第2話 剣に向かってここに来た理由を話す ~幼なじみを寝取られるまで~

『そもそもアンタ、どうしてこんなとこ来たんだい? ここは意志持つ剣が眠る剣墓ソードセメタリーだよ?』


 この世界には、ただの武具と意志持つ武具がある。そのうち意志持つ武具インテリジェンスウェポンは、使い手を失った武具は剣ならば剣の、槍ならば槍の墓場へと不思議と誘われるように、集まってくるのだ。


「……ただ人生を狂わせてくれた、魔王に対抗できる剣がないかなって思ってきたんだ」


 そうニールは寂しそうに言い、ここに来るまでのことを思い出していた。






 ニールは幼なじみの女性とコンビを組んで、冒険者をしていた。まあよくある話で、ニールも幼なじみの『メイ』もとある農家の長男、長女ではなかった。娯楽の少ない田舎での両親の夜の楽しみの結果に生まれた末っ子だった。跡継ぎはすでに存在していたため、ニールはただのバックアップである。予備の予備の予備くらいの。メイの見目が子供のわりには良かったためうまくいけば貴族の妾くらいには収まるだろうという目論見はメイの両親にはあったが、何もなくてもニールとくっつけばいいとその程度には考えられていた。特に労働力としても期待されておらず、同年代の子もいなかった彼らはとにかく一緒に遊びまわった。そんな2人が「しょうらいめいちゃんをおよめさんにする!」「わたしはにーるくんとけっこんする!」と言い出すのも当然と言えば当然の流れだった。


 成長するにつれ、徐々に家の手伝いをするようになった2人だが、幼いころの誓いを忘れることなく成人の歳を迎えることとなる。

 しかし成人になる15の年、村を不作が襲う。それも食い扶持を減らさなければならないほどの凶作だった。

 ニールとメイは食い扶持を減らす為、食い詰めた者が最後にすがりつく組織、『冒険者ギルド』に身を寄せることにした。冒険者と言い方は良かったが要は非正規のなんでも屋である。命の危険があり、なおかつ命を落とす者も他の職と比べて桁外れに多いため、常に人員は募集されている。貴賤を問わず、実力で這い上がることも可能であり、正規ルートで食べていけなくなった者は大抵冒険者になることを選択した。このままここにいても、奴隷商に売るしかなかった2人の両親は、苦渋の選択で2人を送り出すことにする。


 2人は村から一番近い街『クロックフォード』の冒険者ギルドにて冒険者登録を済ませる。妙な連中にからまれるかしれないと不安を抱えていたが、似たような理由で冒険者になった者もたくさんおり、同士として、そして良い先輩としてニールとメイを時に優しく、時に厳しく指導してくれた。


 そうやって冒険者としてやっていけてはいたのだが、ある問題が2人に発生した。


 ―――成長速度が異なったのである。


 メイは砂が水を吸うように貪欲に知識や技術を吸収していく。対してニールは愚直に繰り返すことによって身体や頭に覚え込ませるという違いが発生していた。覚えるスピードは雲泥の差だった。お互い魔法は使えない。魔力を使った技は使えるが基本頼れるものは手に持つ剣のみ。だからこそ器用さというものが差となってハッキリと現れたのである。


 ニールは焦った。隣に並び立ちたいのに、どんどん引き離される。メイ以上に鍛錬を積まないと同格にはなれなくなっていた。寝る時間を削り、余暇の時間を鍛錬に充てる。そうしてようやくひっついていられる程度の強さを保てていた。強さの格差を埋めるための時間は2人でいる時間を確実に削っていき、やがて2人の隙間となっていった。


 そんな時、1人の男がニールとメイの仲間となる。名を『ヘイデン』と言った。ソロで動いていたヘイデンは、いくつかニールたちとともに仕事をするうちにパーティを組むようになったのだ。どうせなら3人でやろうと。


 ヘイデンは2人にとって良い兄貴分となった。ニールに稽古をつけ、メイの寂しさを紛らわせるため、会話に付き合う。2人ともヘイデンのおかげでワンランクもツーランクも上へとステップアップできた。そんな風に2人に寄り添うヘイデンを信頼するのもある意味当然であり、……徐々にニールとメイの関係に変化が生まれることとなったのもある意味必然ではあった。


 冒険者になって初めてのメイの誕生日に、ニールはプレゼントを贈ることにした。ヘイデンから街にはそんな風習があるのだと教えられたのだ。村にいた頃はそのような風習などなかったため、プレゼントと言われ戸惑うニール。ヘイデンはそれならギルドの受付嬢に相談するといいとアドバイスをする。なるほどと思い立ったニールは早速馴染みの嬢に相談することにした。

 個人的に相談に乗ってもらえるのかと思いきや、まさかの依頼扱い。ランクは最低のFではなくまさかのワンランク上のE扱い。どうやら嬢のお小遣い稼ぎのための依頼として結構依頼がやってくるようで、嬢は街のあれこれに詳しかった。


 やがてやってくるメイの誕生日。ニールは店で預かってもらっていたプレゼントを回収しに行き、宿まで帰ってくる。

 そして……メイとヘイデンが息を荒げて裸で絡み合う姿を目の当たりにした。目の前で現在起こっている出来事をまるで夢でも見ているかのようにふわふわした感覚で感じるニール。一方でやはり、という妙に冷めた感覚も持っていた。

 鍛錬の時間を取るため、メイをないがしろにしていた自覚はあった。夜に話をしたいと部屋に来ても、「今から鍛錬」「明日早い」とつっけんどんに返す。メイのほうが前を走っているといういらだちもあった。それでも……と心のどこかで甘えていたのだ。その結果がこのザマだった。

 生まれてこの方聞いたことがない、幼なじみで小さなころの口約束だが結婚しようと言っていた、今や大人の女性となったメイの嬌声を聞きながらニールはただただ泣いた。その手には握りしめてぐしゃぐしゃになったプレゼント。

 やがてニールはゆらりと部屋を後にする。いまだ続く艶めかしい声と息遣いを背に浴びながら。

 入り口のカウンターで店番をしていた女将さんに、小さくなったプレゼントと今書きなぐった手紙を渡しておいてほしいと頼み、宿を後にした。荷物はそのままだがもう帰ってくるつもりはなかった。惨めな気持ちでニールは宿どころか街まで出る。ここではないどこかへ行きたかった。


 手紙にはこう書いてあった。


 ―――今までゴメン。兄貴と幸せになってください


 と。






「―――なんてことがあってな」

『そりゃお前さんの自業自得じゃないかい』

「……剣でもわかるのか」

『あたしゃこれでも女なんだよ』

「……わかるかそんなもん」

『喋り方でわかって欲しいねぇ……そもそもだ』

「うん?」

『魔王全然関係ないじゃないか』

「……まだ続きがあるんだよ」

『えぇ……』


 やけに人間くさい反応をするエクスガリバーに、話は続くと宣言するニール。いったい彼は何をしにここへ来たのか……


 そんな出来事があったのがニールがまだ16歳、今から17年前の話である。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


最近ハイファンでありがちな展開。僕は案外ここからはい上がるのが大好きです。てかぶっちゃけ自業自得。誰が見てもニールが悪い。

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