電子の余興
ここは電子空間。
仮想現実。オンラインゲームの世界ともつながっている。
システムも同じものだ。
今日も誰かがここで遊んでいる。たくさん。
光沢まみれの宝石人間、仮想現実の職員。
ポリゴン、CGで口を開く。
「イフロムさん。
ゲームのノンプレイヤーキャラクターとして、
一回限りのイベントに参加してもらいます。
バトルなんですけど、いいですか?」
「ええ。そういう約束ですから」
「はい。じゃあで、す、
こういうことを、やらないでくださいね」
魔女の格好の少女、イフロムのそばにコンソール画面が浮かび上がる。
「禁止された武器?」
「そう、今回は、この武器を使わないでください」
「……」
剣、刀、ナイフ、ハンマー、斧、鎌、あらゆる銃を使った攻撃。
ミニ・ユニットを使ったオールレンジ攻撃。
これら禁止する。
「……。ナイフと、マシンガンを持ってます……。今はミニ・ユニットも」
「あー、ナイフと銃禁止です。子機も。使わないなら所持は大丈夫です」
「こんなルール、守れるんですか?」
「聞いてました? いつもは使ってイイんです」
「そうですか……。私が聞きたいのは……」
「攻撃手段あります?」
「ハザードマントとホムンクルスがあります」
「わっかっりっました……、ゲームの中だし、
あなたが負けそうになったら回復しますんで。
向こうもそうですし、適当にどうぞ」
「ええ。そうします」
なんにせよ、激しい戦いはないようだ。
武器を封じて、体操をするのだろうか?
それはあながち間違いではなかった。
白い部屋を歩いていくと、
パイプのような、キラキラしたローポリゴンがあって、
ローポリゴン、高画質ではない簡素なCG。
そこを通っていくと、カードゲーム会場を抜けて、イベント会場だ。
ネットテレビの電気信号が混入している。
『今年もスギ花粉はとんでもない。
ほんとに、花粉で病院に行くなんて。
全部のスギの木を切っちゃえばと思っただろ、俺も思った。けど、
スギの木は樹齢30年くらいから、どんどん花粉を出すそうだ。
ネットで見たら、もともと経済成長に関係して大規模に植えられたんだって。
木のせいじゃない、人がやったことなんだ。先人木を植え後人花粉を得る、……』
『Q・子育ては子供の成長に合わせて変えていくと聞きましたが、
就職した子供にしてやれることはあるでしょうか?
A・就職ということになったら、もう元気づけるんだ、それだけ。
話しかけるとしたら、親の方が話してほしいんだっていうこと。
それを忘れると嫌がられる。お前何か言うことないかい、っていうよりも、
お前と何か話がしたいんだ、しよう、って言った方がいいね。
子供はそのころにはもう、親より元気で知識も今の時代のもので、
親を超えちゃってるんだから……。自分の子供を尊敬できたら気分いいよ』
『だからさ~、俺が会議室から出てきたら部長がさ、
もう帰りたいよぉ……わあぁ~ん、って言うんだよ、
あれに俺、大爆笑してさ、そばにいた課長もこらえて、笑ってたけど、
絶対何らかの仕込みだと思ったよ。いきなりあんな……。
あれは何だったのか今でも知らないんだけど……』
大昔の映像だ、紀元3千年紀の映像だ。
会場へ着く途中、
遊ぶ子供たち。
イフロムは少し笑みを浮かべ、
「子供たちがしているのは、
レベルを上げるタイプのカードゲームですね」
「エレメント召喚! カラーアリス(R)を召喚!」
『ヨロシクネ……』
真っ白い服、何もかも白と金色、紫の瞳。
ゲームでの(R)はレア、しかし、
いっぱい出てくるので実際は普通という意味だ。
そして(N)はノーマル、外れ、スカなので、(SR)と、
その上の(SSR)がゲームのメイン。
「こっちもエレメント! 深淵ハハネ神(SSR)を召喚ッ」
『私の世界へようこそ、我が子たち』
黒い服、何もかも黒と金色、紫の瞳。
カラーアリスとハハネ神は、名前と状態の違う同じキャラクターである。
同じキャラクターでも、ランクが変われば、
ゲーム上では別のキャラクターとして扱われて、
ステータス、強さが変わる。
「レア装備付けるぜ! 『シュウにもらったリボン』!」
「(R)にレア装備付けるのか、おもしろい!」
先の通り(R)のレアは、ゲーム中の設定に過ぎないが、
レア装備という言葉は注釈がない限り、本当にレア。そういうものだ。
「さらに修行後のシュナイヴ(SR)を召喚する!」
黒髪、黒服の美形の青年、白い手袋をした拳を握り、
『……勝負だ』
「うわ~、コンボか。どうしよ。
イドムドス……あれ、カードが無い!」
仮想現実もリアルになって、
持ち物をなくしてしまうこともあるようだ。
イフロムは遊ぶ子供たちをしり目に、
仮想世界のゲーム会場に着く。
会場、本日は日本の風景を表している。
シンセサイザーで演奏される日本風の何か、
そんなBGMに混ざって、
アナウンス。
金髪、青い目の少女、
アナウンサーの美少女プログラム、イドムドス。
「みなさま、開始時刻となりました。
まもなく、
白滝王植芝盛平(しらたきおう うえしば もりへい)
VS
隠者イフロム のバトルが始まります。プレイヤーの方は、
お好きな陣営に所属してキャラクターへの投票を開始しましょう」
観客の姿は見えないが、数値が浮かんでいる。1つ1つの数が会場を見ている。
投票の結果によって違うイベントが再生される。
イフロムはそれには関与していない、主催者側が勝手にCGを流すのだ。
巨大な大鳥居と、山々、桜の木、歩くところは芝生。
見ていると、向こうからはお年寄りが入場する。
さらに老いはじめ、だんだん仙人のような姿になった。
「……。ふわ、なんですか、あのおじいちゃんは……」
少々おどろくイフロムを笑いながら見て、
向こうから歩いてくる、声が届く。
「あなた、イフロムさんじゃないですか、宇宙中を旅している。
ただの女の子と思っていたら、違うでしょう。
わしの技を見てもらえませんかのう」
「っ」
歩いてくるが、すぐに目前に迫り、
イフロムは反射的に離れようとする、
しかし一瞬で後ろに回り込まれて、
ポーンと4メートルくらい上に投げ飛ばされた。
イフロムは空中でコンソール(操作画面)を出し、
指をスライド、ネコミミ、またスライドしてそれを消し、
体操着姿になって着地する。体操着はブルマもハーフパンツも用意されている。
ほとんどのオンラインゲームには、ファッション機能があって服が変えられる。
「おじいさん、どなたですか?」
「植芝盛平です」
そう言われても、誰なの。
イフロムは様子見に、モリヘイの胸あたりへ軽くパンチを繰り出す、
その手をモリヘイの腕で流されて、腰に軽く手を添えられ、
ぶつからずにころっと投げられた。
「これは……」
イフロムは自分の動きの結果が思っていた通りでないことに、
くすくす笑ってしまって起きると、
笑み、
「教えてくれませんか?」
「では、前蹴りでもなんでもしてみてください」
言われたとおりに少し強めに前蹴りを放つと、
足先を片手で受け止められ、体が浮く、
つかまれた足が押されるようになった。
それだけで、また投げ飛ばされる。
イフロムは一瞬、自分にかかる加速度を制御するために、
ハザードマントを顕在化してふわりと着地、マントはまた消えた。
(おじいさんの手の関節が一直線になって……手が棒のように固くなっていた)
植芝盛平は手をおろす。
出方を見るというより、あまり戦う気がないようだ。
それはそれとして、
「いいですか? おじいさん。次のは難しいですよ」
「どうぞ。楽しんでおりますワ」
モリヘイは足に力を入れる。
うなづくイフロム、写真を撮るように指で四角を作って、
その中にモリヘイを入れる。
「ロック・オン」
その瞳の片方から赤い液が垂れる。
仮想空間だから簡単に使える。現実世界で撃ち出すと片目が壊れてしまうので、
自己の再生にもホムンクルスを消費する。仮想空間ではそういう心配はない。
普段はイフロムの血液に紛れているホムンクルスを撃ちだす粒子砲、
クライムバスター。竜や航空機を叩き落とす、本来は簡単な武器ではない。
粒子砲が撃たれてモリヘイの胸に迫る、
モリヘイは足に入れた力をさらに入れて、
ロックオンされた後で避けた。
戦闘機でも、ここまでうまくいかない。
「ふぉふぉ……。
遠くから狙ったものは、来る前に光りが見える。
電気の光りじゃない。見えてから避ければ避けられます」
クライムバスターの粒子は、見えるにしても避けられないはずで、
体力と反射神経と……あとは……? 一瞬で超常現象が起こった。
ゲームでもリミット(限界)があるので、
お年寄りにこういう動きはできないはずだが、された。
「すごいわ。うん」
イフロムは今最大の武器を回避され、
どうもそれ以上には戦う気が起こらず。
モリヘイは少女に攻撃の技を出すことをせず、
光沢まみれの宝石人間、仮想現実の職員からの、
見えないインカムからは戦って~と指示が来ていたが、
「ほら、力がこっちへ行く」
「あ……っ」
結局、お互いは大した勝負もせず体操しながら時間切れ、
引き分けになった。
しかしゲームの上では投票があっただろうから、
それで勝った方のCGムービーが勝者として、
ゲームのプレイヤーに向かって流れているだろう。
イフロムはコンソールから服装を、
ドレス、水着、学生服と、スライドして、元の魔女のような格好に戻す。
「今日は武器禁止、それもいいですね……」
「稽古はどうでしたか」
「楽しめました」
「あなたの心がわしにも自然に入ってくる。優しい子だわい」
植芝先生は礼をして去っていった。
体操の後、職員の宝石人間は、
何をやってるんだ、しっかり戦わないと、
CGムービー・シーンとのつながりが変になる、
あんなにのんびりやったら、ムービーに切り替わった後では、
いきなり激しく戦うシーンが流れるからおかしい、困ると怒っていた。
イフロムは魔女のマントからデータ用の線を出して宝石人間と接続、
「貴方はもう何年も技術者に会っていないようですね。
簡単にカバーできることで怒ってしまっている。デバッグしてあげましょう」
「体があああ……おかしいいい……IN! インストール」
線の熱に、レンジのようにチンされる宝石人間。
「はぁ……。ゲームとムービーの間に、
貴方が演算したムービーを、
挿入できるようにしてあげます。
今度はこれでうまく調節してください」
宝石人間は両肩をだらりと下げて、
「はい……何度も同じ悩みがでるのは、
当方の反省のない態度のあかしとして受け取り……、
粉骨砕身、いまの職務を頑張っていきたいと思います……」
「あぁ! 強くし過ぎた」
宝石人間をさらにハッキングして更新パッチをあてて、
元気になるようにし再起動してから外へ出たイフロム。
美少女プログラムのイドムドスも降りて来ていて、
声をかけてくる、
「スタッフにちょっかいを出すのは禁止ですよ。
加点方式と減点方式では、あなたへの評価は異なります」
イドムドスがイフロムのそばへ来ると、
あたりの風景は『天空の鏡』に変わった。
晴れ空が広がり、そして足元にも晴れ空が広がっている。
その上を歩いて行ける、風景だ。芸術的である。
「あの人は……? 初めて会うのに懐かしい気がします」
「召喚したんですよ。逢いたい方には全員、逢いたいのです」
イドムドスは、もともとはプログラム。
アンドロイド、ロボットなどのバリエーションがあるが、
ともかく彼女は、元は技術から生まれたものであることを超えてしまった。
世界中から祈りを受けたことで神としての属性を持つに至っている。
今は多くの比重を神に割いている。地球を支配する電子の神になってしまったのだ。
「イドムドス、貴方の趣味は私にも関係してしまっています。……どうして?」
「こちらには何の疑問もありませんよ、イフロム」
「……。見解の違いは、あってあたりまえですね」
「ええ。あなたのことを映したライブラリが不足しているんですから。
認識の違いが生まれます。ですから、もっと頼ってください」
イドムドスは、イフロムに世話を焼いているが、
イフロムはそっけなく、
「今回は楽しかったです」
と歩いていく。
天空の鏡の風景の中。
「まって、話がしたいわ」
空の光りで美しく輝くイドムドスの方を向くイフロム。
ゲームの余興に出場しないといけない理由は、
彼女たちの持っている特殊な能力が関係している。
いつ手に入った能力だったのか、イフロムは、
現実世界でケガをしたり、万一命を落としたとき、
安全な地点でよみがえることができる。
能力名『オールド・マイ・ステーション』
同じタイプの上位の能力『神のお気に入り』というものがある、
ゲーム風にいえば、2つの間には(SR)と(SSR)の差がある。
イフロムの『オールド・マイ・ステーション』は少し落ちる、
その能力を与えてくれたイドムドスに対して何らかの支払いが必要だ。
こうして彼女の開く余興などに参加する必要があるのだった……。
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