12-4 狙われた会場! オーストラリア支部へ急げ‼︎

 「こいつが花形なのは俺にも分かってるけどよ……」


 かつてシドニーに設立された第二空港は、現在宇宙開発を想定したPARのオーストラリア支部へと姿を変えた。最もバグロイヤーとの戦争が勃発した今となれば、彼らに求められるのはバグロイヤーへ自分たちが対抗できる事を誇示する事になる。

 最も、ハードウェーザーと異なり華々しい活躍に恵まれないPARの人気はいま一つの筈だが――主催するバーチュアスグループが代替的な宣伝を行った為か、観客の動員数からすれば十分盛況といえる結果を叩きだしていた。取材陣を含む観客は漆黒のライトウェーザーを模した等身大の立体物へ関心があった。同じPARの面々がプレゼンテーションに徹している様子をアランは少し冷ややかな目で見ており、


「サード・バディが俺でも扱いにくい代物、確かにパワーが違うんだけどな」


 立体物の背に設置された大型モニターでは、漆黒のライトウェーザー“サード・バディ”の茂木線の模様が延々と映し出されていた。2機のセカンド・バディを相手に宙を飛びながら、模擬戦用のガーディ・ライフルを的確に命中させるだけでなかった。このサード・バディをある程度知っている口ぶりで触れるアランだが


「流石、新型ライトウェーザーも軽々と使いこなしてますね」

「兄貴か……ただのデモンストレーションだけどな」


 両腕に設けられた円盤状の盾をアンカーに連結させた状態で射出させ、セカンド・バディをからめとって動きを封じる。透かさずもう片方のガーディ・クラッシュから展開したソードガン刃を懐に突きつけた事で模擬戦の映像は終わりを告げた。

 サード・バディが新型でパワーも一回り、二回り違う機体だろうとも、アランは自分の手足のように使いこなしていた。背後からロスティが称賛の言葉を送った所、


「そのデモンストレーションでも、我々を支持する声が増える……有意義な事で」

「何が有意義なんだよ兄貴! 俺よりハードウェーザーの方が目当ての癖によ!!」

「当たり前じゃないですか。オーストラリア代表として鳴り物入りですから」


 アランとしては、単にちやほやされることだけが目的ではないが――ロスティは機体の性能以上に世間への話題性を狙っているPARのパイロットとして前線の空気を味わっている弟に対し、兄はバーチュアスのエリートとして前線の空気には疎い。だからライトウェーザーよりハードウェーザーを注目するつもりだが、


「本気でステファーを出すのかよ! 実戦経験もないんだぞ!!」

「ですが、殆どのプレイヤーが実戦経験もありません……ゲームでの腕をそのまま実戦で発揮すればよいだけですから」

「実戦だけでって言うけどな! そう簡単にできるもんじゃねぇぞ、兄貴!!」


 アランはステファーの実戦投入へ断固反対のスタンスを取る――前線で叩き上げてライトウェーザー部隊を纏めるまでに至ったアランからすれば、実戦経験が物をいうと主張する。それと別にロスティが実の妹へドライに接しているのに対し、彼はどこか過保護な様子もあるようだが、


「そうそう、一人でハードウェーザー3機を操るプレイヤーもいるのはご存じですよね?」

「正体不明とかのあいつか! だから何だってんだよ!!」

「そうそう。何やら実戦経験もなくステファーよりも年下で」

「……だからって、俺はステファーを出すのは反対だからな!!」


 ロスティが触れるプレイヤーは、世間で正体不明のプレイヤーとして、ヒーローのように話題を集めている13歳の少年の事を指す。アランとして不機嫌な顔つきになり、対抗心を燃やしていたものの、兄がステファーを戦わせることを正当化させようとしている言い分だと分かり、乗せられる迄には至らなかった。


「まぁ最もステファーがその気になってますし、ミスター・天羽院が評価してますからね」

「その天羽院とかも、どうも信じれねぇけどな」

「口を慎みなさい、ミスター・天羽院も考えてくれてますから」


 けれども、アランがどう反対しようともステファーがその気だとの事で、次兄だろうとも止める権限がないとの事。ロスティだけでなく天羽院がそのような流れを後押ししている――実際その彼が、サード・バディの立体付近で自らプレゼンを続けているようで


「皆さん! このサード・バディの性能が違う事がよく分かるのではないでしょうか! 大気圏が戦場になりうることを想定した次世代ですが、戦火が拡大する前にでも……」

「少し宜しいでしょうか?」

「……おや、貴方は何処の記者ですか?」


 天羽院がサード・バディの性能よりも大幅に盛って。マスコミの面々にアピールを続けていた所、マリウスがすかさず疑問を突き付けんとした。彼女の所属を先に問う様子から、彼にとって自分に不都合な意見に耳を貸したくない姿勢が漂い、少し声が上ずっているようにも聞こえるが。


「私は何処にも所属していないフリーよ。それより、演習でなく実戦での活躍を見せる方が効果的じゃないありませんか」

「それは確かに……ですが、そう好き勝手にこちらから戦闘を起こしてよいはずもないでしょう」

「なら、ハードウェーザーを相手に実弾での演習でもやってみたらどうかしら?」

「せ、先輩! いきなり何を言うのですか!?」

 

 マリウスは自分のペースを崩すことはなく、サード・バディの実力を疑問視している事を率直に述べる。瑠衣ですら先輩の歯に衣を着せない言い方に戸惑うが、本人はお構いなしの様子だった瞬間――遠方から鈍い爆音が鳴り響いた。


「おい、あそこで燃えてるぞ!」

「何ですって……!?」

「ちょ、ちょっと何!? イベントとかじゃないはずなのに!!」


 爆音のした方を振り向けば、管制塔と思われる施設の頂上から炎と煙が巻き上がっていた。瑠衣が思わず目を点にして呆然とするように口をぽかんと開く。


『……PARおよび、電装マシン戦隊に告げます……これは警告です』

「け、警告って、ま、まさか爆弾……他にも爆弾があるとでも……!」

少したどたどしい様子で、オーストラリア支部全域に放送が響き渡る――その声の主はまだ声変りを迎えていない、子供らしき人物だが、大の大人であるロスティが既にパニックを引き起こしており、


『人気のない倉庫を爆破しましたが……他の爆弾も直ぐ爆発、します!』

「あの野郎、ガキかもしれねぇけどな!!」

「アラン、どこに行くんですか!? 私たちも早く逃げないと」

「俺はPARの隊員なんだよ! 人の命を見捨ててられるかよ!!」


 他にも爆弾が仕掛けられている――脅迫の内容が明らかになると共に、マスコミの面々や観客たちが我先にと会場から逃げ出しており、一目散に飛び出そうとし瞬く間に混雑する状況へ至った。ただアランだけは兄の制止を振り切って飛び出していった。玲也達ハードウェーザーのプレイヤーへ対抗心を寄せていながらも、人命を最優先とするスタンスは通じるものがあり、逆に身近な兄には理解しがたい概念のようでもあった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「早くして! まだ全部じゃないんですから!!」

「急かすな……狙いがずれたらどうする」


 ――倉庫から煙と火の手が上がり、PARの隊員たちによる避難誘導が行われるのを横目にニア達が独自に時限爆弾を除去しようと動いていた。ニアに急かされながらラディが、すかさず両手でショットガンを構えて発砲する。荒っぽくも時限爆弾の機能を停止させる事で爆発を阻止する術を取った。サイレンサーを備えても消音しきれていないが、逃げ惑う人々の騒ぎがどうにかかき消していた。


「おそらく、時限爆弾はあと2つ……3階と5階です」

「別々で間に合うの!? 二手に分かれた方がいいんじゃ!」

「なら、私が5階に行きます! 起爆しないように出来るかと……」


 ――そしてリンが同行しているが、彼女のタグの力により仕掛けられた時限爆弾の場所を突き止めるためでもあった。残り2つを3人がかりで除去するとなれば、タイムロスもあるのではとニアが懸念する所、リンは自分一人で除去しようと試みていた。


「でも大丈夫なの!? あんた一人が無理しすぎたら……」

「大丈夫です! 二人にもしもの事があるよりは!!」

「その力の負担まで分からないが……迷うと余計危険だぞ」

「ま、迷ってません! これでもエージェントですから!!」


 ハッキングを始めとする電子戦に長けたリンであるが――その力を長時間駆使し、複数の爆弾を制御化に置くことは容易ではない。ニアが案じる中、リンは大丈夫だと強く主張していたが、ラディから迷っているのではないかと触れられた途端、少しムキにもなっているようであり、


(あの声はもしかして……ううん、お姉ちゃんが聞き間違える事ないはずで……」

『今アラート・ルームに着いた! クロストですぐに向かう!!』

「れ、玲也さん……! あ、あのその……はい!!」


 リンが飛び出していったのは、自分の能力が時限爆弾の除去に最適な点だけでなく、バグロイヤー側から脅迫する声へ明らかに聞き覚えがあった為だ。彼女の胸の内に不安が渦巻いている最中、玲也からの通信に思わず取り乱してしまい、


「わ、私たちは大丈夫ですから、慌てないでゆっくり着て!!」

「って、今そうも言ってられないでしょ! 直ぐ来なさい!!」

『ニアさんたちの気持ちはごもっともでやすが、電装先をどうするかでやすよ!』


 思わずこの状況で不釣り合いな事を、リンが口にしてしまい、ニアから直ぐに突っ込まれた――彼女たちがクロストの到着を待ち望んでいるのも、クロストのゼット・フィールドを利用すれば時限爆弾を安全な場所で除去及び、爆発の被害をほぼ皆無に抑える事が出来るためである。玲也とエクスはエレファンを介してドラグーンへと戻り、今電装されようとしているが、


『人目に付くところで電装したら大事になりましてよ!? もう少しニアさんもそこを弁えて……』

「お前の言いたい事は分かるが、俺達も必死だ。ジーロさん」

『わかってるでやすよ……っと今、特定できたでやすね!』


 ジーロが言おうとしたことをエクスが口にする――クロストをオーストラリア近辺の海底へと電装させる事を想定しており、これも人々のいる場でその巨体を晒す事が余計人々を混乱させかねないと判断した。クリスが最善の電装先を探り出している途中だと理解しつつ、ラディはジーロへ速やかな対応を促した。


「俺達も早くしなければ……っておい!」


 無論自分たちがすぐに時限爆弾を除去する必要があったものの――玲也達と話している間にニアはエレベーターへと足を運んで、ボタンを押すもののうんともすんとも言わない。この非常事態に呆れたようにラディが突っ込む。


「そうじゃん! こんな時に動くわけないのに!」

「全く……早く階段を探せ!」

「待ってください!」


 既に時限爆弾が起爆した状況で、タワーのエレベーターが稼働しているはずがなかった。玲也達と話している間、そこまで気が付かないままエレベーターに足を運んでしまった事へニアが思わずやらかしたような顔を浮かべている。

 ただ、少し呆れながらもラディが引き返そうとした時、そこまでの時間を無駄にするよりはとリンがタグを握って目を閉じると共に――エレベーターの戸が開いていった。彼女の力だと察して直ぐに3階と5階を行先に指定したと共に、


「ちょ、ちょっと! 本当大丈夫!?」

「こ、これ位大丈夫です……終わった後に少し休めば大丈夫と」

「……直ぐ俺が3回で外してくる! お前たちは5階に行け!!」


 リンの体が少しふらついており、思わずニアが彼女の体を支えた。既に彼女が力を使いすぎているのだと察して、ラディは彼女の負担を軽減させる意味もあり、二手に分かれる事を選んだ途端、


「ま、待ってください……今除去されたようでして」

「何だと……!?」


 3階の爆弾が何者かに除去された――リンが気付いたと共にエレベーターの戸が開く。既に用がないフロアの筈だが、3階を駆け回る男がエレベーターのフロアを目にしており、


「なんだお前ら! エレベーターまで動かしてくるなんてよ!!」

「まさか、あいつが……!?」

「待って! 爆弾を持ってます……もう壊された状態ですから」

「ほぉ……」


 少しガタイが良く、おかっぱ頭の男こそアラン本人――PAR隊員として避難活動だけでなく、単身で時限爆弾の除去に赴いていたようだとリンが気付いたと共に、ラディが少し感嘆の声を述べ、


「お前たちは5階に行け! 俺が何とかする!!」

「えっ……わ、分かったわ!」

「……お前ら! 5階にも仕掛けられてるから、早くしろ!!」


 目の前のアランにあらぬ疑いを賭けられ、自分たちの活動が妨害されかねない――ポリスターを受け渡したのち、アランが咄嗟にニア達へ命じる。最も彼の口ぶりでアランも部下に時限爆弾の除去を果たせと檄を飛ばす。電装マシン戦隊への対抗心も少なからずあったようだが、


「PARの隊員なら知りたいと思うからな……電装マシン戦隊の者だ」

「……やっぱりな! ガキまで連れてきてこんなことやらせるなんてよ!!」


 ――ラディはためらいもせず、あっさり自分たちの正体を白状した。アランとしても薄々察しているのか、驚く様子は見せなかったものの、ニア達の正体まで知らない者として、このような時限爆弾の除去へ同伴させている事を詰っていたが、


「確かにガキかもしれないけどな……そう片づけれない奴ばかりでな」

「だかだといって、俺達PARが守らねぇといけないんだよ! そいつらのようなガキもな!!」

「ほぉ……引き立て役だとかで前座とかで腑抜けた奴らと思ったがな」

「てめぇ! 俺らPARを馬鹿にするならな……!!」


 ラディとして、玲也やニア達をガキと呼びたくなる心境は理解しつつも、彼らなりに戦いへ赴いている事を説く。それでも子供に軍隊の真似をさせている事にアランは首を縦に振ろうとせず、PARが電装マシン戦隊の前座だとみているような彼に思わず拳を振るった途端、


「確かに電装マシン戦隊になるがな……フラッグ隊はちやほやされん」

「……」

「結構重いな……スパーリング位は務まる」


 すぐにアランの拳を片手で受け止めつつ、ラディは彼の拳の重さから察しつつあった。そして電装マシン戦隊の一員でも索敵や支援などの縁の下の力持ち、陽の目が当たらないフラッグ隊に彼が所属していると知れば、わずかながら関心が湧いてきた。


「ラディさん! 無事送りましたから!」

「なら、直ぐに出る! ここに用はもうない!!」

「そうか……って、おい!待てよ! 」


 その最中、ポリスターを手にニアが5階の非常階段から下って、ラディたちの元へたどり着く――既に残された爆弾は除去されたと捉え、ラディもオーストラリア支部から退くことを選ぶ。あっという間に現れるや否や、風のように去っていく彼らに少し呆然としたものの、我に返ったアランが呼び止めようとすれば、


「お前のような男もPARにいる……顔は覚えておこう」

「……俺はアランだ! ハードウェーザーに負けねぇライトウェーザー乗りだからな!!」


 ラディが足を止めなくとも、振り向き際にPAR隊員としてのアランの気骨を称賛してもいた。この思わぬリアクションに少しアランは拍子抜けしたと共に、毒気も少し抜けた様子を漂わせていた。

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