第6話「シャル起つ、プレイヤーは僕だ!」

6-1 苦闘への逃避行

「でやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 玲也はただ荒ぶる。彼が駆るネクストがバグアッパー、バグレラの編隊との戦闘が繰り広げられていた。その後方に3、4機ほどのセカンド・バディが控える。ガーディ・マシンガンを構えて臨戦態勢を整えているが攻撃に加わろうとしない――厳密には加われなかったといった方がよいのかもしれない。


「たぁぁぁぁぁっ!!」


 そのままバグレラへタックルをぶち込むとともに、ジックレードルを突き刺す。その上でサブアームを後方に展開して突き刺したままバグレラを後ろへと叩きつけた。その上でアサルト・キャノンを追い討ちのように放って撃墜する。


『正体不明のハードウェーザーの1機ですが……何なのでしょう』

『俺たちのライトウェーザーがハードウェーザーよりスペックは下との意味とはいえ』

『戦闘機も既にハードウェーザーとなれば……ねぇ』


 目の前でバグレラの爆発を見届ける3機のセカンド・バディ――そのパイロットたちはハードウェーザーの戦いへ驚愕すると別に白けも生じつつもあった。バグレラはネクストが、バグアッパーは緑みがかかった藍色の2機――ゴースト1、ゴースト2が迎撃に当たっていた。この3機を前にして彼らが加勢する余地がなかったのだ。


『あいつら、ハードウェーザーだからって勝手にしゃしゃり出るんじゃねぇ!』

『アラン隊長、ですが彼らが勝手に出てきたおかげで我々が動かなくても』

『それがダメなんだろ! また俺らがハードウェーザーに助けられたと世間では言われるだろ!!』

『ですが隊長、ハードウェーザーとの性能差がありますから……』


 ただアラン・コルーシェというほかの面々からは隊長と呼ばれる男だけ歯がゆい心境だ。彼らはPARオーストラリア支部に所属しておりジャールの管轄を受け継いだ矢先、バグロイヤーの偵察部隊との戦闘に発展――厳密には、彼ら偵察部隊を捉えフェニックス・フォートレスから先にダブルストが電装したためジャール空域での戦闘が発生したのだ。


『あいつらがバグロイヤーを倒せば、世間はちやほやして商品も売れる……だからって俺らの仕事を奪っていい道理はねぇ!』

『ただ、ハードウェーザーのおかげで被害は最小限に食い止められますし……』

『だったら、俺らが何故ここにいるんだよ!!』


 アランにとっては地上のバグレラが2機なら4機がかりで何とかなる、最も彼自身が片付けるつもりで考えていたのだろう。それもあり一歩前に出てガーディ・ライフルを手にして狙撃体制に入る。


『た、隊長!? もしハードウェーザーに命中したらどうするんですか!』

『そもそも世間でヒーローのハードウェーザーだ! 引き立て役の俺らに倒される訳ねぇ!!』


 部下の制止を振り払い、アラン機が一筋の光を前線へと放つ。ハードウェーザーを巻き込むかどうかとの事について、地上のネクストが素早く動きまわっており彼らで捕捉しきれない、つまりバグレラを狙撃しようとも巻き込まれる恐れもあった――最もアランにとってはハードウェーザーが味方の誤射で撃墜されたらそれはそれでと考えていた訳だが。


「玲也さん! 後ろからビーム来てます!!」

「後ろ……何でだ!?」


 リンからの報告に玲也は一瞬真偽を疑った。アランの嫉妬もあったかもしれないが、彼らセカンド・バディの編隊との連携もとれないまま、独自で動きすぎていた事にも原因はあった。最も今の玲也はそこまで顧みる余裕はなく、舌打ちをしながら回避行動をとる――のではなく、少し体の位置を動かして右腕を遭えて被弾を選んだ。


「ジックレードルはこういう事も出来る!」


 その時、ネクストにビームが直撃したかにみえたが、ジックレードルを直線状の光線へ向けて振りかざせば、ビームの軌道が垂直に逸れる。

これもネクストのジックレードルは実体刃だけでなく、ビーム刃を発振させる能力を備えており、ジックレードルそのものがビーム刃発振器となる関係上、ビーム兵器を跳弾させるように弾く加工が施されていた。キューブストより微弱な効果であるものの、ライトウェーザーのビーム兵器をはじくには十分との事だが、


『きゃあ!』

「れ、玲也さん、よくないみたいです。ゴースト1に被弾したと思います!!」


 だが、弾いたビームの軌道までは誰も予測はしていなかった。ネクストの目の前を真上に飛ぶビームは上空で交戦するゴースト1の左肩を直撃してしまったのだ。この不意の事態にアズマリアの操縦が遅れ、バグアッパーの集中砲撃にさらされそうになるが、


『シュツルム・ストリームです!!』


 すぐさまゴースト2が彼女を庇うように現れ、すぐさまジャイローターから展開させる電磁波の渦をたたきつける。巻き込まれる形でバグアッパが制御を失った隙をつき、体勢を立て直した2機共々3連ミサイルポッドを叩きつけて蹴散らした。


『玲也さん! 私たちに何か恨みでもあるのですか! この間ポリスター・ガンをあげたうえドラグーンで好き勝手あなたがすることを許していますマーベル隊長の広いお心が分からないのですか……あぁ、ちな』

「別に好きでそうしてないですよ!!」


 アズマリアを巻き込んだ件でルミカから叱責の怒号が飛ぶ。だが彼女が相変わらず話が長ったらしい話をしている事もあるのか、玲也は声を荒げるとともに、もう1機のバグレラへ接近した上で、右腕を宙で振りかざす。電次元サンダーを発生させて、かまいたちのように宙で電磁波を浴びせてバグレラを麻痺させたのであり、


「どうだ……電次元サンダーはこう使う事も!!」

「ですが玲也さん、それでしたらジックレードルやアサルト・キャノンの方が……」


 得意げな玲也に対して、リンは彼のとった手がかならずしもよいものではないと指摘する。それも電次元サンダーが電次元兵器の中では威力が控えめであり、かするようにして被弾した程度ならば、相手を機能停止までに追い込むまでのダメージを発揮するには至らない。実戦は新しい武器や技を試す場所ではないとリンは言いたげだが、


「レインさんのアイデアだ! 電次元兵器をどう使うかも……」

「どんなに鋭い武器でさえいつか敗れる時もありますよ!」

「……なら、ジックレードルで……!!」


 リンの指摘を受け入れられないほど玲也は焦燥していたが、結局はジックレードルを展開しバグレラを貫こうともくろんだが――そのバグレラが背を向けて無防備な状態にあった。本来なら絶好の機会だと玲也は攻めに踏み込むはずだが、背中から串刺しにすることに苦い思いがフラッシュバックして行動を躊躇させる。


「玲也さん……あっ」

『やったぜ!』

「……畜生! 俺が倒さないといけないのに!!」


 腕が恐怖で震える玲也にリンは案じようとするも、目の前のバグレラが貫かれた様子を目のあたりにした。彼の背中を貫く光は後方のセカンド・バディ――先ほどのアラン機によるもので、今度は見事ネクストを潜り抜けバグレラを仕留めていた。

 力なく倒れ、地に伏せようとするバグレラへジックレードルを滅多切りにし続けるが、既に機能を停止したバグレラに対して、追い打ちとしてもあまりにも意味がない。いずれにせよバグレラは目の前で炎とともに散るのみであったが、玲也ではなくアランによって撃墜されたのはいうまでもない。


『何無駄な事やってるんだホイ。馬鹿かみゃー?』

『アンドリューに頼まれて連れてきたが、アズマリアの妨害はする、手柄は取られると……私たちへの嫌がらせか!?』


 玲也の一方的な死に体への猛攻――メルから冷静に言わせれば馬鹿の二文字に尽きる。マーベルも怒り心頭で玲也の不手際をなぜかアンドリューにも叱責する。本来自分たちが活躍するはずが、渋々玲也を同行させることになった上で起こった不手際であり、リハビリとして彼を同伴させたアンドリューに責任があるのか、もとよりソリが合わなかったのか猶更頭に来ていた様子である。


『ったく、がきっちょが戦わせてくれってしつこく頼むからなー』

『それで、まだ大したことのない相手と戦わせて様子見のつもりだったけどなぁ』

「……すみません、ですが戦わなければ俺は駄目だと思います! 戦い”から”逃げて楽になることは簡単にできます!!」

『……おめぇは戦い“へ“逃げて楽になろうとしてるだけだろ!!』


 最初は少し呆れ気味ながら少し穏やかに対応したアンドリューであったが、玲也が自分自身まだ戦えると思い込んでいる往生際の悪さから、堪忍袋の緒が切れた。ポーを仕留めたことをショックに戦いを放棄することも彼として許せない事であったが、この苦い経験を戦いにのめりこんで忘れ去ろうとする彼のやり方もまた許せるものではない。


『そうだぞー、心のもやもやを片付けるために戦いがある訳ないだろー』

『せっかくマーベルに頼み込んだけど、結局約束通りそういうことになっちまったな』

『だから私は嫌だと言ったんだ! この埋め合わせはどうつける』

「わーった、わーった。俺が覚えてたら考えてやっから」


 リタが指摘する通り、玲也は新たな技をぶっつけ本番で試すに加え、ポーの一件から蓄積していたストレスを戦いで吐き散らそうとしていたのだと問う。だが遊び半分なり不満の吐け口なりで戦っていれば、半分の実力を出す事も出来ないのは、玲也の戦いから証明されていた。


『そんな! リンさんはともかく私まで玲也様と離れ離れなのはあんまりですわ!!』

『仕方ないだろー、そうしないとがきっちょが直ぐフォートレスに来ちまうしさ』

「ごめんなさい、玲也さん。私もこの場合は少し落ち着かれたほうが……」


 エクスが通信越しに狼狽しており、その彼女がリタの手でブリッジより連れ出される様子が映されていた。コクピットの後ろにいるリンもそうだがハドロイド3人がドラグーン・フォートレスの管轄で預けられる話が決まっていた


「やはり、俺はドラグーンに出入り禁止と……」

『こうでもしないと君は戦いに出てしまうだろう。明日が非番だからよく考える事が君には必要だ』

「……わかりました」

『玲也君、君は戦いに没頭しすぎていてわしも心配なんじゃ、一日くらいゆっくりしてくれんかのぅ……』


 エスニックとブレーンもそろって休息を促す。半ば強制にでも休ませないと玲也は従わないだろうと考えており、ニア達をドラグーンに暫く引き止めさせる手を取るしかなかった。

 実際この判断に玲也は返事では承諾するも表情から不満が見え隠れしていた。プレイヤーとしてバグロイヤーと戦う事へ強い自覚と責任感を抱く故、少しでも距離を置くことはできないと今の彼は考えていたようだった。


「……俺が戦いから逃げるわけには、戦いから離れて一体何になる!」

 

“戦いは勝つか負けるか、死ぬか生きるか。生きて勝つために敵を打ち負かして仕留める事へ既に覚悟はしていた。けれどもそうでない相手を殺めてしまった事にも向き合わなければならなかった。見て見ぬふりをして一人戦うことでは何の解決にもならない。もがき苦しもうが模索していく日々が始まろうとしていた。そんなこの物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”

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