12-6 この戦禍に怒りを覚え

「ロスティはん、マジェスティック・コンバッツのデビューだっちゅーのに、ウチらは留守番ですかい」

「……アイラ様、控えを残しませんと攻め込まれた場合もあります」

「その彼女の言う通りでもありますが、メノスが抜け駆けされる事は余計でしたね」


 ――PARオーストラリア支部の地下ドックに身をひそめる漆黒の電装艦の姿があった。ゲンブ・フォートレスのブリッジにて、アイラは留守番扱いが少し気に入らないとロスティへ尋ねる。最も彼はアイラの留守番より、メノスが抜け駆けに出た行為を快く思っていない様子でもあり、


「確かまぁ、妹さんが本命とかでしたからなぁ。あぁ何事もギャンブルやさかい。上手くいく保証とかあらへんで」

「……作戦成功率、最低限を見積もりますと85%。ハードルを上げますと……」

「ステファー、私たちの力を見せなさい! マジェスティック・コンバッツの晴れ舞台ですからね!!」


 前線の空気に疎いロスティが地団駄を踏みたい様子だった所、アイラは少し冷やかすように諭す。フレイアが純粋なアンドロイドである故か、淡々と結果をシミュレートしている行為も彼をいらだたせる行為でもある。

 少しいきり立った様子でロスティは妹に檄を飛ばした瞬間だった――オークランドを目指すバグビールズを巻き込むような形で、南太平洋の海原に渦が巻き起こされている。バグビールズが制御を喪うだけでなく、まるで操られるようにデリトロス・レールガンによる同士討ちを起こしていた。


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「ユースト・マトリクサー・ゴー!!」


 カイト・シーカーの目の前でユーストと名乗るハードウェーザーが電装され、そして海上から姿を露わにしていく。白地に橙の線がアクセントとして彩られたレドーム状の頭部から、電磁波“プラズマ・フォース”が放たれており、この電磁波に触れたバグビールズの行動に異常が生じている。ネクスト同様、電子戦に強い機体のようだが、


「見た事がないが……リン、もしつなげるなら繋いでくれないか!」

「は、はい! あのバグロイドはどうしますか!?」

「俺たちが邪魔をしているらしいからな、言う通りに任せる!」


 このユーストが敵か味方か見当がつかない――この不安を払拭させる為にも、ユーストとの接触を試みようと、リンにユーストとの通信用チャンネルナンバーを特定させていた。

 ちなみに、肝心のバグビールズとの応戦は、ユーストによって制御を失った状態で同士討ち状態を起こしている他、ランギトト島からダブルストがハウンド・レールガンによる砲撃を繰り出して攻撃を仕掛けている。この攻撃の射角に自分たちがいるとの事もあり、お呼びでないと判断した所も当てはまるのだが。


「チャンネル繋がりました! 接続を試みます!!」

「よし……貴方は一体誰ですか!? 何のためにここに……」

『ピーチクパーチクうるさい……って!?その声は玲也!?』


 ユーストとの通信を試みる玲也だったものの、ユーストのプレイヤーは荒々しい様子で戦いに水を射すなときつい言葉を浴びせかけた……が、何やら彼の声から彼女に思い当たる人物があるとの事で、


『ご、ごめん! ちょっとステファーは今スイッチ入ってるから、話はあとに!』

「ス、ステファー……ってなると、貴方は確か、ええと……」

『シーンだ! シーン・シュバルカーフだよ!!』


 自分の名前を玲也に覚えられていない様子に、彼が少し腹を立てていたのはともかく、ユーストがオーストラリア代表かつ、プレイヤーがステファーとシーンだとの事は早々に判明した。

 ただシーンはともかく、ステファーが先ほど会った時とは異なる。黄緑色のショートヘアーをなびかせているといった外見の違いはともかく、言葉遣いまで男のように荒々しくなっており別人に近い様子だ。


『ったく、ピーチクパーチク口動かすなら、手動かせよぉ!!』

『わ、分かってるって! 俺達マジェスティック・コンバッツは一応味方のつもりで』

『玲也の分まで頑張ってやるからなぁ……見とけよ!!』

「あ、あぁ……」


 性格に少し難がありそうだが、オーストラリア代表は比較的電装マシン戦隊にも友好的な姿勢はとっていた。ただマジェスティック・コンバッツと名乗る部隊の存在は聞かされたことがない。どうも不安が払拭された訳でもない。

 その中で、バグレラめがけてユーストが切り込みをかける。バックパックのフライト・シーカーに設けられたミサイルポッドから弾頭を射出させて牽制を仕掛けつつある。マシンガンで撃ち落としながら相手も死角を突こうと回り込もうとしているが


『本当こうスイッチが入らなきゃ、平気でコントローラーを任せれるけど』

『何か言ったか! どうせ面白みのない事だと思うけどさぁ!!』

『あ、あんたって人も……畜生、畜生!!』


 実際ステファーの豹変について、プレイヤーとしてコントローラーを握る行為にも関係があるらしい。一種の二重人格者だと彼女にぼやくものの、ステファーから睨まれると共に思わず黙ってしまう。彼女に対して直接意見するだけの度胸がない……というよりも、彼女に自分のコンプレックスを刺激された事で、半泣き状態になっている。

 そんなパートナーの様子をお構いなしにと、ステファーは両手で握るコントローラーに視線を向ける。両指から実弾式のバルカン砲パルサー・ショットを連射させて、相手の動きを封じると共にすかさず背中からパルサー・ソードガンを突き刺し、


『プラズマでやっちまえ!』

『わ、分かってる! バックパック越しにハックしたら……』


 ステファーから命じられると共に、シーンが素早くキーボード操作で特殊プラズマを流し込んでいく――これこそユーストが備える電子戦能力であり、もう1機のバグレラが自分を目掛け攻撃を仕掛けると共に、


「玲也さん! バグロイドが勝手に!!」

「また同士討ち……いや!」


 バグビールズの時と同じように、バグレラ同士で潰しあいが繰り広げられた。ただ背中を突きさされた状態のバグレラが少しぎこちない様子で、両足を突き上げて脚部からのミサイルを射出しつつ、デリトロス・バズーカを手にして応戦する。まるでユーストの盾として使われているのも含めて、操られているようであり、


『あれだな……戦いながら操つれるって奴だな』

「戦いながら操れる……」

「つまり、ハッキングを純粋な戦闘力に上乗せしていると」

『そうならぁ、おめぇらのネクストと似て異なる奴だな』


 このユーストのバトルスタイルを、アンドリューは直ぐに見抜いていた様子。ネクストがブレイザーウェーブによるジャミング能力を駆使して相手を封じるならば、ユーストはハッキング能力を駆使して相手を支配下に置いていたともいえる。

 それも相手と接触させるタイミングでハッキングをかける戦法として、直接的な戦闘能力と絡めたバトルスタイルを確立させていたともいえる。単身での破壊力を抑えめにしている点を補っている事も含め、アンドリューは少し感慨深い様子で触れていた。


『直接だと頻繁には無理だからね……!』

『パルサー・インパルスだぁ!!』


 制御下に置いたバグレラを操って、相手を牽制させる術として使った後、ミサイルの雨を浴びさせると共に葬り去っていった。自分の戦域には既に操った状態のバグレラしか存在していない――膝蹴りの要領で両膝のニードルを突き刺していく。その刃が撃ち込まれたと共に、抵抗の術もなく洋上へと堕ちて粉々に砕けて散った。


『これでとりあえず……じゃない! まだいた!!』

『なら、このままやっちまうだけでなぁ……!!』


 南太平洋上の戦域でバグロイドは駆逐した――筈だった。ファンボストの攻撃からパージする形で逃れたバグアッパーがオークランドへと乗り込もうとしていたのだ。ただ、戦闘機同然のバグロイド1機を相手にするまで、そこまで手を焼かされることはないとステファーは捉え、そのままユーストが接近しようとした途端に、


『女にさせっかよ!!』

「なっ……!?」


 その瞬間、玲也達の目を疑う事態が生じた――バグアッパーを取り逃さないと、女への対抗心に駆られる形でメノスが攻撃に出た。ファンボストが両足を突き出すと共に2門のビーム砲“バイオレンス・キャノン”が火を噴き、地上に向けて斜めに軌道を描くビームが直撃すれば軽々とバグアッパーを貫通した。

 だが、バグアッパーを相手に過剰な火力で葬り去ったような攻撃である。留まりを知らないビームは高層建築物へも命中する。バグロイドより脆い標的となれば、軽々とへし折るだけの力があったのは言うまでもなく、最上階を含むいくつもの階層が地上へと崩落するだけでなく、アスファルトの地表もビームで焼き払っていた。


『ちょ、ちょっと……これって!』

『貴様! シャルを捨てただけでなく、ここまで成り下がるとはなぁ!!』

『ち、違う、違うよ! メ、メノスの馬鹿が勝手に攻撃したんだから!! 本当何やってんの馬鹿ぁ!!』

『ふ、二人とも早く退きなさい! メノスを黙らせてもです!!』


 大気圏内での戦闘が、ただでさえ慎重にならざるを得ないにも関わらず、ファンボストは軽率にもほどがある事をやらかした。ウィンが痛烈に責めるものの、カルティア自身としても自分の機体が平然と巻き込んだ事に狼狽してしまっており、メノスのせいだと主張している。そして彼女だけでなくロスティもファンボストのこの行動は予想外だったようで、


『玲也君、シャル君は直ぐに被害状況を!! 二人にも直ぐに向かわせる!!』

「は、はい! 一体あいつは何を考えて!!」

「拙いですよ……既に避難勧告が出た後でも!」


 エスニックにも多少動揺が現れているようで、玲也とシャルに上空から被害状況を把握するようにと移行させ、控えのイーテストとボックストを救助活動に回さざるを得なかった。

 いうまでもなくコクピットの中で玲也は憤りを隠せず、コントロールパネルを思わず拳で叩きつける。またリンが言う通り、既に戦渦に巻き込まれる事を危惧し、ニュージーランド全域で避難勧告がなされ、シェルターへ退避されるよう促されていたものの――被災者がゼロだとの保証はどこにもないのだから。


『ロスティさん! あんたって人も一体何考えて!!』

『わ、私だって一体どうすればよいか分からないんですよ!』

『なら、早く助けないとダメじゃないですか! バグロイヤーと同じことしてどうするんです!!』

『今助けますと、ステファーさんも何言われるかですよ?』


 同じマジェスティック・コンバッツに所属しながらも、同僚の蛮行にシーンは黙っていられなかった。玲也達に追随するように救助活動に向かうべきだと、思考能力が停止した状態のロスティへ強く意見していた。だがロスティに変わるように落ち着いた様子で却下する者からの通信が入る。


『ミ、ミスター天羽院! そうですよ、ステファーが危ない目に遭う事だけは』

『これは予定通りですから、ロスティも落ち着けばよいですよ』

『予定通り……ミスター・天羽院? 今何と』

『あっ、いえ。メノス君が言う事を聞かない可能性も計算に入れてましたから』


 自分に泣いてすがるようなロスティに対し、天羽院は淡々と今後の方針を提示する。オーストラリア代表のユーストを真っ先に立てる意向を無視するどころか、市街地に被害を生じさせればハードウェーザーそのものへの信頼も失墜させかねない行為をやらかしている。その問題児極まりない彼を上手く利用できる策があるとの事で、


『ステファーさん、早く離脱してください。お兄さんの事もありますから』

『わ、分かったぜ! ロスにいの事ならとっとと……』

『あっ、ちょっと待って!』


 その上で速やかにファンボスト共々戦線から離脱するように、天羽院はロスティの面子にも関わってくるとステファーに揺さぶりをかける。人格が豹変しようとも兄を特に思う彼女は即刻、電次元ジャンプによる戦場からの離脱を選ぶ。シーンが止める間もなく、


『やってくれましたねメノス君……ですが、私の役に立ってもらいますよ』


 静かに天羽院がほくそ笑む。炎上するオークランドへとネクストらが向かっている事をまるで他人事のように捉えていた上で、その先を見据えていたかのように。


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次回予告

「突如現れたハードウェーザー・アイリストが北京を火の海と化す。俺たちはアイリストのハドロイドを捕まえたが、その正体は電次元への使節の一人だったマイクで、カプリアさんの後輩だった。おかげでスパイの疑いが掛かってしまい、カプリアさんが天羽院に連行されてしまう。だがその時を狙って刺客が襲い掛かってきた! 次回、ハードウェーザー「オーロラに消えたマイク」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」

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