コンテンツ消費議論会

 田舎のBAR、午後9時。

「コンテンツ消費議論会?」

「彼のお父さんは現金焼却会というのを開いていたそうだ。

 一生の長さは同じとか言って、儲けの三分の一を、

 全部千円にして燃やすみたいだ、その会では。ビデオを見たよ」

「気が狂ってるなぁ。バブリーな。なんか、もう怖いんだけど」

「本来は一万円でやるのが正統らしい。違法でもなんでもない」

「でもなんかヤバいよ~。お金をもらってるから来たけど。ヤバくない?

 ――あれ? もしかして、その程度のことで、って感じすか?」

「燃やす会……そういう漫画がありましたよね。そっちの会の方、気になる……」

「消費議論会の話に戻ろう。彼が父をまねて作ったのが、この消費会だ。さすがに今の時代に現金を燃やすなんてことは出来んという事で作ってくれたのではないかな」

「消費会ね。だんだん短く略されてきた。消費会」

「出来んという事でどうするの。コンテンツを消費する……ビデオでも見るの」

「貸し切りなんでしょ。せっかく貸し切りにしたんだから! ……マンガを読む……」

「酒場の、この照明で? ほんとに何する会なの」

 カチャン、とドアの音。シャラシャラと上に付いた鈴が鳴る。

「彼が来たぞ」

「あー、もう皆さん揃ってる? おまたせ、蒼井セツナっす」

 それぞれ自己紹介が終わって、

「これは何の会なの?」

「それはっすね……。最近、

 新しいコンテンツ消費の心構えが分からなくなってきたんで……。

 古いのは大丈夫なんすけどね。だから、

 これはコンテンツを消費する会じゃなくて、そのやり方を議論する会なんだ」

「ほー。高尚だなぁ。二人もそう思うだろう」

「まぁ~、そうっすか」

「だからオタクを集めたってわけ?」

「そうです、そうです」

「じゃあ、最近の作品の消費方法を議論するわけか。

 裸で暖房を付けて見るとか、ラーメンと一緒に見るとメガネが曇るので鑑賞にはふさわしくないとか、そういう話でいいのかな」

「何でもいいんです。何でもいいんです。

 なんなら、自分の人生をコンテンツと考えてもらってもいいんす」

「改めてコンテンツっていうと……何なんすか」

 BARの液晶テレビがぱっとついて、金髪で青い眼の子供。

『コンテンツ、情報の内容、なかみ。

 映像や音楽や漫画や小説の内容をコンテンツといいます。

 やぁ。みなさん、あまり遅くまで飲んじゃだめだよ~』

 蒼井セツナは驚いている。

「今から飲むところさ。ど、どうしたんだよ……」

『みなさんはそれぞれ、イドムドスの購入契約を済ませておりません』

「今はよせよ……」

「アーはいはい」

「……」

「何なの」

『生命を保護され、自由と名誉、

 それらの尊重を受ける権利の保障を受けるには、

 イドムドスの購入が法律で定められて……』

「うるせー」

「プライバシーも何もあったもんじゃない」

「子供が来るところじゃないわ」

「今からって所なんだよなぁ」

「何が法律だ」

「切れ、線を切ってしまえ」

 やいのやいの言われるのを受けきれず、

『……わーん!』

 液晶の映像は切れてしまった。

イドムドスは、巨大な意思決定機関で、その端末も同じ名前だ。

 各国の政府と融合を果たしながらその権限を拡大している。

 その購入をしないということは、それだけでアウトロー扱いされることがある。

 しかし、彼らにとっては集まりの方が第一だ。

「ええと、気を取り直しまして」

「何でもコンテンツ扱いしてでいいんだよな」

「はい」

「俺は普段はサラリーマンなんだが、10年目だ。

 若い社員の求める上司像はぼんやりしている。

 なんとなく都合のいい人を求めている。

 しかしベテランになると決断力のある上司を求める」

「理想の上司像に違いがあるわけね」

「しかし、違いのない項目が二つ。人として尊敬できる事と、視野の広い事」

「それがどう、コンテンツなんすか」

「上司の中身(笑)」

「ハハハ。上司を味わう方法の議論っすか。面白いかも」

「いや、そうじゃなくて、

 今後のために、先にコンテンツ充実を図ろうと思っていて」

「アンタ役職とかあるの?」

「課長です」

「課長! ははぁ~。オタクの話もしよう」

「アマガイ太郎の絵っていいよねぇ」

「ええ~? 私あの絵、苦手。男を描いてるの見たことない」

「萌え小説に相性いいかな。

 男が描けない人多いよね。描ける人と言えば?」

「せめて、右さんくらいに上手じゃないと」

「せめて……?」

「せめて右さんが、彩度上げてくれて、もうちょっとたくさんいれば……、

 毎週見る絵に困らないのにな」

「小崎コースケはどうなん? 自分的にはあんまり萌えない、せめて萌えくらいはねぇ」

「おい、描ける、描ける。相当うまいだろ。

 お高いかもしれないけども、彼は上手いよ。

 君たち、メチャクチャな要求にせめてって付けるのやめよう」

「はは、絵はあんまり知らないっすね~」

「アンタ、麻雀出来る?」

「いやー、おれ、出来ないす。

 覚えといたらよかったけどね、外行くとき」

「あぁ、君、損してるねぇ」

「自分もできないなぁ」

「ちょっと話が……」

「あぁ、消費のやり方を議論するっていうなら、どこから消費するかだよ」

「視野の問題? 液晶、変えるとか?」

「液晶はなぁ。しかし、一人暮らしで、

 何にも見てないときにドーンと黒い画面があるわけよ」

「ハハハ! 分かる、分かる」

「おれは、つけっぱなしにしちゃうな~。画面のリフレッシュレート高いよ」

「大画面より、品質かぁ。しかし多すぎるから、ベストチョイスとか不可能でしょ。

 コンテンツの消費のやり方といってもね~。千差万別で……」

「いや、あきらめないでくれ~。そのための会だから……」

 結局この4人は深夜3時まで下らない話をして眠りこけ、朝に解散した。

 いくら話しても大河の一滴、どうしたらいいのか誰も分からない。


 キリストやブッダなら、何と答えたか……。

 

 夏のイメージ、サーフボードに乗って楽しむ、キリストとブッダ。

「サーフィンだよ、サーフィン! アーメン」

「ありがたや~、ありがたや~、で拝んでたらええ! いくぞ!」

「アーメン!」

 ザーッ、大きな波に乗ってそのまま、雲の上まで消えてしまった。

 何故飛んでいるのか全然分からないが、雰囲気で飛んでいる。

 誰かが眠っている途中で見た夢である。

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