第6話 剣に向かってここに来た理由を話す ~ここにくるまで~

 歴史書に名を残す出来事として、『魔王出現』というのはたびたびあった。とはいってもウン百年という誰も生き証人が生きてはいられないほどの年月ではあったが。実際に何もかもを滅ぼすようなものではなく、いわゆる現象として発生していたとされる。現時点で地上が残っている以上、討伐に失敗したという歴史は存在しないだろう。


 ―――大地が腐ってゆく

 ―――水が汚れてゆく

 ―――気温が上がってゆく

 ―――風が澱んでゆく


 おおよそ生きるにあたり必要なことが、魔王出現とともに犯されていく。いやらしいのは一度に広がるのではなく、端から少しずつ削り取るように人の住む地を犯していくのだ。そしてその中心には『魔王』が存在しているとされている。

 魔王さえ討てば、大地は原初へと帰ると言われた。解釈はいくつかに分かれたが、一番多く支持されている説は、木や鉱石といった資源が元通りになるというものだ。あまりに人に都合の良い説ではあったが、完全否定するほどのものでもないのでいつしかそれは定説となった。

 どの説をとるにせよ、このままでは地上に人は住めなくなってしまう。なので人類は歴史書に倣い、『聖剣』とそれを抜くことが出来る『勇者』の選定へと取り掛かることにした。


 ニールとティファが決闘を行うおよそ半年前の話である。


 ―――聖剣の銘は『エクスカリバー』といった。






 聖剣が刺さった台座があるのは、『シモン王国』。ニールも住んでいる国である。台座のある土地は聖地と呼ばれ、普段は王族以外出入りできなくなっている。そこに王国中から身分を問わず、聖剣の抜剣に挑まされた。抜剣できればその時点で勇者と認定され、王城にて訓練に明け暮れることとなる。もし王国から抜くものが現れなければ他の国の民を挑ませることになるのだが、政治的なことを考えると自分の国から現れることが望ましいと、王以下政権の中枢にある者は祈るしかなかった。ここをごまかして偽物を仕立てたところで聖剣を扱えるわけではないので、裏工作など意味はなし。権力争いなど微塵も入る余地のない珍しく純粋な儀式であった。


 果たして祈りは神に届いたのか、抜剣出来たのはシモン王国にあるそこそこ石高の高い村の村長の4男坊だった。


 名を『ラウル・グレイヴス』といった。


 辺境にほど近く、平野部が多いため農村の中でも恵まれた立地であり、王国を支える食糧庫、”エンブリー伯爵領”の屋台骨の1つであった。

 ただしこのラウルという男、成人したばかりだというのにいい感じに歪んでいた。


 村長の子供ということで村ではやりたい放題、もちろん性的にもだ。気に入った娘がいれば立場を盾に取り相手に拒否権を与えずに手を出す。飽きるまでむさぼった後は、子供が出来ようが知ったことではない。認知もろくにしなかったが村の皆は父親が誰なのかうすうすどころかはっきりと認識していた。火消は村長が行い、わずかな金を与え後は知らんふり。

 いつだったか反抗的な娘がいたが、村長は見せしめにお腹が大きいまま村の外へと放り出した。その後見たものはおらず、モンスターのエサになったのだろうと薄々感じていた村人たちは、傍若無人な村長一家にやがて逆らわなくなっていく。

 腰ぎんちゃくになれば、それなりに与えてもらえるため、周りにはイエスマンばかりが増えていった。

 貧富の差がはっきりと表れ、やがて逆らう者は居なくなった。それでも村を出て行くわけにもいかず、かといって現状改善されるでもなく、飼い殺しにされるような独裁が行われていた。


 そんなところで育った者が、勇者に選ばれてまともに育つわけもなかった。


 王ですら逆らえない立場を手に入れたラウルは、さっそく貴族の娘を要求した。ラウルと同じようなことが出来る貴族には見目麗しい娘が多く、また勇者という肩書に群がるように、芯のない貴族がこぞって娘を提供。「孕んでこい」と貴族教育を受けて育った娘は、好き嫌い関係なく家長の命令に従って、身を投げ出す。そのようなことがしばらく続いた。


 ニールも勇者の選定に挑んだが、あえなく失敗。ニールとは別に挑んだティファも失敗した。それはそれでよかったのだが……






 さすがにしびれを切らした国王『ジェイク・ウォーレン・シモンズ4世』は、ラウルに対し、生活を正せと要求した。聖剣を手にした意味を知らないわけではないラウルは渋々だが、鍛錬を始めた。昼は鍛錬、夜は性夜と昼に夜に大活躍であった。大いに不満があったジェイクだったが、鍛錬を始めただけでも良しとするかととりあえず溜飲を下げた。


 魔王は聖剣でしか倒せないと伝えられていたため、勇者を万全の状態で魔王の元へと送り届けるため、パーティメンバーを選定することになった。勇者に政治的な何やらは噛める余地はなかったが、パーティメンバーなら優秀なら息のかかった者を送り込めるということで、水面下で争いが勃発。それに勝ち抜いた者が勇者の取り巻きとして共に魔王に挑むことになった。

 勿論実力がザルでは話にならないので、それなりの実力を持つ、当然ながらあとあとのことを考え、美女を送り込んだ。


 ―――女騎士

 ―――女魔導師

 ―――聖女


 ベタと言えばベタだが、それなりにバランスのとれたメンバーだった。だがアタッカーがもう一枚欲しいということで、どうしようかと悩んでいたところにある噂が流れてきたのだ。


 ”ドラゴンスレイヤー、破るる”


 ドラゴンスレイヤーを成し遂げた剣聖と呼ばれるものが、娘と決闘し敗れたというものだった。勿論ニールとティファの接待決闘のことであるが、そんなこと王都にいる者にわかるわけもない。実際は誤報も誤報なのだが結果だけ聞けば、すさまじい娘である。しかもかわいいということでラウルの股間に反応。すぐさまスカウトにフレーズヴェイグへと足を運んだ。


 ニールの道場にて、ニール、ティファ親娘と、態度の悪いラウルにベタベタくっついている仲間の3人。

 頬が引きつるニールに交渉のためついてきた文官が、ティファを勇者の仲間として連れて行きたいとストレートに要求を口にした。当然そんなクサレにかわいい義娘をやれるかと息巻くニールだったが、当の本人が付いていくと口にした。当然起こる親子喧嘩だったが、ティファはあまりにもあんまりなことを口にした。


「あたしより弱い親父が口を出すな」


 完全に天狗になっていたティファは、ニールの静止を振り払いその場で勇者たちに付いていってしまった。

 一方でニールは、あの接待は失敗だったと今更反省することになったが、もはや後の祭り。失意のままポツリこう思った。


「……とことん、あの血筋とは縁がないな」


 親は間男と子供を作り、子は子で下半身のだらしなさそうな男に付いていく。勿論ニールの教育が良くなかったのだろうが、結果としてはあまりに悲惨だった。


 ―――しかし、更に追い打ちがニールに襲い掛かる。






 王都に付いていったティファが、変な豚貴族を連れて来たのだ。もちろん本当の豚ではなく、不摂生の極まったという意味での豚だ。


「ふひっ。ぽくちんがふぅっ、この子を買い取るよ、ふっ。金貨10枚でふぉっ、どうだひっ?」


 喋るだけで息が上がるという謎の貴族と共に来たティファは、その金額で私の人生を売れとニールに要求した。それが成約すればあたしは貴族の娘としてやっていけるのだと。貧乏はもう嫌なんだと。


 まともな金銭感覚を持ってほしいとシビアなお金のやりくりをさせていたのが、裏目に出てしまっていた。まさか今までの人生を全否定されるとは思っていなかったニールは、呆然としたままサイン。誰にも見せるなと金貨10枚を渡され、豚貴族とティファはえらく悪趣味な馬車で、王都へ帰っていった。






 今までの子育てをなかったことにされ、今残っているのは『堕ちた剣聖』、『ロートルスレイヤー』など不名誉な二つ名のみ。ティファと生活していた頃には顔を出さなかった自殺願望が再び、表へと現れ始めた。


 ただ、ドラスレをかました時とは違い、時代は大きく動き始めていた。


 ―――魔王


 明らかにドラゴンより凄そうな名前を持つ存在が、地上へ君臨している。何もかもを失くしギラつく思いを心に宿し始めたニールは、道場を二束三文で処分。ご近所さんに挨拶を忘れることなくきっちりこなしたニールは、数打ちの武器では対処できないだろうなと考え、持ち主の居ない意思持つ剣を求め剣墓へとやって来た。剣墓にはそういった武具が眠っていると、まことしやかにささやかれている。






「―――というわけでここに来たんだ」

『長い! 長すぎるわ! なんで生まれたところから説明するんだ!? ここに来た理由を聞いただけじゃろうが!』

「……誰かに聞いてほしかったんだ」

『いや、わかるけど! 長いって!』


 エクスガリバーは剣のくせに人情にあふれていた。


「さて……俺に応えてくれる剣は……と」

『待て待てぃ! お前さん、ここまで話しといてここでお別れとはひどいじゃろ!』

「え? だってお前聖剣なんだろ? 影打ちだけど……」

『もう遅いわ! ……ほら、リンク終わったぞ。今日からあたしゃはお前さんの剣じゃ』

「は?」


 ニールは意味が分からなかった。


『だから! 興味ないならハナから話しかけんて。お前さんが初代エクスガリバーの所持者じゃ。あたしゃをうまく使ってくれよ』

「……いいのか?」

『お前さんといけば、あたしゃは聖剣としての使命を果たせるんじゃろ? ならのらない手はないのう』


 妙に人情味のある聖剣に、思わず顔がゆるむニール。そして……ニールは決意し、エクスガリバーの柄を掴んだ。


「よろしく頼むよ、ガリ婆。俺が死ぬ時までな」

『なんじゃい、ガリ婆って?』

「だって中身婆さんだろ。初代がいた頃の剣なんだし」

『……まぁ、ちゃんとした名前があるんじゃが……別にいいわい。今後ともよろしくじゃ、ニル坊』

「……おう」


 お互い妙な名をつけあった、人と剣はこうしてパートナーとなった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 過去編だから駆け足でいくぜ! 

 次から本編だ!

 読む気があったら夜露死苦!


 あらすじとはセリフ回しが違うけど、別にいいよね?

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