7-5 斗い制した力と技

『てやぁぁぁぁぁっ!!』


 それから暫く――レスリストが数機のバグレラの迎撃にあたっていた。頭部を収納してライトニング・スナイパーを連結させたボンバー形態により、少なからず機動性は向上している。バックパックからいくつもの弾頭をを照射して相手を牽制させる。そして、足を止めたバグレラに対しては前方へと展開した足先の万力“ライトニング・バイス”で深く胸元を突くようにして蹴りつけていった。


『アトラス、かっこつけてる場合じゃないと僕は思うよ!』

「別にカッコなんて……クレスロー! 照準は」

『何とかなるみたいかな!』


 最も目の前の1機を撃墜したか確認する余裕はない。自分たちへ関心なく、ソロへ降下しようとするバグレラに狙いを定める。機首のライトニング・スナイパーは狙撃用に適している事もあり、長距離の砲撃に適していたが――別方向から放たれた弾丸にバグレラが撃墜された様子だった。


『馬鹿野郎! お前が守るっていうからなぁ!!』

『すみません、バンさん!!』


 ソロにはザービストが構えたままジャッジメント・バズーカよる砲撃支援を行っていた。バグロイヤーがソロを奪回せんと侵攻してきた為、フェニックス・フォートレスからのレスリスト。ザービスト2機が防衛にあたっていた。

 最も、トランスポーター兼武器庫の役割を果たすカーゴ・シーカーにて、ザービストが陣取って搭載されたバズーカで支援にあたる役回りは、バンがコクピットで不満げな表情を浮かべている様子からして、バンにとっては本意ではない様子もあった。


『ったく、そんな戦いだから、玲也に追い越されるんだよ!』

『……!!』

『バン、無駄弾も撃たない、無駄口は叩かない』

『なら、俺に撃たせるな! 本当は俺が前に出るのにあの野郎……!!』


 バンが前線で切り込んでいく事を望むのも、華やかな晴れ舞台だからではない。小柄さと機動力を生かした上で、腕部の電磁加速装置“リニアッグ”による強烈な一撃を叩きこむ。一撃離脱、電撃、強襲の色合いが強い白兵戦型のハードウェーザーがザービストだからだ。

 本来狙撃用となるレスリストは逆に後方へ控えるべきだが――アトラスからすれば直ぐの後輩とはいえ、玲也に戦績を抜かれた事に焦りを生じさせていた。フェニックスが他のフォートレスに出し抜かれる事を望まないと、マーベルの意向もありアトラスに花を持たせる事に至ったが――ムウに窘められるもバンは手厳しく彼をしかりつける。


『ノン! アトラス、見てくれる子がいないんだし、そこまで気負う必要はないと思うよ僕は!』

『悪いけど僕はイギリス代表……代表なんだ!』

『ノン、待って! 何かすごい速さで来てるよ!!』


 クレスローが彼なりに一応励ますも、今のアトラスもまた若干根を詰めていた――が、後発のプレイヤーに追い越される事は、イギリス代表としてのプレッシャーがさらにのしかかる結果となる。集中力に乱れ押し寄せたが生じていたのか、それとも相手の接近が尋常ではない早さなのか――。別方向から迫るダークグレーのバグロイドにライトニング・ソーを構えようとするものの、


『モ、モニターが……!!』

『ノン、撃ってきたのは実弾じゃなく……うわぁっ!!』

『これなら俺にもな……!!』


 レスリストが弾丸を切り払った瞬間、眩い閃光が目の前へと押し寄せる――閃光弾が炸裂すると共にモニターの異常が生じる。目の前のバグロイドはこれが狙いだったかのように、間近まで切り込んでは、思い切りレスリストにタックルを浴びせて突き飛ばす。


『ノン……バグロイヤーでこんなに動きが速いなんて!』

『ハードウェーザーを倒せば割に合うというなら……弱い貴様をこのアステルが倒してやる!』

『一体どういう……うああああああっ!!』


 怯んだレスリストに向けて、バックパックに設けられた“デリトロス・フンドー”をレスリストへ向けて放った。極太のワイヤーの先端に設けられたナイフが装甲へと突き刺さると共に、両手でワイヤーをつかんで振り回していく。

 比較的重量級のレスリストだろうと振り回していくバグレラらしき機体は、従来のバグロイドらしからぬ性能を発揮する。機体ごと振り回されている状況にアトラスが衝撃にあえぎながら戦慄する――なぜか彼がハードウェーザーの中で自分が最弱のような立ち位置も、バグロイヤーの人間が知っている事も含めて、


『なるほどな……俺の思うがまま、まるで俺のように動かせるとこうなる訳か!!!』

『馬鹿野郎! 何もたついてだな……』

『ノン、バン! そんなこと言ったって相手がただものじゃ……』


 黒ずんだ灰色のカラーリングのバグレラからパイロットの声がする――が、まるでこの機会の巨体が、自分自身のようなことを口にしている。

 パイロットが搭乗している時では、中の人間の身が持たないとの点で制約を設けざるを得なかった、バグロイドの運動能力が解放された。さらに人機一体と化したバグレラは可能な限りチューンが施された事により、ハードウェーザーに殴り込んではこのように振り回す戦法を取って圧倒していたのだ。


『このアステル・バイオンの強さは止まらない! 加速するんだよぉ!!』


 ――アステル・バイオンは人ではなく、バグレラの脳として咆哮する。自分自身の変わり果てた体を呪っていた様子だった筈だが、今となれば自分がエースパイロットを凌ぐ力を得たのだと、この体に酔いしていた。

 可能な限りレスリストを振り回し続け、中のパイロットにダメージを与えた上でデリトロス・フンドーを収納させていく。レスリストが引き寄せられたと共に、右手にしたデリトロス・エッジを振りかざした瞬間だった。


『なっ……!!』

『おっとバン……とうとう来たみたいだよ』


 アステルカスタムのバックパックに向けて、次々と弾丸が雨のように降り注ぐ。2発かすった時点で彼が飛び上がって背後を振り向くものの、同時にデリトロス・フンドーの刃からレスリストが抜け落ちて事には気づいていない様子だ。

 そして、アステルカスタムの背後を取るように電装したエメラルド色の機体――ムウはこの状況を任せられるだけの力量を持つハードウェーザーだと笑みをこぼしており、


『あれは……確かベルさんに、それに』

『アトラスは早く逃げて! 僕とベルと玲也君で何とかするから!!』

『シャル……って事は……やっぱり』


 高速で振り回される状況から解放され、辛うじて意識を取り戻したアトラスは目の前の機体について確信した――ベルとジャレコフ――厳密には一人他にいるが彼女らが操るニュージーランド代表ハードウェーザー“ボックスト”が姿をあらわになったのだ。


『シャル、ベルさん! こうも言いたくないですがくれぐれも無理は……』

『その声は……やはりブレストのパイロットと同じだな、玲也!!』


 ただボックストは脚部に内蔵された数々のミサイルポッドに、両肩から突き出したメテオ・レールガンから砲撃戦に特化した機体ではある。本格的な実践が初めてなり、長いブランクから復帰したなりとの事情があれど、人機一体であるがゆえに常軌を逸した機動性を誇るバグレラカスタムには分が悪いだがブレストからのパイロットの声を聴けば、アステルは反応しており、


『まさか、ブレストまでここに出るとはな……』

「その声は……アステル! 生きてたなんて!!」

「落ち着け、いや……ここで俺たちが動かなければ意味がなくなる」


 再度アステルが立ちはだかる――姿を大きく変えながらも、のうのうと生き延びていた彼を前に、ニアは思わず言葉に怒りがまとわりつく。玲也は彼女を軽く窘めるもの、ここで決着をつけなければ意味がないのだと否定しない。既に飛ばしたウィング・シーカーで丁度良い場所を特定させると、


「……あんた、今から電次元ジャンプするつもりなの?」

「そうだ。しっかりカタを付けてこそポーとレインさんが報われる」

「そのために3割相手にハンデをつけても?」

「3割だろうと5割だろうとこの戦いはいずれにせよ俺たちが勝つ、そう俺は確信している」


 その後すぐ、ニアに電次元ジャンプでアステルを誘い込む旨を伝える。最初彼女は1機相手に電次元ジャンプでわざわざ誘いこむのは彼らしくないと疑問を抱くものの、彼がこの戦いに賭ける想いと、その為に電次元ジャンプでエネルギーを消耗するハンデを背負っても勝てると自負する強う信念があり、


「……あんたが信じてるなら!』

「よし……すみませんベルさん! 前言撤回ですが!!』

『大丈夫……曲がりなりにも玲君の先輩だよ?』

「その言葉、信じてますよ! ベルさんもシャルも!!」


 アステルと決着をつけると玲也は意気込む――この意気込みを無駄にしないと、ベルは彼を自然体な様子で送り出す準備は出来ていた。既に自分たちの元へバグロイドの増援が接近しつつあり、彼らを最悪自分だけで相手にする状況になろうとも、臆する様子を見せない。


『くたばれぇ!!』

「ポーの真似なんて……! 玲也、いい場所見つかったから行けるよ!」

「分かった……俺は逃げも隠れもしないぞアステル! 南南西で待つ!!」


 アステルカスタムは両足に収納されたデリトロス・エッジの刃を突き出して相手を蹴りつけようとした――まるで、キューブストのように。ポーの想いを踏みにじられてたまるかと憤るニアだが、今は電次元ジャンプで彼を誘い込むことを玲也は優先とした。

 わざわざ近くのレスリストではなく、まるで頭に血がのぼったようにブレストにアステルの行動ならば、おびき寄せる事は容易い。そのように捉えた玲也は半ば挑発めいた言動で、自分が電次元ジャンプで飛ぶ場所を告げながら姿を消す。念には念を入れるようにわざわざウィング・シーカーを彼の視界に移るような場所へと飛ばし、自分の転送先へと緩やかに動かしていると、


『おのれ……敵わぬはずだろうとも俺を馬鹿にして!!』


 まるで餌につられたように、アステルカスタムがブレストの元へと向かいつつあった。最低限の注意は払う必要があるとバックパックのデリトロス・バズーカから閃光弾を射出するも――炸裂する前に放たれたアンカーが絡みつき、別の方角へと投棄されると共に標的を巻き込まず空しい爆発を遂げる。


『シャルちゃん、上手! でも早く!!』

『正々堂々ってのもかっこいいけどね……勝つためにちゃんと手を打たないとね!』


 ボックストの両腕と両足裏にはワイヤー付きのアンカー“メテオ・アンカー”が4基内蔵されている。捉えた閃光弾に向けて射出した上、爆裂する前にアンカーで捕獲しては別の軌道へと投げ返すことまでシャルは成し遂げており、ベルも思わず称賛の声を上げる。

 それだけでなく、逆に両肩のメテオ・レールガンでアステルカスタムのバズーカを潰す。ブレストを追うがゆえにやはりアステルは周囲への警戒が散漫になっており、シャルの口元が緩む。


『サム隊長! アステルが戦線を離脱していきます』

『あのバグロイド人間などほっとけ……いや、あのハードウェーザーを先に始末するぞ!』


 そしてボックストの元へ迫るバグロイドの群れは、本来ソロ攻略作戦を指揮していた二番隊所属のサム・トレートが率いていた。ソロへと向かう3機のバグレラはデリトロス・マシンガンを放って牽制に入るものの、彼らに応酬するように両足を突き出す姿勢で、3連ミサイルポッドから弾頭を次々と射出する――弾幕を形成すると共に両足裏からメテオ・アンカーを突き出してバグレラの胸部をつかみにかかる。


「捕まえて撃てば……逃げられないんだから!!」

『なぁ……なぁぁぁ!?』


 両足からのメテオ・アンカーで掴んでバグレラ2機を地面へとたたきつけるように振り下ろす。今のボックストは仰向けに寝転ぶように機体を伏せて、雪上車状のクローラー形態と化していた。両腕を折り曲げる形となり、メテオ・アンカーで機体そのものを固定している事により、脚部からのメテオ・アンカーでバグレラ2機を振りまわす力を発揮させていた。

 そしてメテオ・レールガンが捉えた1機のバグレラめがけて火を噴く――無抵抗のまま振り回される状態で直撃から逃れられるはずもなかった。


『おのれ、一方的にはな……!!』

『……まずい! 直ぐ変形した方が!!』

『シャルちゃん、アンカーひっこめて! 左だけでいいから!!』

『えっ、えぇと……こうかな!?』


 ただもう1機だけは地面へとたたきつけられる直前に、デリトロス・エッジでメテオ・アンカーのワイヤーを切り裂いて機体の自由を取り戻す。メテオ・レールガンの一撃を避けた後に、姿勢を制御しながらエッジを振りかざそうとするが、


『ミサイルを撃って! 頭の上にもいるよ!!』

『右のアンカーを収納して、飛び上がった方がいい!』

「わ、わかった……近づけさせないよ!!」


 ブランクがあれど、場数を踏んできただけの事はありベルとジャレの指示は素早かった。左手のメテオ・アンカーを収納した事でクローラー形態の左半身が浮上し、90度右に機体を逸らせつつ、両足からのミサイルポッドで迫るバグレラを牽制にかかる。


『時間がないから!右も早く変形して! 早く飛び上がって!!』


 ベルの指示は少しきびきびしたものとなるが、それもシャルがの腕を信じてのことである。右腕のアンカーが収納されると共に、バックパックのレール・シーカーを展開させて浮上する。頭上のバグレラが放つデリトロス・マシンガンが被弾しようとも、再度メテオ・アンカーを射出する。


『ぐっ……! いちいち厄介な手を!!』

『厄介で上等よ……シャルちゃん!』


 左右から繰り出されるメテオ・アンカーに対し、右手にしたデリトロス・エッジを振り下ろしてどうにか切り捨てる事に成功するが――もう一方アンカーまで対処する事が出来ずアンカーが自らの首元を掴んだ。深くめり込もうとも致命傷になり難い部位であったものの、急速にアンカーを収納させながらボックストは接近し続けており、


『これだね……ペレシュート・マグナム!!』

『うあぁぁぁっ……!?』


 すかさずボックストの腰に連結されたビーム拳銃“ペレシュート“が火を噴いた――グレーテスト・マグナムを基にして考案されたいわゆる至近距離用の高出力ビーム兵器であり、メテオ・アンカーで間合いを詰めた上で至近距離からその威力を遺憾なく発揮して目の前の敵を仕留める。


『……ミサイルの残弾は僅かだ、いいか!』

『わかってるよジャレ! 直ぐに決めるんだから!!』


 脚部からのミサイルの残弾が尽きると共に、バグレラもまた反撃に転じる――バックパックからデリトロス・キャノンを展開しようとしており、今にもボックストを狙おうとしている。


『ペレシュートは僕が考えたんだから……ライフルでなら!』

『死ねや……っ』


 ジャレに少しせかされるようにして、ペレシュートに左腰のホルスターに収納したロングバレル、スコープ、ストックらのオプションパーツを接続していく。ペレシュートにはマグナムの他、マシンガン、ライフルの3タイプへの組み換えが可能である故、長距離の砲撃に適したライフルで狙い打とうとするが――バグレラの方が動きが速かった。


『ぐはっ……!』

『大丈夫か、ベル……!!』


 デリトロス・キャノンでボックストを照準に定めた瞬間だ――バグレラの後方から高速で打ち出される円錐状の物体の存在に気付かされた。ただ急遽振り向こうとしたときは既に遅くジャッジメント・クラッシャーによって後方から機体そのものが抉られていくような衝撃を受けながら、倒れ込んでいった。ペレシュート・ライフルが直撃した時点で既に機体の機能は停止しており、


『……ったく! おめぇはコイみたいに図々しくない女だと思ってたのによ!』

『もう、バンったら! もう少し言い方考えてよ!』

『ありがとうございますバンさん! 助けてくださいまして……』

『なっ……』


 ペレシュートをライフルに組み替えるまでのタイムラグ――万が一自分が間に合わなければ先にボックストが直撃していた事もあり、バンはシャルにも怒号を飛ばす。相変わらず歯に衣を着せない言い方の彼に少しへそを曲げるシャルに対し、ベルは素直に彼への感謝を示したとき、


『……ったく、おめぇもおめぇも本当に食えねぇ奴だな』

「曲がりなりにもバンさんとコイちゃんと同期ですから♪」

『まま、それよりおめでとうってね。ジャレ大切にしなよ』

「……あ、ありがとうございます」


 聖女のように謙虚なベルの姿勢には、バンも少し調子が狂うようで牙を抜かれたように、怒号も温いものとなっていた――彼女自身が素かどうかは定かではない。一方ムウはベル共々の戦線復帰を果たしたジャレコフに向け、祝福の言葉を送って激励しており、彼が少し緊張していた様子であり、


『ミス・ベルが一緒なのは僕も嬉しいよ! 戦う中でやっぱ僕も張り切って』

『……玲也もシャルも僕より年下で経験も浅いはずなのにどうして』

『ホワイ! アトラス、どうしたんだい? 今度一緒にミス・ベルも、ミス・シャルお茶誘ういい方法がないか後で考えようかって……』

『いや、そんなつもり僕にないよ……!』


 早々に戦闘からの脱落を余儀なくされたレスリストだが、クレスローは相変わらずというべきか、女の事しか考えていない――と思えば、アトラスが無言でコントローラーを投げ捨てた様子へ流石に楽観的な姿勢を維持する事は出来なかった。恐る恐る顔をうつぶせるアトラスの様子を見ると、


『僕が活躍しないといけないのに……玲也だけでなく、ベルさんにもシャルにも……』


 ついこの間まで新入りだった玲也に追い越された身として、アトラスは明らかに焦りを生じさせていた。少し前までならシャルのプレイヤーへの転身も喜んでいた筈だったものの、今の彼にはイギリス代表としての面子にキズがつくのではとの疑念が渦巻いていたかのようだった……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「これでエネルギーは6割位、電次元フレアーを使うとなれば自力で帰れるかどうかもわからない」

『それが命取りだな!!』


 その頃、電次元ジャンプを終えたブレストに対してアステルカスタムが飛びかかってきた。彼はデリトロス・フンドーを射出させたとき、カウンター・バズソーを回転させながらフンドーをからめとる様にしてを受け止める。最も互いに間合いを詰めていくとと共に、アステルカスタムは飛びかかるように膝蹴りをお見舞いする様子だが、


「……カウンター・メイス!!」


 しかしブレストもまた左足を少し後方に動かしたうえで、脚部から十文字の穂が供えられた柄を射出、膝蹴りを先に喰らわせようとするアステルカスタムの右足を射出時の勢いで貫いてみせる。


「玲也! これで一撃じゃなかったの!?」

「相手の動きが思っていたよりも早かった……だが必ず仕留めてやる」


 ――この結果にニアと玲也は少し不満げであった。本来胸を貫くつもりが、バックパックをパージしたアステルカスタムの動きが速かった。右足から引き抜いたメイスは、先端の穂が外れた柄だけが残されていた。ただ柄が内部機器まで突き刺さった状態ならば、彼の右足が機能する筈はない。


『右足をやられようが、俺の体だ……俺が思うままに動いて、また直してもらえばよい……』


 アステルの言う通り、右足を損傷しても敏捷のある動きを維持しつつあった。至近距離からデリトロス・マシンガンを連射して間合いを取ったのち、左足から引き抜いたデリトロス・エッジを振るわんとする。


「素早い相手なら動けなくするなり手出しできなくするなりだ……!」


 ブレストは素早く右腰に備えられた十字型の短剣を投げつける。その十字型の短剣はほぼ素組のフレームだけの状態であり、剣として駆使するにはあまりにも貧相そうな外見。その為デリトロス・エッジの前にあっけなく切り捨てられてしまうのだが、


『ふふ、やはりパイロットが操る発想が間違っていたのだな。パイロットがバグロイドそのものになればこうも簡単に動かせ……』

「仮にそれが出来たとしても、頭の方はかわるまい!」


 ――アステルカスタムがデリトロス・エッジで切りかからんとした時であった。ブレストの握る左手に先ほどの短剣があったのだが、今度は棒型に変形しているうえ、握られた柄の先端には青磁色の光が灯る。エッジが備える長身の刃でさえまるでバターのように溶かす熱を放つ。。


「キューブストの猿真似をしてもねぇ、あんたがあたし達に勝てるわけがないんだから!」


 その短剣からの光はすぐさま消失するが、ブレストはさらにもう一枚の短剣を手にして、十字手裏剣状にエネルギーが展開させたまま投げつける。デリトロス・マシンガンを焼き切って攻撃手段を喪失させるために。


「カウンター・メイスは、本来カウンター・ジャベリンのつもりで俺が組んでいた筈だったのよ!」

「これがベルさんとジャレコフさんのおかげで生まれた……サザンクロス・ダガーだ!」


 ――二人が語るには、本来ニュートロン・ジャベリンと同じ脚部に収納される、実体刃のジャベリンとして想定されていた武器であった。

 しかしベル達のアイデアを受けてカウンター・メイスという、少し別の用途の武装へと改められ、もう一つ腰に何枚か備えられた十字型の短剣“サザンクロス・ダガー”が用意された。四方の発振器からエネルギーを展開させるだけでなく、発振器の位置をそれぞれ調整する事により、一点集中型の槍、斬撃用の刃、投擲に適した手裏剣として、エネルギーシールドに転用できる代物だ。


「持続時間が短いから使い捨て前提だけどね!」

「こういう武器を考え付かれたのは流石先輩だ……!!」


 想像以上の実用性を玲也は思い知らされていたが――サザンクロス・ダガーはカウンター・メイスの柄の代わりにへ接続させることが可能である。その上で垂直三角形の状態にエネルギー刃が展開した時だ。


「これでカウンター・ジャベリンの完成だ! ポーとレインさんだけじゃない、ベルさんとジャレコフさんの想いもこの俺たちのジャベリンにある……!!」

『想いだと……そ、そんな感情的なものが何に!』


 カウンター・ジャベリンは決してニュートロン・ジャベリンの真似では終わらない――玲也の、いや玲也たちの想いとアイデアが詰め込まれた結晶ともいえる合体武器。これを駆使して目の前の仇に対して引導を渡す覚悟があった。


「感情に呑まれているお前が言えた事か!」

『何……だと!?』


 アステルがそのカウンター・ジャベリンが何だと否定するも少し震えた口ぶりだが、一方玲也は冷静にジャベリンでアステルカスタムの両腕を切り落とす。


『ひっ、ひぃぃぃっ!!』

「あんたがバグロイドだからってね……背を向けたら死ぬのは同じだから!」

「持続時間がそろそろだから行かせてもらう……!」


 全ての攻撃手段が失われ、アステルカスタムは後退を始めていた。それも1対1の勝負に受けて立ちながら、敵に背を向けてひたすら生き延びる事に捉われた醜態をさらしながら。無論ブレストが見逃す筈もなく、


『く、来るな! 俺は生き延びてより強力なバグロイドとして、そこから……』

「「カウンター・ジャベリン、サザンクロス・フィニッシュ……!!」」

『そ、そこから俺は、俺はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


 アステルカスタムめがけて、カウンター・ジャベリンは十文字に振りかざされた――必殺サザンクロス・フィニッシュによって刻まれた彼が爆散しており、


「やった……やったよ、ポー! あんたの、あんたの敵をね……」

「ニア……やりましたよ、レインさん、ポー。ベルさんとジャレコフさん、最もアンドリューさんやシャル達のおかげもありますが)」


 アステルの最期に、コクピット内でニアが涙をこぼしながらポーに仇を討った事を告げる。彼女が人前で涙を見せない筈だが、今その余裕がないほど感極まっている状態だ。だが玲也はあえて今の自分の顔を、彼女の方へ向かないようにはしながら仇を討った事を告げる。最も自分だけの力でできたのではないと考えると少し照れくさくもあったが、


(俺が許されるかわからないが……お前の本当の想いを信じてその分まで俺たちは戦い続けたい。俺にも、ニアにも、エクスにも、リンにも譲れないもののためにこうして戦っている筈だから、今倒れるわけにはいかない……)


 自分自身が事故とはいえキューブストに手をかけた事は忘れることはないだろう――そして、これからも散っていった者たちの想いまで継いで戦う事をポーへと約束を交わす。玲也自身の償いの意味もあったかもしれないが、恨まれようが目的のために戦い続ける覚悟に消耗して飲まれる前に、自分が苦境から抜け出して一皮剥ける事が出来た証でもあった。


「玲也、やっぱあんたやればできるってのは本当ね」

「いや、正直もっと早くそれがわかっていれば良かったが」

「……ま、まぁ本当そうね! あんたが鈍感なんだからあたしも苦労してるんだし!!」


 あれから落ち着いたこともあり、ニアが玲也へねぎらいの言葉をかける。彼が本当に敵を討ったのもあってか、大分棘がとれた穏やかな本心の言葉でもあった。ただ、ここは素直に受け止めてほしかったからか、謙遜した様子の玲也に対し、いつも通り少し素直になれない様子に結局戻っていた。


『玲也君、ベル君の方も問題なく終わったようだ……シャル君もなかなかの腕のようでしたな』

『そのために俺たちがしっかりしなきゃいけないですよ。それはそうとまぁ玲也もシャルもベルも、よくやった!』

「ありがとうございます! 何か俺も少し……」

『そうだな、少し回り道したがその分学んだことも多かったって俺は信じてるぜ』


 エスニックとアンドリュー達からは称賛の言葉が入った。特にアンドリューの言う通り壁にぶつかったことは確かだったが、今ようやくその壁を乗り越えられた事を否定もしなかった。


「それより早く戻るぞニア、電次元ジャンプのエネルギーは残っているからな」

「そうね……!」


 電次元ジャンプによりブレストの姿が宙域から消えた。ベルの触れたサザンクロスとの名前は自分たちに当てはまる単語だと二人とも確信しておりともに弾んでいる気分であった。南十字星に誓いたい――今、玲也は小さな決意を今後のため密かに固めた。

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