第4話 二つで一つ
「それよりアンタは何者なんだ?」
ウルファングが老人ににじり寄る。
「うむ。そうじゃったな。ワシのことはロニーと呼んどくれ。巷では呪術師とウワサされとる。実際はちと異なるがな」
「違うの?」
セルジュが首を傾げる。
「ワシはな、解呪師なんじゃ。長きに渡り各地を旅して、解呪の術を学んできた。残念ながらこの土地は、呪術が盛んなわりに解呪が未発達なために、誤解をされてしまったのじゃよ」
「町の人たちが、ロニーさんに呪いをかけられたって」
「そんなことはしておらん。わしゃ、町にもともとかけられておった呪いを解いただけじゃ。
ヤギを柵もなしに牧草地に縛りつける呪いや、ヤギの目に畑の野菜がマズそうに映るようになる呪い、オオカミがヤギを襲えなくなる呪いなどをな。
そういった呪いが自動的にかかってしまうほど、この土地には呪術の魔力が染みついておるのじゃ」
「解いちゃったの?」
「練習がてらに、軽ぅくな。便利に思えても呪いは呪いじゃ。放置すればいずれは良からぬ結果をもたらす」
ロニーは物憂げに首を振った。
「この地に呪術が溢れておるのは、かつて滅んだ国の名残じゃ。騎士よ、お前さんの鎧の呪いも、かつてのこの国にまつわるものじゃ」
遠い目をして、天井の穴から天を見上げる。
「その鎧に取り憑いておるのはな、かつてこの城に仕え、落城に際して姫君を守りきれなかった騎士の無念じゃ。
騎士は姫の身代わりとなって死にたかったのに、願いとは逆に騎士だけが生き延びてしまった。
その悲しみが歪みに歪んで、着用者を姫の姿に変えてしまうようになったのじゃ」
「「歪みすぎ!!」」
セルジュとウルファングの声が重なった。
「鎧そのものは近衛騎士が身につけるほどの高級品じゃし、実際、騎士自身の命は守り通した丈夫なモンじゃ。しかも呪いの力で強化されて、普通のやり方では壊せなくなっとる。
呪いを解く方法はただ一つ。騎士の無念を解くことじゃ。
騎士の鎧をまとった体で、身をていして姫をかばい、敵の攻撃を受け続けよ。さすればいずれ鎧は壊れる。
敵意なき者、例えばそちらさんがお前さんを助けるために叩いたのでは鎧は壊せぬ。
だからワシはお前さんたちを、魔物だらけの地下通路へ案内したのじゃが……」
「言ってくれれば良かったのに」
「しゃべるのが面倒だったんじゃい」
ウルファングが首を振る。
「まいったな。お姫様の知り合いなんていねえぞ……。なあセルジュ、お前、どっかの王族だったりしねえか?」
「わかんないよー。記憶喪失だもん」
「世間知らずだし気品があるしで、ありえなくはないと思うんだがな。そうだ、じいさん。こいつも呪いにかけられてるんだ。こっちの解呪はできねえか?」
「ふむ。見せてみよ」
ロニーはセルジュの体を調べ、何やらブツブツと呪文を唱えた。
「話を戻すぞ」
「え?」
呪いが解けたとも解けないとも言わず、ロニーはウルファングに向き直った。
セルジュのキョトンとした表情からすると、記憶は戻っていないようだが……
「騎士に守られし者は姫の外見をしておらねばならぬが、外見さえ姫であれば本物の姫でなくても良いでな。そちらさんの女装でも問題ないぞい」
二人の視線がセルジュに集まった。
「ヤだ! ヤだヤだヤだ!」
「頼むぜセルジュ……」
「ヤだヤだヤだ! そもそも僕には関係ない!」
「さっきワシが関係あるようにしてやったぞい」
ロニーがニヤリと笑った。
「お前さんがたの呪いを、二つで一つにしてやったんじゃ。
セルジュとやらよ、お前さんにかけられとる呪いはかなり特殊なものでの、普通の解呪の術では通じん。ゆえに鎧の呪いと繋げてみたんじゃ。鎧にかけられた呪いが解ければ、その影響でお前さんの呪いも解けるぞよ」
塔には何故かしっかりと女装グッズが用意されていた。
ロニーに渡された薄紅色のロングドレスやプラチナブロンドのツインテールのウイッグを抱えて、セルジュが肩を震わせる。
その肩をウルファングがポンと叩いた。
「お前は記憶がないんだろう? だったらもしかしたら本当は女の子だったのかもしれないじゃないか」
「ううううう……」
セルジュは半泣きで更衣室へ入っていった。
更衣室のカーテンが、着替え終わるには早すぎるタイミングでバッと開いた。
「おじさん! やっぱり僕は男だよ!」
「わかったからズボンとスカートのどっちかは
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