第一怪獣ビルマ襲来 それが終わって

 西暦××××年。

 ある連邦共和国に第一怪獣ビルマが出現した。

 ボコボコと体に穴の開いた姿でそこからエネルギー弾を発射する。

 四本足で歩き、金属を吸収し、巨大化していく凶悪な怪獣だ。

 第一と付いているのは初めて出現したからである。

 共和国を踏みにじり、だんだん大きくなるだけでなく、

 吸収した金属から新たな怪獣デングを生み出す。

 意思決定機関イドムドスの命令で、

 飛行機に変形するロボットたちが怪獣を追い払うべく戦っている。

 突撃部隊『オスカー』と補給格闘爆撃機『グローブマスター』が、

 味方同士で危うく接触しそうになりながら協調して戦っている。

 地球上どこかの土地の地下36キロ地点に隠された、

 本拠地サーバーで不安げにつぶやく機械の少女、イドムドス。

「私たちに逆らう、レジスタンスばかりでなく、

 理由の分からない敵が現れるなんて……」


 第一怪獣未だ倒れず、そんなある日。

共和国近くの海に陣取った巨大潜水空母『ニュー・エンタープライズ』にて。

 戦いを終えた兵士はここを通って自室へ行く。

 小さな花を咲かせるゴツゴツした大きな木、その他は無機質な空間。

 いかにも空軍という服装の少年が、

 座って休む、杖を持った子供に話しかける。

「君は? ジョンフラム君だ」

「そう……。キミこそ誰?」

「おおっと失礼、戦隊長の加藤と申します」

「あっ、シツレイしました」

「いいえ。来てもらって間もない。

 しかし君のロボット『グローブマスター』の戦いぶり、

 ここへ来る前から評判だ。俺の隊にも、

 神聖視して、君の瞳に欲情する者がいるくらいだ。ハッハッハ」

「はい。……はい? そ、それで戦果が出るなら……? シシシツレイな!」

 反応に困る姿を見て笑う加藤、

「クク。君は与えられた仕事をこなす。

 俺は与えらえた仕事以上のことを、していると思っている。

 なのに、なぜか君の評価値が俺に迫っている。だから興味がある」

「加藤サン、キミって言っていい?」

「はい、どうぞ。ジョンフラム。

 我が『オスカー』戦闘隊も頑張っているけど」

「さっきの……。危ない運転の人。キミの通信(こえ)、データが残っています」

 ジョンフラムが自分の杖を、持っていない方の手で叩くとそこから声、

『ククク! こちらが大変な時は、敵も大変な時だ! 撃て! ハーッハッハッハ!』

「おや、まあ。俺の声だ」

「危ない飛び方だね」

「一部分が言うには、その通りだろう。

 俺自身は安全な操縦も大事だと思っているよ。握手しよう」

 と言って手を握る。ジョンフラムは手を放し、

「キミ、この木、この花、何か知ってる?」

 力強い木に控えめな花がたくさん咲いていて清新な香りを放っている。 

「梅の花だよ。知っているだろ」

 ジョンフラムは別に知らないわけでもなかったが、

「桜じゃないんだね」

「見分けがつくだろう? それより時間、余っているか。

 ヴェイス・エリクの脱出劇、その映画を見に行こうか」

「はい」

 バーチャル・リアリティ映画館で昔の脱出ショーを見ながら、

「イドムドス殿は、故事に習った名づけを行う」

「……。そうでない者はコストが掛かっていない、だね」

「ああ、公然の秘密。

 大計画だった関羽召喚は、なんと別の宇宙に逃亡されて大失敗に終わった。

 側近の公孫伯圭(こうそんはくけい)殿から始まり、真ん中あたりが我々だ。

 下方に行くほど、名前は聞いたことのないものになっていく。例外だらけだが」

「気になるの?」

 加藤戦隊長は首を振って、

 映画館の暗がりのなか、お互いの名札をそれぞれに引っ張って、それをやめ、

「俺達は、大丈夫だな。しかし疑問に思わないか。

 生まれたときから役割が、いや、

 もっとはっきり言えば格が決まっている。

 それを推奨さえするような仕組みに疑いはないか」

「イヤなことだと思う?」

「いいえ。

 俺自身はあまり気にしていなかった。

 自分の中で完全に中間だったからだろうな。しかし、

 部下の安間(あんま)さんが前から気にして」

「そう」

「俺の後継者にと思ったのに、それも出来んようになった。

 まぁそんなところだ。次は写真を撮ろう。

 あいつらには別の用事があったけど、そろそろやってくる」

「キミの仲間? どこに?」

「さっきの梅の木の通路さ」

 画面にはエンドロール、それが流れ始めている。

「映画も終わりだね」

「はい。カメラを取ってくるから、

 俺の部下が来たら呼び止めてください」

「うん。見た目は? 何人くらい?」

「すぐわかるよ。そんなに服装は変わらない」

「うん、わかった」

 元の場所、梅の木の所で座って待っていると、

 少しして、がやがやと少年たち。

「オスカーも格闘時に軋んでる気がする」

「やはり機体を軽量化しているためさ。

 我々よりレジスタンスのロボットの方が強いくらいだ」

「イドムドス殿は、もう少し考えてほしいな」

「新型は装甲も増やしてある。しかし、俺のは通信装置がイマイチだ」

「俺もだ俺も。普段は良い、だがそれが戦闘時に不調というのは、

 できとらん、脆弱にしか。強く想定せんと。ぜんぜん、終わらない戦いになる」

 ……。

 部下の方々は同じような服装で一緒に来てくれたので、

 ジョンフラムにもすぐに分かった。

 戦隊長、加藤サンの趣味は写真で、自分のカメラを持って来た。

 梅の木の下で彼の部下と混ざって写真を撮影、それぞれに後で送るという。

 そのあと別れて、

 自分の部屋に戻ったジョンフラムが端末で検索をかけると、

 安間(あんま)大尉は、2日前に戦死とあった。


 それから一か月と十数日後、

 加藤戦隊長は第一怪獣ビルマに向かって、

 自らの機体を逆さまにしたままで敵の死角を攻撃する、

 背面撃ちを披露しダメージを与えるが、

 怪獣からのエネルギー弾がかすって機体がダメージを負う。

 第一怪獣は、金属を取り込んで成長しようとする。

 加藤機は吸収されることを回避するため海面に突進、戦死した。


 予想を上回る力を持つ第一怪獣を確実に無力化する計画が立てられ、

 引き続き戦った『オスカー』部隊と『グローブマスター』の活躍のほかに、

 ついに『イドムドス』自身の出撃と、各地に潜むレジスタンス、

 そのごく一部にして最大の相手『レッディガン』との、臨時、

 一瞬の協力態勢によって、この件の怪獣は全て撃破された。

 初めからそうなっていれば……。


 その後、ジョンフラムは自室でまた、

 最後の背面撃ちの映像を見て、

「上手だね……」

 映像の中の加藤機、被弾する。

 応えるように加藤の録音(こえ)。

『まさか怪物ごときに食らうとは。

 俺はここまでだ。みんな一人前になれ。

 時が訪れるまで、戦え! ハーッハッハッハ!』

「できないよ……。僕は生きたい」

 この後の場面を見たくないため、画面を消して呟く、

「でも、遊びに連れて行ってくれてありがとう。写真も……」

 祈りをささげる青い瞳に浮かぶ涙がこぼれ落ちた。

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