4-5 火を噴くポリスター! ゼット・フィールドで逆転だ!!

「れ、玲也様! 本当に転送されたのですか!!」

「……ぶっつけ本番だが、何とかなったか」


 エクスの目の前で玲也が瞬時に現れた。動き出した彼だが直ぐに頭を抱えて、思わず両膝を地面に就かせてしまう。転送された直後で酔いが残っていたようだ。


「玲也様、何とかなったではないです! 大丈夫ですか……」

「すまないエクス、トライ・シーカーを頼む。あのカプセルをバリアーで囲みたい」

「あ、あのカプセルですね……」


 まだ浮遊機雷の群れの中にアイアン・バイスとカプセルが取り残されている。時限爆弾の除去は半分以上が片付いていたが時間との戦いは続いており、残り2機程のバグレラがデリトロス・マシンガンを機雷めがけて放つ。付近の機雷を巻き込んで爆発するその様子はやがてカプセルにも迫ろうとしている脅威だった。


「一応は成功したが、転送酔いに慣れないと厳しいな」

「無理をされないでくださいまし。今の玲也様に私の格好悪い所を見せられませんわね……!」


 トライ・シーカーを4基エクスが飛ばした。ネクストの両腕からバスター・ショットを連射して群がる機雷を蹴散らしており、残り4基がその隙に電次元サンダーによって切り開かれた方向に放たれていく。


『パムチー!?』

「これで機雷からはカプセルは守れるはず……それだけではないが!」


 クロストの頭部から放たれた四筋の光を受けてすぐさまゼット・フィールドが形成された。

 ゼット・フィールドはアイアン・バイスとカプセルに密接した状態で機雷との接触を阻止する。さらに、玲也はゼット・フィールドが代わりに機雷の爆発を受け止める事を利用してトライ・シーカーを機雷に接触させない範囲で動かしながら、ゼット・フィールドの形状を変化させつつ浮遊機雷を除去していく。


「カプリアさん! これで多分パルルの方も少し余裕が出るのではと思います」

『今度はボウズの方が動けない状況か……パルル! 今の状況は』

『……ダー!』


 機雷に接触する可能性が大幅に減少したからか、パルルは時限爆弾の解体に専念してキーボードをより素早く動かした。これによってかスクイード・シーカーからのがマジックアームが最後の時限爆弾をチェーンごと切り離したのだ。


『よくやったパルル! どうやらボウズが張ったフィールドにいれば安全だぞ!』

『ダー!!』


 パルルは再度ディエストの操縦に専念する。それと共に電次元ジャンプを交わして、すかさずコントール権を戻したアイアン・シュナイダーでバグレラを引き裂き、アイアン・バイスでバグレラの腹部をつかみ、すかさず浮遊機雷の群れに向けて投げ飛ばして道連れにさせる。ゼット・フィールドの存在もあり、自分たちがバグロイヤーの浮遊機雷を利用する事にためらう理由はない。


『無謀な深追いは禁物だが、倒せる限りは倒さなければな……』

「ま、まったくそうですわ……私だけでも行けましたのに」

「別にお前が強がらなくて良い。流石アンドリューさんと互角の実力を持つ方だ……」


 最後に1機だけ逃れるバグレラの姿があった。エクスが空いた2基のトライ・シーカーで追跡を振り切ろうとしていたが、バックパックめがけ、右手から射出されたアイアン・バイスが直撃。その場でひるんだところを、Eキャノンを滅多打ちにする。玲也の酔いが収まったころには既にディエストが残りのバグロイドを退けている。無駄のない動きに玲也は改めて実力者の手並みを実感したが、


「そうだ……アンドリューさん、ドラグーン・フォートレスが今襲われていると!」

『わりぃが、今おめぇが出ても遅いぜ』


 カプリアと互角の実力を誇るアンドリューのいるドラグーン・フォートレスの危機を玲也は思い出した。最もすぐさま通信を取るのだが、アンドリューは既にやり終えたような表情でケロリと答えた。


「ええっ、アンドリューさんもう片付けてしまったのですか!?」

『まぁ、ハードウェーザーだからな。バグロイド5、6機ぐらいは軽く倒せて当たり前だぜ?』

『そうアンドリューが言うのもだけどなー、相手が3機だけでフォートレスを襲う敵も相当無謀だったなー』

『3機だけで向かってくるというのは……変な話だな』


 アンドリュー達はあっさりバグロイヤーを退けた事へ胸を張る傍ら、バグロイヤー側が寡兵でハードウェーザーのいるフォートレスへ攻撃を仕掛けた事をカプリアが訝しむ。最も二人ともそのことは考えており、


『そうだなー、何か引っかかるんだよなー』

『カプリア、玲也。確かおめぇらの所で新しいハドロイドを発見したとか言ってたよな?』

「はい。浮遊機雷の群れに時限爆弾を仕掛けたと大分手が込んでいるものでした」

『なるほどな……ちと考えとくか』


 アンドリューが彼らの話から、何となく自分たちが戦った相手が足止めや牽制の目的があったと察した。これは自分たちが後々考える必要があると捉えた上で、


『そういや玲也、おめぇがポリスターで転送して乗り換える方法を思いつかなかったら危なかったかもしれねぇってカプリアから聞いた。よくやった』

「カプリアさんがですか! ただ殆ど俺は転送酔いで動けずエクスに殆ど任せてましたが」

「私は当然のことをしたまでです。玲也様に尽くしてのこそでして、そもそも……」

『まー、よくやったなーエクスー』


 アンドリューが玲也の奇策が功を奏した事を称賛すると、玲也は少しきょとんとした様子で驚いつつも驚きや照れを見せていた。エクスは相変わらず調子に乗りそうだったのでリタが適当に彼女を相手にしていたが、


『最後の方はほぼ私の独壇場だったがな。おだが前のアイデアは立派だ。その上で次はよりよく動くことを考える事が大事だ』

「は、はい! 今回運がよかった点もやはりありますので今後の対策も念入りにするつもりです」

『まぁ、そういうことはこれから学んでも遅くねぇ。あくまで俺が師匠って奴だ俺の事忘れんなよ?』

「おいおい、お前もマーベルみたいに私と張り合ってどうする。コーチとしては私に分あっただけかもしれないぞ」


 より今後を励もうとする玲也の様子から、カプリアと組ませたことは成功した。アンドリューは彼が一歩成長したと認めつつも、彼が予想以上に彼を高みへ登らせる手腕を前に、少し張り合うような言動をとっていたが。最も受け流しつつ軽口をたたく様子から二人ともじゃれている様子でもあったが、


「パムチー?」

「何、やはりあのハドロイドが怪しいかもしれないか」

「ダー……」

「バグロイヤーが囮にしては本気で襲い掛かってきたとアンドリューも言っていたが、さて……』


 パルルもまた今回のバグロイヤーの行動に不審な点があると言いたげだ。確かに表面上ではハドロイドを餌にして自分たちをおびき寄せて叩く術を取っていたものの、最終的に自分たちがハドロイドを手に入れさせることが目的だったのではないかと……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『後詰めが出せないのですか……?』

『申し訳ないイズマ殿。ダロッシュがハドロイドが奪って電装マシン戦隊へ寝返った』

『それでハドロイド回収の為に後詰めを回した訳ですな……』


 ――ここから少し時が遡る。ドラグーン・フォートレスを襲撃した3機のバグロイドはイズマ達の部隊が率いていた。厳密には数機バグアッパーが後に続いていたが、それらバグアッパーの面々はラディ率いるフラッグ隊に一進一退の攻防を繰り広げていた。


『イズマ様、後詰めがないようでしたら長期戦は不利だと思います。』

『臆したか、コラン!』

『……きゃっ、バグレラとやはり違う!?』


 バグレラを駆るコランが撤退を促すも、イズマは臆しない様子でバグロックを駆り続ける。両肩からクナイのような形状をしたシューティングレネードが投げつけられるとルリー機の右翼を直撃する。思わぬ被弾にルリーが少し狼狽もした。


『このバグロックを任された上、相手が後詰めを出し渋ったうえで戦果を挙げてみろ……俺たちは見返り以上の働きをしたことになる』

『イズマ様、その様子ですとどうやら三番隊を狙うつもりですな』


イズマの口からこの状況を寧ろ好機ととらえる理由をバンドースが察した。ラディ機の放つローカライ・クローをかいくぐりながら彼の機体が接近を試みるが、身動きを封じられた彼にめがけてトム機のレールガンが火を噴こうとしていた。


『させるか!』

『何……しまった!?』


 しかし、バグロックがトム機めがけてシューティングレネードを手にして投げつけてきた。トムはこの行動に驚きながら間一髪機体を回避させるも、左翼がダガーに触れて機体の制御が不安定になってしまう。


『あの銀色、俺らを舐めているのか知らないが相当な自信だ……』

『ふっ、あのハドロイドを狙ってここのハードウェーザー2機は出払っているとの事らしいからな……そろそろ決めてやろう』

『了解で……』


 フラッグ隊が3機ながら自分たちより格上の相手に粘っていた。イズマはこの彼らに足を止められてばかりでは自分たちの沽券にかかわると撃墜せんとした時だ。紫の閃光が二筋、その一つがバンドース機の腹部を貫いてすぐさま彼は機体ごと宙域に爆散した。


『バンドース……まさか!?』

「へへー、ブラスターはこっちにつけた方が小回りが効くから便利なんだと思うがなー」


 この時、イズマの顔色が変わった。あれほどのエネルギー兵器をスパイ・シーズが使用できるはずはないからだ。知らされていた情報と異なるのか、最悪の事態を想定しつつも目の前に現れたのは紺色と黒のカラーリングで塗装された戦闘機のようだが。


『リタさん! 私たちの立場がないですから自重してください』

『はいはい、そういったプライドは今関係ないぞー』


 スパイ・シーズとは形状が全く異なり、機体の上部に2門のキャノン砲を、両側面にミサイルポッドを携行しており、装備面でスパイ・シーズの上位に君臨するかのような機体でもあっだが――ルリーがリタへ苦言を呈する。この戦闘機の正体が本来イーテストのバックパックに連結されたセカンド・シーカーであったからだ。スパイ・シーズでは使用できない高出力のビーム兵器の正体も、イーテスト・ブラスターで使用されるグレーテスト・ランチャーなのだ。


「ったく、抜け駆けするなって話だがな……!」

『ハードウェーザーだと……!!』


 リタに続いてイーテスト・ブレイカーが電次元ジャンプで登場し、バグロックの背後からクロスベールで切りつけにかかる。イズマはすぐさま両手に備えられたデリトロス・ブレイカーで鍔迫り合いに持ち込もうとするも、ビーム刃と実体刃を兼ね備えるクロスベールの前にその刃は折られた。


『聞いてないぞオロール殿、ハードウェーザーがもう1機いたということは!』

「何を訳の分からねぇこと言ってやがる! たった3機で本陣に突っ込んでくるとか、俺達も軽く見られたもんだなぁ!!」


 オロールからの情報が偽りとの点で、イズマは自分たちがバグロイヤーで邪魔者として切り捨てられる存在だったと気づいた。シューティングレネードを飛ばして牽制し、アサルト・ラピードガンを乱射しながらイーテストとの間合いを開けようとしている。


『せ、戦闘機の分際で!』


 一方コラン機に向けてルリー機が肉薄するような攻撃を仕掛けようとしていた。イズマと同じく退却を考えていた彼であったが、格下の戦闘機にまでコケにされているような動きにいら立ちも感じ、徐々に高度を上げて、自らのルリー機へアサルト・ラピードガンを向けていった時だ。


『その気か知らないけど、絶好の機会だからね!』

『しまった……イズマ様!!』


 高度を上げるルリ機と取って代わるように後方で控えていたトム機がレールガンを放つ。コラン機の腹部に直撃して身動きが止まった時、さらにトム機が念入りに接近してミサイルを繰り出していくと同時に、炎上して砕け散っていった。


『流石に同じ戦闘機でもハードウェーザーに手柄を取られたくないからね』

『ふざけるな……!!』


 トムが余裕の表情を作るが、報復と言わんばかりにバグロックがデリトロス・ブレイカーを振り下ろす。右のリニアガンが本体から切り落とされ、彼の表情から余裕が消えるのだが、別の機体がバグロックをめがけてミサイルが被弾する。


『……わお』

「トムー、油断するとお前死ぬぞー」


 そのミサイルはセカンド・シーカーから放たれたもので、リタがトムの迂闊さを指摘する。バグロックもまたアサルト・ラピードガンで後方のミサイルを撃ち落としていくのだが、


『バグロイヤーは、俺たち傭兵も簡単に切り捨てるのか、あの新兵達とは違う俺を……』

「新米だろうがベテランだろうがなぁ、そういうことは勝ってから言いやがれ!」


 ミサイルを撃ち落とすことに気を取られていたバグロックに、クロスベールを振り上げながらイーテストがとびかかる。イズマは右腕のデリトロス・ブレイカーでエッジを振りかしてくる場所に向けて振るい抵抗を試みるも、ブレイカーの刃を、続けて右腕を、最後はバグロックの胴体を乱切りするようにイーテストは切り捨てた。


『気をつけろバブリー……ハードウェーザーは、ハドロイドは俺達の居場所を……』


 イズマは白銀のバグロックと運命を共にして果てた。彼にとってバグロイヤーに取り立てられた証であり、隊長機という名誉を彼は手にしてその後へ野心を滾らせるものであった。しかし、そのバグロックを餌にバグロイヤー――アステルやオロールは、彼らを危険視して切り捨てる事を選んだ。彼らの傭兵としての強さは、自分たちの立場を危うくさせるものとして、結局バグロイヤーは信頼して受け入れる事はしなかったのだ。


「なーにが居場所だ。あたいらをそう呼ばれちゃたまんないな―」

「ったくだ……バグロイヤーがハードウェーザーを甘く見てるから俺に勝てねぇんだよ」


 イズマの断末魔の意味を察したが、アンドリューとリタにとって彼はゲノムでたたき上げの傭兵であることに固執していただけに過ぎない。そんな自分だけの価値観に固執していたにすぎないと冷ややかな様子だ。結局ゲノムの地で培った彼の誇りと自信は、環境が変われば井の中の蛙に過ぎなかったのだ。


『アンドリューさん、ドラグーン・フォートレスが今襲われていると!』

「……わりぃが、今おめぇが出ても遅いぜ」


 それから玲也の通信が届く。アンドリューは彼もまた自分の任務を果たしたから救援に向かおうとしているのだと、口では少し棘っぽいが表情は己の自信だけでなく、彼への安堵も含まれたような安らぎもあった。


「……まぁ、あの銀色より俺にグレーテスト・マグナムを使わせた玲也の方がまだ歯ごたえがあったぜ」

「アンドリュー、それがきっちょの腕より同じハードウェーザー同士だったからじゃないかー?」

「それもあるかもしれないけどよ……まぁそれがどうかはこれから。先があるから俺は期待してぇんだよ」

「それなら、がきっちょに伝えとこうか―?」

「バーロー、そういうのはホイホイ伝えちゃ意味ねぇんだよ」



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