第4話 剣に向かってここに来た理由を話す ~訊ねて来た子が義娘になるまで~
『で?』
徐々に投げやりになるエクスガリバー。そんな雰囲気に気付きもせず、ニールは再び過去へと潜り始めた。
メイに似たその少女は、『ティファ』と名乗った。1週間に1度しかない乗合馬車に乗ってやって来たのだと。しかも1人で。ニールに会いに。
なんとなくメイの関係者だとは思うのだが、他人の空似かもしれないとも思う。決別した過去がとんでもない形でやって来たものだと、ニールは嵐の予感を感じた。
「ん」
たった一言告げて差し出されたものは一通の手紙だった。
「俺にかい?」
「ん」
頷くティファ。手紙を受け取ったニールは、玄関で立ち話をするのもなんだと気づき、ティファを家に上げた。お茶とお菓子を出してやり、勧めた後で手紙の封を切った。
”よお、ニール。久しぶりだな。実はこの手紙を持たせた子はな、俺とメイの子だ。覗いてたお前なら分かるだろうが、俺とメイはお前が出て行く前から体の関係があったんだよ。お前がメイと一緒にいるために頑張ってたのは知っていたが、メイが寂しがっていたのはわかってたよな?
そんな寂しさを紛らわせるために、メイは俺を相談相手に選んだのはそんなおかしな話じゃない。一緒に組んでたんだからな。俺に初めはそんな気はなかったんだ。信じてくれるかどうかはわからんがな。いつも寂しそうな顔をして話をしていくうちに、俺の方がまいっちまった。寂しくても我慢して、お前の前では健気な笑顔を無理して作るメイを見ていられなくてな。お前には申し訳ないんだが、1つ謀らせてもらった。
つっても大した話じゃあない。ギルドの受付嬢とプレゼントを選びに行くところを目撃させただけだ。あと、お前に受付嬢がそう言う相談に乗ってくれると吹き込んだ。この2つだ。
……正直見てられなかったぞ。俺が仕組んだとはいえ、メイのあの顔は。あの後俺たちは初めて関係を持った。聞けば婚約しているわけでもなく、好きだと言ったわけでもない。ただ子供の頃の約束を盲目的に信じていただけだと聞いて、ためらいもなくなった。お前の失敗は、メイをないがしろにしたこと、そして言葉にしなかったことだ。今更俺が説教などする資格もないことはわかっているが、それでも言いたかった。
何故あの時逃げた? あの時お前が乗り込んで来ればまだ一時の過ちで済んだのに。お前が女将さんに付け届けたプレゼントと手紙をメイは後生大事に持っていたぞ。さすがにそれを捨てろとは俺には言えなかった。
お前がいなくなって、メイはますます俺に依存するようになった。どこへ行くのも一緒で、俺1人で出かけることが困難になるほどに。そしてだ。少しずつクロックフォードの街に噂が流れ始めて来たのさ。
―――のちのドラゴンスレイヤー、『普段着』のニールの噂がな
初めは冗談かと思った。防具を一切付けず街人と同じ格好でただ剣一本を持って、高ランクモンスターを討伐する異常者。しかもだ。えらいかわいい子を侍らせていたらしいじゃねえか。噂が流れてすぐメイはお前に会いに行こうとしていたんだぜ? だが俺が引き留めた。だってそうだろ? 「どんな顔して会うつもりだ?」そう言ったらメイの顔色が変わった。俺からしたら慰めと同情だったが、メイからしたら初めてを他人にささげた文字通りの裏切りだ。と同時に気付かされた。メイはまだお前を忘れてないってな。この時にはもう俺も慰めとかそんなんじゃなく本気になってたんだよ。年甲斐もなく嫉妬した。だからもう俺から離れられないように、孕ませたんだ。冒険者が孕んじまうと仕事ができないからな、種や卵を不活性にするポーションがあるのは知ってんだろ? それをすり替えたんだ。ただのポーションに。メイは全く無防備に俺の精を受け入れ続けたからな。それでもティファが生まれるまで2年だ。どちらかに問題があったのかもしれねえな。孕んだことが発覚した時はメイが発狂しちまってな、どうしようかと思ったがやがてそれも落ち着いて、無事にティファが生まれた。で、だ。
俺はちょっと事業に失敗しちまってな。俺たちは奴隷落ちすることになっちまった。だから急ぎティファをお前のとこに行かせたってわけだ。実家は頼れねえ。俺に実家はないし、メイの実家だっておそらく余裕はないだろう。借金取りが張ってるかもしれねえしな。ティファがいるなんてわかったら連れて行かれて何されるか分かんねえ。幸いといったらなんだが、別れ際がひどかったから俺たちとお前のつながりがあるとは思われていないと思う。さらにお前はドラゴンスレイヤーなんて冗談みたいな存在だ。気付いたところで借金取りごときがどうにかできるとも思えん。だからティファを引き取ってほしい。後生だ。メイが言うにはティファは昔のアイツにそっくりらしい。お前に頼むのも酷だとは思う。それでも……頼む。
―――ヘイデン”
ちらりとティファを見ると、まるで無表情だがカップを持つ手が若干ふるえている。この子にはもう行くところがないと思うと、経緯はどうあれ邪険にすることはできなかった。だからティファに聞いた。
「俺のことはパパかママから聞いてる?」
「ん~ん」
首を横に振ったティファ。続けざまに質問をした。
「ここでどうしろって言われた?」
「ん~……おじさんをお父さんって呼びなさいって」
「お、おじさん……」
地味にへこむニール。それでもこれだけは聞いておかなくてはならない。
「俺のことお父さんって思える?」
「ん~……よくわかんない」
「そっか……そうだよな」
「?」
かつて愛した女性の面影を残す少女。子供の頃泥だらけになりながら遊んだことも思い出す。そしてあの日の約束も。
『しょうらいめいちゃんをおよめさんにする!』
『わたしはにーるくんとけっこんする!』
しっかり言葉にすれば叶えられた願い。だがそれももう叶わない。奴隷落ちが決定したかつての想い人の子を育てるのは、不甲斐なかった俺に対する罰なのか。ニールは決意した。
「今日から君は俺の娘だ。いいかい?」
「よくわかんないけど……いいよ!」
にっこりと笑って、返事を返してくるティファ。かすかにうずく胸の内を無視し、ニールは義父となった。そうなると問題があることに気付く。
―――ここは子育てには向かない
今まで死にたがっていたとは思えないほどに、子育てに対し前向きになるニール。ここはインフェルノフォレストに一番近い村であり、正直兵士しかいない。だからいつも素材を下ろす街に住みかを移すことにした。
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長くなったので分けます。
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