4-6 がんじがらめのハドロイド、来たる

「玲也さん、新しい方が無事来ることになりそうですね」

「カプリアさんの話だと、名前はキューブスト、プレイヤーがサウジアラビア出身でビャッコ配属か……」

 

 ハドロイドはカプセルから解放され、記録されているハードウェーザーからある程度の情報は判明したという。そのハドロイドを救うきっかけになったポリスター・ガンへ向けて、少し感慨ありげに玲也が見つめる。


「このポリスター・ガンの扱いに慣れれば今後の戦いでもっとうまく立ち回れる。メルさんに感謝しなければ」

「まぁ、確かに3機分あるから乗り換えとかに使えば幅広がるからなー」

「けどまぁ、これで猶更3機使いこなさねぇといけねぇこった。基本があってこそ応用が利くって奴だぜ」

「そうですね……本当考える事もやる事も多いですけどね!」


 ポリスター・ガンを駆使してより3機を柔軟に運用するとなれば、個々を上手く動かす腕が求められているようなもの。アンドリューから釘をさされると玲也は口では煩雑さに辟易しているような口ぶりだが、実際の所は前向きに捉えている顔つきをしており、アンドリューの口元が微かに緩む


「私は玲也様に感謝しますわ! 最初に私を選んでくださいましたし」

「……エクス、俺から離れてくれないか」

「もう、玲也様ったら相変わらずうぶな殿方♪そこが私は好きですが」

「お前、人の話を聞いていて……!」


 そして今エクスが玲也を抱き寄せて頭を撫でている。玲也は彼女が相変わらず一途に溺愛している様子に何とも言い難い表情を浮かべいた所、右足のすねを何者かに蹴りつけられた。たまらず彼が右足のすねを抑え込むほどで、必死に痛みに耐えて声を押し殺してその主を振り向くと、


「ちょっと玲也様に何をされますのニアさん!」

「そ、そうですよ! エクスちゃんならともかく玲也さんは今回非があるとは……」

「はいはい今回出番があったあんた達とは違いますからねー、あたしは」

「今回呼ばれなかった事で、そこまで拗ねているのか……」


 玲也に当たるニアに向けて、エクスだけでなくリンも珍しく彼女を嗜める。それでも彼女は腕を組んだまま顔をそむける。玲也は何故不機嫌なのか最初把握しかねていたようだが、


「ブレストは戦闘に特化している反面、クロストのようなバリアーやネクストのようなジャミングもない。今回には向いて無くてな」

「はいはい、あたしのブレストは戦うことしか能がありませんよーだ」

「あのなぁ……」


 一応今回の戦場がブレストに適していないと玲也は説明するも、ニアは自分がお呼びでないと何故か余計強い不信感を寄せてしまった。流石にわからず屋だと言いたげな表情を作る、玲也は頭が痛くなるような心境だったが、


「ニアちゃん、何か朝から様子がおかしいね……」

「朝からになると……俺にボールを当てた時から既におかしかったのかもしれないが、うぅむ」


 シャルに尋ねられ、玲也なりにニアが不機嫌な原因を考えるのだが、その折に彼の肩を叩く者がいたので彼が振り向けばツナギ服姿の男性の姿があり、


「ジーロさん……確かポリスター・ガンの開発に関わられましたね。有難うございます」

「あー、それはそれで嬉しいんでやすけど、あっしが言いたいのはこれっすね」


 ジーロが玲也に突き付けるのは何等か顛末書か始末書か知らないが、長文を書くことを強いられるようなものであった。彼がふと何か思い当たることがあったか首を傾げるが、


「玲也君、ポリスター・ガンを使ったら申し訳ないがその理由や結果などをちゃんと書いてほしいのじゃ、流石に人を転送できる銃をむやみに使うのは危険じゃからな」

「すみませんね、いやあっしは100㎏までなら転送できるとはいえ人間まで転送できるとは思いやせんでして……メルちゃんそこまでとんでもないもの作ってやしたか」

「は、はぁ……確かにとんでもない力を秘めていますからね」


 ブレーンとジーロにポリスター・ガンを使う際のルールを説明された。遊び半分で使ってはいけない力を持つ兵器なのもあり正論と感じるが、最もそれはもう少し早く言ってほしかったとは僅かに煩雑そうな心境が顔に出るも、


「ははは、最も事前に使用する事を申請していればその必要はないぞ玲也君。まぁ急に使う時だけ書く必要があると思ってくれたらよいかな」

「確かに事前に想定して考えるのも大事ですね……先にレポート書く事にします」

「まぁ、玲也にはいい薬かしらね」

「ニアちゃん、これ……」


 エスニックが指摘した内容もまた正論であり、玲也は少し面倒な心境ながらも、レポートの提出を優先させる事にした。これにニアは腕を組みながら皮肉を漏らしており、リンが肩を叩いて呼ぶのは彼女を嗜める為かと思えば、


「ニアさん、リンさん。もしかしたらお知り合いですか?」

「えぇ、ニアちゃん……ポーちゃんですよ」

「ポーが……? まさかあの子も……」


 ただ少し事情が違うようで、リンがオペレーターの小型モニターにニアを連れていった。エルがキューブストのデータを表示すると、ハドロイドの情報が掲示された。ポーという名前と顔は二人にとって知っている人物の様子であり特にニアの身体はかすかに震えていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「お、お姉ちゃん……!?」

『やはりポーの姉なら話は早いが……』

 

 ――ビャッコ・フォートレスにて藤色のショートをした少女が絶句していた。ニア達と同じ年頃の彼女“ポー・ウィン”はタグから映し出される立体映像を自分自身と姉のウィンが入ったカプセルを目にしたのだから。その二人を人質として扱うアステルは見下すようにほくそ笑む。


「お願い! 私だけでなく関係のないお姉ちゃんを巻き込まないでください!」

『それは出来ないな。お前たちが血でつながった実の姉妹だからと効果があると思って人質にしたからな』

「そ、そんな……」

『俺もそこまで人でなしではない。私の言う通りに動けばお前達の身体に危害を加えないつもりだ』


 ポーに厳しい選択を強いられる事となり、彼女は頭を抱えながらその場で跪いてしまう。アステルが言うにはハードウェーザーの機密を入手するスパイ行為を働くことだが、目標を達成したとしてもバグロイヤー側に身を置くことになる。


「あ、あなたの言う通りに動けという事はニアちゃん達を裏切る事……」

『お前にとってそいつらが大事かは知らないがな、少なからずお前が姉を大事にしているのはよく分かっているつもりだ……』

「お、お姉ちゃんは、お姉ちゃんだけは……」

『賢明な判断を早いうちに済ませる事だな・……』


 ニアが先ほど反応していたと同じように、ポーもまた彼女たちと面識があり、裏切りを働く事には良心が苛まれるように胸を締め付けてくる。肉親か友か――アステルの通信が切れると共に、ポーは頭を抱えその場で崩れ落ちる。


「ふふ、上手くいきましたようですね。アステル隊長」

「オロールか。お前も上手くポーを電装マシン戦隊に送り込むことを成功したのはともかく、イズマを切り捨てる事はな」

「いえいえ、ポーを三番隊に直接送る事が出来なくなったおかげで上手い口実を作る事が出来ましたからね」


 アステルはオロールが自分の指示だけでなく、彼が独自の判断でイズマを死に追いやった事も称賛した。彼に対してはエリルやイズマのようなパイロットとしての腕ではなく、謀略家気質としてある程度アステルも心を許している様子であり、


「ゼルガの奴、自ら陣頭に出ないうえ追撃の数も渋っていた。あいつにその気はないのは確かだ」

「しかし、敵に回したあのハドロイドも最終的にはアステル隊長の……」

「そうだ、ハードウェーザーのおかげで今まで腕の立つパイロットが幅を利かせる時代は終わりだがな」


 アステルはオロールと共に自分たちがバグロイヤーの中で上手く立ち回っている事にほくそ笑む。彼にとってエリルがパイロットの実力で差が開いていた事から、後塵を拝していた事への恨みもある他、自分の野望の為に所謂武闘派を障害として取り除く必要があった。エリルも、イズマも消すべき存在としてマークしており……。


「しかし、謀略家がトップに立つのは昔から煙たがられる。その為に」

「力が必要との事で、アステル隊長がハードウェーザーを手にすることが最終目的ですからね」

「そうだ。ハードウェーザーさえあれば俺の屈辱も晴らせる」


 高笑いをしながらアステルは確信しようとしていた。少し回り道をしているとはいえ自分がハードウェーザーを手に入れればバグロイヤー前線部隊を牛耳ることが出来る。自分の謀略家気質に反して欠けていたパイロットとしての素質を、ハードウェーザーという力を手に入れる事で補おうとしていた。そして手に入れたポーは必ず自分たちに就くと、二つのカプセルに眠る人質に視線を向けた。


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次回予告

「俺達が回収したハドロイドはポーというニアの親友だった。だが前線に出たポーのキューブストが突如寝返った。ポーが既に手をかけていた事実を俺は知るが、同時に俺も既に取り返しのつかない事をしていたとは……! 次回、ハードウェーザー「故郷いえなきポーは星へ還った」にブレスト・マトリクサー・ゴー!

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