第4話 探索

 廊下に存在する無数の扉に、片っ端から手をかけ、運よく開いた部屋へと俺は逃げ込む。どうやら使われていない教室の様だ。


「はぁはぁ」


 しゃがみこんで、机の下に隠れ、必死に乱れる呼吸を押し殺す。混乱する頭をどうにか落ち着かせようとするが、そうもいかない。

 あの化け物はなんだったんだ? みんなは無事なのだろうか? 無数に考えがよぎる。そして、希咲は……?


「希咲……」


 思い出したかのように、幼馴染の身を案じた。廊下へ出ると、幸い、奴らの不気味な歌声はもう聞こえない。なるべく音を立てないよう、廊下を進み、先ほどのように開くドアがないかを探す。いくつか手をかけていると、その中に開く感触があった。恐る恐る中へ入ると、そこは理科実験室の様だ。室内に見える人体模型やら骨格標本が、不気味さをより一層際立たせる。


「だ、誰かいませんか……?」


 小さめに声をかけるが、特に反応はない。部屋を出ようとすると……。


『ガタッ』


「誰だ!?」


「ま、待って。私よ、私」


 振り向いた先には、怯える先輩Cがいた。


「良かった、無事だったんですね」


「他のみんなはいないの?」


「俺だけです」


 彼女も俺と同様、逃げる途中でみなとはぐれ、やっとの思いでここへ逃げ込んだらしい。


「とにかく、ここは危険です。他のみんなを探しましょう」


 俺はそう提案したが、Cは怯えた声でそれを拒否する。


「じょ、冗談でしょ? まだあいつらがうろついてるかもしれないのに……」


「だからといって、ずっとここにいるわけにもいかんでしょうが」


「いや、無理……私はここを動かない」


 さっきの化け物どもを恐れるあまり、Cは震えて動けない様子だ。このまま無理に連れ出しても、足手まといにしかならないだろう。俺は、彼女にこの部屋にとどまるよう念を押し、先を急いだ。


♢♢♢


 廃校内を警戒しながら、俺は歩を進める。窓の外はうねうねと気味の悪い異次元のような風景が広がっており、窓から外へ出ようものなら、次元の彼方を永久にさまよいそうな……そんな嫌な想像を掻き立てられる。

 どうやら、ちゃんとした脱出経路を探す必要がありそうだ。化け物どもは危険だが、それを冒してでも校内を探索たんさくせねば手掛かりは掴めない。だが、扉は鍵が閉まっているものが多く、なかなか手掛かりになりそうなものを見つけられないでいた。

 仕方なく、俺は次の階へと上がっていく。だが、そこには……。


「うっ……!?」


 思わず目を覆いたくなるような光景。血しぶきが壁や廊下へと飛び散っており、その後、引きずられた痕跡をしっかりと残すような血のラインが先へと続いていた。両足から滴って流れで出たであろう二本のライン線。


(誰の血だろうか……)

 

 血痕はまだ新しいようだ。サークルのメンバーの誰かが犠牲になった可能性は高い。俺は、ガタガタと震えながら、血の跡をたどっていくのだった。


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