7-4 斗いに滲む血の汗は

「母さん!」

「ベル……!!」


 その時、ドアのロックが解除されるや否や玲也達が一斉に飛び込んできた。彼らがバンとムウと同行して盗聴を始めたのがちょうど天羽院が入った後からであり、彼がシャルはベルに尊大な態度で彼女らを踏みにじる上、理央にまで危害が及ぼうとしていた時であった。


「あら、玲ちゃん。これ別に私が解決しようと思っていたのにどうして?」

「え、えぇ……そ、それは少し話が長くなるけど……」

「一体何ですか! これは私とこの女の間の問題だ!」


 最も玲也の場合、理央に余裕が有り余っている状態がある意味想定外。この状況でも悠長な姿勢を崩さない母親へどこか安心しつつも慌てて飛び出した故少し拍子抜けしていた。


「貴様、ベルに何かしたな……!!」

「はい、ジャレそれは駄目だからね」


一方ジャレコフは寡黙な様子から一転。気が抜けたように崩れ落ちるベルの様子から憤るように、天羽院へ報復しようとしたが――ムウが彼の振り上げた拳を止めた。


「ムウさん! いくら貴方でもこれでは、これだけは自分の気が収まらないです」

「それ、とてもわかるけどね。ハドロイドが地球人に危害を加えるのはあまりよくないの。特にこの場合相手がまずいからね」


 思わずやり場のない怒りを、ついムウにぶつけてしまうジャレコフ。それでも彼は怒りを鎮めた方が良い、ハドロイドとしての立場が危うくなるのだと忠告する。ついでに玲也たちへ下がるように手で合図を示す。


「ム、ムウ君は聞き分けが良いから助かりますね。イタリアの方には特別に」

「いえ、その必要はないですよ。俺ら別にあんたの事興味ないし」

「そ、それなら別に君たちの言う通りに……」

「あー。それなら別にありがたいんですけどね。俺より彼がそれで納得しないと思うんですよ」

「それはいった……!!」


 この中で話が分かると天羽院はムウに感謝を示すも、彼の態度は冷ややかだ。もともとスポンサーとのタイアップに消極的だった彼らなのもあったが、その後天羽院の顔面に強い衝撃が襲い、その体が後ろに吹き飛ばされ壁に激突した。


「俺は弱い味方が邪魔で仕方ないけどな……貴様のような弱い癖に上から指図しかしない奴はもっと邪魔なんだよ!!」

「バン!?」

「ちょ、ちょっとムウさん、これはいくら何でもまずいのでは」


 その衝撃をお見舞いした主は――ムウが一番よく知る人物であり、最も喧嘩っ早く手が出るのが早いプレイヤー、つまりバン他ならない。躊躇いなくスポンサーの天羽院を殴り飛ばす彼に対し、シャルが目を丸くし、玲也もまたそれはそれで別問題ではないかとムウに尋ねるものの、


「彼が殴ってくれた方が別に問題ないからね。簡単に干されないポジションいるからね」

「それでバンさんが殴り飛ばしたとしても……本当大丈夫ですか!?」

「俺もそれは分かってるけど、彼を止める方がもっと難しいでしょ……」

「……ごめんなさい、自分も少し同感です」


 バンの大胆、いやもうスポンサーの代表にも鉄拳を遠慮なくお見舞いする行為へ玲也は流石に呆然としたが、ムウは半分あきらめた様子で察しろと言いたげな様子だ。ジャレコフもまた先ほどの自分が抱いた怒りは、彼が代わりに発散してくれたかのようにも感じており、クールダウンしつつあり、


「バ、バン! スポンサーの私に手を出してどうなるかは」

「そんなの怖くて戦いやってられるか! あいにく俺は最高に気分悪くてて」

「ひっ……」

「バン君、やめたまえ」


 天羽院がスポンサーの肩書をちらつかせるも、バンには逆効果だったともいえるようだった。実際彼が腕を鳴らしながら天羽院へさらなる追い討ちをかけようとしていた所、


「将軍、あんたの頼みでも俺の怒りは収まらねぇんだよ!」

「いや、私だって勿論怒っている。その上で良い方法があるからね……ガジェットさん、お願いします」


 エスニックがバンの報復を止めた。必要以上に直接危害をこちらが加えたとなれば最悪の事態もありうると想定したこともあるが、既に彼はよい考えがある様子と笑みを見せる。ガジェットとバームスに目配せで合図をすれば、


「天羽院さんとおっしゃったな……わしのシャルの事はまだしも、あいにく先ほどの会話は全て録音済みでしてな」

「何……」

「ほら、バームスさんも何かあるでしょう」

「は、はい……そうだ、貴方が私の娘だけでなく理央さんにも暴行を加えようとしたことは糾弾することもできると考えている!」


 ガジェットが懐からボイスレコーダーを取り出す。再生ボタンを押すと天羽院がシャル達に無礼な態度で接する様子が既に録音されていた。これにたじろぐ彼に対しガジェットがバームスの顔を見るとすかさず糾弾の姿勢をとった。最も全員エスニックの咄嗟の機転からアドリブで芝居をしており、バームスは若干たどたどしい様子もあったが、彼を黙らせるには十分効果があった。


「そ、それをこちらに寄越してもらえないですか……」

「おや、やはり代表として知られたくない内容でしたかな」

「……悪かったですね! ベル君とシャルロット君のプレイヤー云々の話にこちらからは干渉しないで手を打ちましょう!」

「そう言ってもらえますと助かりますがね……」


 天羽院は半ばヤケになった様子で謝る。それと対照的にエスニックは常に穏やかな姿勢で対応しておりその上で書類を取り出した。


「口約束だけだと不安ですからね。ここにサインしてください」

「……やり手め!」

「貴方ほどではないですよ」


 その書類はプレイヤー登録に関しての契約書であり、その書類にスポンサーへの干渉をはじめとする天羽院らバーチュアス側の制約がいくつか記載されていた。署名には天羽院の名前を書く場所もあり、まるで彼が来ることまで予測していたような内容でもあり。


「どうだ、これで渡してもらいましょうか!!」

「そうですねー、ガジェットさん宜しいですかね? こちらで弁償しますから」

「仕方がありませんなぁ」

「……いいですか、今回は大目に見ますが……」


 少し示し合わせたような感じもあったようだが、エスニックからの頼みをすんなり受け入れてガジェットはボイスレコーダーを天羽院に渡した。そそくさとそれを手にするや否や、帰


「それとこれとバン君の行為は関係ないですからね! 覚悟した方がいいですよ」

「そんな覚悟とか知るか! 減給罰金怖くて戦えられるか!」

「あっ、天羽院さん。言っときますけど他にも録音したボイスレコーダーがありますからね」

「……ちっ!」


 際に今回の会議と関係ないバンの行為への処罰を捨て台詞のようにちらつかせていたが、全然本人に効果はない様子だった。

 その去り際にエスニックがまるで悪戯のように追い討ちをお見舞いする。もはや探す余裕もなかったのか天羽院は舌打ちをして退散するので精一杯であり、一同は邪魔者がいなくなり安心したように表情が和らぐ。


「将軍さっすがー! あの天羽院を簡単に追い出しちゃうなんてすごいよ!!」

「……まさか彼がここまで来ているとは思わなかったけどね」

「ありがとうございます……もしシャルちゃんがあの人の元に来たらどうしようかと」


 天羽院を退散させたのちに、改めてエスニックが電装マシン戦隊の最高司令官であると皆は実感し、彼の胆力と機転に称賛の声が届く所、


「しかしエスニックさん、どうして私もボイスレコーダーでこの話を録音していたのが分かったのでしょうか……?」

「お母さん、まさか貴方もですか!?」

「ったく、結局あの野郎に警戒しろで会議には出れず、あの野郎が出てきてもおめぇらがいつの間にかやってきて殴りこむからなぁ……って将軍、どうしたんです」


 ただ、理央はボイスレコーダーを懐から取り出した。理央もまた密かに持ち込んだうえで話し合いに応じたのだが、エスニックは流石に知らない様子であった。その後、戻ってきたアンドリューが話の様子から、おそらく彼が命じて盗聴した会議の内容を録音させる為別の場所にいたのだと思われると。


「いや、理央さん本当にあなたは何者なのですか……」

「とりあえず小説やシナリオは書いてますけど、玲ちゃんの母に変わりはないですよ」

「……そうだ。流石玲也君のお母さんだけのことはある!」


 穏やかな様子ながら全然隙のない理央にバームスが思わず尋ねてみるが、彼女は相変わらずの様子で答えた。そんないつも通りの彼女のリアクションに対して、気を取り直しエスニックは思わず大笑いしながら称賛をかわした。


「玲ちゃん……おぉ、もしかするとお前さんがそうか」

「……確かシャルのお父さんになりますね。俺がそうです、羽鳥玲也です」


 その中で、ガジェットは玲也に関心があった。彼の事は以前シャルの部屋で写真を見た事もあって覚えていたのだが実際に会うのは初めてな事もあり、玲也でも流石に少し緊張していた。


「あなた、シャルと同じ年頃なのにもう戦争へと行ってるのかい?」

「こら、お前は黙ってなさい」

「いえ、大丈夫です……俺こそシャルを戦いに巻き込んでしまいまして」

「そんな、玲也君が悪いんじゃないよ! 僕が玲也君を怪我させたようなものなんだから!!」

「シャル! あなたって子は人様に何したの!!」


 ロールは玲也が戦争に出ている事なり、シャルが彼に怪我をさせた事なりと色々突っ込んで忙しい。一方でガジェットは表情を変えることなく、彼の話を聞くべきだと無言で語り掛け、妻を黙らせる。


「玲也だな……お前さんはわしのシャルがプレイヤーとして相応しいとは言いたいのはなんとなくわかっとる」

「そ、そうですね……」


 玲也は内心そこまで自分が読まれていたことに驚きもあった。実のところ怪我の件は自分の対応も悪かったとシャルを庇うつもりでいたが、その後にシャルの腕は素晴らしいとの話につなげるつもりだったからだ。ガジェットに対して少しでももろい所も見せてはいけない――玲也は好敵手となるシャルの義父からのプレッシャーも感じつつあった、


「まぁ実際戦っているお前さんが言うのならば、わしは一応信じてやってもいいがの」

「……ということは!」

「貴方!」

「二人とも待ちなさい。お前さんがどうしてプレイヤーとして戦い続けられるかを聞きたくてのぅ」


 どこか玲也に対して穏やかな目線を向けながらも、ガジェットの言葉は彼の胸へ強く届く。彼も、少し咳払いをした後に口を開こうとした時


「玲ちゃん……お父さんを超えるための事なり、初めて戦った時の事なりは既に話したわよ」

「母さん、わかった……最も俺はそれだけで戦えるとは思っていません、ニアもエクスもリンも彼女なりに戦う理由があるのも受け止めなければですね」

「へー、あんた結構ちゃんとしたこと言うじゃない!」

「そうですわよね! 玲也様は私と一緒にお父様のため誇りのために戦うのですから」

「……お前たち、いつの間に」


 母からのフォローを受けつつ、玲也自身の学んだことを語る。ニアとエクスがいつの間にか同じ部屋にいた事へ多少声を漏らしている中。


「でも玲也さん実際に私たちの事も分かった上で戦ってます。私も玲也さんに救われましたからわかる気がするのです……」

「ほぉ、お前さん大分モテるようじゃの……」

「……いえ、俺はそのつもりはないですが、ただ3人のハドロイド、3機のハードウェーザーを操る者として大切な仲間だと思っているつもりです」


 相変わらず自分を揶揄うニアや、逆に過剰な愛を示すエクスをよそに、リンだけは真っ先に玲也が言おうとすべきことで援護に入る。彼女に助けられながら玲也なりにニア達は3人とも大切な仲間で語ると、


「そうですわよね! 特に私が玲也様の……」

「あんた、そこで話しの骨を折るのやめなさい」

「ニアは仲間たちの敵を、エクスは家の誇り、リンは行方不明の弟のためにそれぞれ戦ってます。最も……」


 この機に乗じて、エクスはそれ以上の関係であるつもりだと言おうとした為、ニアが彼女の口と腕をふさいだ。ただ彼女自身少し不機嫌な様子がありつつも、玲也の話す内容には照れながらも自然と笑みを浮かべていたようであり。


「みんなそのためにバグロイヤーと戦う事は避けられません。戦えば一方が討たれる事は避けられません。誰も殺めないような甘い考えではいけないのも……覚悟しているつもりです」

「ベル、お前もこの子と同じように考えているのかい」

「半分はあっている所かな……でも今のところ玲君のいう事もわかるわ」

「なるほどな……そのために自分の手が汚れることはやむを得ないと」


 玲也なりに自分が選んだ戦いの道がこの手を血で汚すことだと語る。彼なりの覚悟に少しバームスは怯えるものの、ベルからすればそれは自分も通った道だと言いたげな穏やかな姿勢で見守っている。そして同じ落ち着いた様子でガジェットが再度問いかけると、ジャレコフもまた玲也の方へ顔を向けており、


「確かに……けれども戦場で討たれるものが倒すべき敵とは限りませんし、俺が必ずしも敵だけを倒せるとも限らないです」

「その話しぶりじゃと……苦しかったろうなぁ」

「はい、けれども戦う事を止めたら俺は自分の道を自分で放棄するとなりますから……」


 ガジェットへ臆することなく、彼の眼を見据えながらも今までの戦いから、自分なりの在り方を玲也は語る。ポーの一件で戦う事への気持ちが揺らいだ時に、自棄になって戦おうとした結果ことごとく空回りし、余計自分を苦しめた苦い過去を交えつつ、



「じゃあ、どうして今お前さんがここにいるかじゃが……」

「散った仲間たちの分まで生きている俺たちが戦わないといけないと気づいたからです!」


 休むことなく、たどり着いた戦いへ挑むことの結論を玲也は強く主張した。その主張を受けた後にガジェットがシャルの方、あるいは玲也の方へと顔をまじまじと見つめた後、


「となると、シャルとお前さんは同じという事じゃな……」

「貴方、もしかしたら……」

「わしの考えは決まっとったが、お前さんと話しているとますますなぁ……」


 ガジェットが帽子をとってエスニックの前で頭を下げる。彼の頭頂は既に素肌しか残されていなく、部屋の光が反射されていたものの、頭頂のしわもあってかどことなく穏やかな明るさ――まるで今の彼の心境のようにだ。


「シャルと同じ年で戦っている玲也君がしっかりした姿勢で向き合っていた。その姿勢はシャルと同じものじゃったら、もうあの子を信じてもいいんじゃってな」

「で、ですが貴方。私はシャルを戦争に行かせるには……」

「エスニックさんや、さっきの書類の内容を守ってほしい他もう一つ頼みがあるんじゃが」

「シャルちゃん、たまにはちゃんと家に帰りなさい?」

「おぉ、全くその通りですわい。先をこうも越されますとな……」


 決心がついたガジェットがシャルをプレイヤーとして認める中、とある要求をエスニックへ求めたはずだったが――まさかこれも先に理央が見透かしたように答えたのだ。さすがに二人とも目を丸くしていたが、直ぐにガジェットは笑い飛ばし、


「すみません理央さん、あなた本当に物書きをされているだけの主婦なのですか……」

「えぇ、とりあえず玲ちゃんの母に変わりない……と言いたいところですけど。朝の様子からシャルちゃん、やっぱりお父さんとお母さんが恋しいと分かりましたから」


 またも理央に驚きながら訪ねるバームスだが、彼女は穏やかに答えつつも今朝の出来事を触れる。もともと料理の腕は芳しくなく、リンに手伝ってもらって作った朝食を一番おいしそうに食べていたのがシャル――それもお母さんの味がすると彼女が評したことにあったのだ。


「ははは、いや本当玲也君のお母さんには叶わないなぁ! 最もガジェットさん、この頼みは私ではなくシャル君に言った方が早いと思いますよ」

「そうよシャルちゃん、貴方にちゃんとお父さんとお母さんがいるんですから、たまにはちゃんと家のご飯も一緒に食べなさい」

「いや、おばさんの言う通りだね……へへへ」


 エスニックと理央に優しく指摘され、シャルが思い出したように舌を出しながら笑った。彼女が玲也の家の隣のマンションに間借りしているとはいえ、ドラグーン・フォートレスの電装システムを使えばフランスにある実家へ帰ることは可能なのである。ハ


「……おっと忘れていたね。バン君、ムウ君。君たちが許可なくやってきたことについては」

「ついでに言いますと、盗聴のためにハッキングをリンにさせたのは俺です。彼女は無罪でお願いします」

「それは分かってるよ、最も君たちの方も今回はまぁ私たちだけの秘密という事にしようか」


 その後イタリアチームが主導で盗聴を行ったことについて、エスニックは不問に処す寛大な対応を示した。この辺りはフランスに所属するシャルをドラグーン側のプレイヤーとする行為も判断が曖昧であった天、つまり自分たちにも落ち度はある所が一つ、またもう一つは彼らのおかげで天羽院の干渉を防ぐことが出来た点を評価しての事で、エスニック自身見ていて胸がスーッとする思いだった為らしい。


「最も天羽院君を殴り飛ばした事での罰則もあるだろう。そこについて私の方でも弁護しとくよ」

「将軍、別に俺は罰金減給には慣れて……」

『バン! あんたまた減給やらかしたってーの!?』

「フレディ……!? ムウ、お前!!」


 さらにエスニックは彼らの行動を弁護しようとしていたが矢先、バンの元にフレディという女性から電話がかかってきた――バンの幼馴染で、ムウともどもプレイヤーであることを知る関係者になる。おそらくバンを黙らせるためにムウが勝手に電話をかけたのだと思われる。


『どうしてあんたはいつもそういう問題ばっか起こすの! もう子供のころから何回も……』

「あのなぁ! 別に戦って勝ったらいいだけだろ!!」


 バンが怒号を飛ばすが、受話器越しのフレディという女性も相当彼との相手に慣れているかのように負けず応戦している。電話しながら彼が部屋を出ていく様子を見届けた時、ムウは安心したようでタグに手を触れて何らかの操作を行う。


「最も、俺たち第三者なの変わりないですから……将軍、シャルのプレイヤー起用についてはどのように?」

「そうだね……確かに管轄地域と異なるけどもそれは玲也君と同じだ。実の所玲也君を中心にした“国境なき遊撃隊“を結成しようか考えているんだよ」

「俺を中心にですか……!?」

「なるほど……。これは一応上に伝えて問題ないかな」


 ムウからのいきなりのインタビューに対し、エスニックはまるで既に構想していたような考えを初めて打ち明ける。その構想へ一番驚いたのは玲也本人である。彼の話からするとムウと合わせるための芝居ではない様子で、実際無言で笑いながらもう一度彼に向かってうなずいた事から確かだと確信できる事柄だった。


「最もいつになるかはわからないけどね。ただ表向き正体不明で通している玲也君の存在はむしろ国境を越えてプレイヤーたちをつなげることが出来ると思うんだ」

「なるほどね……。まぁ国家間のパワーバランスが俺らの上で問題になったりするし、その辺を緩和する手としてかな」

「俺が、俺まだ一か月しか経ってないのですが……うわぁ!」


 玲也自身エスニックの話がまだ先のこととはいえ、それだけの期待をかけられている事に思わず体が震えそうになった。そんなさなか背中を強く押されて振り返ってみると


「おめぇはそれだけの可能性があるってことだ。最もまだまだ学んで鍛えなきゃあいけないけどよ!」

「その通りだ、引き続きアンドリュー君に監督をお願いしたくてな」

「ったく、玲也だけでなくシャルもベルもと3人の面倒を見るって事か……」

「アンドリューさん、私もまだそう見ているのでしょうか?」


 アンドリューが玲也の可能性を高く評価しつつ、3人のプレイヤーを導くことには少し荷が重いと冗談交じりに述べようとした。最もベルから自分の実力について触れられると、彼は少し真面目な表情に戻る。


「シャルはわーってると思うが玲也、早い話ベルはおめぇより俺が見た限りは強かった。それは認めてくれ」

「はい、多分まだベルさんとジャレコフさんから学ばなければいけないと思いますし……ちょっと見てもらいたい所があります」

「ほぉ……」


 玲也が一瞬ニアの方に顔を向けた。彼がベルの力を借りたい内容が何かは何となくベルはにこやかに笑っており、アンドリューもまた察しがついていた。


「まぁ分かってくれりゃあな。ただベルが本領を発揮できるかはシャル! おめぇの腕にもかかってらぁ!!」

「……シャルちゃん、ボックストが今まで以上の実力を発揮することが出来るって私信じてる。ジャレ君も」

「分かってるよ! 僕だってプレイヤーなんだからそれ位できるようにしてみせるよ!」

「頼むシャル、俺もお前から学ぶことが多いと思うから期待したい……」


 玲也からも期待をかけられてシャルは思わず隠せそうにない笑みを口元に表していた。そんな彼女たちの様子をエスニック達が見守りつつあった。


「私はただ玲ちゃんの母ですし、他の皆さんだって立派な親ですし、あの子たちも……」

「自分で選んだ戦いの道で揉まれていくでしょう。けれどもこういう言葉があります。戦に滲む血の汗はきっと」

「――明日を輝かしますね」


 玲也だけでなく、シャルやベルら戦う子供たちを、理央は慈愛ある母の瞳で見つめる。戦ににじむ血の汗はきっと明日を輝かすとの言葉対し、エスニックは強く無言でうなずくのだった。

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