第15話「必殺! スペリオルスカイ‼︎」
15-1 出奔は永遠の別離(わかれ)として
「――ベルさん、ですよね?」
――アラート・ルームにて、玲也達は一度引き下がりつつ有事に備えて控えていた。一戦が終わると共にアンドリュー達が電装を解いて帰還したものの、4人共々心痛な面持ちをしていた。それも一人がこの場にいない事から直ぐに察せざるを得なくなり、
「ベルを辱める事はやめろって言いたいけどなー」
「やめろ。こうなっちまったからには、目を背けて何にもならねぇ……わりぃなジャレ」
「いえ……」
メディカル・ルームへ搬送用のストレッチャーへとカプセルが置かれていた――本来なら直ぐにでも搬送すべきだが、このアラート・ルームでとどまっている様子からして、既に彼女は彼女でないことを意味していた。
彼女を注視しする事は冒涜になり得ると、リタは不快感を示す。そんなパートナーの心境を汲みつつ、生じてしまった現実を受け入れなければならないと、アンドリューはやんわりと窘める。ジャレコフの承諾を得た事もあり、彼らにカプセルの中の彼女の元へと歩み寄らせると、
「そんな……ベルさん、どうしてこんな!」
「才人さんも同罪ですけど、シャルさんが捕まりでもしませんでしたら!」
「……」
既にベルは息を吹き返す事はない。イリーガストの銃弾をその身で浴びせられても、奇跡的に首から上は絣もしなかった故に眠りについたような顔つきをしていたものの、胸から下はズタズタに蜂の巣にされ、義手以外の手足は既に千切れた状態であり、心の臓も撃ち抜かれていた。
ニアが呆然としていた傍ら、エクスは彼女が落命した原因となる、シャルの胸倉をつかんで叱責する。当の彼女はいつものようにエクスへと突っかかる事もなく、ただ掴みあげられても直視できない様子であり、
「聞いてますの!? 貴方がプレイヤーでありませんでしたら、どう責任取りまして……」
「そうだよね……僕どうすればいいか分かんないよ」
シャルが口を開けば、いつものように勝気で快活な雰囲気は全く見られない。ただ自分の責任だと自嘲しながら、リンの方へ視点を逸らす。彼女は四つん這いになった様子で顔をあげる事も出来ず、
「イチが、イチがバグロイヤーにいるなんて……こんな事をしてどうして……」
「リンちゃん、イチは本当にそうなってないよ。多分誰かに操られてて……」
「そうだとしても、イチの為にこうなって良い訳はないよ!」
イチと接触した身からして、彼はバグロイヤーの手先として操られている――シャルはその事実を伝えて彼女の憤りを解こうとした。ただ、仮にそうだとしても、ベルの犠牲が生じた以上は弟であろうとも取り返しのつかない事をしたのだと憤慨しており、
「こうは言いたくないが……ベルさんの事を考えたならば」
「違う、手にかけたのはビトロだ」
「ビトロって、確か昔のダチって言ってたわよね」
「……それは既に過去の話だ」
既に犠牲が出たからには、身内が操られていた故の悲劇として既に許容できそうにはなかった――そう諦めも混じったニュアンスで否定しようとした途端にジャレコフが真相を打ち明ける。ビトロとの名前をきけば、ニアが少し怪訝そうな表情で突っかかっていたが、
「けど、あいつあたいらが倒したんだろー? だったらもう」
「リタさん、確か彼はテレポートが出来ます。イチの時もそれで……」
実際グレーテスト・マグナムを前に、グレーテストは引導を渡された。その為に、過ぎた問題ではないかとリタが捉えていた所、玲也が思い出したように異議を主張する。カプリアが襲撃された件も含めながらビトロにテレポート能力がある事を触れた時、
「あのハードウェーザーを倒しても、何らかビトロが生きている可能性はある。だとしたら自分が……」
ジャレコフとして、そのかつての仲間を手にかける事へ一片たりとも躊躇はない。彼として忌まわしき過去に引導を渡す事に駆られていたが、既にパートナーが動かない事へ憂う眼を向けた。
「……あっしらにも責任があるでやす」
「もう少しわかってから言うつもりだったんじゃが、ベル君がこんなことになるとは……」
「博士にジーロさん、それに……“!」
アラート・ルームへとブレーン、ジーロが揃って立ち入り、自分たちがベル達に生じた特殊な事例を突き止めきれなかった原因を悔いていた。そして二人の隣を横切る様にスーツ姿の彼が、慌てるようにして飛び出しており、
「ベル、ベル……父さんは結局お前の為に何もしてやれなかった! お前だけ苦しい目に遭わせてしまって……!!」
「貴方が嘆く気持ちはわかります……ただ、ベルはベルの意志でここまで戦った事だけは」
「分かっています……分かっているつもりですが」
「泣いてあげてください。貴方は今、それをすべきですからね……」
バームスが棺のように収納された娘の亡骸へと泣きついていった。アンドリューとして彼女が自分自身の信念で戦った事によるもので、彼が死に至らしめたのではないと訂正させる。最もそれでも愛娘の亡骸を前に悲嘆にくれる資格は今の自分にないとも弁えており、
「ただ、誰の責任か済む話ではないと……シャルも、リンもですし、それに……」
ジャレコフとして、この事態はだれの責任かによる問題ではないとフォローを加えようとした瞬間、バームスが自分の元へ無言で振り向いた――この間までベルを任せてよいと彼にも寛容な態度で心を開いていた筈の人物だが、これまで以上にない程の敵意を込めた眼差しで突き刺される想いを味わう事となった。
直ぐにバームスが自分の向ける憎しみが八つ当たりに過ぎないと気づき、慌てて顔をそむけたも後に、
「ただ、ワイズナー現象の事はもう話してくれませんか……」
「ジャレコフ君、既に知っておったんか!?」
「盗み聞きして申し訳ありません……だから自分はベルに無理をさせたくなくて」
ジャレコフとして、ベルを死に至らせた最大の原因がワイズナー現象による、プレイヤーの意志が働きかけてボックストが動かされた事が原因だと、ブレーンへ触れる。既にパートナーとして彼が知らされていた事に、思わず彼が驚愕したものの、
「博士、初めて聞きましたけど一体何ですか! ワイズナー現象!?」
「そ、それはじゃな……プレイヤーとハドロイドの精神的な繋がりによってじゃな……」
「ついでにメルからも説明させてほしいみゃー」
「メルさん、いつの間に!?」
「こういう状況だみゃー、研究どころじゃないホイ……」
玲也としてワイズナー現象との単語に聞き覚えがない他、ジャレコフが言うにはその力が暴発した結果、イリーガストに彼女が討たれたのだと事もあり、少し鬼気迫る態度で迫っており気弱なブレーンがやはり圧倒されていた。
ちょうどタイミングを見計らったかのように、ブレーンの背後からメルが顔を出す。相変わらずの神出鬼没っぷりへニアが突っ込むものの、彼女の口ぶりはいつもの口調ながら真剣な姿勢であり、
「……ベルは上手く動かせないハンデを気にしてたんだホイ。誰かの助けを借りなくても一人で動かせるって感じだみゃー」
「そんな! 僕がボックストを動かしてるのを信じてたんじゃ!」
「多分その気持ちも嘘じゃないホイ。だから折り合いが付けれなかったんだろみゃー……」
「……」
メル自身、研究の途中段階であるとの前置きを加えながらも、彼女の仮説は的を得たもの――ジャレコフはそのように捉えずにはいられなかった。
シャルが彼女の為にボックストを動かしていた事も、ベルの力になろうとする意思が偽りではない事は彼女自身も分かっていた筈だろう。そしてジャレコフがベルに負担を賭けさせまいとする意志も、同じ動機だと捉えていたものの、
「シャルを救おうとベルが必死だった事もだし、捕まって危機に晒されていたのが引き金になったかもホイ』
「ワイズナー現象を引き越した原因だって事?」
『そうみゃー……マルチブル・コントロールという感じかホイ』
「……」
メルが言うには、ベルが極限状態に追い込まれ、自分自身の意志によってボックストを動かすに至った。彼女が言うマルチブル・コントロールとの概念に対し、怪訝そうな表情を玲也が浮かべたのち、
「玲也ももしかしたらあり得るんだホイ。詳しく話すからついてきてみゃー」
「は、はい……」
「ま、待ってください!」
マルチブル・コントロールを発動させるに至るワイズナー現象――メルの目からは、玲也達にも同じような事態が生じる捉えていたのか、正式にプレイヤー達へ伝達する必要があると見た。彼女に先導されてミーティング・ルームへ向かうところ、ジャレコフが少し慌てるように声をかけており、
「自分はどうなるのですか!? そのワイズナー現象でどうにか……」
「気持ちは分からなくないホイ、けど無理だみゃー」
自分自身でベルの敵を討たなければならない――そうしなければとジャレコフは彼らしからぬ焦りを見せているものの、ベルは無情にも不可能だと突き放す。肝心のプレイヤーが既に死亡しているならば、新たに電装させても動かす術がない為であり、
「……やはりプレイヤーがいない、ハドロイドは使い物にならないのですか!?」
「ジャ、ジャレコフ君! 君もそこまで思いつめたらいかんぞい!」
「血に塗れた自分に、安らぎはないですよ……!」
ジャレコフとして、パートナーの敵を討つ術がない。常に血塗られた過去を十字架のように背負ってきた彼が、感情を露わにして暴発させてしまう。エスニックから窘められるものの、今の彼にはいつものように冷静でいられる余裕はない。アラート・ルームから思わず飛び出しており、
「ジャレコフさん……!」
「がきっちょー、今、あいつがやはり一番つらいからそっとしとけー……」
玲也がジャレコフを止めようとしたが、リタは彼にこの場へいる事が辛い気持ちをわかってやれと引き留めた。そのジャレコフは自室へ駆け込む中、後戻りが出来ない状況だと察した上で覚悟を決めなければならなかった。
「……自分が責任を取らなければ。所詮自分は戦いの中でしか生きることが出来ないから猶更だ」
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「――どうですか、自分が整備したのですが」
「ジャ、ジャレレ、済まねぇな……悪くねぇ、悪くねぇから問題ないっと」
その夜、スパイ・シーズの隣にジャレコフが控えていた。ジーロの手伝いで整備にあたっていたあ彼だが、それも自分がハドロイドとして役割をこの先果たせそうにない背景もあった。メカニックとしての手伝いを引き受ける事で、少し気を紛らわすことになるかとの配慮から仕事が与えられたものの、メカニックとして彼の腕を褒めるトムの表情は、どこか苦みも醸し出していた。
「とりあえず俺偵察に出るからよ、ジャレは離れてくれ」
「はい……すみません。今思い出しましたが自分が見ていない箇所がありまして」
「見てない箇所? 俺が見る限りは……っ」
その時、出動の合図をクリスに促したトムに対し、彼の延髄に向けて強い衝撃が襲い掛かる。トムが意識を失った時ジャレコフが彼を素早く降ろし、自分が代わりに乗り込んでいった。
『トム、早く返事して! 出撃に何そんな時間をかけてるの?』
『すまない、悪いが出させてもらう……』
『トムじゃない……としたらジャレ!? ちょっと!』
ジャレコフが乗り込んでいると気づいて、クリスが慌てて止めるものの既に遅く、スパイ・シーズは飛び立っていった。遠ざかっていくドラグーン・フォートレスに対して彼は憂いを帯びた様子で見送り、
『ジャレコフ君、やめるんじゃ! 今ならまだ引き返せるから早く戻るんじゃ!』
「戻る理由がもうありません! ベルがいない今、自分の居場所はどこにもありませんよ!!」
『無断で出撃したなら、命令違反! 場合によっては君を堕とす事になるぞ……!!』
「将軍、今までありがとうございます、最後のわがままはどうか……!」
エスニックとブレーンからは、すぐさま帰還するように促された。けれどもジャレコフは通信を切って先へと急ぐ。役目を喪おうとも自分を引き留めようとする電装マシン戦隊の面々へ、申し訳ないと彼も罪悪感を抱いていたの。ただその引き留める手に甘えてしまう事を彼自身が許せなかったのであろう。
「……このままバグロイヤーに乗り込む。イチを救い出してビトロを消すだけだ!」
ジャレコフはバグロイヤー前線部隊の本拠地と思われるキドへ向かう覚悟を決めていた。最もハードウェーザーではなく、スパイ・シーズでは到達する前にハードウェーザーに捕捉され連行される可能性も高い。今の彼は味方をも欺いてバグロイヤーの元へたどりつかなければならない。それを考えると彼の気は少し引けるのだが、電装マシン戦隊から自分を断ち切る覚悟があるならば、先に進まなければならないとも踏まえていた。
「自分に安らぎや温もりなどいらない! 戦鬼と言われようとも戦うだけだ!!」
“ベルと共に歩む自分の道は既に潰えた。これもベルとの穏やかな日々を自分は心の内で臨みながらも、彼女を戦いへといざなってしまった事への報い、自分が所詮戦いの中でその手を血に汚さなければ生きる事の出来ない人間だとジャレコフは痛感していた。それが戦いの中でしか生きられぬと悟った彼は、我が身を犠牲にする悲しい覚悟へ駆られていった。この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”
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