一章
【せんせいのうた】
町を出て、どれほどたったのだろうか。
草木豊かな自然を出、今は雪の降る台地を進む。
視界も悪く、音も静かだ。
ミゲルの淡い栗色の髪にそっと降り積もる雪を時折払い進んでいる。
しばらく歩いているうちに寒さと空腹でこれ以上歩くのは困難と認識した際に
ふと目に入った空間に安堵の息を漏らした。
小さな広場があり、薪もたくさん落ちている。
「いいところを見つけられた」
ポツリとつぶやくと、長い外套を木にかけ
小さなテントを作り腰を下ろす。
知識の書、と呼ばれる魔導書を取り出し、呪文を唱え薪に火をつける。
–––––
ミゲルは戦争孤児としてとある宿舎にて、育った。
齢10の頃、街は焼け帰る場所も無く彷徨うところをガラドルのシュバリエ達に拾われた。
そのシュバリエの話によると
ミゲルの手には黒い血と焼けた黒の混じるシュバリエの騎士団長のバッチがあった。
そのブラウンの瞳は何かにメラメラと燃えているようだった、と言われている。
ミゲルは拾われた後は一度城下の宿屋に世話になるも
シュバリエになる夢のためにシュバリエの宿舎にて
国家の為に糧となる学びを得て立派な学生となった。
元々騎士団長の子息であるミゲルは英才教育を受けていたのか、全てのことを理解し吸収しようとしていた。
ある授業でこの国の戦について深く学ぶこととなる。
それは妖族についてだ。
「遥か昔、まだこの星と世界が出来て間もない頃から存在した妖族について教えたい」
先生が長い白髭を触りながら生徒達に告げる。
とりわけ先頭にいるミゲルは人間族以外の民族について興味があったのであろう、熱心に教壇を見る。
「この国の魔法のルーツとなる妖族は、とても危険な奴らだ。
見た目も人間に化けており、心は妖怪のまま腐りきり
持て余した魔力で破壊と創造を楽しんでいる」
生徒にも先生にも笑顔がなくなり
不安げな生徒を前に先生が声を上げる
「件の戦はフロゾと我々の戦だった。
フロゾが妖族などに泣きついた途端、閃光が走り根絶やしに我々はやられた。奴らに情けなど無い。人の心がないのだ。
我々シュバリエ候補生はスフェーンを守る騎士となる為、彼らの首を根こそぎ狩らねばならない。
皆の衆、しっかりと励めよ。
敵は妖狐なり。」
いつからか人の宿敵の如く語られる妖族を
親の仇と認識したミゲルは、独学でその知識を得た。
彼らと対等に渡り合うには
並々ならぬ努力を要することは当然であった。
宿舎でも模範生を務め上げ、ミゲルは立派なシュバリエ候補生だ。
–––––
一人になるといつも思い出す宿舎での生活。
とても優しい宿屋の主人。
小さく踊るような火に荷物の中のパンを出し、じっくりとあぶる。
このパンも宿屋の主人が持たせてくれたものだ。
一欠片熱々のパンを齧ると
ふと目線を変える。
草花の上に雪が積もり、その雪に赤黒い血が染みている。
ミゲルは外套もパンもその場に残したままその草花の近くへ駆け寄る。
そこには大きな白い狼が倒れていた。
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