第13話「オーロラに消えたマイク」

13-1 この地上で戦う事は

「あんさんらと会うのは初めてやからな。ウチらがポルトガル代表ことアイラ・ディアンナと」

「……フレイア・クリーツです」

「っちゅう訳で、これから仲良うやっていこう……って訳にもいかないようやな」


 ――ドラグーン・フォートレスのミーティング・ルームに外部からの二人が踏み込んでいった。関西弁に近い言葉で喋る事もあり、アイラはプレイヤー同士仲良くやっていこうとフレンドリーに接しているようだが、電装マシン戦隊の面々が必ずしも好意的に出迎えてくれる訳がない。その答えは彼女自身も分かっていたようだが。


「当たり前だ! 貴様たちのせいで、こちらもいい迷惑だ!!」

「そうでして! 私と玲也様のランデブーも台無し……ってのもありますが!!」

「 確かにあんさんらが怒るのも当然やさかい。ほんまこの通り堪忍してぇや!」


 エクスは私情が少なからずあったものの――マジェスティック・コンバッツがバグロイドを駆逐しただけで済む話ではない。その煽りを電装マシン戦隊が受ける事になったのもあり、ウィンともどもそろって彼女たちを詰る。これにアイラが反発するどころか二人の意見を汲んだ上で反論はしない。ただひたすらに頭を下げて許しを請う訳だが、


「……アイラ様、ですが今私たちが頭を下げる事は」

「わーってる! けど他人事で済む話やあらへん。同じもんとして尻拭いせぇへんとあかへん」

「まるで、仕方なく代わりに頭を下げてるように聞こえるがな」


 フレイアが冷静に分析した内容には一理ある。しかしここで、自分たちの責任ではない事だと触れるのは場の空気を読めていないようなもの、やはりウィンの怒りを買ってしまう。


「それよりマジコンとか、マジェコンとか勝手に出てきて何だよ!」

「あぁ……そりゃまぁ勝手に出てきたらそないな気分になるわな……」

「全くです事、貴方たちが歓迎されている訳ありませんこと!」


 シャルがマジェスティック・コンバッツに対して疑問を呈するものの、エクスは電装マシン戦隊を良しとしない彼女たちをやはり快く思わない。ポルトガル代表に対してフェニックス・フォートレスから寝返って就いた経緯もあるようだが、


「……マジェスティック・コンバッツが快く思われていないのは分かります」

「あのですね、貴方も少しは、そのアイラさんらを止めたらどうでして!?」

「……ですが、何故彼女は許されているのですか?」


 純粋なアンドロイド故に、淡々として事実を推察・分析して述べるフレイアだが――彼女が今一つ解せない光景を静かに指さす。エクスが視線を変えるや否や、


「へへ~玲也もステファーも同じプレイヤー~よろしく~」

「あ、あぁ……しかし、何と言うか、ステファーだよな……?」

「そうだよーステファーはステファーだから、ステファーだよ~」


 ポルトガル代表と別に、オーストラリア代表――特にステファーは全く屈託のない笑顔で、玲也と触れ合って握手を交わしていた。最も玲也のリアクションが多少ぎこちない訳だが、プレイヤーとしての彼女と同一人物だとはとても思えないわけであり、


「……という事でしたか」

「コントローラーとかもだけど、リモコンとかでもあぁなるから。本当俺も凄い苦労してるんで」

「は、はい気を付けます……え、えぇと……」

「シーンだよ、シーン・シュバルカーフ。頼むから名前くらい直ぐ覚えてくれよ」


 ステファーが豹変するのも、コントローラーの類を手にしたとたんに人格が荒々しくなる一種の二重人格による。シーンもパートナーとしてこの人格に苦労しているのか、リンにも注意を促しており、彼の口ぶりからリンも彼の気苦労も察せずにいられない。ただ彼の気苦労は別の所にあるようだが……。


「一体何様のつもりでして!? 玲也様となれなれしいですわよ!!」

「じゃあ、エクスもステファーと仲良くしようよ~」

「そういう問題でありません事!」

「あっ!」


 フレイアに触れられる事で、エクスがようやく気付いた――ステファーは彼女からすれば玲也を誑かす恋仇になると捉えており、意外にも彼女へも同じ親しみの感情を向けるものの、手を叩かれてしまい、

 

「何やってんだよ! あんたって人は!!」

「シー……えぇととにかく! 貴方はどちらの味方でして!? 」

「俺はシーン……じゃなくて! 俺がステファーのパートナーだから当たり前だろ!!」


  ステファーを傷つけられたら、パートナーとしては黙っていられない。シーンがエクスと口論を繰り広げており、アイラたちもまたシャルたちと平行線のような論争を展開している。電装マシン戦隊とマジェスティック・コンバッツが如何にも相いれなような様子を表していたともいえるが、突如テーブルが彼らの目の前で持ち上がっており、


「お前ら少し黙れー、まだ始まってないからなー」

「……」


 ブリーフィングで使われるはずのテーブルが、リタの片手によって軽々と持ち上げられた。ハドロイドとしての力か、元々ストリートファイトで鍛え上げていたかは定かではないが、彼女の威圧も兼ねたパフォーマンスは少なからず効果があり、全員が足並みをそろえて一斉に机へと座る。


「まぁ、おめぇらを信じた訳じゃねぇけどな……まだとっちめてぇ奴がな」

「本当よ……本当堕ちるところまで堕ちたわね!!」

「来たみたいだね……」


 ステファーやアイラ達は、まだやらかした事例がないとしてアンドリューからすれば、まず穏便に対応するスタンスを取る。その際ニアと目配せを交わすと、やはり彼女として許せないはずの相手がまだこの場に来ていない点で怒りが見え隠れしている。

 彼女の憤りは半分個人の因縁にも起因していたが、もう半分はこの場にいる面々が同じ点を脳裏に思い描いている。エスニックが彼女を一応宥めつつも、ドアが開く様子に各々の視線を向けるように振り向けば――彼女は速やかに席を立った。


「……ひっ!!」

「あんたって人は本当何やってんのよ!! 別に頼んでもないのにさぁ!!」

「あ、あれはメノスが、メノスが勝手にやって……!!」


 ――バングラデシュ代表が現れるや否や、躊躇うことなくニアはカルティアの襟元をその手で掴んで叱責する。過去の因縁もあり彼女達を小馬鹿にしたような態度を取っていた筈のカルティアだが、今となれば自分の機体が既に手を汚し、生じさせてはならない犠牲を生んだショックから脱し切れていない。ニアの顔さえまともに見る事の出来ない様子だが、


「落ち着け! 俺も言いたい事はあるが……」

「ポーを人殺しだって馬鹿にしてたけどね、あんた達のやった事も大量殺人で!!」

「ニアちゃん! 気持ちはわかるけどその……」


 玲也が止めようとするものの、ニアとして思わずカルティアを殺人鬼だと罵る。過去から始まっている事だが、既にいないポーまで同じように侮辱された事を根に持っていた様子もある。カルティアとして、今となっては自分たちが加害者側になってしまった現実の重さを直視しきれない様子もある。ニアと同じく快く思わないリンは少し気の毒に感じていたものの、


「そうお利口ぶって戦えっていうのかよ!?」

「なんですって!!」

「わざわざ女子供を避けて、ビームとかミサイルとかぶっぱなせるかって話だろ!?」

「ほ、ほら……!」


 カルティアが保身を重んじる人物だろうとも、実際ファンボストがやらかした主な原因はメノスにあった――今の彼は全然悪びれる事もなく、戦いで被害が生じる事は当たり前だと言いたげな様子。以前から確執のある彼女ではなく、相方の彼へとニアの憤る瞳も向けられた時、


「メノスはん! そりゃあんまりやあらへんか ウチらが頭下げても許されへんことやったんやで!!」

「同じチームでも女が口だす謂れはないんだよ!!」

「貴様! さっきから女がどうこうと言うが……」

「言いたい事は分かるが、私に言わせてくれないか?」


 マジェスティック・コンバッツの面々の中でも、アイラは少なからず良識を持ち合わせていたのだろう。少し真剣な口調で年上だろうともメノスの非を面と向かって言い放つ。最も彼は年下の女だと軽んじている。その不遜な態度が頭にきたこともあり、ウィンが憤って立ち上がろうとしたのをエスニックが制止して、


「――死者15人、重軽傷者は8人だよ」

「……」

「昨日までは14人だったけど、また一人ね……」

「なんだよ。あそこで戦った犠牲だって言いたいのか、オッサン!」

「ちょ、ちょっと!!」


 静かにエスニックが口を開いて明かす死傷者の数――玲也とシャルがこの数字を聞くや否や顔をうつ伏せてしまう。それでもメノスは慟哭するどころか、鼻で笑うような態度で彼までも馬鹿にした口ぶりであり、カルティアがさらに狼狽していても知った事ではないとの様子。


「避難が間に合わない中で、君が平然とビームを撃たなければ」

「あぁ? あの時直ぐに倒さなきゃダメだったろ!?」

「玲也君とシャル君はあの場で救助に出たよ……二人がいないと間に合わなかったからね」


 エスニックが淡々と述べるが、ファンボストがバグアッパーを仕留るために、わざわざバイオレンス・キャノンを使わなければ回避された事態でもあった。至近距離で相手の動きを封じて無力化させる事も出来た筈だと。

 結局、バイオレンス・キャノンが市街地に着弾した事で被害が生じた。あの状況でライトウェーザーの到着を待つ余裕はないと、戦闘のさなかだろうとも、まだ10代前半の彼らだろうとも被災地へ向かわさざるを得なかったのだと。


「……僕のパパやママンと同じことになってたよ」

「ハードウェーザーが起こした事と考えますと、本当……シャルがいなければ、正直」

「人が死ぬのをそう考えろってのかよ! 運や力がなかったからだろ!!」


 真っ先に救助へ赴いた二人が神妙な顔つきで、救助に赴いたことを述べる。特にシャルに至っては被災地の現場に対して、両親が目の前で炎と共に犠牲となった様子がフラッシュバックしたようで、いつもの彼女らしからぬ憤怒の感情を静かに寄せていた。それでもメノスは罪悪感を抱き、良心にさいなまれる様子すら見せていないようで、するとエスニックの視線が一瞬別の場所へと向いた後、


「なるほど、運や力に恵まれない人たちはどうなってもいいと」

「俺は何度も見てきたからな! ぬるま湯に漬かった女子供に分からないと」

「……なら、振り向いたらどうだ! メノス・ユンケル!!」

「後ろに何がある……!!」


 メノスとして幼少時の頃から、同じような境遇に身を置いてきた様子だった――が、それが彼の独善的な武力介入を赦してよい理由にはならない。良識の一片たりとも見せる様子がない事に、エスニックが遂に声を荒げ、ただ後ろを向けと促す。これに渋々振り向いた彼だったものの、右頬に質量を伴う衝撃が襲い掛かった。平手を打たれた彼の様子にメノスが思わず口を開いただけでなく、シャルも彼に一発お見舞いした相手に思わず驚愕しており、


「ベルさん! 聴いてたのですか!!」

「……ここで戦うのがみんな初めて。だから、私もやむを得ないと思ったけどね」


 義手のメンテナンスでベルは本来呼ばれていないはずだった。その彼女が一部始終を密かに立ち聞きしていた事へ、玲也が驚愕するも、エスニックの様子からして互いに示し合わせていた様子すらある。


「だからといって、居直る理由にはならないから! わかるよね……!!」

「てめぇ、ぶったな……あの女と一緒でな!!」

「誰と一緒か関係ないよ!私が怒ってるのも‼︎」


 ――オークランド近辺での戦闘で最も憤っているのはニュージーランド代表のベル他ならない。激情に駆られるようにして彼女は素手の左手で右頬を思いっきりぶった。血が流れるこの手で痛みを感じるほど、ぶたなければ気が済まなかった。


「や、やめた方がいいよ! あんたがぶったら無事じゃ」

「先にぶたなきゃよかったんだよ!!」


 既にカルティアが、メノスの暴走を止めようとするも歯止めが利かないまま、彼は罪を追及される場だろうとも反省の色を見せない。フィアンセだった同じプレイヤーへ袖にされた――5年前のトラウマを呼びおこされたからか忌み嫌う女に対しても拳を振り上げようとした途端、すぐさまその拳を繰り出した途端、繰り出した上では彼女のパートナーに掴まれる形で制止した。


「自分の目が黒いうちは、ベルに手出しはさせない」

「う、腕が……いでっ!!」

「君の過去は分からなくもないが、自分の前で同じことを言って許されるつもりなら……?」

「ぐっ、ぐぐぐぐ……」


 ジャレコフとして、ベルに手出しをされるだけではなく、彼自身もまた生きるか死ぬか隣り合わせの過酷な過去を強いられた身である。その過去を持つ者であるとの理由で横暴を正当化していい筈がないと怒気を込めた声のトーンと共に、腕の力を加えていった。


「ジャレ~度を過ぎた事だけはするなよー。別に構わねぇけどなー」

「本当なら腕の一本、二本くらい折っちまってもいいけどよ……情けなんかかける理由もねぇからな!!」


 ハドロイドが人間へと度を過ぎた危害を加える事なり、曲がりなりにも世界各国の代表であるプレイヤーを潰すなり――このしがらみにアンドリューは苦々しく思いながらも、メノスを同じプレイヤーとして認める姿勢を見せる事はない。エスニックも彼の憤りは最もだと捉えた上で、


「君の言う通り、犠牲が生じない戦い方が出来る筈はない。最善の注意を払おうとも少なからずの犠牲は出てしまう事はあるけどね……!」

「だからといっててめぇみたいに、踏ん反りがえってる奴にプレイヤーやる資格はねぇんだよ!!」


 殆どのプレイヤーが正体を表向き公表しない事も、万全の体制を敷こうとも生じる犠牲を世界各国の代表として、ヒーローとしてある程度不問にする必要性も少なからずある。

 だがそれはプレイヤーたちが戦うにあたって、必要以上に負の感情へさいなまれる事を避けるため。本来のプレイヤーとして戦う事へ支障をきたす事を避ける一種の措置でもある。そのお咎めなしを自分たちの横暴を正当化する術になってはならないのだ。


「バングラデシュの方にもこの話はしたからね……君の変えを探すようにしてるよ」

「なっ……簡単に変えなんかできるのかよ!」

「元々シャル君のハードウェーザーで、イージータイプだったね」

「……」


 エスニックとして、メノスがプレイヤーとして解雇できるように手をまわしていた――ウィンと同様プレイヤー以外の面々でも操縦する事が可能なイージータイプであり、カルティアがどこか彼女に哀願の目を向けようとしたが、ニアに対して合わせる顔がないと直ぐ顔をそむける。


「でしたら、メノス君たちはビャッコに預ける事にしましょうか」

「そうそうビャッコならまだ……って天羽院さん!?」


 カルティアとしてニアがいるドラグーンより、ビャッコの方がまだ心情的には動きやすいと見なしていた。その打診を持ち掛けていた人物は意外にも天羽院本人。彼女が少し目を点にした所、


「おい、どういうことだ! コイがいる所に俺を送るとか……離しやがれ!!」

「君が勝手に動いたためこうなりました。ステファー君を立てていればこうも」

「……あんたも女に花を持たせるつもりかよ!!」


 フレイアに取り押さえられながら、メノスが抗議をする。だが相変わらず女嫌いの一点張りで主張する彼に対し、無断で行動した結果の犠牲であると、天羽院の方がまだ正論を言っている。彼はすぐエスニックの前に現れるや否や、頭を下げており


「こればかりは私にも責任があります。彼の手綱を握る事が出来ませんでしたから」

「……その考えにつきまして、とやかく言いません。それよりも」

「マジェスティック・コンバッツの解散については、今はないと思って下さい」


 口で天羽院は、自分たち側の非があると触れていたが、エスニックとしてはメノスの身柄を預かる事でどうにかなる問題ではないと言いたげだ。マジェスティック・コンバッツと、電装マシン戦隊を指揮系統で一本化させる事を望んでいる。これには天羽院も実権を完全に掌握させるわけにはいかないと釘をさしており、


「二人とも、この場で戦う理由がありますからね。アイラ君?」

「ほえ……ま、まぁそうや! オトンの為戦わへんといかんし、ステファーもあんさんがバーチュアスなんや!!」

「バーチュアスとかにいるのもだけど、親の為ってのも気に食わないわね」


 天羽院が少し唐突にアイラへと話を振ると、少しぎこちない様子でそれぞれ肉親の為に戦っている事情を触れる。ただニアとすればその理由が理由だけに少し辟易としていたが、


「私たちも私たちで忙しいですので、カプリア君にも伝えましたのでメノス君らは頼みます」

「統合の是非についてはいずれ後ほど……このままでは長くないですからね」

「その通りですね。メノス君、くれぐれも同じ真似だけは控えてくださいね」

「うるせぇ! あの女みたいに袖にしたくせに!!」

「メノス!」


 マジェスティック・コンバッツを巡る話は、この場で収まりそうにない――天羽院として不毛だと判断して切り上げていく。一応元上司として彼がメノスを案じているそぶりはしていたが、彼は狂犬のように噛みついてくる。カルティアが右往左往していた所


「……詳しい話を別に送りましたから、確認をお願いします」

「……」


 天羽院がささやいているが、メノスに対してあくまで一時的に身柄をビャッコへ置かせる必要があったと告げ、そこから実際に動くべき手はずをポリスターへと送っていた。その途端自分の取り押さえるフレイアに対しての抵抗が、どこか控えめになっている様子もあった。


「まぁ、最後その気にさせておいた方が、彼にとっても幸せでしょうがね……」

「今、何て……」

「いえ、ステファー君もえぇと……行きますよ」

「あ、はい……俺はシーンなんだけどな」


 天羽院は何かを言いかけようとしていたが、直ぐ、オーストラリア代表を呼ぶことでその本心をかき消していた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「……何時ものように登校する気にはなれないがな」

「勉強が嫌いなあんただけど、こうも平和だってことよね?」

「この間戦ったばかりだぞ……」


――月曜日の朝。陶沖中のブレザーを着用して玲也とニアが肩を並べている。エクスやリンを同行していると、ハーレムとして周囲からあらぬ目で見られる恐れもあり、当番制のように二人で登校している。

 まるでカップルのようにも見えなくもないが、玲也の顔つきは憂いと惑いを隠しきれておらず、ニアもまた彼の葛藤を汲んでいたように触れる。オークランド近辺でバグロイドとの戦闘が勃発しただけでなく、平穏な地に犠牲も生じている。海を隔てて大分離れている事もあるが、日本ではハードウェーザーとの戦闘行為は報道されながらも、緊急事態宣言などを発令するような動きもない。


「ハードウェーザーがヒーローのように扱われていてもな、もう少し日本は危機感を持てと……」

「玲也ちゃん! 今朝のニュースだけどよ!!」

「と言ってる傍から、浮かれている奴がここに一人」


 この地上で危機感がない現状に対し、玲也が辟易としていた所、ハードウェーザーの熱烈なファンが元気よく声をかけてきた。ニアとすれば少し面倒くさい相手だと言いたげで愚痴をこぼしていると、


「ニアちゃん、俺が一体なんだって?」

「バーチュアスグループが、マジェスティック・コンバッツとを創設した……お前が言いたいのはそれだろ?」

「そうそう、それもそうな訳……玲也ちゃん、何かこの所妙に詳しくなったんじゃ?」


 友人として付き合っていれば、彼の言いたげな事が何か分かってくるもの。その為、彼に合わせるように玲也がサラリとマジェスティック・コンバッツについて触れた途端、彼は少し驚きのニュアンスも含んだ感心を見せる。


「俺も最近関心を持っているからな。バーチュアスグループが電装マシン戦隊を扱いきれなくなった結果、自分に忠実な部隊を持とうとした……だと俺は思うけどな」

「そ、それも聞くけどよ……玲也ちゃん、何か嫌なことでもあったん?」

「別に。あの天羽院とかいう実業家が戦争をプロデュースできるか考えてみろ。そう俺は言いたかっただけだ」

「あれ、もしかしたらあんたも結構根に持ってる?」


 才人に話を合わせる建前には、玲也の本音が見え隠れしている。話が合うのを嬉しく思う傍ら妙に饒舌かつ棘のある物言いの彼に才人が少し戸惑っていたが、ニアはその彼を小声で茶化しつつも、自分も同じ事は考えていたので、少し笑いを抑えながら声が弾んでいた。


「けどよ、玲也ちゃん。何かファンボストとかってハードウェーザーがよ……?」

「……あぁ、バグロイドと戦った際にオークランドを巻き込んだとかだろう」

「そ、そうなんだけどさ! 電装マシン戦隊の評判とか大丈夫なん?」

「そうそう、電装マシン戦隊って……はぁ!?」


 才人がハードウェーザーに浮かれているだけでなく、オークランドを戦場に巻き込んだ事へ葛藤を寄せている点は玲也も頷けた。だが、いつの間にかファンボストが電装マシン戦隊所属との扱いにされている事は、事実を歪曲しているようなものである。ニアが素っ頓狂な声を上げて


「あんな奴が電装マシン戦隊な訳ないでしょ! カルティアがあたしの事なんて……」

「ニアちゃん、何言ってるか分からないけど! ニュース見たらそう書いてあっただけなん!!」

(まさか天羽院の奴が……!?)


 ニアに首元を掴まれながらも、才人は既にニュースサイトなどでそのように公表されている現実を触れる。玲也として胸の内で天羽院が自分たちを陥れようと、罪を着せているのだと捉えていたものの、事実を確認しようとサイトを調べようとしたら最新の映像が飛び込んでいた。


「上海にバグロイド……ってちょっと二人ともどこ行くつもりなん!?」

「悪い才人、急に思い出した」

「急に思い出したって何を」

「適当に考えといて!」

「分かったよニアちゃん……ってええっ、ちょっと俺どうすればいいか分からないよ!!?」


 バグリーズが一歩一歩歩くたび、アスファルトに自らの刻印を刻み付けている。トラックだろうと、タンクローリーだろうと、空き缶のように踏みつぶし、押しつぶされた車体からの爆発が市街地を巻き込んでいく。

 この動画はニュースサイトだけでなく、複数のアカウントから投稿されておりその動画は撮影時間や場所などもそれぞれ異なる――つまり上海の現場から撮影したもので、フェイクではない。才人もその映像を目にして腰を抜かすようなリアクションを取っていたが、玲也とニアが急に引き返した事に猶更驚きだす。

 

『既にアンドリュー君とコイ君を向かわせている! 直ぐにとは言わないが』

「スタンバる事に越したことはないですよね!!」

『そう考えてもらえるとありがたい! 君にも出てもらう事はあり得る!!』

「出る時は出ますよ! 降りかかる火の粉を払ってこそですからね!!」


“上海が炎に包まれようとしている――大気圏内に現れたバグロイドではなく、未知のハードウェーザーによってだ。このハードウェーザーの正体を知らされた事から、電装マシン戦隊に一波乱がまた起きようとする。この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録……だが、この戦いはそうとも限らないものである”

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