狂気の荒野で信じられるもの

 真昼間! ピンクの装甲車が荒野を行く。

「信じられるって何だ」

 ターゲットは砂の中に潜む荒野オオトカゲ、

 主食は、肉と金属。でも砂は食べない。

 いつも何かが通るのを待っている。

 危険な荒野オオトカゲの駆除を頼まれたサイボーク、

 ハンターゾア。

「それがたとえやってることでも、

 命でも、多くの事には必ず終わりが来る」

 自分をぶち殺しにくる存在が多すぎるこの世界の住人は、

 あらゆる死への対策を、

 高度に発展した科学技術で済ませていることがある。彼もその一人。

 サイボーグ化された自身の構成要素を物理次元対応データ化している。

 物理次元対応データはネットワークで送受信でき三次元上では実体になる。

「こんな世界の中で何を信じるか。俺らは、

 どうやっても復活することが出来ないような死に方をしちまえば、

 英雄の国、二次元、漫画の中。そこへ行く。全ての生命をニッポンという」

「そうか。お前もキモオタン・ジョーの信者か」

 友人の越前、大きな腕でゾアの背を叩く。

 2人とも装甲車の中にいる。応えて、

「記録を見てさ。感動したなぁ。

 ジョー様、彼は逝った。だから行ったはずだよな。

 今頃、アニメの中でアニメを見ているんだ」

「そうだろうな。俺も、彼のファンだ。

 イフロムに殺された。俺もそう死にたいな。

 誕生は分からないが、過程と死が理想の極致だ。

 ジョーはオタクだったから良い死に方が出来たんだ。

 関係すると思うが、俺はどんなに仕事が忙しくても、

 1日1日の中、必ず2時間のゲームプレイを欠かした事はない。

 俺も信者になれそうだろう」

「シャカイジン、大したもんだぜ」

 越前は「時間が無いです」とにやっと笑う。

「着くまで、何か見ようや」

「昔のか」

「まだ海があったころのだ。

 大昔の、魔法少女TV」


 ヒートクラウドは、

 魔法少女TVの主役を務める女の子(20代、子供な性格)。

「男の人はいっぱいいる。

 そう……そのへんに。

 ころがってる」

 その言葉に呼応するように偶然、

 外を歩いている少年、バンド兄ちゃん、

 サラリーマン、スポーツマンが横になり寝転がる。偶然。

「なのに彼氏は中々できな~いっ、

 ねえどうしよ」

「あのね~、ヒートクラウド、

 私結婚するの、レインメーカーと!」

「え~っ!」

 ドーン(効果音)

 喫茶店で友人の結婚を知って数日、

「ピンクリーンとレインメーカーは、

 急に結婚して大丈夫なんですかね?」

 と拗ね気味のヒート。

「確かにレインメーカーは人気者だけど……信じられる?」

 可憐でおとなしい女の子、デッドウィング(20代、可愛い)が、

「他の子が結婚して不安なのね。でもどうかしら。

 結婚には遊びの結婚と本当の結婚があるの。

 どっちの結婚が良いと思う?」

 こう聞いてくる。

「へ? それは本当の結婚でしょ。

 どちらでもあるっていうのは、

 凄い結婚じゃないかしら」

「そうね」

 とデッドウィングはうなづく。

 ヒートは、

「本当に好きな相手となら、

 冗談を言って笑いあうだけで楽しいのよ!

 そうじゃない?」

 デッドウィングもうなづくが、

「ええ、けれど男性に大きな夢を持たないで、

 小さな恋の楽しみに、

 喜んでいるのが幸福かもしれないわ」

「そーかな。夢でいてほしいな」

「そろそろ収録の時間じゃないかしら」

「そうそう、今日はコラボ回」

 スタジオは喫茶店のすぐ近く。


 3、2、1、スタート!

「今日のビッグ魔法少女TVは、

 元ジュニアヘビー級およびヘビー級チャンピオン、

 藤凪辰美選手に来てもらいました!」

 185センチ、108キロの男。

「こんにちは、みなさん。

 なんか……ちょっと緊張してます。

 若い女の子ばっかりだからかな」

「大丈夫?」

「大丈夫、

 がんばります」

「じゃ、早速だけど、

 結婚について聞かせて?」

 藤凪選手はわずかに首を傾げ、

「結婚? えーと、けっこう前になるなぁ。

 結婚おめでとうっていっぱいお祝いしてもらったよ」

 ヒートクラウドは喜んで、

「素敵! どっちからアプローチしたの?」

「僕からだね。

 プロレスの試合を頑張ってくださいって花をくれたり、

 僕がけがをしたときにはフルーツをくれたりね。

 だから僕の方も本気になっていったんだ」

「奥さんの事好きですか?」

「もう彼女が居なかったら成り立たない。

 僕は信頼しているけど、

 けれどたまに尊敬されていない節があるね。

 裸の王様なんて言われて、えーっ、そんなこと、

 お前言うのかっちゅう風にね、思ったりもするし」

「愛情の裏返しね! 凄いかもしれないけど、

 もっと私を見てよって」

「そうかなあ。

 その愛情の裏返しにね、

 たじたじになっちゃうんだよね」

「あーん、負けないで!」

「ありがとう」


 ゾアと越前がしばらく見ていると、

 巨大モンスターが出てきて、

 藤凪が巨大化してモンスターを倒した。

 スタッフロール。


 越前がアニメについて話す。

「ビッグ魔法少女TV、

 コラボ回は、まだ発掘されていない回もあるな。

 車も銃も出てこないのに見てしまう」

「輝いて見えるぜ」

「もしあの世界に主人公が居なければどうなるんだ、

 と思うことがある」

「居ないなんて考えられねー。とにかく、

 ヒートが出てくるから同じ話だって認識できる」

「そうだな。ヒートクラウド……。きっとそうだ。

 後はもし、彼女が後悔だらけの人生を歩むとしたら、

 それでも俺は見るかと自問自答するときがある」

「感情移入だろ。

 お前はそれでも見る。

 残酷な二次創作はどう感じる?」

 越前の顔は精悍さを増し、

「そうだな。

 価値のある存在の、

 幸福な姿も死にざまも同じ素晴らしさがある。

 俺も残酷で居たいんだ、そんな気分の時はな。

 残酷な出来事の中に全てがあるとすれば、

 そこに希望が生まれる」

「それしかねぇ」

 2人の言っている事は分かりにくく、この世界でだけ通じることだ。

 装甲車から、どっ、どっ、と24ミリ口径の重機関砲が発射される。

 砂と、その中からパーッと血が吹きあがる。

 荒野オオトカゲの死体が浮き上がる。

 血を流す死体が装甲車にガッと当たって飛んでいく。

「自動で殺してくれる『クオリティオブライフ』……。

 こんな武器を搭載できたのはお前のおかげだぜ」

「前のこと、少しは返せたかな。

 旧式の武器の力強さを、

 時には簡単に取り戻せないかと考えた商品。

 威力と効率の極致を自動で発揮しようというものだ。

 要は相手が連続した高精度射撃に何らかの理由で耐えられなければ、

 ほぼ実用クラスの試作クオリティオブライフの餌食という結果になる。

 お前はデータ取りの協力者という事になっていて、弾はうちから提供できる。

 好きに使っていい」

「ありがてーぜ。

 お前の所の武器で勝手に敵を倒して、

 報酬は俺がもらうのか?

 ヤクザチーム結成~」

「ショーニンと言ってほしい」

 装甲車から、どっ、どっ、どっ、と重機関砲が発射される。

 砂と荒野オオトカゲの死体がバラバラに浮き上がる。

「この荒野が、

 すべて大海原だったことがある」

「ああ。

 今となっちゃ信じらんねーぜ」

「信じられるものは、

 武器とアニメ、

 そして自分と仲間だけだ。

 おい。

 信じられるものって……沢山あるな!」

「良かったな」

 2人は握手し、

 武装して装甲車から降りた。

 車内のレーダーから15メートルを超す、

 荒野オオトカゲの親玉が確認できた。

 親玉は過去の技術が生み出した再生ナノマシンを飲んでいる。

 長い戦いになるぜ、楽しみだな、などと言い、

 ゾアはカタナを抜いて反対の手に科学機関銃。

 越前はミサイルランチャーを抱えて弾薬を運ぶ。

 装甲車からも援護射撃が行われることになる。

 とにかくそう、ひき肉、

 敵か味方のどちらかをそういう結果にする為に戦う。

 キモオタン・ジョーの記録でも、

「人気コンテンツ、血の流れるひき肉で、

 皆からの尊敬を受け報酬をもらおう。

 そしてアニメと銃弾を買う、

 そうあるべきでござる。

 俺様の信者ども、妄想に陥れ。

 妄想の中では被害妄想に分がござる。

 すぐ斬れる、すぐ撃てるからだ。

 戦うのだ。嫌だと言っても愛してやる。

 ダブルピースッ! 斬!」

 との仰せだ。これも信じられる。

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