13-2 苦闘上海! オーロラに紫電は散った!!

『何なの……何なのよあんたは!!』


――上海は今惨劇に見舞われていた。ネット上だけでなく、地上波でも殆どの曲が予定を変更して上海の惨事を報道に転じざるを得ないほどに。

 バグリーズが上陸すれば、左右にそびえる建築物が押しのけられ、細木のようになぎ倒されるなり、障子のように腕を突っ込まれるなりの二次災害へと繋がっていく。上空から投下されたバグラッシュが踏みつける車は、横転しながら弾き飛ばされるなり、押しつぶされ、スクラップと化し、瓦礫と残骸から火の手が絶えぬ間もなく上がり続けている。


『私がいるうちに、無事で済むと思わない事ね……!!』


 この地で奮戦するハードウェーザーこそ――ウィスト他ならない。この上海の地をバグロイドが蹂躙している事に血の気を隠し切れない。虎戦車ことジャガノーツ形態で、土足で駆け回るバグラッシュ目掛けてカイザー・フンドーを放つ。


『てぇぇぇぇぇい!!』


 左足のつま先から撃ちだされるワイヤーがバグラッシュの脇腹を捉えた。すぐさまアンカーを収納していくと共に、両腕からのカイザー・スクラッシュを貫かせる形で突いていった。上海の地での戦闘だけあり、極力自ら動くことなく、バグラッシュを力ずくでもおびき寄せて倒す術を取っていたが、


『しかし、貴様たちにとって故郷の筈では……』

『殆どが救助に回っているとか言うけど、少し情けないわよ!』


 サンが指摘するのはPAR極東支部から出撃したライトウェーザー部隊の事を指す。セカンド・バディの大半が被災地の救助活動に回っているとの名目をコイはとやかく言うつもりはない。一応3機程のセカンド・バディが加勢に回されていたものの、彼らが後方から砲撃支援でガーディ・ライフルを放つ微弱な援護しかないのである。上海の地に砲撃戦をやれば被害が生じるとの見方も出来なくもないが、


『こ、こっちに来る……!』

『落ち着け! ライフルで狙え!!』


 もう1機のバグラッシュはカイザー・フンドーをかすめるように飛び上がっては、頭部のファング・メランを直ぐに撃ちだす。ブーメランとしての頭部をセカンド・バディに目掛けて撃ちだされた時、とっさにガーディ・ライフルで撃ち落とすものの――迫りくる本体からミサイルが次々と打ち出されていった。


『あ、あぁぁぁぁぁっ!!』

『しまった……ぐっ!』


 ミサイルの雨に滅多打ちにされるセカンド・バディに対し、所属が違えどもコイとして同じ中国人として向かわずにはいられなかった。しかしウィストに向けて山なりに飛ぶ弾頭が次々と着弾し、ウィストの接近を阻む。ロングレンジでの攻撃手段が不足している泣き所を突いて、足止めされている状況だが、


『一方的にやられるなんて……思わない事ね!!』

『待て、早まるな!』


 既にセカンド・バディの1機が機能を呈していた事もあり、コイの憤りは高まりつつある。バックパックからのデリトロス・レールガンを次々と放ち続けるバグロイドは“バグリーズ”だった。

 量産型ながら、ウィストより一回り重厚に見えるバグリーズが姿を現した時、思わずサンの制止を聞かず、コイはカイザー・フンドーを放つものの――高機動の陸戦型として軽量化されたバグラッシュと異なり、バグリーズには刺突するように突き刺さるものの、ウィストの出力で振り回しきれない。


『だから言った……血がのぼりすぎだ!』

『そんなこと言ったって……ああっ!!』


 逆にワイヤーの束をフログローで握ると共に、勢いよく引っ張ればウィストが逆に前のめりに手のひらからの超音波を炸裂させると共に、熱を帯びた衝撃波を見舞う。後詰めとしてバグラッシュが投下され、バグリーズもまた長江から、青緑の巨体の数を増やしていく。


『こ、この野郎!』


 バグラッシュに1機を嬲り殺された事へは、流石に及び腰でいられなくなったのだろう。セカンド・バディの1機がすぐさまソードガンを引き抜いて、脇腹目掛けて突く。同時に頭部のバルカンと胸部の3連ミサイルを同時に繰り出す事でバグラッシュの息の根を止めるものの


『う、後ろだ! 』

『何だ……あぁ!?』


 後詰めとしてのバグラッシュが、ファング・メランを見舞う。僚機から指摘されて気づいた時は既に遅く、口に加えた刃がバグラッシュの首をすれ違いざまにはねていった、メインカメラを喪失した事で、サブカメラの切り替えに手間取る隙をつくように、バグラッシュの本体が背後迄迫った瞬間――遮る様にして生じたエネルギー反応と共に、回し蹴りを見舞われたように吹き飛ばされる。


『間一髪って所かー……』

『あ、あ、貴方はイーテスト……そ、その何と言えば!』

『バーロー! ビビったら先に死ぬって分かれ!!』

『も、申し訳ありません!!』


 イーテスト・ブレードは伝送されるや否や、右足のグレーテスト・バイスを回し蹴りのように繰り出して、足の万力をめり込ませる形でバグラッシュを無力化する。

ライトウェーザーのパイロットとして所属が違えど、最古参かつ花形のプレイヤーとして君臨するアンドリューに対して委縮している。その様子故か、それとも協力へも消極的な姿勢にいら立ったのか思いっきり吼えた。


『怖さは恥ではないし、恐れを知らないのは単なる馬鹿って言うけどなー』

『それで縮こまってりゃいい弾除けなんだよ! 生きて帰るんだろ!?』


 すぐさま、バグラッシュに対してクロス・ベールを両手にしてバグラッシュを捌く。ファング・メランを飛ばされる前に首を刎ね、本体が飛びあがる事を防ぐよう、脇腹から切り上げる。市街地での戦闘の被害を最小限にするために白兵戦へ持ち込む事も、アンドリューからすれば赤子の手を捻るようなものであり、


『おいコイ! 大丈夫か!?』

『だ、大丈夫です……私を誰だと思って!』


 バグラッシュを捌きながらも、バグリーズに追い込まれているウィストの様子を案じる余裕が彼にはあった。これに思わず彼女は無事だと強がるが、口だけでなくカイザー・フンドーのワイヤーを急速に収納していく。重量で優る相手に対して逆に自分が引きずり込まれていく状況に追いやられていたものの、


『ここの代表として負けられないのよ……!!』


 自分が引きずり込まれていく隙に、右手にホイール・シーカーをスパイクのように握る形で、素早くフログローでもあるマニュピレーター目掛けて、一撃を見舞う。マニュピレーターを潰されるとバグリーズが多少怯みながら、カイザー・フンドーを手放してしまう。

 バグリーズによる拘束から解放された後、下半身を直立させながら胸部へもぐりこみ、直ぐにカイザー・スクラッシュを突き刺した箇所へ目掛けて、アイブレッサーを浴びせていった。


『悪いなー、お前が一番その気にならなきゃっての分かるけどなー』

『その気持ちを俺たちが否定する事は出来ねぇけど、早まっちまったらまずいからよ!』


 イーテストとウィストが合流した最中、コイが血気に逸って窮地に陥りかけた点をすかさず指摘した。最も彼女がそう動かざるを得ない衝動なり、感情なりを否定する事はしておらず、


『そもそもお前がパートナーなんだからー、しっかりフォローしろよー』

『お言葉ですが貴方に言われるまでは……』

『そうカッコつけしーしなくてもいいだろー? この間までと違うからなー』

『……』


 コイだけでなく、サンに対してこの状況をどう動くべきかとリタが説く。彼として何時ものように彼女のストッパーとしての役目を果たしていると言いたげだが、彼女は叱るどころかどこか彼をほほえまし気な姿勢で見ている。当の本人は今一つ分かっていないと言いたげな顔だが、


『そうですね……カプリアさんでも今同じような事を言ってたと思います』

『まぁ、おめぇならそこまで心配する事もねぇからよ! その上で手ェ抜くな!!』

『当然です! 地上はこちらで片づけますから、空の方お願いします!!』


 バグリーズと別に、バグアッパーへ空輸される形でバグラッシュが投下される状況が続いている大気圏内でも飛行能力を持つイーテストが飛び立った一方、ウィストは地上の残存勢力を一掃せんとする。中国代表としてこの地を汚すバグロイドを排斥する義務があるのだと、両頬を叩いて気合を入れなおし、


『さぁいくわよ! 私がいる限り生きて還れるなんて……!』

『俺の間違いだろ!!』

『あんたまさか……サン!』

『その“まさか“かもしれないな……直ぐにつなぐ』


 長江から浮上するバグリーズへと向かおうとした瞬間。コイに水を射すように自分の力を誇示戦とする者の声が届いた。声の相手からして既に察しがついていたコイは、直ぐサンに事の顛末を確認させようとしていた中で、エメラルド色のフレームを経てファンボストが電装された事は、彼の声を聴いた時点から察しがついていた。


『メノスが脱走した……やはりな?』

『あの腕をこんな所に使われると思わなかったが……大人しく黙られないか!』

『そうしたいのはやまやまですけど……メノス、無断出撃でどうなると!』

『俺が女に指図されて動くわけないだろ!?』


 あれからビャッコの元へ預かりとの形で籍を置いていたメノスだが、やはり電装マシン戦隊の足並みを乱しかねない行動をとっていた。この事態を想定して実質軟禁状態にしていたものの、彼は見張りに割いたクルーたちをぶちのめして、半ば強引に電装したという。

 ネーラが怒り心頭の心境で、メノスを何としても止めろとコイへ話を持ち掛けてたものの、彼が自分たちに諭されて渋々従うような男ではない。それでもだめもとで呼びかていたものの、実際彼は見事に拒む。


『パワーがダンチなんだよ! 生きて還れる事も出来ねぇんだよ!!』


 コイたちの制止を聞く事もなく、ファンボストはマイマイ・シーカーを両腕のハードポイントへと接続する。右手首が折れ曲がると共にバイオレンス・スクリューが連結され、すかさずに左ストレートをお見舞いする。

 螺旋を描くように回転するドリルによって、ウィスト以上の貫通力を手にした状態で腹部に風穴を開けたのち、同じマイマイ・シーカーに設けられた万力バイオレンス・バイスを左手首に装着させる。すぐさまコクピットが存在すると思われる胸部へと抉る様に突き付けた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『隙が生じれば遠慮なく抜け出してください。そこで手柄を立てましたら大体的にプッシュしますからね』


――マジェスティック・コンバッツからビャッコへと置かれる結果になったバングラデシュ代表。この時点でメノスは天羽院に捨てられたのだと思わず食らいついていた。だがこのメッセージがひそかに送られた事から、彼は今に至るまでの行動を起こした。


『ちょっと! あんたがそう出てるだけでろくなことにならないから!! 聞いてるの……』

「その回線は切れ!!」

「う、うん……」

 

 直ぐにカルティアにコイからの回線を切らせた。シャルやニアを軽視しているような言動が目立つ彼女だったものの、今となればメノスに振り回され、従わざるを得ない状態である。彼としてコイへの確執が尾を引いている事もあるが、


「あのビャッコにもう用はないんだからな! 戻って返り咲いてやるからな!!」

「でも本当に……これでいいのかな?」


 左腕のバイオレンス・バイスに力をめり込ませながら、バグリーズを潰しにかかろうとする。天羽院の言葉を信じての成り上がりを重んじるメノスに対し、カルティアは今まで彼がやらかしてきた事から、既に自分たちの信用がないのではないかと懸念が見え隠れしている。


「力さえあれば何事も這い上がれるんだよ! それを信じるからここにいる!!」

「そ、そうかもしれないけど! なりふり構わずして……左から来てる!」


 だが、メノスとして自分の姿勢にケチをつけられた事と別に、バグリーズの胸部に万力が思うようにコクピットを潰せない様子に苛立ちの念も上がりつつある。その最中左方からバグラッシュがとびかかりつつあった。咄嗟の相手に対しマイマイ・シーカーを左手から射出する。ファング・メランの牙をマイマイ・シーカーのシールドが受け止めるものの、


「なっ……!!」

「きゃああああっ!!」


 その瞬間にして、それまで屈する気配のなかったバグリーズが突如爆散する。至近距離爆散するバグリーズに対して左手で胸部を潰そうとしていた事もあり、彼の爆発を前にして右手首の万力が破損するものの、マイマイ・シーカーに覆われた左腕自体の損傷は軽微であった。


「だめ!シャッターが下りないと無理!!」

「まだ戦えるなら無理じゃねぇ! ここでビビっちまったら何のためによ!?」

「待って、エネルギー反応がまた……!」


 バグラッシュのファング・メランが隙をつくように、胸部へと突いた後に爆散していく。ハードウェーザーを相手に性能で劣るバグロイドは、まるで捨て鉢のような姿勢で自爆同然の攻撃を仕掛けており、実際ファンボストの胸部を中破させるまでに至っていた。

 それでもシーデンガルを炸裂させてバグラッシュの本体を粉砕したものの、上空に巨大なエネルギー反応がある事にカルティアが気付いた途端、目からの光線が直ぐに降りかかる。


『この前は痛い目にあったからよぉ! アイリストで血祭りにしてやるんだよぉ!!』

「この声は……ほぉ!!」


 鉛色のバグロイド、いや同じように電装して出現したハードウェーザー・アイリストは、その二本脚を上海の地へと突かせる。透かさず両腕に設けられたスパイクで高層ビルを側面から抉る様に殴りつければ、瞬く間に倒壊する。この自分より一回りも二回りも上回る巨体の相手に対し、メノスは臆することなく乗り込んでいく。それもコクピットから聞き覚えのある声がしていた事もあり、


『あのハードウェーザーを討ちなさい! そうすれば君の地位は盤石で』

「あんたに言われなくてもそのつもりだからなぁ!!」

「ま、待ってハードウェーザーなら、一人で相手とか……」

「あいつにはいい所迄行ってたからよ、今度こそやるんだよ!!」


 天羽院から焚きつけられた事もあり、ファンボストはアイリスト目掛けて飛び上がっていく。声の主がイリーガストに搭乗していたビトロであり、一度仕留めそこなった事もあり、今度こそはと意気込んでいる。


『待ちなさい! イーテストが合流するまで勝手に仕掛けるのは!!』

「おーおー、飛べないと色々こういう時に不利ってもんだな!」


 ファンボストが無謀な行動に出ている――互いに確執がありながら、コイは早まる事を諫めようとしている。だが既に通信を切っている事もあり、メノスに届く気配はない。それどころか大気圏内で飛行能力を持たない故、巨体のアイリストに対してそこで指を咥えて見ているだけしかできないのだと、彼はウィストを嘲笑っていた。


「また同じ膜張りやがって……」

「だ、だったら一人でこんな相手に挑むのは……」

「いちいち女が指図するな! だったら近づいてやるだけだ!!」


 両足からのバイオレンス・キャノンが火を噴くや否や、サブアームから生じたエネルギーフィールドが膜のように張り攻撃を拡散する。イリーガストと同じデリトロス・ブライカーを展開させてビーム兵器に対して強力な防御手段と化していた。

最もイリーガストの時と同じく、ビーム兵器での攻撃でも砲撃ではなく、至近距離からのビーム刃を突き刺せば粉砕できると見なしていた。よってシーデンガルによる打突での攻撃を目的として懐に入り込む


『……俺は程ほどに退けって釘刺されたけどなぁ』

『う、うぅ……』

『ただ、あんたは別だ!むしろやってくれって頼まれてるからなぁ!!』

「何……ぐあぁぁぁぁぁっ!!」


 アイリストのハドロイドが何者かに操られているかのように、激しい頭痛を感じていた様子だが、イリーガストと異なりビトロはプレイヤーに回っていた為、どのように動くかも彼の意志に委ねられているようなものである。

 間合いを詰めるべきと早々に懐へと潜り込もうとしたファンボストに対し、巨体故の手足のリーチの長さをイリーガストは利用した。左手のクロー・シーカーで受け止める体制を取りつつ、右手を彼の背中へと回り込ませ、逆にブライカーの熱量をファンボストに押し付ける形でクローを食い込ませる。


「あ、あぁ熱い! 熱い……!!」

『な、何やってるのよ! 早く離れなさいよ、早く……!!』

「こんなどさくさに回線入れるなぁ……!!」

『いつまで意地はって……』


 背中からの不意打ちで完全にファンボストが隙を生じさせた。シーデンガルの一撃を見舞う前に、左手のブライカーによる熱と、クローの打突を受けることにより挟み込まれた状態に陥っている。

 熱にあえぎ苦しむカルティアが意図的か、偶発的か知らないが再度通信回線をよぉ入れる結果となり、コイが自分を案じている通信を耳にする。ただこの状況でもメノスが助けを請う事は拒んでおり、彼の頑なな意地が通じたかのように直ぐ通信が遮断される結果となり、


「うぅ、ううううう……助けて、助けてよニアァ!!」

「女がゴタゴタ泣き言言うなぁ……!!」


 背中から襲い来る苦痛に耐えながら、カルティアは必死に助けを求める――例え嫌悪していた筈のニアだとしてもだ。女に泣き言を言われると気が散るのだと、ファンボストの脚部からビームが飛ぶ。クロー・シーカーをマウントするサブアームの基部を狙う事で前方からのブライカーを無力化させたものの、


「これで終わらせてやる! 女に頼らなくても俺は強い事もあいつに……」

『遅いんだよぉ……!!』

「へっ……!?」


 シーデンガルで再度引導を渡そうと意気込んでいた瞬間だった。アイリストの腹部から展開された砲門が冷気を放つ。繰り出したオーロドニーを前にして、セーフシャッターもすでにブライカーの熱によって爛れている。それ故にコクピットを防ぎきる術がないままであり、


「う、嘘だろ、おい待て……」

『メノス……!!』


 一瞬にしてファンボストが凍てつく冷気によって、身動きを封じられた――コイの叫びも既にメノスへ届く事がないまま、胸部が白磁のように白色化するように覆われていき、クローに掴まれて抵抗する術も失われていく中で、アイリストの左手はデリトロス・パイクとしてメリケンのようにアイリストに打ち付けられた途端、ガラス細工のようにファンボストの体は脆く崩壊していった。


「っとまぁ、いっちょ上がり! 俺にかかればこれくらいなぁ……」


 ファンボストが砕け散った事に対し、ビトロは少しうっ憤を晴らす事が出来たと言いたげな様子で上機嫌であったものの――火を噴いた紫色の光が頭部を捥ぎ取っていった。呼応するようにイーテストが脚部のバイスを打ちだして張り付きながら、セカンド・シーカーにマウントしたグレーテスト・バズーカを一斉に繰り出す。


『またハードウェーザーが歯向かってくるとか思わなかったけどなぁ!』

『咄嗟の対応としちゃ上出来……もっと早く俺もいかなきゃだけどよ!』


 アイリストが電装された事に対し、咄嗟にザービストとレスリストの2機を呼んで対処する必要があった。極力被害を抑える上で電次元カノンを放つにあたりアイリストが巨体である故狙いやすい的だった事が功を奏したといえる――直ぐに手を打てたらとアンドリューとして苦々しい表情を隠しきれずにいた。直ぐにオーロドニーを潰さなければと胸部へ集中してグレーテスト・バズーカを放ち続けていた。


『いかれちまったか……まぁ、獲物はやったんだからよぉ!』

『おわっ』


 イーテストの砲撃が続く事により、オーロドニーの射出システムに支障が出つつあった。ビトロとして少し苦々しく思いながらも、目的は果たしたと捉えている。自分の腕に陣取りつつあるイーテストに向け、威嚇の目的でクロー・シーカーを振るう事で、半ば強引に引っぺがして飛び上がり、


『うっ、うっ……』

『無事なうちに引き上げねぇと……おわっ!』


 ハドロイドの方が長時間の運用にまだ耐えられない様子もあったのも、早期に戦線離脱を試みる要因であったが――飛び上がったアイリストの背中へ馬乗りになる形でウィストが電次元ジャンプで飛び乗っていたと気づかされた。


『せめて同じ目に遭わせないと! あんな奴でもね!!』

『こうもやられるのかよ……!』


 ウィストの口からのザオツェンを吹きかければコクピットに熱が帯びる。コイとしてメノスに対し曲がりなりにも仲間としてか、婚約者としてかの情は少なからずあった様子でもある。彼の報復として、道連れになっても仕留めるかのような鬼気迫る動きを見せつけている。

彼女の気迫に押し切られ、そのまま戻れなくなるとの恐れもあり、ビトロは電次元ジャンプで即座に戦線離脱を余儀なくされた。長江上空にてその巨体が消えゆくと共に、宙に残されたウィストが真っ逆さまに向けて降下していくが、


『……全く、世話が焼ける!』


 コイに変わりサンが咄嗟に操縦を試みた。両足裏からのブースターを展開させながら、どうにか着水時の勢いを軽減する事でどうにか最低限のショックに抑える事に成功したが、サンが持ち場から離れてパートナーの頬を躊躇うことなく引っぱたいた。


『……故郷を踏みにじられただけでない。今の貴様を私が否定する資格はないかもしれないが』

『わかってる、私にもわかってるわよ……!』

『そう自覚しているなら猶更だ。今ここで貴様に死なれたら、私に未練は消えん』


 メノスの犠牲が、コイを激情に駆らせていた事はサンにもわかっていた事だった。マールの一件が自分にもあった為感情を否定する事は彼にも出来なかった。だがその上で、後先考えず死に急ぐような行為に走る事は許されないのだと、厳しい言葉を送った。バグロイヤーを根こそぎ叩きのめす事こそ、自分たちの目的なのだから。


『私だってわかんないわよ! あんな奴のどこが悲しいのかさ!!』

『……気のすむように泣け。私が泣き止ませてどうにかなる訳でもないからな』


 少し前の自分なら、彼女が感情に走り激情に駆られる様子を一蹴していたかもしれない。今彼女の心に土足で踏み込むことができないなら、少し突き放した様子だろうとも見守る事こそ自分が出来る術だとみていた。彼女に変わり電次元ジャンプで戦場から離脱していった。


『すみません、さっきからLOSTと表示されたままですが……』

『まさか、ミス・カルティアがってことは流石にないよね!? 僕が知らないところでまさかって』

『……そのまさかが起こっちまったんだよ』

『……』


 遠方から電次元カノンによる砲撃で援護していたイギリス代表だが、最前線で何が起こったかまでは把握しきれていなかった――厳密には既にファンボストが電次元ジャンプでの帰還ではなくLOST表記、戦闘中行方不明の意味を指すMIAと認識されていた現実を受け止め切れていなかったのだ。アンドリューが認めきれなくても事実だと少し強い調子の口調で触れれば、アトラスが言葉を喪ってしまう。


『あの野郎、勝手に出てきた挙句、先にくたばりやがってよ……』

『ハードウェーザー同士の戦いなら、猶更あり得ることかな……スリリングで面白いとか言える場じゃないね』

『クレスロー、今は泣いてる場合じゃないよ。僕たちだってこうなるかもしれないんだし』

『おめぇらも直ぐ下がれ……ここに長くいちゃいけねぇ』


 メノスが独断で出撃して深追いしすぎた事もあるとバンが詰るも、ハードウェーザー同士の対決となれば自分たちも他人事ではないとアトラスだけでなく、ムウも楽観的な姿勢でいられないとの事だった。アンドリューが急遽電装する事になったイタリア、イギリス代表へ早々と撤退を促す。これも既に上海の地が凄惨を極めており、避難する余裕もないままの襲撃として、オークランドの比ではない被害だったからだ。


『あいつらにはショックが大きすぎるんじゃないかなー』

『ただでさえ、言わなきゃいけねぇ事がシャレにならないからな』


 電次元ジャンプでイーテストもまた上海から離脱する。この一戦でどうにかアイリストを退けた事で戦いは終わらない。これからもまた問題であると、苦し紛れにため息をつかざるを得なかった。

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