レヴォリューションコンプレッサ

 レヴォプレッサ、

 身長16メートル。

 装備を含めて重量53トン。

 合金をエネルギーに、

 エネルギーを合金に変換するアロイザーを動力源にする。

 外観は細く見えるが、怪獣との戦闘が想定されており、

 攻守と持続性において超高性能機体である。

 巨大なサブマシンガンとスナイパーライフルを装備し、

 エネルギーシールドと、ある研究機関製造の、

 ゼンタロン合金製の自己再生複合装甲を備えている。

 内部は、コクピットのすぐ傍にエンジンのアロイザーが収まっているが、

 アロイザーは非常に安定しているため、この部分が爆発することはありえない。

 超技術がどこから調達されたかは謎である。


 剣客が二人で寺の境内に座っている。

 身なりの優れた小次郎とまるで頓着の無い武蔵。

 小次郎は立ち上がって空を見て、

「武蔵殿……。フグを食べてみぬか」

 座ったまま睨むように、

「何?」

「下関でフグを食べようと申しているのだ。

 フグは天にも昇るような美味というが、毒があって、

 調理を誤れば、食べた者が死に至ることもある」

「……小次郎殿、

 それがどういう事か俺にはわからん」

 小次郎は笑い出し、

「武蔵殿とフグを食べたい。

 拙者と度胸試しをしようではないか」

「度胸試しか。……。

 構わぬ。では参ろう」

 そう言って素直に立とうとする。

「言っておいて何だが、

 少し用があってな。今からではない。

 明日の朝、また、ここで待ち合わせよう」

「わかった」と座り直す。

 こうして二人は決闘を先延ばしにし、

 下関へフグを食しに行くことにしたのであった。


 意思決定機関イドムドスのナンバー2、

 公孫伯圭は映画館で一人、

 3D大画面で『武蔵』を見ながら、

「おお、最後は小次郎が死んでしまうわけだな。

 姫様や猫の子フォエンはこれを見て何と言うだろう」

「公孫さん」

 大画面に現れる機械の少女に、

「はっ。イドムドス様、

 いかがいたしましたか」

「私もそれを見ました。3点」

「武蔵は、3点……ですか?」

「5点中3点です。

 私は殆どのエンターテイメントコンテンツを、

 事前に3点と評価するように設定されています」

 初めから決まっているようでは見ていると言えないが、

 人間の評価を加えて点数が変わるという事かもしれない。

「なるほど……最初は0点ではないんでしょうか?」

「人間の感性を逆なでしないためですよ」

「それは素晴らしいお考えです」

 ただ楽しんだり批評するのとは違うようだ。

「用事はですね……、

 レヴォプレッサを撃墜してしまったのですか」

「面目次第もございません……。

 機体の色が白から紺色に変わっていました。

 パイロットはもう構造色の変更機能を使えるようです。

 撃墜といっても特別製ですから、

 それで終わったとは考えにくいのですが、

 一人の伍長の独断による行動でそういうことになりまして、

 中隊からは処分を決めてほしいということです」

「兵士の方のお名前は?」

「上口十三雄(かみぐちじゅうぞう)伍長です。

 とんでもない事です。謹慎か除隊か迷っております」

「処分などありません。

 奪われた兵器は壊されても仕方がないのですから。

 目を掛けてあげてください。彼の専用機を考えて」

「……。はっ。

 新造するのでしょうか。それとも、

 どういったチューンアップに致しましょうか」

「段階的にしましょう。

 まずはチューンを……。

 機動性も攻撃力も同じままで、

 継戦能力を強化してください」

「かしこまりました」

 巨大な組織、意思決定機関イドムドス、

 そのものでもある機械の女神イドムドスは、

 戦場に己の姿を効果的に現すため、

 自身の専用機、レヴォプレッサを研究機関に作らせた。

 量産機と調和するサイズ感で、

 可能な限りの強さと安定を目指した機体だったが、

 機体は何者かに奪われてしまい、2度の戦闘、

 現在の状態は不明だが、レジスタンスに匿われている可能性が高い。


 レヴォプレッサが奪われる前の事。

 大井戸高校の生徒、魔女の帽子をかぶった少女、

 イフロムは、昼休みの校舎の陰でクラスメイトの、

 軍帽に学生服姿・張作霖(ちょうさくりん)君に告白されていた。

「自分と付き合ってください!」

「えーと? ……その、ごめんなさい。

 私、用があるので……」

「用って、そんなあ」

「すみません」

 そそくさをその場を後にするイフロム。

 嫌な用を済ませ教室へ戻ろうと、

 通り過ぎていく横で、

 不良同士の争い。

「万夫不当(ばんぷふとう)の豪傑、

 張飛様に喧嘩を売ろうとは百万年!」

「ううっ……」

「早いっ!」 

 投げ飛ばされた方が、

「行け、行け、かかれ!」

 と指示する。

 このままでは学生の乱闘だ。

「馬鹿者、サッカーをするのではなかったか。

 何をやっている」

 髭の長い学生が割って入り、

「同じ校舎で学ぶ者同士、争ってどうする」

 というが、

「関羽のクソ野郎」

 不良の一人に蹴りを入れられ膝にヒット。

「くっ」

 不良を突き飛ばす関羽。

「兄者、こいつら言っても分からねぇぜ!」

「そうかもしれぬな。

 これは多少血の気を収めてもらわねば」

 2対多数の乱闘が始まってしまった。

 張飛、関羽をぐるりと取り囲む不良たち。

 喧嘩を見てウンザリするイフロムだったが、

 マントからTSMG(銃型の道具)を取り出して、

 張飛と関羽のために不良の足元に紺色のトリモチを撃つ。

 勢いに乗ってぱたぱたと倒れる不良たち。

 気が付いてイフロムを見る関羽。

 張飛が、

「ありがとよ!」

 イフロムは知らぬふりで逃げていく。

 起き上がる不良たちだが勢いをくじかれ、

 それにお構いなく殴る暴れる張飛と、

 火の粉を払う関羽の強さに勝敗は決していた。

 五時限目が始まる前には決着がついて、

 倒れたり肩で息する不良グループに向かい、

「余計な喧嘩を吹っかけて来るんじゃねぇぜ!」

 と吠える張飛。関羽は、

「これでは思い出すどころではないな」

「あ?」

「何でもない」

 大井戸高校の生徒は、

 イドムドスに特殊な機材で召喚された人間で、

 その記憶は操作されている。

 特別な世界は関羽のために用意されたものだ。

 関羽もそれを知らず、

 一生の間、それに気が付く者はほとんどいない。


 ある別の日、プロレスラー議員、

 アントニオ猪崎のビンタ会では、

「元気ですかっ! 元気があれば、

 イドムドスに睨まれても大丈夫ッ!

 悩みがあっても大丈夫ッ、

 俺たちは人生のホームレス! アリガトーッ!」

「はい、そういう感じで、

 そういう感じですっと……」

 付き人の超野選手が整理券を配る。

 藤凪、武王、橋山もトークショーの準備中ッ。

 金髪の少年と黒髪の少年。

「上口君、楽しみ?」

「すっごい楽しみですよ!」

「僕、不安」


 また別の日の午後、

 今日の授業は昼で終わり。

 白い虫取り撫子(むしとりなでしこ)、

 真っ白い花がたくさん咲き誇る下校道。

 それにまじって菜の花も咲いている。

 イフロムは殆どの生徒と同じように、

 自身の存在に確たるものを得られずに、

 足取り重く元気なく歩いていく。

 その帽子とマントを併せた名、ベアトリスの機能で、

 身の周りに世界大戦のホログラフィックを投影しながら、

 それを半目で見つつ。

「お姉さん」

「は?」

 黒髪で猫耳のような髪型の少年が、

 イフロムの前に現れて、

「いつまでもそのままでいいの」

 と微笑みかける。

 小学生だろうか。

「誰です」

「ラスティ。ラスって呼んで」

 心を奪われそうになるような立ち姿、

 だがイフロムはTSMGを取り出そうかと思案。

「ん~」

 ラスティはその体から閃光を放つと、

 片腕だけが鋼鉄の籠手に覆われたようになった。

 しかしそれを簡単に消して、

 現すのもしまうのも自由なようだ。

「聞いてほしい事があるんだ。

 ここは本当の世界じゃない」

 イフロムも緊張を解いて、

「ええ? そんなこと、

 誰でも感じています」

 皮肉っぽく笑む。

「イドムドスって知っているでしょ」

「良く知っていますよ。

 私も彼女に育てられました。

 全てが彼女の思惑のような気さえします」

 ラスティはイフロムに歩み寄り、

「イドムドスが絶対に取られたくないものがあるんだ」

「それは?」

「レヴォプレッサ。

 お姉さん、僕と来て」

 ラスティは戸惑うイフロムを抱きしめると、

 その右腕の大きな籠手が再び現れ、

 大きな金属の手がヘリのプロペラのように回って、

「しっかり抱えているから」 

 何処かへ向かう為に飛び立つ。

 途中からそれを遠くから見つけていた張飛が、

「イフロム!」

 走って来るが、

 2人はプロペラの力で空を進んでいく。

「……。

 ふんっ」

 張飛は電柱を叩き折ると、

 それを振り回し、

「おおりゃあっ」

 民家に掛けてそこから屋根へ行く。

「待ちやがれ!」

 と体を伸ばすが届かない。

 プロペラはさらに上昇していき、

 張飛は立ち尽くすしかなかった。


 廃工場で、

 ラスティは大きな籠手から延びたコードを、

 何らかの機材につないでいる。

 イフロムはそれを見ながら、

「あなたは誰?」

「ラスティ……」

「どこの誰なのです」

「シュウとフォエンの息子」

 イフロムの記憶は、

 混濁する。


 レヴォリューションコンプレッサ、


「ふはは!」

 イフロムは気分よく、

 ドッグで真っ白い機体をゆっくりと暴れさせ、

 レジスタンスに合流するつもりで飛び立った。

 奪取された機体をモニターで見た公孫伯圭の叫び、

「あぁああ~っ!」

 レヴォプレッサから音声が入り、

「時間の問題です。

 イドムドスの子は、

 少しのきっかけさえあれば必ず、

 こうなっていました」

「誰だ、何ということをしてくれたのだ!

 危険だ、大変な目にあうぞ……っ!」

「どちらが、ですか」

「何があったのか説明しなさい、降りるんだ」

 こうしてはいられない、

 と公孫伯圭はモニターを他への通信に切り替え、

「重要な……機体が奪取された!

 近くの『ムスタング』『オスカー』部隊を発進させて取り押さえるんだ」

 何者かが搭乗したレヴォプレッサを、訓練中だった、

 変形戦闘マシン『ムスタング』『オスカー』の混成中隊が追いかける。

 すぐに空中戦が始まる。ムスタングとオスカーが取り囲もうとするが、

 イフロムの操作で、巨大なTSMGがまばらに撃たれる。

 キュ、キュ、キュ、と高域の発射音。

 姿勢を制御する細い脚部からクゥーンとモーターの音。

「楽しませてください」

『細っこい。実験機、舐めているな』 

 近くまで、ムスタングが追いかけて人型になる。

『捕まえたぞ。うおっ』

 だがTSMGの輝く弾丸がかすって、機体が爆発する。

『! うああ、脱出……』

 狙いもうまくつけられずに発砲を続けるレヴォプレッサ。

『何っ? 戦闘継続、困難』

『機体腕部が崩壊、

 いかん、退避します!』

 今日初めてのパイロットが、

 機体の能力だけで軍人たちを倒していく。

『がああ、パワーが違い過ぎる』

『な……何だコイツのパワーは』

 TSMGの威力はムスタング、

 オスカーでは抑えられなかった。

 スナイパーライフル型のゼンタロン圧縮砲を展開して、

「さようなら。ははは」

 ドッグを撃つ。 

 レヴォプレッサを見た者には、

 この日の事のかん口令が敷かれた。

 公孫伯圭は、大きな組織のナンバー2がミスをしたときの定番で、

 大切なものを失った気持ちになり、首を吊るしかないのか、とぼやいたが、

 幸い、そういうことは許さないとイドムドスに言われ納得した。

 一国の予算をはるかに超える機体、

 レヴォプレッサはこうして飛び立っていった……。

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