6-2 見て見ぬも戦い、向き合うも戦い

「父さーん…… 父さーん!!」


 暗闇の中を玲也は彷徨い、ただ父の姿を頼るように何度も呼び続けていた。しかし彼の足元にめがけて銃声が鳴り響いており。


「……誰だ!!」

「お前があの3機のパイロットとはな……俺の顔を知らないのも無理はないが」


 銃声とともに一歩ずつ前進していくこの男――どことなく全身が透け通っている様子だったがオレンジ色の頭髪ははっきりと目視で確認することが出来た。


「雷鳴の射手だったエリル・ハイドマンは俺のことだよ。オレンジに塗りつぶした俺のバグレラをよくもなぁ……」

「あの時のパイロットが何故!?」


 オレンジ色のバグレラとの事から、玲也は彼が自分の手で仕留めた相手だと確信した。しかしあの様子からすると生きている事自体がおかしいのではとも戸惑う。けれどもエリルはお構いなしに発砲を仕掛けてくるため、彼はただ逃げることで精一杯だった。


「どうだ、手をかけた相手に逆襲される気分は……俺だけじゃないがな!!」

「……お前たちバグロイヤーが父さんを捕まえて、地球を狙うからだ!」

「その為なら、何人やっても構わないつもりだな!?」

「そうせざるを得ない覚悟はできている!!」


 玲也を追う者たちは徐々に数を増やしていく。エリルをはじめとするバグロイヤー側の戦死者、それも自分が手にかけたと思われる面々が報復を仕掛けようとしている。

 自分は手にかける事も恨まれる事の覚悟はできていると忽然とした様子で告げるも、今の自分が丸腰で逃げる事しかできないことに変わりはないのが少し情けなくて仕方がなかった。


「あそこなら……」

「羽鳥さんですね……?」

「頼む、今はちょっと声を出さないでほしい、ここで見つかる訳には……ポー!?」


 逃げる先で玲也はわき道を見つけて逃れて、追手の兵士たちをやり過ごそうとした。だがその脇道にも自分を知る者がいたのか、羽鳥さんと自分の事を呼ぶ声がしたが――藤色のショートヘアーの彼女もまた透け通っており、それだけでなく彼女の右手が抑える腹部は赤く染まっていた。


「羽鳥さん。やはり私も恨んでいたからこそ……」

「ポー……ちがう、あれはお前を恨んではじゃない、俺が至らなかっただけだ!」

「私のこと、恨まれてもおかしくないと思ってますよね?」

「そ、それは……確かに俺はお前を手にかけた、それで恨まれても当然のことじゃな……!!」

「そうやって恨まれて恨まれた挙句、あんたはいつか忘れていくんでしょ!!」


 ポーからは自分を手にかけた理由を問われる。玲也にとって不慮の事故であり、自分自身の責任だと弁明するのであったが、彼の弁明は逃げている事だと別の相手から指摘された。すぐさま振り向くと、


「ニア、お前が何でこんな……お前は生きているはずだろ!」

「そうよ。あんたも同じだけど……すぐわかるんだから!」


 ニアがどこからかナイフを取り出して手に取った。彼女の視線は自分に対して憎しみを向けているかのようで、明らかに彼女はその気。


「ニアちゃん、やって!」

「ポーをやったのあんただからね、恨まれて当然よ……!」

「うっ……うわぁぁぁぁぁ!!」


 間髪入れず、ポーが玲也を羽織いじめにした。両腕を封じられた彼は背中越しに生暖かさと鉄の匂いを感じ取っていたが、それが直ぐ自分も同じ目に遭おうとしていた。ニアがすかさず刃を腹抉るように突き刺し、意識も直ぐ途絶えた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「はっ……」


 意識が覚醒したその時、玲也はまだ自分が生きていることに気付いた。それもそのはずで彼は自分の部屋の布団の中、つまり先ほど見た光景は夢であり、自分自身の姿は寝間着を着用しており腹部へ特に血糊も傷跡もない。けれども上半身を起こしても彼の腕が震え続けていたのも確かであった。


「おはよう玲ちゃん、随分遅かったじゃない」

「……もう9時近くとは」


 玲也は腕の震えを抑えて平静を保とうとすることもあり、着替えるなり読書なりして気を紛らわしたうえでリビングへ足を運んだ。理央から指摘され、初めて時計を目にした時内心少し驚いていた。今まで休日でも朝7時には起きていたからだ。


「ごめんね玲ちゃん、みんな帰ってこないみたいだしお母さんも仕事が遅かったから」

「いや、大丈夫だよ母さん」


 テーブルにはコンビニで買ったと思われるスティックパンが置かれているだけ。この所自分だけでなくニア達3人も朝や晩の食事を作ることが定着していた。もともと玲也自身が朝食を用意することも当たり前だっただけに、自分が寝坊して朝食が簡素なパンだけとのことに対して喪失感も少し覚えていた。


「母さ……」


 さらに言えばテーブルには自分を含めて四枚の皿とコーヒーカップが置かれていた。だが残り3つはまず今日は使う事がないものだったが、それを母に指摘しようと思うもののすぐさま黙った。これは自分の責任だと捉えたからだ。


『一昨日のハードウェーザー暴走事件について、ポプラバンブーがどう責任を取るかですね上方さん』


 その折テレビのニュースに玲也の関心が移った――それもキューブスト関連のニュースが取り上げられている。この事件でスポンサーに就いていたポプラバンブー社へ損害賠償を請求する処罰について述べられており玲也に憂いの表情が生じる。


(レインさんだけでなく、コイさんもこの問題で責任を取ることになるのか……さらに風当たりが強くなると)

『そうですねー、バーチュアスグループの天羽院割也代表はこの事件でポプラバンブーがバグロイヤーと内通しているのではとの見解も考えられるとの事ですね……』

「何!?」

『これがその証拠になりうる映像ですが……』


 そのニュースの内容に玲也は疑いを持たざるを得なかった。レインたちが所属しているポプラバンブーはキューブスト暴走の責任を取らなければならないが、同時に裏切られた被害者でもある。それを天羽院がバグロイヤーと手を組んでいる加害者として扱う事はあまりにも解釈が違のではないかと、胸の底から憤りが込みあがっていく。


「あの時の……?」


 天羽院が糾弾するための資料として戦闘の記録映像が提供される。その映像はウィストがライトニング・スナイパーを放つ映像であったが――特にスナイパーの光線が掠めた様子もなく、ブレストがニュートロン・ジャベリンによりキューブストの腹部を貫いた映像へと繋がる。ウィストが同じスポンサーのキューブストを仕留めることに躊躇したのでは?とアナウンサーのコメントが入ると猶更、玲也は首を傾げたくなるが、


「……母さん!」

「玲ちゃん、早く朝ご飯を食べなさい。お母さんだって時間がないのよ」


 玲也が湧き出た疑問について考えようとする矢先、理央がリモコンでテレビを消した。少し無神経ではないかと彼は母に突っ込もうとするも、彼女の言う通りにスティックパンを口に放り込んで牛乳で流し込んで食器を流し台に置く。


「玲ちゃん、時間を無駄にしちゃいけないってよくわかってる筈でしょ?」

「ごめん母さん。朝寝坊したことも朝食を食べるのも遅いのも」

「そうじゃないの。戦いの事を今考える必要はあるのかってお母さんは言いたいの」


 エスニックたちから既にその事も指摘されていたからか、それとも母の勘か――見事に看破されており玲也は反論の余地もない。それからしてすぐ理央はテーブルに置かれた三つの皿へ視線を向けた。


「お母さんが考えているのはまた家族で食事したり何気ない話をしたりすること。エクスちゃんとリンちゃんはともかく、ニアちゃんだってね、お母さんも寂しんだから」

「……俺だってこのままがよいとは」


 エクスとリンがドラグーンに今日引き離す形で泊っているのはまだしも、ニアは自分の意志で玲也の元へ戻ろうとはしていない――ポーを手にかけた件が彼女の心に黒いシミを落としているかのように。彼女に指摘されると珍しく不機嫌そうにこのままの状況を良しとしていないと言い放つ所でチャイムが鳴った。そのまま母に頼まれて少し面倒そうに、玲也が玄関を開けた時であった。


「へへ、玲也君……」

「シャル、どうしたんだ確か今日クロストのパワーアップ関係を……」

「それ、昨日終わったから! だから今日は休みだよ!!」

「だから遊びに来たのなら……うわぁ」


 シャルが玲也を誘っている様子だったが、今はとても彼女と付き合う気には今なれなかった。けれども理央が彼の背中を軽く押して外へと追い出しており、。


「ちょうどよかったわーシャルちゃん、お母さん今日のうちに仕上げたい原稿があったから」

「母さん! 俺が昼を作らないとそれだと」

「子供は遊ぶのも仕事よ? 玲ちゃん全然仕事しないで戦いにかまけてばかりじゃないの」

「へへ、おばさんサンキュー。じゃあ玲也君借りてくね!」

「ちょ、ちょっと……」


 シャルが半ば強引に玲也を外に連れ出すと、すかさず理央は彼を締め出すように戸を閉めた。その際理央とシャルが目配せをしていたことを彼は知る余裕がなかった。

 そしてそのままシャルにつれられる形で、向かいのマンションへと足を運んだ。2階の202と記された番号札――おそらくシャルの部屋だろう。同じ年の女子の部屋に誘われたことは、思春期の男子故か彼ですら少し緊張が漂ったが、


「……」


 しかしその部屋を見るや否やその緊張も払拭され、代わりに何ともいえない戸惑いも生じていた。彼女の部屋は床に置かれたベッド以外がまるで大量の立体物に支配されていたのだ。本棚にも学習机にも、冷蔵庫の上にもプラモデルや合金トイ、フィギュア類がこれでもかと飾られていた。


「へへーすごいでしょ、これがDX艦隊合体キングラガーで、それはメタモルフォーマーZの主役ロボット・ビッグアトム、んでもってあれはカプセル超絶合金のシュート1(練習機バージョン)で……」

「いや……」

「じゃ、じゃあこのプラモ! SRX戦士ブルー・ハイマー(PG版)、H1、H2、H5にブラックレオー、レッドレオー、ダーク・サタン……」

「あのな……」


 シャルはさっそく自分のコレクションをアピールする。最もロボットアニメの玩具やプラモ類について玲也自身はそこまで関心が薄い及び、元の作品を知らないからか彼自身どう反応すればよいのかと戸惑いもあり、全然食いつかなく様子がない。そんな彼の様子に対しシャルも若干困惑をしていた。


「そうだ、これだよ! 失楽園撤去のアンジェちゃんとか、金色のオシリスのセナちゃんとテレアちゃんとか! ほら玲也君やっぱり男の子だし……」

「いや確かにオンラインゲームに対応している等でフィギュアを買ったことは俺にもあるが……シャル、その写真は何だ?」


 シャルの指す美少女フィギュアに興味をあまり示さないで玲也だが、飾られた3体の前に飾られていた2つの写真立てへ関心がいった。

 その写真は両親と思われる人物と幼いシャルが映されていたが、それぞれの写真で両親の姿が全く異なるのだ。左の写真のおそらくシャルと思われる子供はまだ生後間もない様子で両親に抱かれていたが、長くて10年少々の流れでも両親が初老をとうに過ぎたような外見にはなりえない。


「あー、それは僕のパパとママンだね。このころの僕とかすごい人に見られると恥ずかしいんだけど……」

「いや、それじゃない。お前のその父さんが、まさか……」

「大丈夫だよ。本当の僕のパパとママンはもういないんだ。グランパとグランマじゃないんだよ」


 玲也が関心を持った事は、当の本人に聞くことは失礼だとすぐ口をつぐもうとした。けれどもシャルは自分から両親の件を明かしたた上で、最も彼女自身大丈夫だと気丈な様子をアピールしていた――少し曇りを帯びていた表情を隠しきれていなかったが


「それも僕のパパとママンはグランパがね……あの時は僕本当に許せなかったけどね……」


 シャルが両親の事を話し始めた。そもそも彼女の実の両親はハッカーの上、サイバーテロ組織へ所属して大規模な犯罪行為に手を染めていたという。そんな彼女の両親へ思わず玲也も少し目を丸くしたとともに、


「玲也君、もしかして僕のパパとママンがとんでもないと思ってない?」

「そう思うと……いや、すまない」

「まぁ、そりゃとんでもないかもしれないけどね、僕にとっては大切なパパとママンだったよ」


 あの時の自分が本当に幼すぎた故に、正義と悪の概念がわかっていなかったのかもしれないと前置きを入れながら、シャルは自分がその両親に愛されていたのだと明かす。両親にコンピューター関連の事を教わって、自分が新しい事が出来るようになると心から褒めてくれていた。自分のプログラミングやハッキングの腕はその両親から受け継いだものであると。


「じゃあシャル、お前がどうして今のようになったかだが……」

「もちろん話すつもりだったさ。僕のグランパが昔、刑事で……あの頃の僕たちを追ってて捕まっちゃったんだ」

「捕まった矢先で更生したという事か? その流れだと」

「ちょっと違うね、僕が誘い出されて捕まったのをパパとママンはトレーラーで殴りこんでまで助けようとしたんだ……けど、署までくる直前に今のパパがね……」


 シャルは少し顔を俯かせて拳を握りしめた――その様子で明かされる実の両親の末路が壮絶そのものだった。

 それは彼女が連行された署まで、両親がトレーラーで殴りこもうとしたのを、今の父親がタイヤを狙撃して動きを止めた結果、そのトレーラーが回転、横転したのちに壁へ強く叩きつけられて爆破、炎上したというものだったからだ。衝突した時点で両親は絶命したらしく、燃えあがるトレーラーから脱出する事もなく、運命を共にする姿を幼い頃の彼女の網膜には焼き付いていた――シャル曰く5年前にさかのぼる話であり、


「僕にはパパとママンの仇がすぐ傍にいた事になるんだ。グランパとグランマが僕を引き取ってくれたからね」

「不可抗力もあったと思うが……やはりお前は」

「そりゃあの時許せなかったよ。知らない人が僕のパパだかママンだかで、それも死なせた後だよ」


 その後シャルはまだ幼く、、育った環境を考慮して更生の余地は大いにあると判断され、保護観察処分となった。今の父が、実の両親を死に追いやってしまった罪滅ぼしの意味もあり里親を名乗り出たらしいが、親の仇を新しい親と受け入れることはあの時やはり無理であった。


「だから僕は色々悪い事をやってパパとママンを困らせようとした、ただ全然困る気配もなかったからいっそのこと家出してやろうってね」


 シャル自身、それが幼い頃の自分にとって精一杯の反抗だったと自虐を交えて明かす。その顛末として必死で探し回った父に見つけられて連れ戻されたとの事であったが、


「ただ、あの時僕をひっぱたいてちゃんと叱ってくれたんだ。それで僕思ったんだ――もうグランパにはかなわないなって」


 そのおかげで、あの時少し大人になれたような気がしたと恥ずかし気に語った。シャルにとって今の両親は、実の両親を奪った事への償いとして、新しい両親になろうと尽くしてくれた。それも罪悪感から甘やかすだけでなく、自分を思うからこそ面と向かって厳しいことも言える姿から上辺だけの親ではないとあの時に感じて今へ至ったという。


「僕が電送マシン戦隊の一員になることもグランパが認めてくれたんだ。僕の腕を正しい事に使えって、それで僕は玲也君に出会ったから感謝しないとね」

「ちゃんとシャルと向き合って接している……素晴らしいお父さんだ」

「うん、僕は二人のパパとママンがいてね……どうしたの玲也君、何か急におとなしくなっちゃて」


 シャルの両親の話を聞いたのち、玲也自身思うところがあってか俯きながらため息を吐く。その彼の思うところは親が恋しくなったのではないかとシャルが聞こうとした時だ。


「いや、俺は全然向き合えていないなと思う訳だ……」

「そっか……」

「あぁ。俺は戦う事だけはやめてはいけないと感じていた。だからポーのことを見て見ぬふりをしていたような気がしてな……」


 玲也が自分の胸の内を明かすことへ、シャルは穏やかな様子で受け止めようとしていた。彼より背丈が低い彼女だったが、彼女の境遇も相まってこの時は彼よりも大きく見える様子だった。

 

「玲也君、苦しいと思うけどそれでも昨日頑張って戦ってた。戦いを恐れて逃げ出さなかったのはやっぱ玲也君だよ!」

「いや、シャル……それはあまり褒められても嬉しくはない。実際うまく戦えていなかった」

「まぁ、そりゃそうだけど……確か玲也君、今新しい武器を作ってたんだよね」


 シャルが昨日の戦いへ関心を持っていることへ、玲也は少しバツが悪く恥ずかしがるような表情も浮かべていた。実際芳しい成績を収めていないのだが、並行してキューブストを継ぐための新たな武器を考案していた事へサyルは関心を持ち、


「これはレインさんを忘れないためにも……レインさんがいなければ俺は増長していたとあの時はだな」

「じゃあ、ポーちゃんのこともそう向き合おうよ。恨みや憎しみを背中に受けて戦うより、想いを胸にして戦った方がいいよ!」

「想いを胸にか……」


 このシャルの言葉に玲也は少しハっとさせられた心境だった。ポーを手にかけた事から彼女やニアに恨まれてもやむを得ないとの点に固執しすぎていた考え方が、自分自身を苦しめていたような気がしてきたのだ。


「ポーちゃんもお姉ちゃんの事があったから……本当はやっぱり好きで僕たちの敵になんかならなかったはずだよ」

「そうでなければ、俺を庇おうはしなかったはずだからな……」

「玲也君! ここで自分を責めてもだめだよ!!」


 ポーが敵対したやむを得ない事情を考えると、玲也は自分の手を思わず見つめてしまう。彼が自分の過ちに押しつぶされようとしていると気づいてシャルが窘めれば、思わずはっとしたように彼も顔を上げ直す。


「大事なのはニアちゃんにちゃんと伝える事だよ、ニアちゃんだって好きで閉じこもっている訳じゃないんだから」

「それもそうだと思いたい。ニアのように俺もポーのことを忘れないように向き合う事をしなければだな……」


 そう玲也が決意したとともに、気が抜けるような低い音が自分の腹部から鳴り響いた。シャルが思わずおかしいと感じて笑うと、彼は少し申し訳ない様子で顔を横に向けていたが。


「もうお昼だから仕方ないよ。ちょっと気分転換にどっか食べに行かない?」

「今から作るより、ここはそれが良いかもしれないな」

「まぁ、とりあえずシールドスーパーで何か食べようよ。ちょっと僕も思いついたアイデアがあって、気分転換もしたいからね」


 玲也が少し首を傾げた。シャルの言うシールドスーパーは少し歩いた先にある大型商業施設の事である。彼自身もアミューズメントフロアに用があり何度か足を運んだこともあり既に知っている場所となる。


「ただ別に近所なら、ボスラーメンがある。俺は別にそこでも構わないが」

「もう玲也君ったら……折角のデートの昼がラーメンってつれないなー」

「デート……今一つピンとこないが」


 シャルは玲也の腕を引っ張りながらボソッと呟いた。彼女の意外な言葉に対して、彼は実感がわかないように少しきょとんとした表情になっていたが、


「正直お前のお陰で大分楽になった。お礼になるか分からないが今日はとことん付き合おう」

「本当……正直色々プラモ買おうって思ってるけど退屈じゃない?」

「なるべくお前についていけるよう頑張る。それより今日一日だけでも羽を伸ばせるようにしたい」

「玲也君がそう言うの珍しいけど……僕も付き合ってあげる!」


 少なからずシャルに精神的な面で救われた事もあり、その恩返しとしてシャルとのデートへ1日付き合う事に決めた。羽を伸ばすように一日遊び倒すと彼らしからぬ事まで述べていたが――今の彼にはむしろ休養が必要と捉え、シャルもまた今は彼と全力で遊び倒すつもりだった。

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