春の夢

 たくさんの菜の花が咲いている。

 自然の摂理で咲いたものが小さな畑のようになっている。

 今日はたまたま春の快晴。うららかさと、ごくわずかな強さを混ぜた日差し。

 風が吹いている。これは夢の中だと気づいていたが、また忘れてしまう。

 黒づくめの青年シュナイヴは夢の中で露店を開いていた。 

 露店は木製で、ペンキで字。


 占い! (レイセオン・チェンジ) 一回 6ゴールド 占い師 IN(居る)


 IN の字が書かれた板、その板の裏にはOUT(居ない)の字。

 ここを離れる時に裏返すのだ。

 ぼんやりと座っていると向こうから仔馬が走ってくる。

 カウボーイハットを被っていて、こちらを見ている。

 露店の前で急にとまり、

「ハァハァ、向こうから占いの字が見えたんで来たんだァよ……」

 シュナイヴは少し笑い、

「喋る仔馬とは。それにオレの占いは遊びのもの……。

 しかしこれは夢なのだ。やってみよう。お金はありますか?」

「あるよ。ほら」

 と帽子の中から6ゴールドを出して続ける、

「オラは占いっていうものを信じてない。

 でも、オラの柔かい明るさを取り戻してくれるものは、

 今までやったことが無いことかもしれねぇダ。

 だから見てもらいたくって前から機会をずっと探してたんだ」

 仔馬は自分の言ったことにうなづいている。

 シュナイヴもうなづき、

「それはそれは。だったらちょうどの所に来ている。

 この店はいつやるんだか、止めるんだか分からないのだから。

 何を占います」

 それだよというふうに露店にもたれかかり、

「オラが思っている価値観と世界が持っている価値観がズレている。

 それは分かってんダ。どうズレているか、占いで分かるかな?」

 シュナイヴは受け取った6枚のコインを振り始めて、

「分かった、見てみよう」

「それはオラの出した大事なコインだァよ。何をするだァ」

 前足を出して手に添えてくるのでコインを振るのを止めて説明、

「許して、仔馬さん。レイセオンズ・チェンジはこうするんです。

 コイン6枚を振って縦一列にした裏表の並び方は64パターン。

 その列を出す回数は普通、2回だ。

 1回目と2回目を比べれば列の1枚ずつの出方には違いが出てくる。

 同じ結果になることもあるが、2回の並び方そのものからくる言葉と、

 1枚ごとの違いに対応した64×6、細かい384種類の言葉がある。

 2回の結果と細かい言葉にはかなりの情報が含まれている。

 達人はズボンのシミや、間違ってバラ撒かれた物などでも占えるというが、

 オレはコインを使う。そういう占いだ」

 サッサッとコインを振って並ばせる。

「ちなみにこの並び方は38番目の数字、あなたは腰がお疲れの様です」

「すごいーっ。まったく子供層を無視した内容!」

「確かに……。じゃあ、世界との価値観のずれでしたか、

 それなら子供でも考えるはずだ。それを占いましょう」

 とコインを振って露店の台に並べ、

 その結果を見てコインを取り、

 もう一度振ってまた並べる。

 それを見つめる仔馬、

「おお、どうなったんダァ……」

「出たのは64種類の中の、40番目と50番目。

 いいですか、

 許して円満になること、価値観はズレるもの」

「それが知りたいんだァ」

「いや、あなたは無理な合わせ方を考えなくてもいい。

 ズレても良いと出ています。完全な正解など時には必要ではない。

 自分が絶対ではないということがむしろ気軽になれると出ている。

 世界も絶対ではないから、相互的に関わりあっていくだけ……」

「ほうほう」

「もちろん今は世界との価値観ですか、それを合わせてみたいのならそうして、

 いつか思い出してくれても構わない。相談は10分。他にも何かありましたら」

「おお」

 残りの相談は「努力しようと思うが何をしたらピンとくるのかわからない」とか「恋人が頑張ってくれない」とかそういうものであった。シュナイヴは「急に何か大ごとが起こるわけでもなければ、別に仕方がない」と占わずに答えて仔馬に怒られ、

 そしてお詫びとして近くの店で干し草の菓子を食べさせた。

 仔馬はソコソコの満足を得て、

「またやれそうダァよ」

 とゆっくり歩いて去っていく。

 話しこんでいたし干し草の菓子は5ゴールド、

 少しは喜んでもらえたのならいいが、たった一匹にこの労力。

「あぁ、これでは仕事ではないな。

 だから占い師は客から取れる時に取っておけと言うらしい。

 だが取れるだけ取る、そんなものが占いであっていいのか?

 やはり遊びにしておいた方がいいようだ。

 オレは冒険をしながら物語を考えるのが合っている」

 とつぶやき、ぼやき。

 なんで仔馬が出て話しかけてくるんだろう、それは夢だから。


 春の昼前、宿のベッド。

「おはようニャ。朝11時」

 目を覚ますシュウ、

「……先輩。うおっ」

 間近に猫の耳と尾のあるフォエンの顔、笑って、

「呼んでから驚いてる。起きるの遅ぉい」

 起き抜けの姿を見られて焦り、

「きょ、今日、

 どこかダンジョンに行く日でしたっけ……? ハハ……」

「お買い物、頼みたいんニャ」

 なんとなく後ろを向くフォエン、シュウはその間に自分のズボンを取り、

 フォエンの尾っぽを見ながら「変な夢だったな」と顔を洗いに。

 外にはたくさんの菜の花が咲いている。

 自然の摂理で咲いたものが小さな畑のようになっている。

 春の快晴。うららかさと、ごくわずかな強さを混ぜた日差し。

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