下劣な世界とハンターゾア

 人と機械が融合したものは何というでしょう。

 答えはサイボーグ。

 ここの酒場にもサイボーグが一体。

 その名、

 ハンターゾア。

 少額の賞金首でもあるが、あまり彼は狙われない。

 ゾアは恐ろしい殺し屋でもあるため、酔狂な強者が戦うために彼を狙うだけ。

 しかし、それで何度も殺されている。自身が殺害される体験や死亡事故を起こし、

 彼の肉体は紫色の疑似筋繊維と防弾コーティングに総入れ替えしている。

 脳と足の一部の筋肉だけが元の彼だ。

 酒場でちょっかいをかけた女の子に怒鳴られている。

「家に帰ってママのパイオツでも吸ってろ!」

「ヒャ、ヒャ、ヒャ。俺、紫色だろ? この色じゃ、さすがにもう無理だ。

 母さんも誰だか分からねぇよ。でも3歳くらいの時はワーブリングしてよォ~」

 ワーブリング、おそらくハーモニカのふき方。下品ギャグ。

 女の子がハッとして見る、

「そのダサい紫色、あんた、ハンターゾア? モロなのに分からなかったわ!」

「そーさ。いつもバケモノに挑戦するぜ」

 ウィンウィンウィン、ゾアの体の箇所箇所から漏れるモーター音。

 疑似筋繊維や臓器システムにこれまた人口の血流を送っている。


 延々と続く荒野と岩場、そしてわずかなオアシス。それだけの国、ニッポン。


 ある地方の小屋に住む痩せた老人が、

 お寿司を食いながら口から吹き散らしながらハンターゾアに言う。

「ニタガリア市の土地にいる無法者を全員!

 駆除してほしいんじゃ! 特にそいつらのボス、

 ジョー・ジュニアを殺してくれ。わしの孫じゃ。

 奴の親も極道じゃったが死んだ。この腐れ孫の首を持ってきてくれ!」

 ダン、と机をたたき、

「お主ならできる!」

 この老人も体の半分が機械のサイボーグ。何度か死んで蘇っている。

「フゥン。分かったよ、お爺さん」

 と言って、光学迷彩で透明になって姿を消すハンターゾア。

 消えたと思ったら再び現れて、何か話しかける。

 それが1日前のこと。

 今は自動運転の銃付き装甲車に乗って、その無法者が住む地へ向かう。

 車体はピンク色でユニコーンのイラスト付き。

 乗ると言っても自動ゆえに運転席には誰も居らず、

 装甲車の屋根に対物銃と椅子と空間があって、そこに居る。

「俺は聞いたんだ。

 でもさ、全部殺したらどうしてくれる?」

「報酬をやる。だな」

「そう! 察しが良い。オッケーだ! 友達に電話ー」

ケース1「イフロム、出ねぇ」

ケース2「ジョンフラム、当然出ない。前から無視されてんのよねぇ」

 ハンターゾアは人工頭蓋骨に搭載された電話機で、

 腕を組んだまま知人に連絡を送ることが出来るが、

 返事してもらえるとは限らない。

「特にイフロムのやろうは、

 いっぱいワザを教えたコノ俺を~。センセイなんだぜ~?

 越前ローランよォ」

「なんだ」

 越前ローラン、ゾアに呼ばれて来た相棒。肌の浅黒い男で陸軍な装備だ。

「お前しかいねぇ!」

 ハンターゾアはそう言ってバーンと越前ローランのケツを蹴る。

 微動だにせず、わずかに怒る越前のこぶしがハンターゾアの顎を軽く叩く。

「俺しか居ないわりに適当に扱ってくれてどうも」

「そんなことねぇよ~。ほんとに」

 後ろを向くゾア、正座する。背中には日本刀が携えられている。

 越前はそれを抜いて、ゾアは自分のナイフを抜いて腹にあてる。

 二人で切腹と介錯ごっこ、斬らずに刀を戻す。ナイフもしまい直す。

「悲しい男だ俺も。

 お前なんかと同じ趣味があるんだもんな。

 敵兵と戦う仕事、仕事が趣味。だから俺もお前もイフロム達に見限られたのさ」

 向き直って座りなおすゾア、

「そんなことねぇよ。いや……そうかな。お前、告白したって言ったもんね」

「ダメだった。全然だ。イフロムは天使だ……。なのに断られた。

 あいつらは、本当は他人の血が嫌いなんだ。たとえ敵でもだ」

「……。はぁ。あいつら……女の子だもんなー。

 血を見ても良いって可愛い子はいないかな」

「バカ、居ないよ。俺は本人たちから聞いた。ハンターゾアと距離を置きたいってな。

 ジョンフラムはお前が最初から嫌いだそうだ。お前と話す俺も嫌だそうだ」

「ふざけるんじゃねーぜ。でも全く分からなかったぜ?」

「嘘をつくんじゃない。殺人狂め。お前のせいだぞ」

 お互いの首をつかみ合う。

「お前のせいでもある。俺と同じ趣味って言っただろう。

 俺はさ、あいつらの首の裏を撫でられるなら、

 ただのチカンになっても良かったんだ。この俺が戦いを辞めてさ」

「ほぉ、譲歩したつもりかい。殺人狂を辞めてか? 無理だろう」

「そうだなー。両方やると最低だから片方だけな。場所はトーキョーとかでか?」

 お互いの首から手を放す二人。

「ダメだダメ。はは。でもお前にもいいところがある。拷問が嫌いだもんな」

「嫌いさ。

 情報が分からないからそうする、バカだから捕まる。

 拷問の場はそこにバカしかいない空間なんだ。洗練が無いから。

 殺人は健全。拷問は不健全……戦争法でも多分そうだろ」

「俺は気がついちまったよ。普通はどっちも嫌なんだよ。ゾア」

「刀も銃もか。俺らの至福とは違うのか? いいさ」

 車は荒野を走り、岩の鳥居の所まで進んだ。人がいる。

 片目が望遠鏡に改造されている越前はゾアに伝える。

「ゾーヒョーとシャカイジンが合わせて7人。しめた、シントーが居ない。

 入り口だ」

 ゾーヒョー ……

 刀を携えた危険人物のこと。数が多く知能が足りない傾向がある。

 シャカイジン ……

 光る殺し方は持っていないマザコンだが、オールラウンダー。

 そしてこちら、ハンターゾアもゾーヒョー、越前ローランはシャカイジンになる。


 ゾアは、腕のナイフを片手で取って持つと、

「ハアアァアアッ! フゥウウンッ!」

 呼吸法、体にいい。本物、人工、

 あらゆる筋肉をほぐして体の可動をやりやすくする。

 投げナイフ一発、

 見張り男の眉間に吸い込まれた。

 光り出すナイフ。

「いいぜぇ! 俺の腕を見たかァ」

 敵の眉間のナイフが、異空間を通ってワープしてゾアの腕に戻る。

 敵の頭は穴の開いたところから血が噴き出す。進んだ技術だ。

 気づいたゾーヒョーたちは刀を抜いて、飛び乗るつもりで走り来る。

 シャカイジンはネクタイを緩めて上着を捨てて突進してくる。

「ナイフ。相変わらずだな、惚れ惚れする。

 俺の手榴弾も見ろ!」

 ドーォン! 一瞬の来方が悪かった、

 見張り達は全員が吹き飛ばされてしまった。オーノー。

「いいねえ。テメーのぶっ飛ばした敵の血肉! ダァイ好きィ!」

「持つ武器のうち一つは脅威(パワー)として使うべきだ。ならば急所に」

「いいよねぇ。二つ目は自由に使うべき、だろ。

 いいよねぇ。お前の持論は、お前の作った死体くらいイイ」

「芸術品だから腐る前に見ておくように」

 乗った車が自動で進むので、ゾアの目線、

 その首は倒された死体を見ようと追ってくるーんと動く。

「いい出来だぁ~」

 せっかく見張りを倒したが、

 ちょうど敵の一団が遠くから、

 3台の大きな車に乗って向かってくる。

「おいっ」

「ヒャ、ヒャ、ヒャ。よし、それなら」

「ああ! もっと増やしてみよう!」

 設置されてある2挺の連射対物ライフルで攻撃を開始する2人。

 特に越前は小脇に抱えて撃ちまくっている、ベルト式の弾が踊る。

 こんな撃ち方はふつう不可能。

 ゾアは寝そべって撃っている、

 これが普通の撃ち方だ。

 敵の車が応戦して発砲してくるものの、

 対物ライフルの威力の前に次々に爆発していく。

 二人とも気が付かなかったが、今の車に敵のボスが乗っており、

 依頼を受けて到着した場所には、誰もおらず。

 注文くれた爺さんからは、何も貰うことはできなかった。

 それでもまぁいいや、と思うものはなんでしょう。

 ヒント、今日もナイフを敵の眉間に突き立てるサイボーグ戦士、

 答えはハンターゾア。

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