握りしめながら怒りで思わず震えあがりそうな心境であった。あくまで、自分たち親子は天羽院への復讐として、彼の秘密を探る為マジェスティック・コンバッツへと加わった。その為に天羽院の良いように利用されても、しばらくは耐え忍ぶ覚悟があった筈だが、その目的と異なる事例へひたすら憤っていた。

 すると、この格納庫へ既に待ち続けていた男の姿がそこにあった――シンヤにとって自分の後輩として見覚えのある男もとい、自分を追い越していき、貶められた男として一度たりとも忘れた事はない。上司として今、屈辱に耐えて自分が仕えているこの男こそ、


「……天羽院やな‼」

「やはり私の秘密を掴んでリークするつもりで接近していたとは……本当愚かな先輩ですね」

「な、何をシラきっとるねん! おんどれこそオシマイなのわかっとるんか!!」


 遂に天羽院及びバーチュアスの秘密を突き止める事を果たした。シンヤは彼にこのスキャンダルでも済まされない事柄を突き付けるが、天羽院本人は普段通り随分と落ち着きを保っていた。バーチュアスがバグロイドを製造して、ハードウェーザーと戦わせて世間を欺いていた、にも関わらず。


「別に私は終わりでもないですから。バーチュアスグループの利益を追求するとかを目的としているとの考えでしたら、私を過小評価している事になりますよ」

「相変わらずおんどれが一番やって言いたいと思うけどな……一体何考えとんねん!」

「それはですね……」


 復讐すべき相手だからか、自分にとって後輩だからか、シンヤは天羽院を気迫で圧倒しようとしていた。けれどもその気迫を淡々とした姿勢で天羽院は受け流していく。この態度は昔から変わっていないと、シンヤが指摘するものの、この後輩相手に逆に圧されつつもあった。


「バーチュアスにバグロイドがこんなに……すごいっすよ先輩!!」


 そんな二人の空気に対して、場違いと言っていいほど興奮する女性が割り込んできた――瑠衣である。彼女がシンヤと同じ暗証番号を入力してもすぐさまこの場に到着できなかった理由は、シンヤの利用が終わり、元の位置に床が戻るまで幾分か時間を要したからであった。ファインダーに格納されているバグロイドの姿を捉えながらシャッターボタンを次々通していくと、


「……あんさん一体何なんや!」

「流石にあなたの連れではありませんか。ですが取材の方が来られますと」

「まてや! 天羽院早まんな!!」

「厄介ですからやめませんよ……!!」


 瑠衣は自覚しているかどうか定かではないが、天羽院は報道関係の人間である彼女にこの秘密を知られてはいけないと見なした。シンヤの制止も利かず、ベルトに備えられたホルスターから拳銃を引き抜かんとした時であった。


「……私がお守りします」

「フレイア! 確かバンはんとムウはんの元にいたんやなかったんか!?」

「……私の計算ですと、シンヤさんに万が一のことがあると判断した為です」


 天羽院の凶弾を阻止せんと、シンヤに加えて瑠衣を守らんとフレイアが颯爽と飛び出した。シンヤのバーチュアスの潜入活動を支援するにあたり、ゲンブ・フォートレスに怪しまれんと、自分たちの事情を知る、イタリア代表の元へ身をひそめながら活動を支援しており、


「……天羽院を相手にシンヤさんは不足しています。経験も勉強も実力もです」

「どうせワイはこいつを追い越せへん落ちこぼれやさかい……ってちゃうちゃう、そのカメラ屋さんも頼みまっせ」

「へっ?」


 フレイアが自分たちの有事を想定して駆け付けた事は想定外だったが、シンヤがバーチュアスの秘密を暴き出すには、天羽院より一枚劣ると指摘されれば少しバツが悪い顔になる。それよりも彼女へは自分だけでなく瑠衣も救いだすように指示をした時、


「……ってうわぁ、ちょっと、どういうつもり!!」

「……喋りますと89.5%の確率で舌を噛みます」


 シンヤだけでなく瑠衣の二人を両肩に担いだうえで、フレイアは壁を蹴りながら次々と地下の通路を駆けあがっていった。襲い掛かる激しい振動にシンヤは堪えつつも、瑠衣はハドロイドの身体能力に振り回されて、舌を噛むと警告されても悲鳴をただあげつづけていた。


「ここで私が命令を出せば、すぐ貴方達は捕まる筈ですが……まぁいいでしょう」


 ただ二人を担ぎ上げているものの、フレイアはハドロイドだから天羽院が追いかけても捕まえられそうにない。それでも、バーチュアスの存亡にもつながるスキャンダルを知られようとも彼は追っ手を差し向ける事もない。落ち着きを保ちながら、地下にとどまったまま彼は通信機を取り出して耳に当てるとともに、


「どうやら地下の件を知られてしまいました。急な話になりますがこのバグロイドを全て差し向けます」

『あら、地上でしかまともにバグロイドの数がそろえられないのに、少し残念ね……』

「バーチュアスが別にどうなろうとも構いませんが、バグロイドが差し押さえられるくらいなら、証拠は消してしまいましょう。全滅しても構いません」

『どのみち勝てないと思うけど、数出せばハードウェーザー1機ぐらい倒せるとのつもりかしら?』

「さぁ……」


 バーチュアスの地下でバグロイドの生産を管轄していたと思われる女性へ天羽院は通信を送る。このバグロイドの群れがハードウェーザーとのマッチポンプの為と最想定していたからか、天羽院は別にハードウェーザーへ一斉にぶつけても勝てないと見なしていた。


「いずれにせよこれで地上にバグロイドを出してハードウェーザーの気を逸らす事はおしまいです。あとはバーチュアスに責任を背負ってもらう事にしましょう」

『貴方、ここでバーチュアスとかのトップに上り詰めたのに随分とドライね』

「当たり前じゃないですか。今までの私は“スポンサーごっこ“をやっていただけですからね」


 その上で天羽院は電装マシン戦隊どころか、バーチュアスに対しても見限りをつけており、スキャンダルを知られても蟠りや未練は一切ない様子であった。その地下にもかすかにロスティの演説が天羽院の耳にも入るが、ここにいない彼を嘲笑するような笑みを見せていた。


「ミスター・天羽院、ようやく正義のヒーローごっこはおしまいですかな」

「ガディナム艦長……」

「ふふ、私もそろそろルドルフ級の実力を発揮したいものでしてね」


 天羽院は後ろから自分を呼ぶ声に振り向くや否や、黒の士官服を着用した細身の男の姿を捉えた。PARの士官服とはデザインが異なるが、そもそもこの男がバグロイヤー側の人間。そのガディナムという男に対しても冷静な様子を保っており、ガディナムも彼へ危害を加える気配はなかった。


「言っておきますが、貴方にはまだ動いてもらいたいですからね。派手な事をしてはいけませんよ」

「ですと、私が手柄を挙げる機会はいつになるのですか。単にバグロイドを輸送するだけの仕事はですね」

「でしたら私からは何も言いません。あくまでPARの潜水艦だという体裁でしたら問題ないですからね」

「了解しました。ハードウェーザーに本当の戦いを教えてやりますよ」


 ガディナムが表向き天羽院の部下のように振る舞っている口ぶりだが、実際の所彼の方針には懐疑的な面もあって度々意見を挟む。彼が少し妥協した感じでガディナムに指示を送って一応納得させるが、彼自身バグロイヤーの軍人として、ハードウェーザーが台頭していく様子を快く思わない本心が見え隠れしている。


「そうそう、バグラムは有効に使ってください。この後も貴方には生き延びてほしいですからね」

「当たり前です。ルドルフ級を任された私は今まで生きて帰ってきましたからね」

「……二番隊々長へ推挙する誘いに喰らいついてきただけですが」


 ガディナムがふてぶてしい態度を取っている事に対し、天羽院は彼に聞こえないように小声で愚痴を漏らした。ルドルフ級で今までバグロイドを大気圏内に展開してきただけの輸送役を務めてきただだけに過ぎず、その割に大口を叩き、垂らした餌に食いつく彼の実力をそこまで信用してはいなかった。


「まぁ、生き延びてほしいのは確かですが、別に死なれても問題はないのですけどね」


 以上の事を踏まえ、天羽院はガディナムに対して、好きにやってよいとの命令を出した。すなわち彼を見限り、自分はその責任を負わないスタンスだともいえる。


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 ――PAR北極支部。既に輸送艦“モンロー級“が打ち上げの準備に入っていた所を、バグロイドは上空か迫りつつあった。応戦するブレストと別に、ユーストがワークス形態で彼を出し抜く。その結果バグアッパーの群れへ突入した物の、小回りが利く相手にアイブレッサーだけでは、なかなか着弾しない。懐に潜り込んでミサイル・シーカーを攻撃目的に転用してを浴びせ続けていたが、装填数は少ない為、


『あらあら、抜け駆けしたした割にはさえないじゃん』

『おいやめろ。同じバグロイヤーと戦っているなら笑う事は出来ないはずだ』

『分かってるわよ、ただあいつ、面白みがない癖に、生意気だし……」


 これでは逆に敵の思うつぼに嵌ったと見なして、ニアは少しいい気味だとコクピット越しに笑っていた。玲也は彼女を窘めながら、サザンクロス・ダガーを扇子のように広げてバリアーを形成する。その両腕を突き出しながらバグレラの繰り出すアサルト・マシンガンガンの弾丸を打ち消していく。

 さらに、間合いを詰めながら扇子を折りたたむようにして、ダガーのエネルギーを一点に集中。すかさずバグレラの胸部へと投げつける。この刃が突き刺さった相手目掛けて、肩からカウンター・クラッシュのワイヤーを射出して突き刺さったダガーの柄に絡ませると共に、


『でやぁぁぁぁぁぁっ!!』


 カウンター・クラッシュならぬ、バグレラそのものをハンマーのように振り回そうとブレストが腕を振るう。最も全速力で振り回されている状態だろうとも、相手がアサルト・マシンガンガンを構えた様子に気付き、すぐさまワイヤーを収納させる。そして分離させたウイング・シーカーからのマシンガンで蜂の巣にしてみせた。


『へへ、やっぱあんたの腕は流石じゃん!』

『落ち着いて当たれば、これ位……油断はするな!』


 少しユーストに対する当てつけのように、ニアが玲也の腕を称賛していたものの、彼はバグレラだろうとも油断は禁物だと窘める。1機のバグレラがバグアッパーを装着した空戦での機動力を生かし、デリトロス・エッジを振りかざそうとするものの、ブレストはすぐさま懐に入り込んだ――同じ空中かつ、白兵戦ならブレストの得意戦局だと承知の上であってもだ。


『これが二刃縦一文字突きだ……!!』


 サザンクロス・ダガーを握りしめたまま、右手のカウンター・バズソーを回転させていく。デリトロス・エッジの刃を高速で回転するシールドで受け流しつつ、右アッパーをバグレラの顎を砕くようにして放つ。

 これによって生じた隙を突くように、右膝からカウンター・メイスを腹部目掛けてさく裂させる。とどめに右腕を潜り込ませ、逆手に持ったサザンクロス・ダガーを背中から突き刺してみせた――これが、玲也が放つ二刃縦一文字突きである。


『さすが玲也じゃん、めちゃまくってるぜ!』

『いや、そう褒められると複雑なんだけど。ていうか褒める余裕があるなら動かして……』

『てめぇはしばらく黙ってな! 夢ならよかったとバグロイドに思わせてやるからな!!』


 このブレストの戦いへステファーがつい感心するも、あくまで彼とはライバル関係にあると直ぐ我に返る。最も彼女は玲也に触発されつつ自分もその気にならんと、バグアッパーの群れを下へとすり抜けつつ、


『いけぇ、プラズマ・フォース!!』


 ステファーが叫ぶとともに、レドームに備えられていた4本のアームがクローのように展開され、そのままレドームが唸りを挙げ、電磁波の竜巻がバグアッパーを捕食するように引き寄せていく。その上でユーストの変形が完了するとともに、このプラズマ・フォースによる電磁の渦がやむも、高出力の電磁波を浴びたバグアッパーが動くこともままならず、両手から繰り出すパルサー・ショットの餌食として次々と撃ち落とされていった。


『これは結構エネルギーを使うから、あんまり使いたくないけど』

『おっと……終わらないんだなぁこれが!』


 一度火が付いたステファーの勢いは止まらず、今度はバグレラ目掛けて、パルサー・カッターの刃を突き刺した。そして背後に回り込んだバグレラに対して、レドームからのアームがバグレラを捕獲した上で、ハウリングス・ハリケーンをもう一度放つ。今度は至近距離で放ったうえで一本背負いのように投げ飛ばす。


『ロスにい、アラにい! ステファーめちゃまくって……はぁ!?』


 その上で視線が合ったバグレラへと、アイブレッサーを浴びせようとていたが――地上からの弾丸に被弾して相手は堕ちる。ユーストの目の前で第三者の手で仕留められた事へ思わず憤り、


『ステファー、何味方を撃とうとしてるんだよ!!』

『ロスにい、アラにいの為にステファーはやってんだ! 手柄を奪っといてなぁ!!』

『だから、もしアラにいだったらどうするんだよ!』

『アラ……にい?』


 流石に味方同士の殺し合いになるとまずいとして、シーンが間一髪ステファーを止めた。彼曰くアランが率いるサード・バディ部隊によって撃墜されたと伝えた事で、彼女を一応納得させていたが――実際そのバグレラ・フライトにとどめを刺したのは紺色のハードウェーザー、重装甲と重火力のダブルストであった。


『どうしましたー? 急に真上の敵を狙いまして?』

『あぁ、分かりました。やはりマーベル隊長も本当は暴れたい心境なのだと思います。生憎ダブルストは空にも海にもその気になれば使えますから。ほら私なんかほら、まぁ、その!』


 ダブルストの両腕ことダブルゴーストが水中の敵へと回っていた。ルミカが遠隔で操縦するゴースト2は海上でバグビールスの相手を務めていた。海上での戦闘を目的としているが潜行することが出来ない彼らは、下からの攻撃に弱い。ゴースト2が張り付くようにハウンド・サイズの刃で切り裂いていく。相手に張り付いて、捨て身ともいえる大胆な戦法を彼女は取っていたが、これも遠隔で操縦しているからこそできる戦法だろう。


『ルミカはいいですねー。私は地味な役回りですからねー』


 アズマリアが少し羨ましそうにしていたが、彼女はバグリーズから射出される魚雷を撃ち落とす役回りを担当していたからだ。ゴースト1の右腕にジャイ・ローターが備えられ、深海から北極支部を狙うバグリーズからの魚雷をシュツルム・ストリームで逸らしていく。ある意味守りの要であったが彼女が少し苦言するように、地味な役回りではある。


『と、アズマリアは言ってますが、マーベル隊長もやはり目立ちたいんですよね! 部下の私がスコアを稼いでいますから……』

『ルミカー、マーベル隊長にそんな事言ってるとどうなるか知らないみゃー』

『それは後にしてな……私が南極を守ってやってるんだ! ぼーっと突っ立ってるなら私が片付けてやるぞ!』


 ダブルストがハウンド・レールガンと8連ミサイルポッドを併用しながら、空からと、海からの相手の迎撃を続けていた。自分が要としてブレスト、ユースト、ウィストと違い自由に動きにくい事もあり、少々このポジションに不満があったマーベル。すぐそこにいるルミカが自分の心境を分かっている訳ではなく、その鬱憤を激にして周囲に飛ばした。


『なんなんだ! ハードウェーザーだからって勝手に命令してよ……っておわっ!!』


 自分がリーダーとばかり仕切るマーベルに対し、アランが不満を漏らしていたが彼をかすめるようにして遠方から紫色の閃光が一直線に飛んだ。北極支部と別地点からの狙撃によってバグリーズ部隊が消し飛んでおり、


「私が本命なんだからね! 玲也達は引き寄せる囮よ!!」

『確かにこの場合そうなるかもしれないですが……』


 この北極支部での攻防にて、ウィストは自分が花形と言わんばかりに電次元カノンを発動させた――早い話、レスリストがガンナー形態へ変形した状態による連携であり、厳密にはウィストの力で一掃したのではない。アトラスが先輩の彼女に対して少し申し訳なさげに意見を述べる所、


『コイさん、ゴースト2を巻き込んで一体何のつもりですか! 乗ってなくても危ないじゃないですか‼︎ そもそも貴方たちが……』

『アトラス、貴様も私に喧嘩を売って』

『い、いや僕にそのつもりは……!』


 それもウィストがゴースト2を巻き込んで電次元カノンを放つ真似に出た為だ。バグロイドが密集していたとはいえ、味方を巻き込むような行動に出た事で、マーベルとルミカが真っ先に抗議する。彼女たちに思わずアトラスが委縮してしまうものの、


「私は貴方たちと同じつもりよ!」

『貴様と同じ……どういうつもり……』

 

 コイは謝意を伝えるどころか、マーベル達のように傍若無人な姿勢で戦っているのだと開き直っていた。この応対にマーベルが声を荒げたものの、彼女は通信を強引に遮断しており、

 

「ロングレンジでの脆弱な上に空を飛べない。私は乗り気でなかったがな」

「だから、電次元カノンで連携するって話を通したじゃない!」

『僕はミス・コイと組むのも悪くないと思うよ? 久しぶりだったしね』

「……貴様は少し黙れ」


 ウィストが陸戦型かつ白兵戦主体のハードウェーザーである。その為大気圏内での防衛任務には不向きだとサンは捉えていたにも関わらず、コイは前線へと出た。レスリストと組めば互いの穴を補い合えると主張するものの、サンからすれば、玲也達に諭された事への当てつけのように、無理してなりふり構わない戦いをしているようにしか見えなかった。途中クレスローがいつもの彼らしい言動をしていた事に、頭を少し抑えながらスルーしようとするものの、


『ノン! 僕の気のせいかもしれないけど、ミス・コイらしくない気がするんだ! サンには心覚えがないのかい』

「……クレスローにまでそう言われてる時点で貴様はおかしい。いい加減にしろ」

『コイさん、何があったのか知らないですけど落ち着いて……』

『こっちに来てるみたいだよ! 僕たちの事狙ってるっぽいね!!』


 ――かと思いきや、クレスローにコイの様子がおかしいと尋ねられた事で、少しサンの態度が変わった。無類のプレイボーイとして脳天気な彼にまで気づかれたならば、コイが自棄を起こして周囲のペースを乱しているのだと強く叱る。

 その折に、一隻の巨大な反応があった事をクレスローは気づいた。このエネルギー反応と共に赤黒い艦が海上から微かに姿を見せた時に、今まで突き止められる気配がなかったバグロイヤーの戦艦だと身構えていたが――サード・バディ部隊が後追いしており、


『待ってください! いきなり出てきた潜水艦を相手にされては』

『バーカ! 艦載機など、俺たちで返り討ちに出来るんだよ!』

『アラン隊長! 待ってください……』


 玲也の制止も聞くことなくアラン達はその潜水艦へと向かった。場数をこなしているアランが言う通り、甲板からは同じく4機程の機体が射出されようとしていたが、その藤色の機体は、頭部のバルカンポッドも、左手に握られたガーディ・ソードガン、右手のガーディ・クラッシュと外見も自分たちの機体と同一なのだ。


『……なんだよ、何で俺達と同じPARで……イラー!?』


 アラン達は動揺したが、遅れて出てきた1機がガーディ・ライフルを放った途端、相手の外見に気を取られたイラー機が直撃を受けた。海原に堕ちた直後に爆散し、僚機が水しぶきを上げた事を前にその場で帰らぬ人と化す。


『てめぇら、同じPARだとしてもな……!!』

『おっと、PARの諸君は同胞を殺すつもりでいるのかな?』

『同胞……ということはやはり……!!』


 アランは直ぐ目の前の相手へガーディ・クラッシュを振りかざさんとしたが、赤褐色の潜水艦“ルドルフ級”からガディナムがあざ笑うように大体的に宣言しだす。実際PARの同胞同士で敵対している様子から、サード・バディ隊から困惑の声が上がっており、


『同じPARがバグロイヤーに寝返りやがって! おい、何とか言ったらどうだ!!』

『無駄ですよ。通信を入れれば人質を殺すようにパイロットへは告げてますから』

『てめぇ、本当屑みたいなことしやがって!!』


 ガディナムはPARの隊員に対して人質を取ってサード・バディごと支配下に置いているとの事を触れた。彼らが人質であることから、アラン達サード・バディの部隊だけでなく、ブレストらハードウェーザーでさえ手出しもできない状況へ追い込まれてようとしており、


(多少手を加えましたが、サード・バディがバグラムそのものですからね……仮にサード・バディとしてハードウェーザーが落としましても、世間からはますます孤立しますしね……)


 自分が予想した通りの流れであるとガディナムはほくそ笑んでいた。サード・バディと酷似したバグロイド・バグラムがハードウェーザーをも黙らせる効果があると内心驚いていたが、


『人質を解放すれば殺し合いはないでしょうね。その為にはハードウェーザーのプレイヤーには降伏してもらいたいですがね』

『ハードウェーザーに降伏……!』

『そうですよ、貴方の仲間がどうなるかはハードウェーザー次第ですからね』

『本当汚い事するけど、こんな手に引っかかる奴が』


 ハードウェーザーが投降しない限り、サード・バディもといバグラムを駆るパイロットが解放される事はない――ガディナムが卑劣な脅迫に転じている事へ、玲也が思わず歯ぎしりをして堪えており、ニアはその上で作戦に引っかかる事はないと強気だったものの、


『アラにいの仲間……嫌、アラにいが悲しむ!!』

『ちょ、ちょっと! ステファー本気で……!!』

『やめろ! 降伏は俺が許さん!!』


 ――ニアの予想はこの時に大きく覆される事となった。この脅迫へ真っ先に反応したのはユーストであった。荒々しい様子ながらアランの仲間が危険に去られていると知った時、ユーストは勧告に応じようと飛び出した。ステファーは荒々しくも兄を想って飛び出しており、シーンが止めても効果がない所で


『アラにい! それだと!?』

『悲しいとかの問題じゃねぇ! あいつらがやむをえない事情で寝返ったとしてもなぁ、俺たちPARが平和を守っている事に変わりはないんだよ!!』

『……アランさん』


 ルドルフ級へ接近するユーストを制止させたのは、次兄アランの怒号であった。たとえ仲間と戦う事になろうとも、平和を脅かす存在ならば戦わなければならないとの想いはある。普段戦場に出る妹を案じていたもの、戦場に出た彼女に対して忽然と厳しい態度を示した。これにステファーだけではなく、玲也も少し目を丸くしていたが。


「一体何よ……PARが勝手に裏切って、あのハードウェーザー迄寝返ろうとしてるし!」

『コイさん、落ち着いてください! やっぱりおかしいですよ!!』

「あの潜水艦を沈めたら解決するわよね!!」


 ルドルフ級の近辺にて戦局の進展が不明瞭な中、別地点での砲撃に回っていたコイは痺れを切らしつつあった。彼女が余裕を失っている状況であった上、PAR側から造反が生じており、個人の情にかられてユーストが寝返ろうと働きかけていた事が、余計彼女の血気を増長させる結果となっており、電次元カノンの2発目を放たんとするものの、


『駄目ですよ! あのサード・バディまで巻き込んだらどうするんですか!!』

「だったらそのまま殴り込むんだから……って邪魔よ!」


 アトラスが指摘する通り、電次元カノンでルドルフ級を撃沈しようにも、射角上にブレストやユーストはまだしも、サード・バディの面々まで入り込んでいる事が問題でもあった。

 例えバグロイヤーに寝返ろうとも、PARの隊員を巻き添えにすることへ良心が痛んだのだろう。痺れを遂に切らせたコイはウィストそのものを電次元ジャンプでルドルフ級へと乗り込ませて、得意の白兵戦へ持ち込もうとした所、足元からバグリーズの両手が両足を掴みこんだ。水中からお両腕に気づいて、素早くアイブレッサーで足を掴みこもうとする両腕を焼き切ろうとしたものの、


「あ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」

「何をやっている、電次元ジャンプで逃げ……ぐっ!!」


 バグリーズが電磁波を両手から流し込む事により、ウィストのコクピットへと電撃が流れ込む、苦痛にあえぐコイを他所に重量級のバグロイドとなるバグリーズ2機分の握力を両足にかけられれば、ウィストでも堪えきる事は容易ではない。海原に引き込まれた時にサンが一時的な退却を勧めたものの、胸部へと魚雷が次々とぶちのめされる形で、その可能性は潰えていった。


「な、何……こう引きずり込まれるだけなんて!」


 セーフ・シャッターが降りた状態中、ネクストが深海に引きずり込まれようといていた――最もその脅威が直面する以上に、4体もののバグレラが両手足を拘束して電磁波を照射し続けていた。

 ウィストが白兵戦主体だろうとも、カイザー・スクラッシュやザオツェンを始めとする装備がビーム兵器に近い性質の為、水中では大半が封じられてしまう。その為に本来の性能が発揮できないまま嬲られつつあり、


「ちょっと、待って……やばいかも!」

「やばいかもではない……駄目だ、イカれたままだ」


 格下のバグロイドに嬲られる状態で引きずり込まれつつある状況に、コイが今窮地に置かれているのだと認識した。余裕を失っていた為に暴走していた彼女へ大きくため息をつきながら、サンは救援を求めようにも打つ手がないと首を振る――バグリーズの電磁波で通信系統に異常をきたして連絡を取れる見込みがないのだ。

 同時に残りの1機がネクストへ馬乗りになる様にして、両腕のモーグローを胸部目掛けて延々撃ち込んでいく。セーフ・シャッターで覆われた装甲の強度はおぼつかない物であり、両腕でモーグローを打ち込んでいく中で、装甲がめり込む音がコクピットへも聞こえつつあり、


「い、いやぁ……お父様、お爺様……!」

「貴様が今弱気になってどうする……ポリスターなら……ぐっ!!」


 仮にセーフ・シャッターに亀裂が生じたならば、深海で内部からウィストが水圧に押しつぶされる危険性もあり得る。自分の短慮で死地に追いやられている事へ、コイは思わず肉親へ助けを乞おうとしているほどの弱気に追い込まれていた。

 ウィストの通信手段が失われていようとも、ポリスターで通じる可能性があり得ると、彼女の元へサンが向かおうとするも、バグリーズの打撃による衝撃がコクピットを襲っているがゆえにままならない。


「よ、よべって……いや、ねぇベル、ベルもこんな事……」

「こんな時にベルを呼んで……エネルギー反応がまたか……?」


 サンが我が身を呈して救いの道をこじ開けようとするも、きしむコクピットの外壁から彼女は既にいないベルの名をうわごとのように呼んだまま。その最中で外壁を殴り続けたバグリーズの動きが止まり、バックパックからのレールガンで一気に外壁をぶち破らんとした瞬間だった。長い砲門にワイヤーが巻き付く、逆にバグリーズへと電流が流し込まれると共に、ウィストから体が引き反されていった。

 また、背後から弾頭が炸裂すると共にバグリーズが砕け散っており、メインモニターではスカーレットピンクの機体がバグリーズを下した直後であり、


『ゴメン! 遅くなっちゃって……あれ?』

「……ヴィータストか、ぐっ!」

「じゃあ……シャルなの? 何で、何で……」


 メインモニターの映像に移るのはヴィータストだ。彼女からの自分たちの通信系統へ障害をきたしている事を伝えるために、サンが通信系統でコードの欠損個所を探り出して、自らの体をコードへとつなぐように両腕で掴む。コイが放心状態だろうとも、生き延びるためにすべきことへと打ってでようとしていた。

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