(未完)予備の聖剣伝説 ~金貨10枚で義娘から縁を切られた元剣聖の魔王特攻自殺紀行~
お前、平田だろう!
プロローグ
第1話 あたしゃの名前はエクスガリバー
聖剣―――魔王に対抗できる唯一の兵器である。剣製術を極めた匠による、この世にただ一本しかない勇者専用の剣だ。天を裂き、地を割り、あらゆるものを斬り裂く。もちろんこの世を騒がす魔王とて例外ではない。
ただし、聖剣が聖剣たるゆえんは、剣の中に『剣霊』が宿ってこそである。剣だけでもダメ、剣霊だけでもダメ。二つ揃ってこその聖剣。それを成し遂げたこの世にたった一本しかないその剣の銘は―――
『エクスカリバー』
と言った。
しかし、ちょっとだけ立ち止まって考えてみよう。幾ら聖剣といえど、人が作った物なのである。人間には必ず失敗が伴う。完璧な仕事ができた、といくら言っても何かしらのミスはつきものだ。数百年もたって、いまだ健在であればいい仕事だったと言えるだろう。ただし、作った時代の人にそれはわからない。打った匠はふとそれに気が付いてしまった。
ミスが聖剣にはないとどうして言えよう。神が作り給うたものではない。繰り返すが剣製術を極めたが只人の匠が打った剣なのだ。折れるかもしれない、曲がるかもしれない、錆びるかもしれない。
それが理由でもしも魔王に勇者が敗れたら? それが理由で世界が亡んだら? 勇者が死んでしまえばそれでいい。王が知ることはないのだから。世界が亡んでも別にいい。すでに自分も躯となっているのだから。
だが勇者がけんもほろろに帰ってきて、こう王に報告すればどうだ?
「戦いの途中で剣が折れて、死にかけた」
献上した剣が使命を全うせず、危うく勇者の命を散らすことになりかけた一因だとしたなら。匠はその身をもって責任を取らされることになるだろう。
地位と名誉にうつつをぬかし、軽めに受けた仕事が思いのほかヤバい件だと気づいた匠は、仕事料としてもらった一生縁のないような代金で、とんでもない値段のする酒を飲んでも、酔うことなどできなくなってしまった。なんとかしなくてはならない。そうして酔えはしなくなったが、それでもアルコールに浸った脳みそで考え、たどり着いた結論は―――
『予備をもう一本打とう』
というものであった。『万が一に備えてもう一本打ってありました』とか『もしも剣が賊に奪われて対抗できなくては困ると思い、念のため予備を打っておりました』といういかにもな理由で、いつか来るかもしれないその場を凌ごうと、張り切って工房にこもり、もう一本打つことにした。
またもや問題が発生した。
『二本目のほうが一本目よりも質がいい件について』
物づくりにおいて、後から同じものを作るのは、初めて作るよりも良い物ができるというのは、ある意味当然であった。
一本目を打つときには試行錯誤を繰り返し、ようやく完成したのが献上した聖剣ではあったのだが、二本目を打つときには当然、その試行錯誤が初めから工程に取り入れられる。さらに余裕が出たので、その余裕へ新しいアイディアを投入。そうして出来上がったのが、二本目の予備聖剣であった。
出力、頑丈さ、魔力の通り、およそ1.5倍。ただでさえ魔王を討てるスペックのあった一本目を上回るものが出来てしまった。
これはマズイと考えた匠。「なぜ最初から献上しないのだ」と言われるは必至。しかし、アルコールがすっかりと抜けた匠は、頭が冴えていた。
『中に入れる剣霊の質を落とそう』
1+1が一本目であるというのなら、1.5+0.5を二本目にしようというのが匠のひらめきであった。どちらも『2』である。ナイスアイディア! と匠は自分で自分を褒めた。そして、0.5の剣霊を二本目に憑依させたのだ。……選ばれた剣霊には大変失礼な話ではあるのだが、いくつか遊びを入れて予備聖剣は完成した。
どちらも質としては同じ。双方が激突すれば、命運を分けるのは己の鍛えた剣の腕ということになる。もしもそんな状況になったとすれば、それはすでに魔王が倒された後であり、自分の知ったことではないと、意気揚々ともらった酒に浸る生活を再び始めたのだった。
『……結局そんなことにはならず、魔王は倒されたのじゃよ。勇者もいいようには使われておったようじゃが、おおむね満足したのじゃろう。あたしゃの出番はなかったわい』
「……ほう。で? お前さんがその予備聖剣だってのかい?」
『そういうことじゃな。お前さん、名は?』
「俺? 俺の名はニールってんだ」
『ほう。かつての勇者と同じ名じゃな』
「マジで?」
『マジじゃ』
「嫌なんだけど」
『もう何百年も前の話じゃ。お前さんとは何の関係も無かろうよ』
「……まぁ、そうだな。じゃああんたも”エクスカリバー”って言うのか?」
『いや、それは一本目の名じゃな。あたしゃの名前は……』
―――エクスガリバーじゃ
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