異次元校舎怪奇録

若狭兎

第1話 危険な思いつき

 これは俺が体験した出来事だ。


 あれは大学2年生の頃……俺は大学でオカルトサークルというものに所属していた。まぁ怪談好きが集まっている部活みたいものだ。その日も軽い気持ちで心霊スポットを見に行くだけのはずだった。


 それがあんなことになるなんて……。


 まず最初に、事の発端ほったんから説明させてもらう。

 その日、いつものように大学の講義を終え、俺たちはサークル活動で心霊ビデオを鑑賞していた。サークルではメンバーで怪談を作ったり、ネットで収集したりと大した活動はしていない。実績もなく、大学側からは非公認であり、活動場所は毎週一回、第2研修室を使わせてもらっている。


 そもそも俺がこのサークルに入った理由というのは、お恥ずかしい話だが……特に理由はない。研究や運動が面倒だと思い、入学当初のサークル紹介の際に「ゆるそうなサークルだな」となんとなく選んだ。

 ただ、人間関係が希薄となる大学内で、なにかしらのコミュニティに属していなければありとあらゆる情報が遠ざかってしまう。そんな思いから友人関係を構築するため所属した次第だ。


「これ、けっこう怖いね?」


 心霊ビデオを見ている中、不意に横から声をかけられる。声をかけてきたのは、同級生で同じ2年の希咲きさきだ。俺たちはいわば幼なじみというやつで、家が近所ということもあり、幼稚園の頃からずっと一緒の腐れ縁である。希咲はいつも俺にくっついてきて、大学やサークルなども俺が入るからという理由で入学・入部したほどである。


「こんなものはただの作り物であります。はいともなると、こんなものではちっとも驚かないのであります」


 そうぼやくのは二つ上で4年生の先輩であるA(男)だ。風貌はオタク風で、同じサークルでなければ俺は話しかけないと思う。


「なぁ、どうせなら心霊スポットにでも行かねーか?」


 そういうのは3年の先輩B(男)である。いわばチャラ男という感じで、俺はあまり好きではない。


「いいね~。退屈してたんだ、実は」


 こちらも3年で先輩のC(女)である。この人もノリは軽い方で、先輩Dと付き合っているらしい。


「しかし、今から?」


 最期、その提案を少し疑問視する3年の先輩D(男)。この人はオカルトサークルの部長であり、唯一の人格者だ。この人が居るから俺と希咲はこのサークルでやっていけている。


「絶対盛り上がるって! 行こうぜ部長。みんなもそう思うだろ?」


 なかば強引にBが話を進めるが、俺は正直、あまり気乗りはしなかった。


「でも、万が一何かあったら……」


「なに? ○○ビビってんの?」


 ○○とは俺の名だ。

 もし、ここで無理に行かないと意地を張ればサークルメンバー全員にビビりだと思われる。そうなれば、今後の活動に支障をきたしかねない。それを嫌うあまり、皆、しぶしぶBの提案を受け入れることとなった。

 

 Bが提案した心霊スポットは山奥にあり、今は廃校となっている校舎とのことだ。

もちろん歩いていくことはできないため、車2台で行くこととなった。大学生だということもあり、部員でも何名かは車を持っている。俺も中古車ではあるが車と免許を持っており、こいつで毎朝、希咲と共に通学している。


 山奥にあるという廃校へと行くため、俺と部長のDが車を出すことになった。合計で6名。俺たちは3:3に別れ、大学を出て、車を走らせたのだった。


 そう……これが忘れることのできない、おぞましい体験になるとも知らずに。

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