第15話 王と宰相の世間話 その2
「ほぉ……何とも大したたまたまだな」
「まったくだ」
まるで物語の英雄譚のようだと、2人同時に思った。さらに追加情報をブラッドリーは披露していく。
「もともと護衛のノエラ殿とニール殿は昔一緒に行動していたからな。そういった縁もあったのではないかと踏んでいる」
「なるほどなぁ……そういや昔、称号をニール殿にやった時後ろに何人か付いてきてたな。そのうちの1人だったのか」
「あれだけの美人を後ろに侍らせていたんだぞ。お前のその感想はなんだ」
フォイエルバッハ出身の盾騎士。公爵家の娘で、下位だが王位継承権のある少女
―――アデリナ・クリューガー
どこにあるか分からない隠れ里に住むドワーフの筆頭鍛冶師の3女で、次代筆頭鍛冶師候補が1人
―――ラダレンコ
あまりにも神に祝福されすぎたために、権力欲活発な上層部に疎まれ、奴隷落ち寸前まで落ちこぼれた真の聖女
―――ジャンナ・サルヴォ
存在全てが美しすぎたため、人間に狙われ続けた精霊の守り人
―――ノエラ・サン=グラニエ
そして、死に場所を求めさまよった挙句に、現存する最強すら斬り殺してしまった死にぞこない
―――ニール・デリンガー
以上が、その当時行動を共にしていたパーティメンバーである。ただし、ニールだけはソロとして活動しており、残り4人がパーティとして活動していた。『護衛』と言い張って。
「……そんなに美人ばっかりだったのか?」
「……」
そろそろ、代替わりが必要か? と思ったブラッドリーだったが、王太子アイザックはまだ12歳。彼には2人の姉がいる。
上の姉『ヴァネッサ』は聖剣や魔王といった現在地上を賑わせている問題に、選抜チームを作り取りかかっている。だが未だ成果なし。前回の討伐からおおよそ780年ほど経っているというのは残存する歴史書から読み取れた。今4大国に生物が生きていくうえで解決しなければならない問題が、その時にも起こったということも書かれていた。だが、魔王の総数が何体なのか? 聖剣はエクスカリバーだけなのか? 選ばれる勇者は1人だけなのか? 少なくとも聖剣が複数あり、なおかつ勇者も聖剣の数だけいれば、一度に問題に取り掛かることが出来るのだがそれすらもわからない。古文書や歴史書を見つけた端からひっくり返すも目ぼしい情報はまだ上がってこない。そんな税金の無駄遣い扱いされつつあるチームのトップをヴァネッサは務めていた。
片や下の姉『ルシーダ』はなんと勇者ラウルにうつつを抜かしていた。『勇者』という平穏な世の中には現れることのない特別な人間が、自分が生きているときに登場したのは、自分が運命に選ばれた人間であるに違いないと、盛大におめでたい妄想に浸る始末。世間知らずの箱入り娘は、ラウルの寵愛を得たくてたまらない。ラウルの下半身のだらしなさはルシーダには知らされておらず、勇者の本性を彼女は知らない。しかし会えない時間が愛を育てるというか彼女の思いは募るばかりで、妙な詩を書き後宮へと人伝いに送ることに。自分で持っていかないことをこれ幸いにと、良識ある文官がそれを握りつぶしているので、今のところ第二王女が勇者に惚れているということをラウルが知ることはない。ただ、最近不穏な空気をまといだしたルシーダを押さえるのも時間の問題ではないかと、王宮良識派はひやひやしている。勿論ジェイクは頭を抱える羽目になった。
冒険者が、謁見の間に来て「よきにはからえ」ということなど数知れず。やや衰えぎみな歳のせいもあってジェイクにはきれいさっぱりニールの謁見の際の記憶は残っていなかった。なお、女性陣にも称号を与えようとしたのだが、何もしていないと断固拒否されたこともあり、事実としても残ってはいなかった。
「……まあとにかくだ。ニール殿とマリアンネ様たちは合流し、ブランジールの王都へ向かったようだな」
「……何しに?」
「そりゃあ命を助けた礼? だろうよ。クラーケンに出くわしたとなれば、ウチの国だったら騎士団、魔導団ともに数隊で死人が出ることを覚悟の上、討伐することになる。冒険者だったら上級の入り口の『B』からしか、許可が下りないくらいの大物だぞ。それをたまたま居合わせたとかそんな理由で真っ二つにたたっ斬ったんだからな。船の中で完全になついてしまって、三等客室のニール殿を自分たちの特等客室に引き込んだらしいからな」
「……風評とか大丈夫なのか? それ」
「本来ならダメなんだが……ノエラ殿が知己だったということでな。あまり問題にはなってないみたいだ」
「……ホントか? 変な因縁つけられないだろうな?」
ギュスターヴは子煩悩である。大事な外交を任せてしまうほどに。泣くのは敏腕外交官『ゼナイド・アルボー』。女性でありながらも男社会の政治の海をこれでもかとさばいて回る。マリアンネが起こしたチョンボを、後出しじゃんけんでイーブンにまでもっていく敏腕ぶり。初めから出ていれば、ブランジールは4大国の中でもかなりの存在感を示せたであろう。実にもったいない。
「まあ、大丈夫だろう。ママゴト外交しかできないマリアンネ様とは違って、ノエラ殿は『世界樹集落』のトップ中のトップだしな。下手に口を挟めば、上級精霊複数召喚で死なないようにいびられるだけだ」
「……美人すぎるだけに絵になりすぎるな」
「ホーッホッホッホッ!!!」とか言って、ムチにボンテージと危ない絵面が浮かぶジェイク。虐げられているのがラウルであるのがいかに腹立たしく思っているのか想像に難くない。なおジェイクはそんな性癖がノエラにあるのかは知らない。勝手に想像しているだけである。なおジェイクは内緒で経験済み。
「まぁ、とりあえず無事に着いたから後はブランジールの問題だよ。俺らには他にやることがあるしな」
「……勇者、なぁ。どうすんだ、あれ? とっとと環境汚染の問題解決にもっていってもらいたいんだが……」
「そうだな……どうしたらいいんだろうな……」
「早急に策を練ってほしいぞ」
「……頑張る」
言葉から察するに、画期的な策はすぐには出そうになかった。ブラッドリーにはジェイクには言っていないが、ニールに関するある疑問があった。
執務室を後にするブラッドリーは、ぶつぶつとつぶやく。
「ニール殿の持っていた聖剣らしき剣……か。勇者誕生記念に作られたレプリカとは一線を画す出来ではないかという疑問」
王都ではパレードに合わせ、都の鍛冶組合がイベントの一つとして『みんなも勇者になろう!』というキャンペーンを展開していた。
ラウルの着ている服や装備を真似たものを大々的に売り出したのだ。ただ、ラウルの持つ装備品はマジックアイテムと化しているので、実際には魔力のこもってないパチモンだ。しかも聖剣レプリカは鋳型で作られたなまくらなので、クラーケンを一太刀で仕留めてしまうことなどできようはずもない。しかし結果は、言わずもがなでありこの結果を引き出したニールの実力が凄いのか、実は剣がレプリカではなかったのか、という困惑を引き出すことになる。
報告によれば、エクスカリバーは未だにラウルの側に立てかけてあることが正気でいる侍女により為されている。この侍女の精神状態がマトモかどうかという問題もあるのだが、ラウルの使用する媚香は好意を増幅するという効果しかないので、毛嫌いしている人間には効果がない。よって信頼できる報告だということが証明されている。本物であるという証拠に鞘に収まっている、というのがあるのだ。
「……だが、ニール殿の腰にもそれに似た鞘が吊られていた……か」
ニールの行動はある程度監視されている。剣聖の称号は義娘に譲ったとはいえ、実際ドラゴンを斬り殺しているのだ。そんな紐も付いていない危険な力を持つ人物を、野放しにすることなど国として到底放置できる事柄ではない。
つまり……数打ち一本ぶら下げた彼が剣墓を訪れ、出てきたときには違う鞘に収まった剣を佩いて出てきたというのが非常に気になる。しかもそれがエクスカリバーに激似である。気にならないわけがない。何よりレプリカに鞘はついていない。
「……ヴァネッサ様に進言してみるか」
進捗状況は芳しくないが、一番先にいるのは王宮内ではヴァネッサだろうとあたりを付けたブラッドリーは、ヴァネッサの居る研究室へと足を運ぶことにした。
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王宮パートはコメディ色強め。
大事なこともちらほら。
次回から再びニールサイドへ。
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