7-6 斗い迫るゼルガの思惑
『アルファから報告を聞いたんだけど……アステルもいっちゃったと?』
「アルファ君が言うのでしたらそうでしょう、サーディーさん」
それから暫く後の話――ゼルガはモニター画面に映る男“サーディー・ツー”から戦況について聴収を受けていた。その男はキツネのような目の下の長いまつげが際立つ、彼が女言葉を使っている様子から化粧のつもりなのかもしれない。
『サーディーさん? あなた言っとくけどアタシはお目付け役、つまりアタシがエラいの。そこの所ちゃんと分かってるのかしら?』
「いやはや……本当はサーディー君って私も呼びたいのですが」
『全く……これだから王子様は扱いにくいのよ』
このサーディーという人物は一応ゼルガの上官にあたる――最も彼がお目付け役と称している為直接的な上司ではなく、上司に該当する者の側近なり腰巾着なりなのかもしれない。ゼルガが彼をあくまでさん付けと一応敬意はあるのかもしれないが、フランクな様子で接しているのに変わりはない。それが上司としては少し面白くない様子なのだが、
『……もういいわ。三番隊が壊滅したから、あなたの一番隊とアルファの二番隊しかいないけど……最も、実績なり経験なりとアルファの方が上なのよ?』
『まぁまぁサーディーさんよぉ、ゼルガ総司令にあまり重圧をかけてはいけませんよ』
「なるほどね……確かに既に半分割っているかな」
『その通りよ! だったら貴方が何とかしなさいよ!!』
どこかマイペースでつかみどころのないゼルガに合わせても、自分が疲れるだけ――サーディーは本題に話を踏み入れる。
そこで前線の総司令官として成果が芳しくないゼルガに対して、アルファを引き合いに出して更迭なり免職なりをちらつかせる。アルファは彼を窘めているようだが、エリルやアステル同様ゼルガを軽んじている様子は見え隠れしていた。当のゼルガはとぼけたような言動で受け流していたが。
「いえ、実の所申しますと大体計画通りに事を運んでいるのですよ」
『計画通り……まさかあなた開き直るつもりかしら!!』
「まぁまぁ、そもそもこういうのも何ですが地球側はハードウェーザーによって私たちと互角以上に渡り合えてます。力押しで押し切って倒せる相手ではないのですよ」
『そうなると、今まで見殺しにしてきたのかい?』
「その方が、アルファ君の都合がよいのでは?」
劣勢に追いやられていく前線部隊を率いる立場として、ゼルガなりの構想を語る。早い話、彼はあえて負け続ける事を黙認していた話になる。アルファが彼を冷酷だと揶揄おうとしていたが、ゼルガの言葉に当てはまる所はあり口を閉じた。
「最もハードウェーザーを無力化することが出来ましたら、地球側はがたつきますよ。そうさせるにはハードウェーザーを世間が過信させるほど勝ち進ませる必要があったのですよ」
『……つまり、今までの戦いは敵に油断を刺せるためとの事かしら?』
「前任のナナッシェ君の時は分かりませんが、少なからず私はそう動いてきたつもりです。言い方は悪いですが敵に弱いと思わせるのが大事なのですよ」
『それはまぁ、随分軽く見られたもんだなぁ……』
そのゼルガの目論む計画へ、サーディーは一応真面目に耳を傾けだした。アルファにとって自分たち前線のたたき上げの面々を弱いと断言されることはプライドを傷つけられることであったが。
「申し訳ないアルファ君。一応今までもこれからも踏みとどまるであろう君をそういったのは悪かったよ」
『……どこまで思っているのやら』
『お黙り。だったらゼルガの考えている事を私は信じてよいのかしらねぇ?』
「まぁ、それについては負けません、必ず負けはしません。前線の総司令官としてそれだけは約束しようと思うのですよ」
ゼルガ自身が思い描く戦略の構想は自信があふれるものであり、それに少し圧倒されたようにサーディーはアルファと顔を見合わせたうえで彼に一任する方針へと定めた。それもありゼルガ自身少し肩の荷が下りたように息を吐く。
「最も負けてから上手く巻き返すまで慎重に考えないといけないのですよ。もう少しだけ猶予と……アルファ君には上手く負けてもらわないと困るのだよ」
『上手く負けろとは随分酷い言い方だなぁ……』
「いやいや、戦上手こそ負け戦でも上手く立ち回れるというのだよ」
『アルファ、今はゼルガの言う通りになさい。私たちも考えないといけない事があるから』
『はっ……とりあえず今はゼルガ総司令の言う通り負け続けます』
かくしてサーディーからの通信はそこで途絶えた。アルファが不満を募らせたままであることに一抹の不安を抱きながらも、ゼルガは肩でため息をつきながら司令室のソファーに身を任せた所、
「ゼルガ総司令、よろしいでしょうか?」
「おぉ、メガージ君……遠慮せず入ってほしいのだよ」
「留守を任せるのはともかく、私にはこの雰囲気はやはりどうも……いや、それではありません」
ひと時の休息を遮るように、少し野太い声でメガージが呼ぶ――軍議での疲れを感じさせない様子でゼルガはメガージを迎え入れていたが、当の本人は相変わらずつかみどころのない彼の様子に困惑もしていた様子だが、
「そうだね、もうそろそろ私も動かなければね……ユカ」
「はいゼルガ様。これは私たちが動かなければいけない事です」
「ありがとう。いつも君に苦労をかけて申し訳ないのだよ」
「構いません、私の旦那様ですから従いつくすことは当然です」
メガージが話そうとしている内容を察知して、ゼルガは今後自分たちが動くことをユカへと打ち明ける――最も夫婦として徐々に二人だけの世界に足を踏み入れており、部外者のメガージが咳ばらいをして二人を引き戻した後、。
「ゼルガ様がやはり動かれるなら……とうとう勝つためにアレを使われるのですか」
「まぁ、確かに私は負けるつもりはないのだよ。勿論私が出るつもりだからその間はお願いできないかな」
「はっ……! このオール・フォートレスを任されたからには!‼」
それでもゼルガが立ち上がる決意をした事に対して、メガージは一転して期待を寄せた。アルファやアステル達と異なり彼自身はゼルガの力量を疑う様子を見せていない。ただゼルガ自身は口で彼の期待を裏切らないつもりであると告げたものの、自分と彼の展望が必ずしも同じではないことにどことなく憂いも帯びた表情を僅かながら浮かべた。
「ゼルガ様、メガージ様の事は……」
「正直彼は分かってくれると信じたいのだよ。最も今それよりも私が立たなければバグロイヤーは、ゲノムは本当に負けて滅ぶかもしれないのだよ……」
ユカの耳打ちにゼルガは笑いながらも、どこか苦々しく現状とありうる今後の事態を触れる。それでも彼は“負けなければ勝ち”であると信じた上で自分の戦いへ踏み出そうとしていた。
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次回予告
「ウィストが、コイさんたちが突如消息を絶った。俺はネクストで捜索に出たがそこに現れた白銀のハードウェーザー・リキャストに俺たちは敗れ捕らわれた。そのリキャストを操る男こそ、バグロイヤーの司令官ゼルガ。だが彼の話に俺は耳を疑った!次回、ハードウェーザー「強敵ゼルガ、白銀のリキャスト!」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」
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