市瀬由々の由々しき事件簿
かきはらともえ
第一章/件の件について
第1話/市瀬探偵事務所
1.
「恐怖って何だと思いますか?」
市瀬探偵事務所所長の市瀬由々さんから、そんな問いかけを投げかけられたのは、面接のときだった。
ほとんど質疑応答も終わり、これまでの経験からしてそろそろ『何か質問はありませんか?』と質問を投げかけられる頃合いだろうと思っていた――そんな矢先のことだった。
正直なところ、意味不明すぎて戸惑った。
面接に臨む前に幾度となくイメージトレーニングを繰り返し、積み重ねて、あらゆる質問に対して想定してきたつもりだったが、こんな質問は想定していなかった――思わず頭が真っ白になる。
「川原亡令くん。きみにとって、世界で一番怖いものって何かしら?」
それは、面接でこんな質問をしてくるあなたです――と言いたいのを、ぐっと飲み込んで『世界で一番怖いものですか』と復唱して、考える。
怖いものなんてたくさんある。
犯罪、事故、事件、地震、津波、噴火、病気、将来――挙げればきりがない。そんな数ある恐怖の中から、唯一を選び抜くとするならば、ひとつしかあるまい。僕にとって、世界で一番怖いもの。
それは。
「人間です」
これしかない。
僕が、
少なくとも、僕はそう思う。
こんな質問、どう答えるのが正解なのかわからない。だから仕方ない。僕が思う答えを、答えるしかない。対面にいる市瀬さんは、無言で頷く。それがどういう意味で頷いているのか――僕にはわからない。
市瀬由々さんの穏やかな表情から、心情を察するのは不可能だ。市瀬由々さんが、どんなふうに僕の回答を受け止めたのかわからない――わからないが、市瀬由々さんは重ねて、こう質問をしてきた。
「それでは――」
市瀬由々さんは言う。
ふたつ目の質問を。
「――二番目に怖いものって何かしら?」
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