【歯車のうた】

その時の話は今でも忘れられない。

父様の疲れた声色に、母様の心配そうな声色


「考えてたよりもずっと強力だ。なにせ向こうのガラドルは…」

「そうでしたの…。隣国への助けは求められないのでしょうか…」

「資源だけで言えば花の国も十分だがあそこは…」


思いつめた空気が流れる。

それを僕は受け止める。

そうだ、この戦争が終わらないと父様はずっと―


「花の国にはもう人間族は住んでいないのですよね」

「花の国はもともと人間族がいなかったんだ。それにガラドルが妖狐だ。」

「妖狐ですって…!!それは、信用出来ないじゃないですか…」

「水の国も我が国と国交を結んでいない…」


父様も疲れている、母様も心配している

この国は絶対に大丈夫ではないのか…?

僕の不安がよぎるなか、聞いているとは知らない二人の話は重くなる。


「もうこの世界に人間族は少ない」


はっきりと父様の話を聞いた時に

僕は息をのんだ。


この世界には

人間族、獣人族、妖族の大まかな3種族が暮らしている。

人間族は僕たちみたいな人間や、人間とのハーフが多い。

魔力も少ないし、知識を得て、生活をするのが僕たちだ。


フロゾ族は獣人族だ。

獣が魔法を得て少しずつ人のような形になってきたといわれている。

確かに、背中に大きな岩や、犬のような尻尾の生えた人はこの街にも

商いにやってくる。見慣れているといえば見慣れている。


そして妖族。

小さなころから学校でも近寄ってはならないと教わる恐ろしい種族。

僕も詳しくは知らないが、妖族は人と見わけがつかないことがあるらしい。

妖族が魔法に長けた種族なのも、魔法のルーツなのもわかっているけど

だれも妖族に感謝しないのはきっと妖族が何かしでかしたんだと思っている。


そんな多種多様な世界で

僕たち人間族は一番多い種族だったはずなのに。


一体何が起きているんだ。

なぜ僕は学校でなにも知らないんだ。


「シトリンのガラドルは花の国に助けを求めるだろう…」


父様のかすれたような声を聴いて

僕は部屋に戻った。


もしこの国に東の砂の国と、西の花の国が一斉に攻めてきたら。

そう思うと眠れなかった。


――――

あの話の後、父様の姿を見たのは

この街に炎が舞った日。


帰ってきた父様から逃げろ、と声がした。

気が付くともう

家はなくなり、人は死に、僕は生きて


父様の亡骸をつかんだアクアマリンがいただけだった。


僕はこの国の城下町にある宿屋の主人に救われた。

そこで長いことお世話になったが20歳になった今、

父様の仇を討ち、この国に平和をもたらすために町を離れることにした。

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