12-3 まさかバレた!? プレイヤーの秘密

「玲也様、今日のランチはどこがよろしくて? 私はバラマンディとオーシャントラウトがいいなと……」

「……」

「あの? 玲也様が召し上がりたいので構いませんですわ。玲也様がお好きなものでしたら……」

「……あのシーンという男、どうも怪しいな」

「はい?」


 会場に向かうまでの間、二人のデートが再開されていたものの、玲也の様子がどこかおかしい。心ここにあらずの様子であり、エクスの問いに対しても、彼女の疑問と全くかみ合わない事を口にしてしまい、


「れ、玲也様!? 誰かは存じませんがまさか私よりも、殿方の方を……」

「……待て、一体何を勘違いしてだな」

「シーンとの殿方の事を気にされていたではないですか! 一体いつの間に私の知らない恋人を……」

「俺にその気はない! ほらあいつだ、ステファーと一緒にいた彼の事だ!!」


 エクスが妙な勘違いを起こしていた為、玲也は自分が禁断の恋に興味はないと慌てて否定する。シーンが怪しい事を触れる。先ほど一瞬であっただけか知らないか、既に彼女はシーンの事を忘れかけていたようだが、


「……あ、あぁ。あの面白みのなさそうな殿方のことですが玲也様が気に掛けることなど」

「いや、お前と同じタグがあるような気がしてな……」

「私と同じ……ってmあの殿方がハドロイドでして!?」


 玲也がシーンの首元にタグを一瞬目にしたことを触れる。彼としても目の錯覚かもしれないと断定しきれていない様子なのもあったが、彼の話に対してエクスは少し半信半疑の様子である。


「お前が疑う気持ちも分かる。そもそもフォートレスに転送されてもないからな」

「その通りですわ……まるで私たちが知らないルートを経由されているのかしら」

「知らないルート……十分あり得るな」


 今までハドロイドの面々はフォートレスへ転送されていた――シーンが自分たちと接点がないまま、この地球で平静を装って日々を送っている事はあり得ない様子だが、彼女が触れた別経由によるものと触れた時に、何か思いだした顔をしており、


「ポルトガル代表も、バングラデシュ代表も揃ってバーチュアスに行った。ついこの間になるが」

「そうですわ! カルティアさんがあそこまでニアさんの事を嫌いましてもね!!」

「確かにいろいろ問題がありそうだがな……」


 ――別経由から、玲也は電装マシン戦隊からバーチュアスへと移籍したプレイヤーの事を思い出した。カルティアについて因縁のあるニアだけでなく、エクスからしても自分勝手な相手だと快く思わない様子であり、彼女も手厳しい態度をとっており、玲也も彼女を擁護しきれない様子で少し言葉を濁している。


「フレイアさんという方も一体何を考えてます事! 最近のハドロイドはよくわからなくて」

「一度も会っていない相手を悪く言いたくはないがな……」


 そしてポルトガル代表となるフレイアに対しても、バーチュアスへ走った事を快く思わないようでエクスが苦言する。ポルトガル代表に関しては本当玲也達との接点がないままであり、何とも言い難いが、


「もしかしたら……オーストラリア代表かもしれないな」

「オーストラリア代表? あのステファーがそうでしたら、複雑怪奇もいいところで……」

「俺の思い過ごしかもしれないが、何かあいつが良く分からなくてな……」

「……よくわからない方なのは、間違いではありませんことね」


 仮にシーンも同じバーチュアスの管轄に置かれたハドロイドならば――彼と一緒にいたステファーがプレイヤーではないかとの憶測が玲也の脳裏に横切る。マイペースが度を過ぎたようなステファーは、不思議系以上でも以下でもないとエクスが否定的だったものの、彼女のつかみどころのなさに、妙な懸念や不安が呼び寄せられていた様子であり、


「俺の考えすぎかもしれないが……どうも分からない事はやはり恐ろしくもある」

「そ、そうですわよ! ステファーもですし、あの面白みのない殿方がその筈も」

「お前、さっきから面白みがないと言うが……知り合いか?」


 現時点で具体的な答えにたどり着けそうにないと、玲也は早急に判断するのは難しい見解だった。彼を安心させようとエクスが二人はオーストラリア代表ではないと否定したのだが――どうもシーンを面白みのない男と先ほどから評していた事に、玲也として何らかの因縁があるのではと、若干気にもなっていた。思い切って聞いてみたところ


「いえ、初めて顔を合わせましたが、どうもなにといいますか、あの顔見てますとどうも……」

「何だろうな……おっと」


 実際の所エクスとシーンは赤の他人であり、過去からの接点など一切ない。彼女がわざとごまかしている様子でもなく、本心から彼を面白みのない男だと直感で捉えている。

エクス自身戸惑いもある様子故、玲也もそれ以上聞くことはやめて、ミラクルベースのホビーコーナーに目を通す。


「……オメガ合金ヴィータスト、次回の入荷は未定」

「あぁ、結構それ直ぐ売れちゃっててね。その割に生産終了とか聞いて、ウチも困ってるんだよね」

「確かタカトクの主力商品と友人から聞きましたが、商品展開を打ち切るのは余程何か事情があったのでしょうか?」


 ハードウェーザーのプラモデルや合金トイが置かれているコーナーにて、この間発売したばかりのヴィータストに関するお詫びの広告に目が行った。少し肩を落としている玲也へ、店の主人らしき横に幅広い男が少し残念そうに入荷の見込みがない事を述べている。売れている筈なのに生産を打ち切るタカトクの姿勢――バーチュアスの意向が絡んでいるのではないかと何となく考えていた所、


「よく分からないけど、バーチュアスが今度のイベントで商品展開について新しく発表するらしいからね」

「それと関係がありそうですかね……」

「そうだね、一般入場のチケットも滅多に当たらなくてね……その様子だと君も多分貰ってない筈だよね」

「はは……そうですね」


 バーチュアスのイベントチケットについて、玲也たちはテッドから既に受け取ったものである――それを電装マシン戦隊と関係のない相手に話すことは勿論出来る訳がない。


「だから、正直今あんまり揃ってないけど、欲しいのがあったら買ってくれると嬉しいな」

「ありがとうございます。ちょっと友人への土産で、ローカライズバージョンを買おうとは考えてます」


 主人との会話を覚えて、玲也はオメガ合金のレーベルの棚をじろじろと眺める。見た限りイーテスト、ダブルストはヴィータストと同じ完売状態。そしてネクストは何点か残っており、ブレストは僅か1点、おそらく最後の一品が残されていたので、手を伸ばそうとした時


「玲也様、何でブレストでして?」

「いや、別に決まった訳ではないが……才人に何か買おうかと考えていてな」

「あ、あぁ……才人さんへのプレゼントでしたら、相応しいですわね」


 クロストの商品がその棚に置いていなかったのだが、自分の目の前で、ニアの機体であるブレストを選んだ事が面白くない。少し意地悪そうにエクスが尋ねたところ、彼が躊躇いなく才人へのプレゼントだと触れれば、どこか拍子抜けしたように納得していた


「最近付き合いが悪いと言われてるからな……埋め合わせのつもりでも買いたくてな」

「玲也様が気に病む必要はありませんわ。別にあのような品のない軽薄な方など玲也様と不釣り合いでして」

「その不釣り合いな才人と俺は、1年前に知り合ってな……お前は分からないかもしれないが結構よい所の家だぞ」


 才人との仲について、玲也は彼なりに気を配っている様子であった。実際一緒にゲーセンへ行く約束をこの用事のために玲也は今日も蹴った。その上それまでも電装マシン戦隊の隊員としての仕事もあり、付き合いが悪いと詰られる事が増えていた事を機にしていた。

 エクスが言う通り、プレイヤーとしての義務を果たす事を優先しなければならない事に変わりはない。友人に対しての苦言の内容も一応間違ってはいないと触れつつも、彼は自然と彼のバックボーンへ踏み込んだ話をしていた


「あいつの両親もバーチュアスグループの重役、あいつ……二人の兄もエリートじみてるからな」

「……それですと、まるで鳶が鷹を……いえ、鷹が鳶を産んだようでして」

「あいつは末っ子で期待を寄せる必要もないとの事でな。お祖母さんが亡くなるまでお姉さんと一緒に預けられていた」


 才人は親から期待されていない環境で育ったとの事であり、これは言い換えれば無関心な両親の元に育ったと口にしようとしたが――流石に残酷な例えになると躊躇した。


「たかが周囲から期待され、言う通りにして舞い上がったあいつらと一緒だからな……辛いだろ」

「何か玲也様、私に言っているような気がしますが……」

「それはお前の考えすぎだ。正直頭にきて俺が一発ぶん殴ったこともあってな」

「れ、玲也様……!?」


 最も兄二人に対しては玲也自身憤ることがあったようで、彼らに直接手を挙げた事が過去にあったらしい。冷静な姿勢の根底に血気のある面を時折見せる一面がある事はエクスも把握していたものの、その過去はその上でも驚かされるものであった。


「俺がはみ出し者と馬鹿にされるなら構わない。ただ才人を俺と同じ馬鹿だと言われたら黙っていられなくてな……」

「なるほど……申し訳ありません、玲也様らしいですわね」


 玲也が手を挙げた理由が才人を馬鹿にされた事による――ニアやリンが馬鹿にされた時と同じような彼の行動原理ともいえる。自分が同じような目に遭えば同じように怒ってくれるのかと、エクスが少し憂いを寄せた瞳を向けるのだが、


「はみ出し者同士の付き合いで、あいつと貸しも借りもある。最近付き合いが悪い埋め合わせはしないとな……おっ」

「もう玲也様ったら! 才人さんの事は分かりましたけど、今は私とですね……」


 その関係だからこそ、出来るだけ才人とは友人の付き合いを忘れずにいたい――玲也が彼のプレゼントを探そうとしていたが、エクスからのアプローチは見事スルーしていた。少々不満ありげな彼女だが、棚にはクロストの商品がいくつか置かれている事を目にしたとき、


「あら、私のオメガ合金……思っていたより出来が悪くないですから当然ですわね」

「……ま、まぁな」

「あら、玲也様どうしまして? お顔が引きつってましてよ……?」


 玲也が気付いたのはつい先ほどであったが、出来る事なら、今のエクスだけには気づいてほしくなかった――けれども、彼女たちはクロストのパッケージに赤いシールが値札の上に張られていたのだ、それも50%Offと大きく記載されていた文面であり、


「なんですってー!! 玲也様と私のハードウェーザーですのよ!!」

「あぁ、ほら言わんことない……落ち着け、とりあえず落ち着け」

「玲也様、よく落ち着いていらっしゃいますね! いつも前線でバグロイヤーと戦ってます私たちですのに、どうして、どうして!!」

「だからそう大声でわめきたてるな、人がいたらどうする」


 自分の機体の商品を手にしてブンブン振り回しながら、エクスが癇癪を起こす結果となった。玲也が彼女の口を何とか抑えて落ち着かせようとしているが、あまり効果はない様子であり、、


「同じ玲也様のハードウェーザーですのに! ブレストとネクストとの差がありまして!?」

「あぁ、すみません何でもない話です! 正体不明のハードウェーザーのプレイヤーは一体誰だろうとの事で」

「本当ね、正体不明のハードウェーザーのプレイヤーがねぇ……」


 激昂するエクスに、客が関心を持ってしまう事を玲也は何としても阻止しようと必死。少し余裕を失っていた彼の後ろで聞いた覚えのない声がした。落ち着いているトーンで、内心特ダネを掴んだように興奮が抑えきれない彼女に対して、“まさか”と玲也が恐る恐る後ろを振り向いた結果、


『玲也様、よく落ち着いていらっしゃいますね! いつも前線でバグロイヤーと戦ってます私たちですのに、どうして、どうして!!』

「玲也ってことは、まさか……」


 その女性は懐からICレコーダーを取り出して、興奮して騒ぎ立てるエクスの音声がほぼそのまま再生させた。誇らしげに笑う彼女と対照的に、顔が徐々にひきつっていく玲也であったが、当の彼女は何か新たな発見を見出したようだった。


「エクス、あんた何で正体ばらすような真似をするの!!」

「ニアさん! まさか後をずっとつけてたのですか!?」

「当然じゃない! あんたが何やらかすか心配で後を付けた結果がこれじゃないの!!」

「ニアちゃん、こう私たちが出るとばれてしまいますよ!!」


 リンの能力で玲也たちの会話を密かに盗み聞きしていたが、事の重大さからしてニアが顔を真っ赤にしながら駆け寄ってくる。エクスの胸倉を掴んで、マシンガンのように突っ込みを浴びせるが。別の意味で彼女も冷静さを失っている様子があり、リンが慌てて飛び出して警告する事も、リンハリンで落ち着いていられない様子でもあり、


「俺はただ才人へのプレゼントを買おうとしただけだが……何故にこうにもややこしい事に」

「才人……やっぱり!?」

「悪いがそこまでだ」


 それぞれ冷静さを欠きながら、3人が言い争いを繰り広げている。そして玲也は最悪な状況に発展した事へ頭を思わず抱え、その場で崩れ落ちるようにへたり込んでしまった。ただその女性は才人との名前に何か反応した所、彼女の背中に冷たい感触の筒が突き付けられる。まさかと思いつつ身が少し強張りながら不利婿と、


「ちょ、ちょっと貴方……まさか電装マシン戦隊の!?」

「こいつらは機密だ。とりあえずレコーダーは渡せ。カメラもだ」 


 素早く後ろから彼女を拘束した後に、左手に握るレコーダーを接収しようとするサングラスの男――ラディの姿があった。けれども二人ごと目の前の女性にカメラで撮られた後、


「悪いけど既にデータは送ってもらったわ。あとこの写真を公に公開すればどうなるかしら?」

「先輩!」


 黒縁の眼鏡をかけた女性が、デジカメで先ほど捉えた画像を見せつける。ラディが後ろから瑠衣と呼ばれる女性を羽交い絞めしている様子が撮影されており、場合によっては婦女暴行に見なされかねない光景――思わずラディは“してやられた”表情を浮かべながら、瑠衣にとって先輩と思われる女性の元へ突き出した。


「悪いわね、電装マシン戦隊の方に脅迫するとのもどうかだけど、瑠衣に手を出されたから」

「……ハードウェーザーのプレイヤーとして、玲也を世間に晒すな。興味本位でしていいことではない」

「……やはりそうみられてるかしら?」


 その彼女は瑠衣のレコーダーを手にしてとある操作をした後に、ラディへ向けて軽く放り投げた。受け取ったラディが操作するが、少なからず再生を押しても先ほどのエクスの言葉は流れる事がない。


「貴方たちがシドニーに来たという事は……同じ目的じゃないのかしら?」

「お、同じ目的……い、一体何の事で?」

「ジーロさん、事後報告で悪いが……将軍につないでくれませんか」


 彼女はプレイヤーの正体を知って個人的に探究心を満たして引き下がった訳ではない。彼女に自分たちの目的を追求されて玲也が苦し紛れな言い訳をするものの、ラディは即刻エスニックへと通信を繋いで別の手段を取る事を選ぶ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「全く、あんたは絶対とんでもない事やらかすってそりゃ思ったけど、まさかここまでやらかすなんて!」

「ニ、ニアちゃん……もう済んだことですからもうなるようになるままですよ」

「そりゃまぁそうかもしれないけど、あたしも流石に呆れてものが言えないわよ!!」


 グレーのワゴン車の中で、ニアは真っ先にエクスを詰る――リンが彼女なりに擁護はしていたものの、エクスが大人げない言動を取らなければ、自分たちの正体が知られる事がなかったのも事実である。


「あのですね! クロストが叩き売りされている気持ち、貴方たちには分かりませんでしょうね!!」

「別にわかりたくないわよ! あんたみたいに売れ残る気持ちなんて!!」

「う、売れ残りでして……! ニアさんたちはデートの邪魔をするだけで物足りないのでして!?」

「デートどころでなくなったのも、大体お前のせいだ」


 エクスとしては、自分の失言以上にデートを台無しにされた事での苛立ちの感情が勝っていた――最も半分自業自得であると玲也がポリスターの液晶を彼女に見せつけると、


『エクス君、メル君はまだここにいるからね。君の心がけ次第では早く引き揚げてもらっても……』

「申し訳ありません、これも私が余計な事を言いましたばかりに」

「……」


 エスニックから少しため息をつかれ、メルの名前を出した途端にエクスが一転して大人しく頭を下げた。彼女だけでなくリンが震えあがっている様子も含め、メルのアレがどれだけ恐ろしいものか改めて玲也が察しつつ、


「本当俺も迂闊でした。まさかエクスからこうも簡単に知られるとは……」

『いや、こればかりは流石に玲也君の責任というのも無理があるからね』

『一応プレイヤーの正体は秘密にする決まりはないんじゃ。ただ玲也君が正体不明の扱いじゃからのぉ……』

「そう、ですよね……俺の正体が知られるとえらい事になり得ると」


 プレイヤーの正体に関して、マーベル達ドイツ代表のように堂々と世間へ公表している例もある。ただ大半のプレイヤーはリスクが高いと捉えているようで正体を世間に明かすつもりはなく、玲也もまた同じスタンスのつもりだった。

 特に世間で正体不明のプレイヤーとの特例で、自分が3機のハードウェーザーを操っているなら秘密を順守する義務があったと言える。エスニックとして原因が原因だけにフォローしていた所、


『最もマリウス君とは、先ほどアライアンスを結んだからね……こちらで安全の保障と契約金の手配を後で済ませるよ』

「そ、そうなのですね……凄く手際が早いですね」

『何、マリウス君も同じバーチュアスを探る事で目的が一致したからね』


 エスニックとして玲也達がまだ子供との事もあり、この事態のてフォローとケアを施す必要があると直ぐに動いた。

 瑠衣の先輩となるフリーのジャーナリスト“マリウス・サコミズ”を電装マシン戦隊と契約を結んだことで、玲也がプレイヤーである秘密を世間へ漏洩させる事を止めると共に、それらの制約の代償として、彼女の取材に関する安全面と経済面の保障を約束させる条件で手を打った。実際玲也達を乗せたマリウスの車に追随するよう、ジーロとラディがエレファンで彼女を護衛する体制をとっている。


『急な契約を結んだばかりで何ですが、マリウス君と瑠衣君もドラグーンへ来てもらえれば』

「そのつもりです。電装マシン戦隊を知る事が必要ですからね……」

『手間をかけさせて申し訳ないですね。直ぐに終わらせます』


 マリウスとしても一応電装マシン戦隊との契約に納得はしていたようで、今は彼らへ追及の手を伸ばす事はしなかった。冷静に対応する彼女の隣では、


「しかし、まさか才人の友達がプレイヤーなんてね~」

「瑠衣、あんまり浮かれないで」

「す、すみません。ついプレイヤーが身近にいるって考えただけで」

「……瑠衣さん、初めて会う身で何ですが」


 一人舞い上がっている彼女舵手―南出瑠衣こそ才人の姉である。弟と幼少時同じく祖母の元に預けられていた後、報道カメラマンを目指して家を飛び出したとの事は玲也も聞いたことはあった。けれどもその姉とこう顔を合わせることは初めてであり、黒髪のショートにスーツ姿の彼女でも、小綺麗な外見のエリートではなく、サバサバとした様子はやはり彼と姉弟だと捉えた。


「出来る限り秘密にしてほしいですが、くれぐれも才人にだけはどうか……」

「ははは、才人のお姉ちゃんだからそれくらいわかってるって! 知ったら気が気でなくなっちゃうからね!!」

「……そう捉えてくれると助かります」


 友人として才人を巻き込みたくないと玲也は釘をさす。瑠衣は自分の真剣な頼みに対し、フランクなノリで接していたものの、姉として弟を不安へ陥れる事はしたくない故の配慮していた様子に、やはり安心を覚えた。


「……けど、正体不明のハードウェーザー、そのプレイヤーがまさか子供だったなんてね」

「れ、玲也様を子供扱いされるのはやめてくださいまし! 私たちもですけど!!」

「エクスちゃん、余計な事今言わない方が……」


 その最中マリウスは少し車のスピードを上げて、半信半疑もとい、少し呆れたようにつぶやく――あえて3人に聞こえるようなボリューム故、エクスが食って掛かり、リンが彼女を止めようとしていたが、


「……確かに俺たちはまだ子供です。しかし俺たちには譲れないものがありまして」

「そういう事を私は聞いているんじゃないの。ハードウェーザーとか私嫌いだから」

「先輩! 私は好きですから言いますけど、バグロイヤーから地球を守ってくれてるヒーローですよ?」


 玲也に対しても、マリウスはどこか冷淡そうな姿勢である。彼らへ歯に衣を着せない言い方で不穏な空気が漂うのではと、瑠衣が彼らを擁護しようとした所、


「確かにバグロイヤーの侵略を阻止している事は認めてるわ。ただハードウェーザーを世間が英雄のように持て囃してるのが嫌なの」

「それは……俺は別に有名になろうとかお金の事とかで戦っている訳ではないです」

「だーかーら、そういう事を聞いてるんじゃないの。君が仮にそうだとしても上が変わらなきゃ意味ないじゃん」

「上ってなると……あの天羽院って奴?」


 反論する玲也へマリウスはそういう話ではないと一蹴するも、先程よりすこし和らいだような口調になっている様子。上に問題があるとの口ぶりからニアが察しており、


「ハードウェーザーを売り物として扱っているじゃない? 今度はわざわざ私兵を集めてて……じゃないかしら」

「……おっしゃる通りですね。俺達がそこをどうすればかですが」

「君が悪い訳じゃないわよ! 才人の友達って、目を見ればわかるもん!!」


 マリウスがハードウェーザーを嫌う元凶はバーチュアスにある。電装マシン戦隊と同じ仮想敵が一致したのだと、玲也たちと彼女の緊張した空気が少し氷解したような雰囲気もあった。

 ただ、このバーチュアスの横暴をイチプレイヤーとしてどうすれば解決するか――彼自身そこまで答えを出せておらず言葉に詰まった時、瑠衣は彼はバーチュアスの思惑に染まらないはずだと擁護していた。根拠と無縁の情に走った理由であるものの、


「才人の言った通り、良い友達だって見てて思うの。バーチュアス関係なくまっすぐ前を見ているなぁって」

「ありがとうございます……」


 そこで瑠衣がバーチュアスのやり方に苦言を呈しつつ、隣の玲也が弟の友人として、一人のプレイヤーとして一途でまっすぐだと評した。エクスが少し彼にきつい視線を送ったかどうかは定かではないが、玲也は少し顔を俯かせて顔を赤くしていた。


「全く才人も君みたいに、自分を強く持ってくれたら姉としては嬉しいんだけどね」

「……俺は何だかんだ友人とみています。同じはみ出し者同士で気があるのかもしれませんが」

「ううん、確かに君がはみ出し者としてもね、才人は一人で生きてけないタイプじゃないかなって……私にも未だ姉ちゃん姉ちゃんって」


 才人はおそらく姉に対しても、自分と同じように高いテンションで振る舞っている――だが、それは本当の彼ではなく、誰かに構ってほしいとの甘えも含まれていると瑠衣は察していた。両親から期待されなかった環境に加え、逆に期待されて育った兄二人の存在も加え、彼を本当は孤独な心を隠している。玲也も薄々と察していたものの実の姉から告げられると彼自身も胸が痛むような思いもした。


「真実を追い求めたくてね……私はカメラマンを目指して家出したの。才人もあとちょっと逞しくあってほしいかな」

「……何か俺にできる事は」


 玲也にとって才人は時々馬鹿なふるまいをして自分の頭を悩ませることもあるが、父を超えるゲーマーを目指し一筋だった自分の道を認めた上で、解きほぐしつつ支えていく相手ではあった。彼に自分が支えられていたかもしれないが、見方を変えれば彼が自分に依存していたのかもしれない。その上で才人に対して自分は何が出来るのか――例え彼が憧れるハードウェーザーのプレイヤーであっても、それと話が別だと少しうつろ気な表情で窓の景色を眺めていた。

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