第2話 廃校

 先導する先輩Dの車についていき、俺たちは山の中を走る。車内では希咲きさきと女先輩Cが中身のない会話を楽しそうに話している。黙って運転する俺に、不意にCがたずねた。


「ねぇねぇ、希咲っちと付き合ってるの?」


 唐突な質問に対し、俺は返答に困った。


「いや……ただの同級生ですよ」


 少し冷たく答えてしまったかもしれない。後部座席の二人の沈黙具合がそれを物語った。


「そ、そうですよ! ただの同級生ですって」


 希咲が空元気からげんきで答える。今の会話がなかったかのように希咲は新しくできたスイーツ店に話題を変えた。俺はまた黙って運転へと集中する。

 希咲のことは決して嫌いじゃない。昔からの幼なじみだし、むしろ好意を抱いているといってもいいかもしれない。しかし、恋人という間柄になるには、今一歩ステップが足りないのだ。

 そう、俺は希咲の家族に嫌われている。幼少期、最初に希咲の家に遊び行ったときからその事には気づいていた。小学校、中学校、高校とずっと俺と交流を持つなと家族に言われ続けていたらしい。


 仕方がないのだ。なにせ、俺の父は前科持ちなのだから……。


 俺の父は酒癖さけぐせが悪く、たびたび酔っては他人と喧嘩けんかをし、警察の世話になっていた。家族に暴力を振るうことも珍しくなく、俺はそんな父が嫌いだった。俺たち家族の評判は地元でもすこぶる悪く、俺はそんな父や町から逃げるように地元から離れた大学へと入学した。


 だが、そんな俺に希咲はずっと寄り添い、ついてきてくれる。その行為が嬉しい反面、俺はどこか罪悪感を感じている。俺みたいな……犯罪者まがいの奴の息子なんかと一緒にいれば、彼女を不幸にしてしまうのではないか。それがたまらなく怖い。それが俺と希咲の間に、見えはしないが確実に存在する壁を作っていた。


「あっ、Dの車が止まったよ。どうやら、この辺みたいだね」


 先輩Cがそう言った。俺がDの後ろに車を駐車すると、先輩A、B、Dが車から降り、その様子を見た俺たちも車を降りた。

 あたりはすっかり薄暗くなっており、山道ということもあって、妙な不安が胸に押し寄せてくる。


「車ではこれ以上は行けない。廃校にはこっから歩いて行くぞ」


 Bがそう言い、俺たちは列を作って歩き出した。生いしげる草をかき分け、みんな懐中電灯の灯りを頼りに前へと進んでいく。


「お! どうやらここのようであります」


 先輩Aがそう言い、指さす方向には木造の大きな建物があった。一体、何十年前まで学校としての役目をになっていたのか……あちこちボロボロで、その具合からして、いかにも心霊スポットという感じである。


「これが例の廃校か……」


「とりあえず入り口を探すであります」


「えっ? 入るの?」


「当たり前だろ。ここまで来て、何もしないで帰れるか」


 メンバー同士の会話の流れからして、どうやら廃校の中へと入るようだ。俺も希咲も特に反対することはなく、その場のノリに合わすようについて行き、入り口を探すのであった。

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