5-6 そして……今更何を惜しむのか

『よぉ、三番隊副……いや隊長さんよ?』

『その声は……アルファ隊長!』

『そうだぜ。あんたの作戦はわかってて止めなかったけどよ、どうするんだよ?』


 ――闇雲に戦線を離脱するキューブストだが、アステルに向けて通信が入る。アルファと名乗る人物は彼からすれば二番隊の隊長であり、実質自分より格上の人物になる。

 状況もあるが緊迫した状態の彼と異なり、アルファは他人事のようにリラックスして構えている。彼もまたゼルガを快く思わない人間として、三番隊の独断を黙認していたものの、ハードウェーザーを強奪しても、1機たりとも仕留める事が出来ず、三番隊を壊滅に追いやった場合割に合わないと嘲笑っていた。


『だ、だがハードウェーザーを手に入れたのに変わりはない!!』

『そのハードウェーザーを奪ったからあんたは偉いって言うつもりか?』

『……ちっ!』

『まぁ、どうしてもってなら俺が助けてやるけどよ。あんたのプライドもあるから俺からは言わないぜ?』


 ハードウェーザーを手に入れた事が自分の手土産だと豪語するアステルだが、そもそもゼルガの元へ素直に渡していれば多大な被害を出す事はなかったかもしれない。明らかに強がっているような彼の言動をアルファは他人事だと嘲笑して通信を切った。


『今は戦うなポー。姉の敵はいつでも取れ……!!』

「待て、まだここにもいるぞ!!」

『お姉ちゃんの敵……まだ来るなら!!』

『やむを得ないか……!?』


 アステル自身しぶとく再起の可能性を信じさせており、今は逃げの一手であったが――彼を阻むようにブレストが接近しつつあった。姉の敵が接近している事にポーが触発されると共に、やむを得ずアステルは応戦する。ニュートロン・ガンを放つものの、ブレストが左手でかざしたカウンター・クラッシュを盾代わりに駆使して前進を続けており、


『近づくならニュートロン・ジャベリンで……!』

「キラー・シザース!!」


 前のめりにとびかかったブレストが角に電熱を集中させながらキューブストの胴を挟み込む。これに対してキューブストもまたニュートロン・ジャベリンを射出して、胸部を突き刺そうとするのだがブレストの両手が鏃に近い柄の位置を強く握りしめて踏みとどまっていた。


『……やっぱり貴方だけは!』

「ポーの姉さんに手をかけたのは俺だ! 俺はお前に恨まれようが構わない!!」

「……玲也!」

「殺したかどうかを、知らなかったで許してもらえるとは思っていない! だがな……!!」


 バグロイヤーとの戦いで、機体越しに相手を何人も仕留めている事は承知のはずだった。そのような戦いをするからは、それ相応の覚悟を背負わなければいけないとはわかっていた。

 ただ、ポーの姉――つまり手にかけてはならない相手を、知らずに仕留めていたと自覚したのは初めてのこと。そのショックから立ち直らなければならないと、何とか自分を鼓舞して戦いを続けるが、彼の腕はまだ震えたままだが、


「だが、お前もレインさんを殺した! 違うか……!!」

『っ……!!』

「レインさんが一体お前に何をした! お前の姉さんをレインさんは酷い目に遭わせたのか!?」

『ちっ、ちが……バ、バグロイヤーがお姉ちゃんを、お姉ちゃんを人質に!!』

「人質を取られても、許しきれない事もある! 俺もお前を恨んで殺すことができる……!!』


 キラー・シザースの電熱はキューブストのゼット・コーティングで吸収できる筈だった。しかしキラー・シザースは二本の角で相手を押しつぶすように挟み込む攻撃でもあるため、その質量での攻撃には耐えきれず、キューブストの胴体へは幾多ものひびが入りつつあった。

 今度は一転してポーがレインを殺めた事を追求する。彼女は姉が人質に取られていた事を提示するものの、それで姉妹と何も関係がなかった彼女が殺される理由はない。彼女もまた恨まれてもおかしくない罪を犯したのだと指摘する。


「やめて! どうしてそこまでポーを……」

「俺だって出来る事ならしたくない。ただ説得するにもポーの感情をだな……毒には毒と言いたくないが」

『何をごちゃごちゃと……くたばればいいんだよ!』


 ポーに罪の意識を認識させる――ニアからすればポーを余計苦しめる事ではないかとも詰られるが、彼女として自分たちを罪の権化のように見ている状態では、まともに話も聞いてもらえない。大切な相手を失って憎んでいるのはお互い同じ。そう認識させる事へ、彼も快くは思っていなかったが苦渋の選択でもあった。

 そして自分たちの話へ聞く耳を持とうとしないアステルがニュートロン・ガンでブレストの後頭部を撃とうとしたが、


「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『しまった!!』


 キラー・シザースを解いたブレストの体が後ろにそれる勢いとともに、キューブストの両脚から逆にニュートロン・ジャベリンを力づくで引っこ抜く。その上ニュートロン・ガンを構えたキューブストの右腕を、さらにスターマイン・シーカーの搭載された左肩を突き刺し素早く離脱する。


「出来る事なら、このブレストでキューブストを仕留めたい……だが、お前が話に応じるなら!!」

「今ならとどめをさせるのに……あんた」

「本当ならこのまま一思いに……俺は好きで手加減している訳ではない!!」

「……お願い、ポー! あたしたちの話を聞いて」


 頭部めがけてブレストが左手のジャベリンを投げつけると、キューブストがすぐさま電次元ストームを展開して迫るジャベリンを焼き払う。しかしこれは囮に過ぎず素早く右の電次元ストームの中央を突き刺すことで機能を停止させる事であった――これでキューブストの武器類を全てつぶしたことになるが、彼は胸部のコクピットではなく部位の機能を停止させていく術に転じていた。

 玲也の技量ならキューブストにとどめを刺すことが出来るのは、ニアにもわかっていた。それにもかかわらず彼が自分の憤りや怒りを押し殺して迄、自分の為に譲歩していると気づいた時、彼女は声を張り上げてポーの名を呼ぶと、


『ぐはっ……貴様……!!』

『も、もう嫌……こんなこと嫌! 私もお姉ちゃんの体もないし、レインさんもレインさんも!!!!』

『ち、違う! お前の姉はあのブレストが殺して俺は……!』

『アステルのせいだ! アステルが私とお姉ちゃんを奪ったからだ!!』


 その時、ポーは指先からのビームをアステルへと放つ。玲也やニアへの憎しみを払拭しようにも、罪の意識にさいなまれる形で、彼女は平常心を失いながらも初めてアステルへの反抗に及んだ。咄嗟にアステルが弁明するものの、彼らに自分たちの体が奪われた事が全ての元凶であり、説得力は皆無に等しい。


『ま、まだ死ぬわけには! 俺はハードウェーザーの機密が、利用価値がある男……!!』


 右肩を撃たれたアステルは、これ以上ろくな操縦が出来ないと悟った。それでもここで犬死するわけにはいかないのだと、上部の非常用脱出口――自分が乗り込んだ際の通路を使い脱出した。バグロイヤーのパイロットスーツを着用しているとはいえ、漂流同然の脱出はリスクが高いのだが、手段を選べる状況ではない。


「ニ、ニアちゃん……私、私……」

「ご、ごめんねポー……あたしが何言っても遅いかもしれないけど、あの……」

『玲也、早くキューブストを! 君がやらないとコイさんが、サンさんが君ごと……!!』

「……ニア! まさかと思うが!!」


 アステルが退散した事もあってか、錯乱した様子からポーが少しずつに落ち着きを取り戻しつつあった。ニアがようやく彼女の説得を試みるが――アトラスからの通信は双方を新たな問題に陥らせる内容であった。

 アトラス自身、ウィストに従う形でキューブストを始末する事へ乗り気ではないとはいえ、玲也に危機を知らせる事が精いっぱい。玲也がすぐニアに周辺を確認させるよう命じれば、ウィストがホイール・シーカーを尾行させるように放っていた事を気付かされただけでなく、


「熱源反応あり! まさか……」

『ニアちゃん、つけてたって事は……やはり』

「手荒な方法でごめんね……!」

『きゃああっ!!』


 カウンター・クラッシュを咄嗟に左肩から展開し、両手足を損壊しだるま同然のキューブストめがけて豪快にチェーンを打ち付ける――鉄球の部位ではなく、あえてチェーンを打ち付けるように攻撃へ転じたのも、ライトニング・スナイパーの狙撃からキューブストを射程外へ追いやるための手段であった。この光にカウンター・クラッシュの鎖が飲み込まれるものの、キューブスト本体を逸らす事には成功したが、


『貴様、キューブストを助けるとなれば……』

『一応仲間のあんた達まで手にかけたくないのよ、なのに!』

『や、やめなさいよ! あんた達も今何やって……!!』


 ライトニング・スナイパーも手段の一つにすぎず、ウィスト自身が電次元ジャンプで乗り込む――自分の狙撃を妨害した事もあり、コイとして玲也達も消すべき存在に見なしつつある。回し蹴りの要領でカイザー・アンカーを炸裂させ、ブレストをよろけさせたが、


『バグロイヤーに下るハードウェーザーもだが、そのハードウェーザーに手を貸すことが電次元人に許されるか……!!』

『ニアちゃんが、羽鳥さんが殺される……そんな!?』


 間合いを詰めるウィストがカイザー・スクラッシュを展開し、ザオシェンの発射体制も整えていた――自分だけでなくブレストが裏切り者の濡れ衣を着せられ、本当に始末されかねない状況に追いやられているとポーが気付く頃、ブレストもまたジャベリンを手にして受けて立つ様子であり、



「俺がこの手で始末します! だから、まだ倒されるわけには……!!」

「きゃあああああああああっ」

「……えっ、ちょっと何」



 ブレストがジャベリンを突き出した瞬間、確かな手ごたえを感じたが――ウィストを相手にしてもあってはならない事だが、同時に響き渡る悲鳴は――彼女にとって聞き覚えのある声。ニアが瞬時に目を見開いた先、コクピットの大型モニターに映る光景に目を疑った。


『ごめんねニアちゃん、羽鳥さん……』

「何で……何でなの! ポー……ポー、ポー!!」

「そんな、何故……まさか!!」


 藤色の華奢な機体から聞こえるポーの声――目の前の光景に玲也がその場でコントローラーを落として、立つことすらできない。ただ、自分とウィストが応戦状態になるのもキューブストが撃墜されていない為であり、彼女が健在な事が自分たちに疑いをもたらそうとしていた。この状況にポーが気付いて咄嗟に自らブレストの盾になる形で散る事を選んだと思われるが、


『仕留めたのか……コイ、これ以上の行動は無駄だ』

「俺が、俺がやってしまったのか……!!」



 キューブストが仕留められたと確認すれば、サンは問題が片付いたとコイを宥めながらブレストから離脱する。ウィストのカイザー・スクラッシュではなく、キューブストを背中から胸まで貫いているのは自分が突き出したニュートロン・ジャベリンによるものであった。


「玲也……ううん、ポー! 早く脱出して!!」

『それで……帰るところはあるのかな?』

「帰るところはあるよ、あたしだよ!!」

『ニアちゃんを裏切ったんだよ……。お姉ちゃんの元にもレインさんの元にも帰れない、ううん……当然だよね』


 ニアの視界には、玲也が己の手へ畏怖し崩れ落ちる姿があった。彼の苦しみを察し、とても責める気になれないと唇を一瞬かみしめた後、ポーへ脱出を呼びかけるが、彼女のポーの目から一筋の涙が零れるとともに、ぎこちなく微笑みを見せたただけ。もう自分に帰る所はないが、それは結局自分が裏切りを働いた報い。だからこそ助けられる資格がないと悟っていたかのようだった。


「だめ、ポー! 駄目だよ……!!」

『ありがとニアちゃん……でもごめんね』

「あ、あぁぁぁぁ……ポー!!」


 放心状態の玲也に重なるよう、ブレストは自然とニュートロン・ジャベリンを手放し後方へと引き寄せられていく。そしてポーの通信が途絶えるとともに前方で超新星のような爆発を目のあたりにした――爆炎とともに飛び交う紫色の塵が星のように輝きながら。


「……済まない、こればかりは本当にそうな」

『……当然の義務だが、貴様まで流石に裏切る事はしなかったな』

『サン、やめなさい!』

「あんた……!!」


 ニアはキーボードの置かれたデスクを握りこぶしで叩きつけながら哭く。この事態にサンからの通信はあまりにも相手を考えていなく、やはりコイが窘めざるを得ない。ポーを仕留めた事への詫びではなく、自分たちが裏切ると誤解したことへの詫びにニアがさらに強く拳を打ち付けた。


「……俺が裏切り者を始末したことがその証拠というのですね」

『当然だ。私が仕留めたら話はまた違うが……バグロイヤーに下ったあいつにかける情けはない』

「そうですね……俺は裏切り者を、そういうことですね……」

「玲也、あんた……!!」


 少し沈黙を置いたのちに玲也は握りこぶしを震わせつつも、サンへ身の潔白を立てたと報告せざるを得なかった。その為には裏切りを働いたポーを仕留めるべき存在として触れなければならなくなる。

もしニアだけが自分のパートナーならば彼女と同じ立場で抗議する側に回ったかもしれない。だがエクスとリンもまたパートナーであるからには、自分に疑いが掛かれば2人まで巻き込む。それゆえの苦渋の選択を強いられた玲也だが、彼の心中を察する余裕はこの時の彼女になかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ポーは好きで、裏切ったんじゃ……ないのに! あんたはあいつを……!!」

「……いくらでも殴れ! 殴って気が済むなら構わん!!」

「あんたねぇ……!!」


 その後ブレストはイーテストの手によってドラグーン・フォートレスへと回収されたが――電装を解いてアラート・ルームへ戻った後、ニアが玲也へ馬乗りになって容赦なく殴り続けていた。顔を真っ赤にして、くしゃくしゃな表情であふれ出る涙とともに彼女の怒りは収まりようがない。玲也も弁明することなく、ただ彼女の怒りを受けるだけで抵抗をするそぶりも見せない。


「おやめなさいニア! あのポーが裏切ったことには変わりはないでしょう!!」

「あんたに何がわかるのよ!!」

「よせ、俺はニアの親友に手をかけた事に変わりはない。当然の報いとして受ける義務がある」

「がきっちょが止せと言ってもなー……それでお前が死んだらどうするんだー」


 そんなニアを左右からエクスとリタが左右の腕を抱え込んで止める。玲也が第一のエクスは言うまでもないが、リタもまた真剣な表情で彼のことを案じている様子だった。


「ですが……なら俺はニアの怒りをどう受け止めれば」

「だからこうするんじゃない! 離せ、離してよ!!!」


 最もエクスやリタに身の危険を説かれても、玲也は怒りを一身に受け止めることを放棄することはしなかった。そんな彼を目掛け、エクスが抱えた両腕を振りほどいてニアが左をさらに玲也をお見舞いしようとするが、


「だめっ……!!」

「リン……!?」


 ところが二人の間を入って素早くリンが割り込む。それも玲也を庇うように現れた彼女はニアの左を頬へもろに喰らう。同じハドロイドでも頬を殴られた痛みは相当のものだったが、彼女はその場で踏みとどまっていた。


「やめろ! がきっちょはともかくリンは関係ないだろー」

「ううん、ポーちゃんが怪しいと皆さんに伝えたのは私です。私が伝えなければポーちゃんがこんなことに……」

「そんなことを言ったら僕だって……もう、こんなことやめようよ!」


 リタが当事者でないリンまで巻き込むなと、ニアを𠮟りつけるが、リンは自分もまた責任があるとのスタンスを崩さない。電装マシン戦隊のためとはいえ、密告した罪を償わなければならないとその場で涙を流していた。シャルもまた自分も責任を背負っていると告白しつつ、これ以上仲間割れが続く様子はつらいとその場でふさぎ込んでおり、


「あたしだって……あたしだってこんな事好きでやってるわけじゃないのよ!」


 リンとシャルが目の前で涙する様子に、怒りは少し収まるのだがニアの心にやり場のない想いが広がりつつあった。行き場を失った感情を込めた拳はただ床に向けられるも、宙に浮かせた状態であり床の代わりに涙が雫のように零れ落ちる。


「それ位あたいでもわかってらー……エクスー、手伝ってくれー」

「わ、わかりましたわ……ほらニアさんしっかりして」


 そんなニアをリタとエクスが両側で抱えながら個室へと向かわせる。リタはともかく、エクスもこの場では流石に彼女を気の毒に感じたのか、収拾させる側に回っていた。


「玲也さん、大丈夫ですか……」

「……俺は大丈夫だ。親友を失ったニアの方が」

「いや、君も今苦しんでいることに変わりはないだろう、玲也君」


 リンが自分を案じることはありがたいが、玲也は平静を保とうとした。自分が殴打された顔の痛みより、ポーを手にかけられたニアの心の方が苦しいのだと。最も彼が相当無理をして平静を保っているのだとアラート・ルームに入室したエスニックは言い当てた。


「ハードウェーザー同士の戦闘が本当に起きただけじゃない。つらい決断を君にさせてしまった事は私の責任だ」

「おめぇも俺達もあぁしなきゃいけなかったけどな……これだけは胸を張るな! 綺麗ごとから外れねぇといけなくてもよ」


 玲也へ謝意を伝えるエスニックの隣からアンドリューが玲也の前へと出た。玲也の両肩に両腕を添えながら口を開いた。相変わらず少し口は悪いが、シビアな現実から逃げることなく手を下したことを認める一方で、穢れた事に心まで侵されてはならないと釘をさすように告げる彼の表情は憂いを抱いていた。


「ねぇアンドリュー! 玲也君は本当にポーちゃんを……」

「キューブストがあぁ動くことは予想できねぇ、事故だと俺たちは言ってやらぁ……」

「仮に確信してやったとしても、私たちは君の行いは正しいと言わざるを得ないが……」

「大丈夫ですよ、アンドリューさん、将軍」


 玲也の返事はアンドリューとエスニックからすれば意外な内容であった。その彼が顔を上げた時、彼は明らかに無理をして笑顔を作っていた。ニアに殴られた顔の傷が癒えているはずもなく余計痛々しい光景であったが、


「ポーの事は決して忘れません、ですがだからと言って戦うことを休んでいい理由にはならないはずですよ」

「そんな! 玲也君がそんなに根を詰めたらだめになっちゃうよ!!」

「俺が休めばニアもですが、エクスもリンもどうなるんです……」

「玲也さん、私はそこまで望んでいないです! エクスちゃんもきっと……」

「なら、それこそ俺がだめになるだけですよ!」


 ――自分は今休まなければならない、目の前の二人がそう計らう心遣いはわかっていた。だがここで甘えることになれば玲也自身が折れてしまうのではと危惧していたのも確かだ。彼が今涙も流さず、空元気だろうとも気丈にふるまうことが出来る理由は、たとえ誰から恨まれようとも戦い続ける覚悟が大きかった。


「……おめぇ、もうちょっと強がるとしてもよい言い方があるだろ」

「俺はプレイヤーとして戦う事へ既に覚悟は決めてます! 憎まれようが恨まれようが何だというのですか!!」

「そういう考えはなぁ、ポーをバグロイヤーの連中と同じだと言ってるもんだぞ!!」

「なら、誰かが死ぬたびに挫けろというのですか! 戦えないですよそれじゃあ!!」

「待て、玲也君!!」


 自分自身を顧みないで戦いに固執する玲也の様子へは、一変してアンドリューは厳しい言葉をかけた。だが彼自身バグロイヤーと戦うにあたってこのような苦しみは避けられないのだと、今は聞く耳を持てなく、荒ぶる心に駆り立てられるようアラート・ルームから個室へ急いだ。傷だらけの顔を抑えフラフラになりながらも。アンドリューとシャルが呼び止める声も聞こえないふりをしながら闇雲に急いだ。


「――今更何を言えばいい! その日まで 戦い一筋とわかっていたはずだ!!」


 玲也は天井へ向かって叫んだ。誰に向かってなのか、それは己自身への再確認との意味も込められていたのかもしれない。だがもう一度その決意を思い出さなければいけなければ、彼は既に挫ける手前へと追いやられていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「事故だとしてもポーを仕留めたことに変わりはない。その苦しみを忘れられない俺の心は荒んでいた。シャルが気晴らしに誘うものの、諍いに巻き込まれ俺は腕を怪我してしまった。その上シャルが責任を取ろうと俺に代わり出撃だと……どうすればいい!!次回、ハードウェーザー「シャル起つ、プレイヤーは僕だ!」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」

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