4-4 浮遊機雷からハドロイドを救え
「ふふ、玲也ちゃん私の所に来てくれて嬉しい♪」
――ドラグーン・フォートレスのメディカル・ルームに玲也達の姿があった。オレンジの髪をしたジョイという人物が白衣にスカートの様子を着こなしているからおそらく担当医のようであり、彼女、いや彼は玲也が患者としてきた事へ妙に喜んでいるようだ。その為彼の様子に玲也は何とも言い難い心境であった。
「しかしまぁー、ニアが玲也の頭めがけてボールを投げたら昏睡とはなぁ……」
「ハドロイドの力ならソフトボールでもこれ位の威力があるんだぞー、打ち所が悪ければがきっちょが大変だったぞー」
「俺は先程で既に大変でしたが……」
玲也がメディカル・ルームに運ばれた経緯は、学校での一件だった。幸いジョイが診察した限りは後頭部のたんこぶぐらいでプレイヤーとしての活動は特に問題がないとの事だったが、
「ちょっとニアさん! あなたが玲也様に怪我をさせたのでしょう謝りなさいよ!!」
「……」
「ニアちゃん、あれから急に怒っているみたいですが……」
「何でもないわよ、な・ん・で・も!」
しかし、ニアが顔を横に向けたまま腕を組んで何も言わない。ぷいとエクスが真っ先に彼女を咎めるがあまり効果は見られない。リンもエクス程ではないが彼女がいら立っている理由を何とか聞き出そうとしている様子だ。
「ニアー、あたいも今回は謝るべきだと思うぞー。今回みたいなことがまた起きたら洒落にならないぞー」
「リタさんまで玲也の肩を持つの!?」
「あのなー、これがきっちょとかお前とかの問題に限らないからなー。ハドロイドはプレイヤーの身を守る役割もあるのを考えてみろー」
「う、うぅ……」
さらにリタも珍しくニアを諭した。少し厳しげな様子で先輩として年長者としての威厳を見せる彼女へ調子を狂わせたように言葉に詰まるのだが、
「玲也君! 無事かー!!」
「博士!」
そのおりにブレーンが医務室へ急いで乗り込んできた。玲也は特に問題ないと彼を安心させようとするが彼は無事を知っても狼狽したままだった。
「全く、やっぱ玲也玲也ってみんなこいつのことが大事なんですね」
「ニア君! わしは別に君の事がどうでもよいとは……」
「博士! 俺も流石に聞きたいのですがどうしてニア達を俺と同じ学校に転入させたのですか。おかげでこの様ですよ」
「ちょっと! それどういう意味よ!!」
ニアの不遜な態度へ流石に少し苛立ってきた玲也は、ブレーンへと問いかけた。本来授業の合間に通信で聞こうと考えていたものの、例の一件が起きてしまったので聞く機会を逃していたのもあったが、
「玲也様、まさか私の事がお嫌いになったのですか!? 私それほど嫌われていたのですか!?」
「いや、これはそういう話と先ず関係ないですから早く教えて下さい」
「そ、そうか……」
エクスの思い込みをフォローすると話が別の方向に逸れると玲也は判断した。彼にせかされてブレーンはハドロイドもまた表向き同じ地球人として公平に扱う、地球を知ってもらう為との配慮から来ていると説くが、
「その写真は……?」
「あぁ、また博士のこの話かよ……おめぇは初めてかもしれねぇkど」
ブレーンが少し恥ずかしげにスマホからとある人物の写真を見せる。セピア色に変色し始めており、年季が入っていた事も含め、そもそも誰かわからないので問う玲也だったが、アンドリューは彼のスイッチが入ったと少し苦い表情を浮かべていた。
「これはハワイのオハナちゃんでな、わしは昔文通で遠距離交際をしておったんじゃ。その頃のシャイで直接顔を合わせる事も出来なかった訳でのぉ……じゃが気づいたら手紙が途絶えてのぉ」
「そのあと、そのオハナって子が何やら日本の会津とかに引っ越していた上に彼氏が出来たと知った訳だなー」
「あぁ、リタ君! ちょっとその話を先に言わないでとは何回も」
「博士は話が長いんですよ。そのあとまたどうせオハナちゃんと蕎麦屋を開こうとかっていつもの少年時代の夢に続くんでしょ?」
リタとアンドリューにとって、ブレーンの長話は早々に切り上げられた。なお彼が少年時代蕎麦屋を経営する事が夢だったと知った際、どういう経緯で今へと至っていくか玲也は少し気になったが、
「ただ博士、一体俺に何を言いたいので……」
「ニアちゃん達が何時でも玲也君と一緒にいるって事は博士の心遣いってことになるのよ!。みんなチャンスあるじゃない♪」
「……やっぱり!」
玲也は少し微妙な心境で耳を傾けていたが、ブレーンの恋話をジョイだけ面白そうに聞いていたのもあり励ましの一言を送った。その言葉にエクスのスイッチを入れてしまうこととなり。
「玲也様、これからも私は貴方の事を想い続けまして……」
「いや、あくまでジョイさんはチャンスと言った訳だがな」
「そうそう、星5が出てくる確率より低いんじゃないかなー」
「またシャルさん! あなたこそそもそも玲也様に意識されているのかどうか……」
「子ども扱いして僕を舐めるな!」
エクスの求愛をシャルが揶揄えば二人が口論になるのは何時もの通り。ニアは相変わらずそっぽを向いたままであってリンがフォローするも効果は薄い。この様子に玲也が頭をおさえていた所、
「玲也君……分かっているとおもんじゃが青春は一度きりじゃぞい」
「博士、俺を励まそうとしているのかおちょくっているのかはっきりしてください……」
ブレーンは一応真顔で玲也に忠告するが、もう耳を傾ける気力も彼にはない様子。彼の後ろで女二人の口喧嘩が繰り広げられるのだが、
「はいお前ら―、喧嘩はほどほどにしろー」
「いたたたた……」
「何をなさいまして、リタさん……」
「はい黙れ黙れー」
リタが時計を目にやった後、すぐさま二人を医務室の外に出す事にした。その際にアンドリューと目くばせで合図を送った時、
「玲也、お前大丈夫ならこの後出動する予定があるんだろ?」
「はい。カプリアさんの方から俺を指名してきましたからね……」
「へー、玲也に指名とはあんたも随分えらくなったのね。あたしもそれなr……」
アンドリューからこの語の出動について話を振られると、玲也の表情は引き締まり落ち着いたものへ変わる。彼の話をニアが皮肉りつつ、少し勝気な表情で胸を張っていたようだが。
「言っておくが、お前ではなくリンと出るつもりだからな」
「なっ……」
「ごめんなさいニアちゃん。カプリアさんからネクストが電子戦に強いとの事で指名です……」
「うぅ、カプリアさんには怨みもないから、あたしも怒りはしないけど……」
リンに謝られたからか、怒気をあらわにする事は流石に踏みとどまっていた。ただニアは恨めしそうに玲也の方を向いており、玲也はそんな彼女の視線に耐えながらリンと共に医務室を出ようとしていたが、
「まぁ、カプリアの奴なら別に大丈夫だと思うけどよ、一応気をつけろよなー」
「俺が3機のハードウェーザーを持つ事から、他のフォートレスが俺を必要と……」
アンドリューが釘を刺すとともに玲也のベルトにつけられたホルスターを指さす。これに気づいて彼はポリスターを取り出すとアンドリューは首を縦に何度か振るが
「マーベルはおめぇを踏み台に使うだけだ。おめぇじゃまだそこまで達してねぇから思い上がるな」
「す、すみません。俺も出過ぎた事を」
「へへ、おめぇがそうなれるよう経験は積めるうちに積んで学べって事だな……下で燻ったまま終わったら俺が許さねぇ」
「はい……!」
自分自身に生じつつあった少しの自惚れを窘められると共に、そこから続くアンドリューの言葉の意味を玲也は理解して、リンを連れてアラートルームに向かった。アンドリューが腕を組みながら少し微笑んでいた。
「全くハドロイドは戦う為に存在してるのに……あのバカ!」
「おー、おめぇもやっぱ玲也と組みてぇってわけか。エクスもそうだけどよ」
「な……何を言ってるんですか! 貴方は」
「あっ、ニア君どこに行くんじゃ!!」
ただニアの方は相変わらず彼に見せることなくふくれっ面を作っていた。アンドリューからはエクスと似ていると茶化されると恥じらいが生じたのだろう。顔を赤くして飛び出していくと、
「もうアンドリューったら、デリカシーがないんだから!」
「わりぃ、わりぃ。リタの時と一緒にはいかねぇなぁ」
「確かにアンドリュー君とリタ君も、ここに来るまで色々と……」
「ま、そういう事ですよ博士。本当色々、かくかくしかじか……」
ブレーンとジョイからは、デリカシーがないと突っ込まれるものの、アンドリュー本人は悪戯がばれたような様子で笑っていた。玲也とニア達の関係がかつての自分たちにも似ていると捉えてもいた様子である。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『すまんなボウズ。カイト・シーカーからお前を指名したが……』
「大丈夫ですカプリアさん。寧ろ指名されたからには足手まといにならないよう努力します」
『その心意気なら今回の任務を確実にこなす――大事だぞ』
灰色と黒色と暗色系のカラーリングで塗装された機体が、カプリアらロシア代表のハードウェーザー・ディエスト。その容貌はカニのような鋏を前方へ突き出しており、歩行用の二足が存在しない様子。最古参のハードウェーザーに該当する。
「カイト・シーカー……いや、ネクストが先鋒だが」
『探れるうちに探れれれば言い。万が一の時は退く事も大事だぞ』
「一方通行の鉄砲玉はごめんですからね」
ディエストの先鋒としてネクストが索敵に向かう。カイト・シーカーに収納された状態で10mに満たない小型サイズで、ブレイザー・ウェーブを駆使しての偵察に挑むわけであり、
「ジャールを固めた次はソロを攻略する方針ですからね……」
『そうだ。ソロ、バーク、キドとバグロイヤーの拠点はまだ残されている。その為に今回私はお前を選んだ』
「そうほめてくださりますと、やはりうれしいですが」
アンドリュー、マーベルと互角の実力を持つカプリアから称賛され、玲也は思わず照れて感謝を示そうとする。最も彼はそこまで礼をいうほどではないと付け加えた上で、
『私は別にボウズを引き抜こうとまでは考えてないぞ。私の所はコイで不足はない』
「い、いやカプリアさん。俺は別にそのような事を考えている訳ではないですよ」
『はは、マーベルの事は私も聞いているしアンドリューからも頼まれたからな……これもまぁそこまで気にしないで大丈夫だ』
少し狼狽したような玲也へカプリアが安心させるように声をかける。彼もまたマーベルたちも最低限の事は弁えていると一応ここにいないドイツ代表に対してフォローはした。
『ただマーベルたちは故郷の希望として自分たちが華やかに活躍している。彼女たちが人気を集めるだけで戦っている訳ではないとは分かってほしい』
「は、はい……いえマーベルさんたちもやはり強いですからね。学ぶべき所も多いです」
『なら別に大丈夫だな。ただ私は正直その辺りはあんまり考えていない。どのフォートレスなりどのハードウェーザーなり関係なしに連携を取る事が大事だと考えている』
今回玲也とネクストを選んだのも、この任務で最適なパートナーだと判断した上で選んだと付け加えながら、カプリアなりの戦い方を説く。彼はマーベルと対照的で世間の注目を浴びる事は無頓着で、それに囚われず集団で戦うことを重んじるスタンスであった。
「確かにディエストの商品展開などは調べた限りあまりないですね。ザービストの方が多いです」
『ほぉ、ボウズの国では私のディエストがレア扱いとはな』
「……確かに才人がなかなか見つからないような事を俺に言っていた事も……いや、すみません! 気を悪くさせてしまいまして」
「ご、ごめんなさい! つい才人さんから今日聞いたことを……」
カプリア個人の実力もトップクラスではあるが、彼自身単独で切り込みをかけ華やかな勝負を挑まない事から、地味として人気面で中の下。後発のザービストに追い越されている事をリンが当の本人を前に漏らしてしまう。慌てて二人とも彼に謝ったが
『はは、人気のなさは構わないよ。最も腕なら私もアンドリューとマーベルに引けを取らない事を覚えてくれたらよいぞ』
『ダー……』
最も人気云々の話についてカプリアは意に介していない様子で穏やかに笑い飛ばす。そんな彼の視線は自分の後ろで制御を務める小さなパートナー・パルルの方へと向けられた。玲也より頭1つどころか、頭2つ分小さい彼女は若干8歳、幼すぎる彼女が屈強なカプリアと同じ戦場に出ているが、
『パルルちゃん、確かまだ8つなのにちゃんと正確に動かしているのは驚きです」
『ダー!』
『おっ、リンに褒められて嬉しいようだなパルルは』
リンはパルルが物怖じせずカプリアをサポートしている様子へ思わず感心する。それと別に、この間まで自分が戦うことへの恐怖にさいなまれていた事を考えると、少し自分が恥ずかしい気持ちもあった。
『最もパルルも家族とはぐれたらしいからな……こいつだって寂しくなる事はある』
「パルル……ちゃんもですか」
パルルの故郷はバグロイヤーの空襲に遭い、それまで平凡な日常を過ごしていた彼女も家族と共に疎開を余儀なくされた――が、戦火の中での人込みは彼女を両親と姉から引き離す結果となり、はぐれた中で近辺の地下シェルターに収容された。そしてハドロイドの被験者として、カプリアのパートナーとして電次元から転移されて今に至るが、
『多分ボウズと同じ目標かもしれないな。だが、その為にはやはり私はパルルのパートナーとしてでだけでなく』
「今は親代わりとして……パルルの事を」
『そうだな。私が親をやれているかは分からないがな……』
パルルが何を望んで戦っているか――玲也は彼に言われなくとも把握した。カプリアのプレイヤーとしての姿勢は、彼女をハドロイドではなく、一人の少女、いや実の娘のように接しなければならないとのスタンス。それが彼女の今後の為でもあり、この先の戦いを生き残るために必要な事と見定めているようだが、
『ボウズ、ハドロイドは戦う道具ではなく同じ人……心にそう留めたほうがいいぞ』
「同じ人……」
「玲也さん、急に私の方をこう見られますと少し……」
「……いや」
カプリアの言葉が玲也の胸の内にどこか突き刺さる。ふと自分の場合どうであろうかと……後ろのリンは自分に従順で、エクスはやり方に問題があれどと考えていた矢先であった。
『パムチー?』
『感づかれたようだな……玲也!』
「しまった……! バグロイドか、それとも……!」
パルルは一瞬首を傾げながらも、すぐさまシーカーが得た情報と映像をフィードバックして、ネクスト側にも送信した時だ。青白く棺のように長く伸びた箱らしきものが何点か機雷のようにちりばめられていた。自分のパートナーの事を考えていた為か、玲也が一瞬反応に遅れていたようだが、そこにはあった。
『これは、ハドロイドのカプセルだな……』
「……新しいハードウェーザーですか!?」
『それもそうだが……試しにこれで捕まえよう』
『ダー!』
棺らしき筒状のカプセルこそ、電次元から送り込まれたハドロイド達であり、ニア達も同じ術によってドラグーン・フォートレスへと送り込まれた。転送先が狂ったのか定かではないが、今後の戦いの中にで回収する必要がある。ディエストが突き出した万力上の腕“アイアン・バイス”の先端を射出して、カプセルを回収しようとするものの、
『ダーティシトゥー……』
『急に動きが鈍くなったが……そうか、そういう訳だな』
カプリアがパルルの操縦が鈍くなった様子について、彼女がシーカーのとらえた映像を送った事で納得はした。それはすぐさまネクストのモニターへも送られる。
「浮遊機雷がカプセルの周囲に多数……いや」
『既にバグロイヤーの手の上に落ちた上で……俺たちを知って送ったな』
実際アイアン・バイスが浮遊機雷の合間をくぐってカプセルに接近しつつあった。そこからカプセルを回収する事が出来ればよいと見なしていたもののカプリアの表情に苦みが走る。
カイト・シーカーが捉えた映像には、カプセルへは10個ほどの時限爆弾がチェーンで括りつけられていたのである。これは電装マシン戦隊に敵対する側、おそらくバグロイヤーが送り込んだ罠だと認めざるを得なかった。
『ダー……』
『そうか……もしお前が出来るなら頼む』
『ダー!』
スクイード・シーカーの爪からガジェットが展開され、チェーンを切断しながら時限爆弾の解体を試みていた。解体を誤るだけでなく浮遊機雷が接触した時はカプセルも無事ではないかもしれない。正確にかつ迅速に行わない状況の為、パルルの額に一筋の汗が垂れていた。
『ボウズ、パルルがカプセルの爆弾を解除する事に精一杯でな……悪いがここから動けそうにない』
「もしかすれば、カイト・シーカーで何か手助けが出来……!!」
「もしかして……やっぱり敵です!」
カイト・シーカーでカプセル及び近辺の機雷の機能を停止できるのでは――玲也が賭けに出ようとした途端、赤色の光が直撃してコクピットが振動に揺さぶられる。リンが気付いた時には、3、4機ほどのバグレラが迫りつつあり、デリトロス・キャノンが直撃すればカイト・シーカーの装甲ではひとたまりもなかった。
「シーカーが機能しません! 早く脱出したほうが……」
『パムチー!!』
カイト・シーカーでパルルを助けることが出来ない状況へ、玲也は少し歯がゆく感じていた所、アイアン・バイスの付近でいくつかの浮遊機雷が爆発した。何発かの銃弾を受けたことによるが、その攻撃はバグレラからによるものだ。
『バグロイヤーめ! ハドロイドを平気で囮で使うなんて!!」
『バグロイヤーにとってハドロイドは奪い取る価値のある戦力としても、俺たちをおびき寄せる罠としても使えると見ていたか……だがな』
バグロイヤーはハドロイドを人間の仲間とは見ていないからこのような手を使うことが出来る――静かながらカプリアは玲也以上の怒気を発している様子だが、パルルの親代わりを務めていた故か。
「このままでは意味がない……打って出る!」
『ボウズ、自分が盾になるつもりか……!?』
静かなる怒りに後押しされるように、カイト・シーカーからネクスト・ビーグルが飛び出す。車体のフロントが左右に分割され、カバーが90度前方へ折れ曲がり局部を形成する。頭部と脚部が展開すると共に既にカイト・シーカーの倍ほどのサイズにまで巨大化した上で、機能を喪失したカイト・シーカーを左手で掴んで切り込みをかける。
「使えなくても盾代わりにはなります。これでも使い物になります」
『すまないがボウズの腕を見たいこともあるな……念のためこれも使え!』
「これは……アペンディーシステムだ! リン!!」
挟み撃ちをするようにバグレラの別動隊が迫る中、ディエストは上部に装着されたホースシェル・シーカーをネクストへ向けて打ち出す。カブトガニのような風貌を持つ灰色の機体と接触するに対し、玲也はアペンディーシステムをリンへ促す。
「アイハブコントロール……アイアン・シュナイダー、ザンバローグ認証完了です!!」
「カプリアさん! 遠慮なく使わせてもらいますが大丈夫ですか!!」
『曲がりなりにも腕はボウズよりあるつもりだぞ! これが私の戦いでもある!!』
『う、うわぁぁぁぁぁっ!!』
するとディエストは先行するバグレラめがけて急速に接近しており、左足のアイアン・バイスで馬乗りになる様にバグレラをえぐる。同時に動きを封じられると共に脚部の鋏を180度後方へと展開させて加速度をつけながら、動きを止めたバグレラをゴミのように投げつけた。
『ストロング・トルペードをこの場で使う訳にはいかないからな……これ位しか今は使えないとしても簡単にやられる私ではないが』
同時にディエストが二足のような両足を展開させ、ホースシェル・シーカーがパージされた本体には埋め込まれたファンが露わとなる電磁波を帯びさせながらとびかかる2機に向けて渦巻きを叩きこむ。ストリボーグ・ブレークを照射させて、バグレラの群れをひるませながら胴体の外周に設けられた8連Eキャノンを連射する。
ハドロイドを回収する事にパルルが専念している状況だろうとも、ネクストに己の武器を貸し与えようとも、カプリアの腕はわが身を守れるだけの腕は既に持っていたのは言うまでもなかった。
「電次元サンダーはこの場合こうした方が有利だが……」
一方、玲也がそれ以上の危険が潜んでいる浮遊機雷とバグレラの群れに向かっている。浮遊機雷が自分に標的を定めるように近づけば、カイト・シーカーを投げ飛ばし、電次元サンダーを浴びせる事で先に爆発を起こした事で機雷を巻き込ませた。
「ただ、この間隔ならトライ・シーカーでゼット・フィールドを展開してだな……」
「もしかしたらこの場合、私よりエクスさんの方がよかったのでしょうか」
「いや、ネクストをここまで使う必要があるのは確かだ。ただ複数のハードウェーザーを使うことが出来ればだな……!!」
クロストが必要な場だと考える事は止めよう――それも頭上からマシンガンの雨を降らせるバグレラがいるのだから。すかさず空いた左手にしたアイアン・シュナイダーを前方に展開させて我が身を守る術として使う。
ホースシェル・シーカーから変形したアイアン・シュナイダーは本来ディエストの装備であるものの、他のハードウェーザーが所有する装備類を使用する互換性を確立させる為に、それぞれのハードウェーザーには、アペンディーシステムが存在する。カイト・シーカーを失った状況からすれば、戦力の低下を補う術として機能していた。
「玲也さん、突っ込んできます!!」
「玉砕覚悟か……ザンバローグで行く!!」
デリトロス・エッジを握るバグレラが、まるで落ちていくような速度で上から迫る。すぐさまネクストはアイアン・シュナイダーに内蔵された柄をパージさせ、高出力のビーム剣としてデリトロス・エッジを切り付ける。
『かかったな……うわっ!!』
「玲也さん後ろ!!」
そして隙をつくようにジックレードルをバグレラの胸部へと突き刺したが――その時、突き刺したバグレラが爆散した事でサブアームをもがれ、後方に大きく吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたネクストが浮遊機雷の残された後方へと飛ばされるとき、すかさずスタート、セレクトを同時押し。この操作によりバックパックと脚部のスラスターを展開して姿勢を制御することで体勢を立て直した。
「バグレラはサブアームを破壊する囮とはな……」
先程バグレラが突っ込んできた場所の後方にはバグアッパーの姿もあった。この二段構えの戦法に対して、ジックレードルを直ぐ引き抜いて離脱する必要があったが間に合わなかった。また実体剣が破損しやすいデメリットもそこにはあったのを認めざるを玲也を得なかった。
「ポリスターが……」
爆発に吹き飛ばされた衝撃で玲也もまた体勢を崩していた事も有り、ホルスターからポリスターを落としていた事に気づいた。すぐさまホルスターへ入れなおそうとした時、彼はふと思いついたような顔をしており、
『ハードウェーザーがぼさっと突っ立っているとは舐められたな!!』
「きゃあ!!」
「まだ左がある!!」
だがその隙をつきバグレラがデリトロス・エッジを振り上げた。右手から切りかかる相手に対し、アイアン・シュナイダーで防ぎきれなず、肘より下の部位が焼き切られてしまう。
しかし、ネクストの頭部からバルカンを乱射して間合いを取りつつ、すぐさまアイアン・シュナイダーそのものでバッシュを仕掛けてバグレラを突き飛ばす。一瞬シュナイダーを手放して、電次元サンダーを照射すれば、目の前で相手が粉みじんに砕けて吹き飛ぶ。
「まだ敵が別の所にいますが、この場で電次元兵器を使ってしまうのは……」
「ちょっとクロストを呼ぶ……クリスさん! クロスト電装できますか」
『ちょっと玲也! こっちも今バグロイヤーが攻めてきてそれどころじゃないのに!』
「バグロイヤーがですか?」
本当はリンに事情を説明すべきと考えていたいたものの、それだけの時間がなかった。スタートと上キーのショートカットでドラグーン・フォートレスとの通信を取るものの。ただ自分たちのいない間にバグロイヤーが襲撃を仕掛けてきた事は想定外であった。
『それで今イーテストを電装する所だったの! 今クロストを電装させても動かせないじゃない!』
『わ、わかった! 多分クロストを質量弾にまたするつもりだよエクスの事だからね!!』
『ちょっと! 私の事とはどういうことですの、シャルさん!!』
『玲也、どうしてここはあたしじゃないのよ!!』
「……クリスさん、秘策がありますから将軍に回してください」
玲也が何を起こそうとしているかクリスは首を傾げている様子だったが、それと別にニア達3人が揉め出しているのが流石に邪魔だと玲也は感じていた。非常時だけに話を早く済ませたいとエスニックに繋ぐことを優先しており、
「玲也さん、クロストを電装しても動かせないのでは……」
「とりあえず、電次元ジャンプで帰還の準備を進めてくれ……将軍、無理を言ってすみません。これを使ってみます」
『玲也君、これとは……ほぉ』
エスニックに通信が変わると、玲也はポリスター・ガンの銃口を自分に向ける仕草を取った。迎撃の指揮を取る為多忙なエスニックであったが、彼の行動を直ぐに把握しその場で感心したように笑みを作る。
『無茶苦茶な作戦だが、クロストのゼット・フィールドが必要ならば実行に移してみよう。アンドリュー君には自力で電次元ジャンプさせよう!』
『了解ですわ! クリスさん後は頼みましたわよ!!』
『りょ、了解! 電次元ジャンプの目標は……』
エスニックは玲也の作戦を許可するとともに、素早くクロストの電装を指示した。その間にネクストはバルカンを連射して牽制をかけながら、浮遊機雷の群れに空いた穴――いわば電次元サンダーで切り開いた道の近くに向かった。
「玲也さん、もしかしてそのポリスターで玲也さん自身をクロストに転送するのですか!?」
「そうだ。クロストのコクピットだけは転送先に記録していた事を思い出してな」
驚くリンを他所に、玲也は冷静にポリスター・ガンでネクストのコクピットを転送先リストに登録する。このポリスター・ガンは途中で乗り換えが必要な場合、ある程度対応できる力を持つ心強いアイテムだと気づいたのだ。
「ですが玲也さん、物ならまだしも人間を転送させることが上手くいくのかどうか……」
「メルさんの話だと、半径1㎞以内の制約がある事を除けば大丈夫らしいが……信じるとしても少し自信がないが」
『クロストが来るわよ! 問題ないの?』
「多分問題ないと思います! やれることはやった上の事ですのでそう信じるしかありません」
小型モニターでクロストが電装される位置を確認して玲也は安心したように、ポリスター・ガンを自分のこめかみへと突き付けた。
「リン、俺が消えたらすぐ電次元ジャンプを! あとポリスター・ガンまで転送できないからちゃんと持ち帰ってほしい」
「ほ、本当に大丈夫ですか……」
「あらゆる事態に備える事も大事だが、賭けに出る度胸も必要。父さんが教えてくれたことを俺はやるだけだ……!!」
「玲也さん……消えた!?」
ポリスター・ガンが直接殺傷能力を持っていないとはいえ、自分のこめかみを打つだけに、彼は思わず目を瞑っていた。そして光がこめかみに放たれた事は感じたが、少し暖かい感触だけで痛みは伴わない。だがその時意識が一瞬途切れて体から魂が抜け出るような浮遊感も感じ、その様子を一部始終見ていたリンは彼の姿が消えた事にお驚かされていた。
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