第09・NAデア隊

 いったん世界は滅びようとしていた。

 地球上の多くの場所が真っ白い光に包まれていった。

 その光りに飲まれた場所にある物質は崩壊していく。

 人体も例外ではない、

「痛いかぁ~?」

「ううん、ちっとも痛くない!」

「俺もすぐに行く……」

 飲み込まれるときには何の痛みもないそうである。

 今までの価値観をすべて失った自死者たちが後を絶たない。

 白い光りを放つ、

 粒子SA(エスエー)は取り込んだ物質と共に対消滅する。

 神経などのネットワーク状のものには即座に浸透して、

 それが人体であれば神経の機能を麻痺させ、

 電子ネットであれば誤情報を表示させる。

 宇宙から飛来し主に地上を這うように移動する生物、

 クロウラから膨大に散布される粒子は、

 ゆっくりゆっくりと空へ浮かんでオゾン層で消えずに止まる。

 今までの航空機が用を成さなくなってしまった。

 粒子がある限りはその場所で生活できなくなる。

 粒子が自然消滅するのに40年、散布される量の方が多いのだ。

 地球を覆い尽くそうとしているクロウラを排除しなければいけなかった。

 殆どの大陸も放棄され、生き残った人類は、

 比較的粒子の薄い場所で建造した巨大船の上で生活していた。

 海の上に降り注ぐ粒子はわずかである。対SA粒子シールド機構も実用化された。

 兵士たちが敵の死体を見ながら進軍する時代ではなくなった。

 人類は一丸となって、可能性のある土地から物資を集め、クロウラを排除する。

 クロウラに対して最も効果を持ち、

 粒子SAに対する耐性を持つ装備、

 NA(エヌエー)デアを装備できるのは、

 12歳から30歳ほどまでの一部の女性に限られる。

機能操作のために必要な脳と身体構造の僅かな違いが絶対的な理由となり、

 ほとんどの人間、特に男性には装備できない。


 あるNA(エヌエー)デア隊のコンダクター(指揮者)は男性、

 SA粒子を浴びて全身サイボーグとなった。

 足を机の上に置いて昔の武術の映像を見ている。

「海田剛の演武ディスク……、

 これ、ここ、この声何かわかる?」

「何ですか?

 声なんて聞こえません」

 音量を上げると、

『でぇい……!』

 映像の中で老人が大男を投げる、

『ヘラヘラヘラ……』と観客の声。

「笑われてるんだよ。昔の人ってバカだよな、

 こんなことできると思ってなかったんだ。

 でもディスクに声そのままなんだぜ、今なら信じらんねぇ」

「ふぅん」

 少女は興味なさそうである。

「笑われてもいい。

 神技を見てヘラヘラ~、

 キリストさえ死刑にするのが大勢だ。

 分からずに笑う人間にはなるな」

「はい。そろそろ補給が終わる頃です」

「うん。しかし、何もかも分かるっていうのは無理だ、

 笑わない人間になるしかないか? フフ」

『先日、私の道場に来てくれたマイク・タイソンが、

 技の、足に注目し、普通の人は投げている上ばかり見るんですが、

 さすが――』

「あの……」

「ハイハイ、発進だ」

 物資を得る任務の始まり。

 戦車のような後部コンテナ兼シールド装置『アーマー』と、

 腕力と足の力を補助する装甲ブーツ、そのまま『ブーツ』を履いて、

 ミニスカート姿の少女たちが地上に、

 ずんと足跡を残しながら8人で進軍する。

 記録係の少女が、

「ここは元々、我らが永久機関、

 A(アントン)ハイセルの生産地だった~」

「ブラジルね」

 永久機関Aハイセルは巨大船やNAデアの動力源である。

 部隊は南大西洋から揚がり、

 リオデジャネイロと言われていた荒れ地を進んでいく。

 どこでも空は昼夜の区別なく白く光っている。

 時々、一部のクロウラが飛翔している。

「アイツらだけ飛べるなんてずるい」

「単機だったら撃っちゃっていいから」

「そんじゃ――」

 アーマーに付いた、

 NAデア砲を構えて、

「発射しまーす」

 ドォッ、

 大きな弾が飛んで行って、

 上空の飛行型クロウラに直撃。

 クロウラはボォッと火をふいて分解していった。

「落ちてく」

「良く見えるね」

 という隊員の片目は赤くなっている。

 SA粒子が神経に入り込んだのをナノマシンで治療した。

「私には炎しか見えないな。

 さ、歩こ」

「視力8・0だもん」

「セーナちゃん、すごいね」

「あ、また。クロウラ」

「どこ?」

「地上、小さいの」

「数、数」

「多い……」

「兵装!」

「はーい!」

 接近し終えられる前に、

 クロウラ群に向けて少女たちの持つ火力が発揮される。

 SA粒子があってもアーマーの効果によって一定時間、ほとんど私服でも問題ない。

 逆にSA粒子がアーマーの効果を貫通すればどんな装備も意味がない。

「ねぇ、もしクロウラに心があったらどうする?」

「だったら撃たないでって引いてるんじゃない?」

 連射無反動砲が火を噴き始める。

 攻撃用の装備はそれぞれ完全に同じではない。

 クロウラ群は40ほどで、

 一斉に少女たちに向かい這ってくる。

「向かってきてるけど」

「じゃ、やっぱり心なんてないんだ……」

「食らえ、食らえ、あぁ。

 行った先に物資が無かったらどうしよう」

「何の意味もないけれど、

 人にはそれしか出来ないの。

 撃て! 撃ちまくれ!」

 自動装填装置を備えた主砲が炸裂する。

「全部は倒しきれないよ」

「道を踏み外して、邪道になって……」

 片目の赤くなった隊員は早々に主砲を取り外して放り、

 刀を抜く。

 ブーツの推進剤を吹かして、垂直に飛ぶ、

 すると足元から、クロウラが飛び出してくる。

 一回転して降りる、クロウラが真っ二つになる。

 砲戦主体のNAデア部隊に潜む邪道だ。

「距離をとるよ」

 4人と4人に分散してその場から離れて、

 また戦う。

 

 数時間後。

「全部やっつけたね」

「はぁ……」

 アーマーのコンテナから食事を取り出して、

 レーション食を分け合う少女たち。

 真っ白い空に月が昇っている。

 さらに進んでいくと、 

クロウラの手の及んでいない廃工場があるはずである。

 永久機関Aハイセルといえども、銃弾は生産できない。

 技術の向上は過去の文明では廃物と言えるものでも、

 真新しい素材として使用することが出来るようになっていた。

「あった!」

「あったかぁ、廃工場……っ!」

「コンテナに入るだけ入れるよ」

「後続の男性たちが来ますよね。私たちが入れる意味って?」

「完璧な仕事なんてないのよ。さ、いこ」

 工場にある資材を取れるだけ取り、

 少しの休憩。

「通信です」

「どうぞ」

『お疲れさまでした』

「イフロム?」

『ええ、見ていました。帰還してください』

「了解~」

 帰還して、アーマーとブーツは整備を受けて、

 物資は巨大船に運び込まれる。この後どうなるか。

 少女たちは新たな戦場へ向かうのだ。

 その空が再び、青と闇を取り戻す日までだ。

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