1-4 覚悟!唸る刃、カウンター・バズソー

『ムラク隊長……』


 地球と月の狭間に、いくつかの宇宙要塞が存在する。本来は宇宙開発を想定した中継拠点に過ぎない筈であったが、地球側とバグロイヤー側の軍事衝突がこれらの拠点を軍事要塞へと改修していく流れを招いた。バグロイヤー側が陥落させた際にも、地球側が彼らの侵攻に対峙する際も、そして双方が奪い奪われの陣取りを続ける中でそのような発展を遂げた例もある。

 それらの軍事要塞の一つ・ジャールからダークグリーンの機体が飛び出す。小惑星の破片に身を隠している同型の2機と接触を図る。


『ダーウィン、まだ見込みはあるか』

『地球――PARですかね。確かサハラ級2隻は既に降下を済ませてます』

『想定できる数からすると難しいか……』

『けれども隊長! 四番隊がもぬけの殻になった今、ここを奪いかえしゃあ下剋上じゃないですか!』

『早まるなジース、例えバグロイヤーの質が圧倒しようとも今の我々では限度もある』


 ムラク、ダーウィン、ジース……この3人はバグロイヤー側の兵士だ。彼らの機体はバグレラ。漆黒のキャノピーに覆われたメインカメラは何も語らないのと対照的に3人は今後の対応を迫られている。目の前のジャールはこの間までバグロイヤーの勢力下にあった。しかし今は地球側の軍隊――professional astro rangers、略してPARがそのジャールに再度勢力を根付かせようとしているのだ。


『地球にハードウェーザーが投入されてから戦況は膠着状態。それまでバグロイドが質、量で優ろうともだ』

『我々の物量が敵の最強に覆されようとしているとは……認めたくはないですね』

『しかし、俺たちはそのハードウェーザーに敗北した』


 ダーウィンは必勝と思われていた自分たちが相手――地球側に狂わされている様子を認めがたいが、認めざるを得ない苦しい胸の内を明かす。ムラクは実際自分たちがそのハードウェーザーに敗れて、ジャールを追われた現状からダーウィンの葛藤は認めなければならないと諭した。


『よし、ここで俺たちが無駄死にするよりは応援を求める。二番隊より三番隊の方がまだ望みがあるはずだ』

『何だって!!』


 ムラクは目を閉じてしばらく思考した後に、この時点での速攻は無謀だと判断を下す。しかし3人の中で最も若いジースだけは彼の決断に不平を述べようとする。


『今は隊長の判断が懸命だ。この戦力でもジャールを落とすことが出来ないわけではないが』

『ダーウィン、ここで先に落とした実績を作った方が後々有利になる! 四番隊の中で主導権を握るうえで、舐められないように済む!!』

『俺たちが舐められるかどうかの問題ではな……!!』

『隊長! 強力なエネルギー反応を察知しました!ちょうど前方です……!』


 面子と功績にこだわるジースをムラクが窘める傍ら、ダーウィン機が巨大な力を捉えたようであった。この力に対しムラクは再度自分たちが脅威に直面する事を感じ取る――ハードウェーザーだ。実際彼らの直ぐ目の前に赤き光がフレームのように人の形へと構築を始めようとしていた


『ブレスト・マトリクサー・ゴー……!!』


 ニアの叫びと共にフレーム体に外装が瞬時装着された。赤と黒と白の三色を身に包み、クワガタのような巨大な二本刃の角は、鋼鉄のように黒々しく輝く。そして二つの瞳が一瞬赤く血走ったように光を放つ――ハードウェーザー・ブレストが電装を終えた瞬間だ。


「やっぱりバグレラじゃない! よくもあたし達の場所を、あいつらを!!」

「落ち着きなさいニア。私がプレイヤーなのですから」


 コクピットにてニアが強くかみしめながら握りこぶしを机に打ち付ける。一方エクスは済ました顔でコントローラーを握り余裕の表情。せめて自分がプレイヤーとして華々しい活躍を披露して3人の中で主導権を得ようとの自信と野心もあった。


「玲也さん……まだ目を覚まさないですね」

「ほうっておきなさい。私が彼の分まで活躍するつもりですから」


 一方、玲也は電次元ジャンプにより気を失ったまま、隣でリンが膝枕をしている。そんな彼をふがいなく感じ、エクスは鼻で笑うように自信がある様子であった。


『このハードウェーザーは一体……至急三番隊へ連絡だ、ダーウィン!!』

『り、了解しました……さ、三番隊応答をお願いします! こちらは四番隊のダーウィン。ダーウィン・ダルス!!』


 ムラクはすぐさま物量により1機のハードウェーザーを叩きのめす、それが出来ないのならば、せめて自分が殿となり部下二人を救おうとの判断であった。未曽有のハードウェーザーを相手にするだけに尚更慎重な対応を求められているのだ。


「早速行きますわよ……!!」


 エクスがコントローラーの赤ボタン――いわばAボタンを強く押した。ブレストの瞳は黄色の光へと変わり、まるで起動時から落ち着きを得たような状態へと変わる。この流れから重々しい右手を素早く振り上げ、そののち前面へと力強く突き出し――まるで風を切るかのように。


「……エクス? どういうつもりなの」


 ニアはエクスへ突っ込んだ。それもそのはずでありブレストはただ近くに相手がいない状態で右の拳を振る……つまり空振りして当たり前の行動を起こしただけで意味がないものなのだ。


「お、おかしいですわね! 確かAボタンでビームでしたわよね」

「……あんた! 分からないのに名乗り出たっていうの!?」

「わ、分からないとかではございませんのよ! ただ士官学校で習ったものと同じだったのではと」

「エクスちゃん、戦車ってそういったコントローラーで動かしてたのですか……きゃあっ!」

 

 エクスが明らかに見栄を張っていた様子にニアが何をやっているのと呆れ、リンが彼女の強がりに対して冷静に突っ込みを入れているようだが、同時にコクピットの振動に対して激しく狼狽していた。彼女が平常心なのかどうか定かではない。


『この見掛け倒しがぁ!!』

『おい、ジース!!』


 ブレストが宙に向けて蹴る殴る、まるで意味のない行動ばかりをとっているとして、ジース機がムラクの指示に反し、アサルトライフルを連射しながら接近を始めた。彼の放つ銃弾はブレストの赤い胸部装甲をめがけて勢い良く射出されるのだが、しかしまるで雨が降り注ぐような感触だったようで、ブレストの装甲に深い傷はつかない。最も打ち付けられる内側のコクピットは振動に見舞われている。


「ニアちゃん、エクスちゃん! 何とかならないのですか!?」

「ちょっとリンさん! あなたは何もしてないのにそれを言うのですか!?」

「二人とも黙って……あった!!」


 涙目で思わず叫ぶリンが他力本願になりかけており、エクスが叱咤するもののあまり効果がない。そんな折ニアがキーボード入力の末に何らかを解明したようであった。


「ニアちゃん、ようやく何か見つかったの?」

「あのねぇ……あたしが事前に知らされてたのと違う機体だから、その苦労も分かってよ。とりあえずエクス、アイブレッサーと叫んで!」

「アイブレッサー……あぁ、音声入力、目からのビーム事ですね」


 振動する機体の中で音声入力システムが解明された。音声入力システムとは早い話プレイヤーの音声をコントローラーが認識するシステムであり、コマンド入力の代理としてもつかわれるという。


「アイブレッサー……!!」


 その時、エクスが叫ぶとともに両目からは直線状に閃光が流れ出る。素早く放たれるこのアイブレッサーがジース機を見事に……空振りした。そもそもブレストの頭部が上向きとなっていたが、それは正面から接近しつつあるジース機が視界にない状態だからだ。


「あら当たりません事? ニアさん、音声入力システムというのは」

「あんた馬鹿ぁ!? ターゲット位あんたで合わせなさいよ!!」

「ターゲットというのは……あぁっ!!」


 音声入力システムがあくまで技の入力に関わるものにすぎない。ニアは知らなかったではなく、エクスがその位は把握しているだろうと考えていた筈だが彼女を信じすぎていたようだと頭を思わず抱えた。

 そんなまともに応戦できないブレストめがけて痛烈な電撃が鈍い衝撃と共に襲い掛かる。ジース機の左手にメリケンサックのようなナックルガードが下り、拳と共に生成された電撃がブレストの胸を強く打つ。


『ハードウェーザーが硬くてもなぁ、中のパイロットはなぁ!!』


それでも胸部の装甲が抉れて千切れるまでには至らない。しかし中に乗っている人間までは別だとジースが感づいたようだった。


『やめろジース! バグレラのバッテリーの方が先にあがる!!』

『中のパイロットだけを始末する事を、隊長は考えたことがあるんですかね!!』

『隊長、三番隊との連絡が取れました。エリル殿は応じるとの事です!』

『そうか……ならばそれまで無駄な消耗は避けろ!、ジース!!』


 中の人間だけを片付ける――ジースの戦法はハードウェーザーそのものを破壊するよりはまだ可能性がある。しかし可能性が高いとは言えないとムラクは後退を呼びかけるものの、己自身を過信している彼の攻撃は、メリケンショットによる打撃と電撃の連打が止まる事はなかった。


「ぐっ……」

「玲也さん、 気づいたのですか!!」

「一体何がどうして……バグレラとか!?」


しかし、何度もお見舞いされる電気ショックと打突の振動が玲也の意識を覚醒させるに至った。激しい振動の中、重力の弱さを利用してどうにか立ち上がり体勢を立て直した彼は、このブレストがバグレラに襲われている状況を即座に理解した。目の前の敵がゲームに登場する敵と同じ姿をしていた点にも救われたともいえる。


「――この状況なら、あいつのメリケンに向かってB+L2長押し、そのまま複数ターゲットロックオンの上でA+……」

「……玲也、あんたがやりなさい!!」


 その上、玲也は多少戸惑いながらも冷静に次の一手となり得るコマンドを指示する。最もバグレラの攻撃と、慣れない操縦からエクスが聞く余裕がないとニアが察し、すぐさまメインのコントロール権をエクスから玲也へ移す。何ゆえに冷静に振舞えるのかと多少戸惑いながらも、この状況を打破できると感じとっていた。


(正直、何ゆえに俺が実際に戦うのかは分かり切っていない。けれどもゲームと同じ状況ならば……)


 玲也が冷静な様子を保っている背景には、この状況がオンラインゲームで体験した状況と似通う面が多い点が大きかった。彼にとってゲームで得た知識を他に転用して活かすことが出来る他、スポーツや格闘ゲームなどで自分の操縦に合わせて動くキャラクターのイメージをトレースする事で、ある程度現実で見様見真似の事が出来る。彼自身ある程度の頭脳と身体能力を持ち合わせる点も含めて、この非現実をゲームと似通う状況とのフィルターを通し、彼なりに今受け入れ始めてていた。


「これでどうだ……!!」


 静かながら凛とした様子で玲也はコントローラーを捌く。両手に握りしめられてアナログスティックとボタンを素早く動かした時、ブレストの左手がバグレラのメリケンショットを食い止める。それも左手に備えられた円盤状のパーツが素早く回転してメリケンショットの勢いを押し流す。


『なっ……!?』


 硬いだけで無防備な様相をさらけ出していたブレストが抵抗を開始した。ジースは驚愕した。さらにその左腕だけで、己の全重量を賭けた打撃を己の機体事押し返されて、まるで弾き飛ばされるよう後方に吹き飛ばされ、


『ぐあっ……!!』

『ジース!?』


 今度はブレストの右腕が逆袈裟にジース機を切りつける――右手首に備えられた円盤状のパーツ“カウンター・バズソー”。左と同タイプの円盤には丸鋸が内蔵されており、銀の光を放ちながらダークグリーンの装甲に大きな亀裂を生じさせ、胸部のコクピットも外からの被弾に影響され機器が爆散した。


「れ、玲也さんどうして、こんなに……」

「リン、その話はあと! それより音声入力システムがあるって知ってるよね、玲也!!」

「音声入力……あぁ」


 玲也のプレイヤーとしての腕が信用できるかもしれないと、ニアは彼に音声入力システムが起動している事を伝える。

ただ玲也の反応は薄かった。このシステムがコントローラーでのコマンド入力の代わりだとは知っていた。ただコマンド入力に難航するユーザー向けの操縦システム、一種のなりきりとして彼自身コントローラーによるコマンド入力で事足りるとその時は判断していたからだ。


「このカウンター・バズソーは盾にもなるが、回転鋸として使うこともできるならば……」

『何もしねぇと思ったがなぁ……!!』


 斜めに切りつけられてもジース機が左手に鉈のような実体剣“ヒートザンバー”を握る、そして手負いであろうとも、いや手負いだからこその覚悟で突撃を仕掛けていく。

 

(確かに相手も同じパイロットが乗っているとの設定。けれども……)


こればかりはゲームと同じ例で割り切れない。ジース機から届く彼の声が気迫と共に届く。手負いであることが後のない状況に彼がおかれているのだと……。

 

「玲也、あれを動かしてるのはあたし達と同じ電次元人よ、けどあんたとは違うのよ」

「……それだとニア達が」


 そんな躊躇する玲也を見かねたニアが少し腹を立てて、相手が人だが地球人ではないと告げる。彼女なりに玲也へ構わずに戦いなさいと伝えているようだったが、同じ電次元人、つまりニア達が同胞同士で殺し合いを繰り広げる事が彼を戸惑わせることに変わりはない。


「あぁもう! あたし達が気にするとか考えるのやめてくれない!? あいつらも、居場所も奪ったんだから!!」


 ニアがしびれを切らせて拳を床に打ち付けて叫ぶ。同じ人類同士が憎しむことはまだしも殺し合いを繰り広げている事を、平穏な日本で過ごす玲也にとって実感が湧かない事。だが実際にニア達の世界ではそれが行われ、たとえ同じ電次元人だとしても怨みと憎しみの念が勝るものであった。


「全く、私はそこまでですがこの場合ニアに一理ありますわね」


 憎まれ口っぽいが、エクスもニアに同調して踏ん切りのつかない玲也を詰る。リンは蹲りながら何度も首を縦に振る――彼女もニアと同じような苦しみを味わっていたかのようだ。


「やるしか……ないのか!!」

 

 カウンター・バズソーを回転させ続けながら、ジース機を迎え撃たん体勢をブレストがとる。

最も玲也がニア達にバグロイヤーへの恨みがあるとしても、自分がそれに同調しきれていない事も自覚していた。

そもそも実際、何者かに襲われて身の危険を味わった事は玲也にはない。だからわが身を守るためとはいえ、相手を殺めるような事態に直面したこともない。ナイフなどの凶器を直接手に握ってはいないが、自分の動かす機体の両腕には巨大な丸鋸が備わっている事に変わりはない。


(いや、何も手にかける事までは過剰かもしれない。ゲームと同じならば両腕を切り落とせば……!!)

『いっちまぇぇぇぇ!!』


 その時、カウンター・バズソーを展開したブレストの両腕が前方に突き出される。拳をも隠すほどの直径を誇る回転鋸が狙うのはバグレラの両肩――関節を落とせば相手を無力化できると見なしていた。

仮にこれがゲームと同じならば別にそこまで回りくどい事をする必要はないだろう。相手からの致命傷を避けながら、コクピットを仕留める事がゲームで玲也が得意はずのプレイスタイルだった彼にとって多少手間がかかる方法を取っていたともいえる。


「タイミングが遅れた!?」

「なら……!!」


 しかし、ブレストの右手がジース機の左肩に届く直前、彼の腕をめがけてヒートザンバーが振りかざされた。熱を帯びた長方形の刃が振り下ろされたのならば、ブレストの腕に何らかの支障が及ぶ。ニアが焦りを見せると玲也は無我夢中で、本来の慣れているやり方に出た。


『……ああああああ!!』


カウンター・バズソーを盾として腕を上にあげるとともに、相手のヒート―ザンバーを受け止める。この動作によりブレストが本来より前のめりに倒れ込む。これによって左のバズソーが命中した先は――一度切り刻んだジース機の胸部……コクピットそのものだ。


「……こうなるのなら!!」


 声にならないジースの断末魔を玲也は聞く。ノイズ交じりの悲鳴が彼の体を震撼させる。しかしカウンター・バズソーの回転を止める事はしなかった。それどころかブレストの身体を前のめりにしつつ、その刃をより胸部へと抉るようにめり込ませた。ジースの最期に恐怖を感じた故か、ゲームのように冷静で正確な操縦によるものか、本人がどのような心境で引導を渡す覚悟を示したのかは彼自身にもその時把握していなかった。


『ジ、ジース!!』

「これで……」


カウンター・バズソーをジース機の本体から離した時には、ジースはもはや乗り手のいない機体、いやまるで糸が切れたマリオネットのように宙をうなだれていた。


「玲也さんが……やったのですか」

「べ、別に私でもその気になりましたら、これ位の事はですね!」


 ブレストがバグレラを撃墜した。この最初の白星にそれまで怯えていたリンには驚愕と安堵の表情が、エクスはこの場でも素直になれずそっぽを向く。しかし二人のリアクションに玲也が応対する余裕など今はない。ブレストのカウンター・バズソーを注視して既に踏み越えてしまった状況を認識する事が何よりも優先された。


(俺が手にかけた、いや手にかける事が出来たというのか。ゲームでコクピットを狙う事には慣れていたが、こうも現実でも……)


 玲也が相手を手にかけた事実を認識する間、先ほどまでジース機だったはずのバグレラに手を出すことはなかった、跡形もなく砕いてしまえば目の前の殺めた相手は微塵もいなくなる筈だが……日常での良識が戦時での判断を妨げているのだろうか。


『隊長! ジースがやはり……!!』

『ダーウィン、お前だけでも逃げろ、出来る事ならエリル殿との合流まで踏みとどまれればよいが』

『私は何とか……ですが隊長は!』

『お前だけでも逃げ延びれば、今後にまだ勝機はある! それまで俺が奴を!!』


 三番隊が間に合わない中、目の前の同僚が仕留められてダーウィンに動揺が隠せない。この様子にムラクはやはり自ら殿として、残された部下を救う選択を下す。


「玲也、まだ敵はいるのよ! そこで気を抜かないで!!」

「いや、気を抜くなど……」


 バグレラ2機の存在をニアが指摘した時に、玲也に少し反抗心があった――初めて手にかけてしまった重みが分からないのかと。だがしかし、その反抗がこの場では既に意味がないとも考えると途中で口にせず胸の内に飲み込んだ。もう自分が望もうとも望まないとも乗り越えてしまった事から、“何を今更“とも感じ取ったのだろう。


「ニ、ニアちゃん。玲也さんがまだ慣れてないかと」

「いやリン。もう大丈夫だ、大丈夫と思うことにする」

「……玲也、さっきまで怖かったんだ」


 ニアが怯えつつも玲也を庇う。だが、彼女の気持ちは助かるとしても今は庇われる側になってはいけないと彼は自分自身を鼓舞する。“大丈夫と思うことにする“との言い回しにニアは、彼が空元気を振舞っているのだと感づき、敢えて意地悪そうに問う――彼なりにこの戦いに立ち向かおうとする姿勢を認めつつ。


「俺が手にかけてしまった今もう後戻りはできない。バグロイヤーとの因縁が既にできているだろう」

「まぁ確かにあの2機は、仲間の敵としてあたしたちを狙うかもしれないね」

「やるかやられるかならば――やる側に回るつもりだ。俺もここでくたばる事は出来ない。生き抜くための力があると俺は俺を信じる事にする!」


 ニアは“あたし達を信じるではない“彼に少しふくれっ面を作るも、直ぐ今は彼を信じる事にした。そして玲也は自分がゲームと同じようにブレストを動かし、相手のコクピットを狙って仕留めた事から、今は現実でもゲームとほぼ同じ動きを取る事が出来る自分自身を信じた。そうでもしなければ自分が助からない、まだ父との約束も果たしていないから殺される訳にもいかないのだと。


「こちらから畳みかけてやる……!」


 そしてブレストが飛び立つ。抵抗なきバグレラを右手につかみ前方へと押し出しながら……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る